解決ガイド|使われていない共有不動産のトラブル
1 誰も使っていない共有不動産は固定資産税などの経費が続くだけ
(1)誰も使わない共有不動産でもコストやリスクはある
お父様が亡くなった時に、特に使う予定がない土地や建物があると、兄弟で承継して共有としておく、ということがあります。
土地や建物は、使わなくても経費がかかります。
管理が不十分だと責任が生じることもあります。
使用していない土地、建物のコストやリスク
(2)固定資産税は連帯納付義務があるが、代表者1名が払うことが多い
共有不動産の固定資産税は、共有者全員に連帯納付責任があります。
詳しくはこちら|税務上の連帯納付責任の基本(相続税・贈与税・固定資産税)
実際には共有者の1人が代表して払うことが多いです。
詳しくはこちら|共有物に関する負担の基本(具体例・求償・特定承継人への承継)
(3)固定資産税などの経費や賃料収入分配はセットでトラブルになりがち
固定資産税その他の経費を共有者の1人が立て替えた後、他の共有者に請求します。
これを払ってくれない、というトラブルはよくあります。
また、駐車場など、小さいけれど収入につなげることもあります。
共有不動産の収入は経費とセットになってトラブルになることが多いです。
解決ガイド|共有の収益不動産の3大トラブル=経費、収入分配、管理方法
2 共有不動産は売却の時に金額で対立することがある
(1)売り出し価格の意見が一致しないと売却できない
共有者には使い道がない不動産、活用が大変な不動産は、このように持て余すことが多いです。
このような場合、売却して代金を分ける、という方法が好ましいでしょう。
言うのは簡単ですが、売り出す金額で共有者の意見が一致しない、ということが起こりがちです。
(2)共有物分割訴訟で強制的に競売すると売却金額が下がる
この点、共有物分割訴訟で強制的に競売にかけるという方法もあります。
しかし、競売だと、通常の売却よりも、売却金額が大幅に下がってしまいます。
詳しくはこちら|不動産競売における競売減価(理由と減価率相場)
3 そもそも不動産の買い手が付かないということもある
(1)使えない事情があると不動産は売れない
不動産は高い資産、高く売れる、というのが普通のイメージです。
しかし、買い手が付かない=売れないということもあります。
不動産が売れない要因の例
詳しくはこちら|土地の境界(筆界)の確定が必要な状況や確定させる工夫
・接道義務(要件)がクリアされていない
詳しくはこちら|接道義務・接道要件|但し書き道路・協定道路
・通行権が確保されていない
公道に通じない土地は、周囲の土地=囲繞地を通行できる;囲繞地通行権
詳しくはこちら|私道×第三者の通行権|原則=NG・例外=長期間の公衆交通
詳しくはこちら|ライフライン設置権の全体像(トラブル具体例・民法改正・提訴の形式・合意の形式)
・『農地』となっている
農地の所有権移転登記では農業委員会or知事の許可書が必要となる
実際にはとても低い金額でないと売れない、ということです。
(2)無料で市町村に寄付→受け付けられないことがある
土地を市町村に寄付する制度があります。
売れない土地であれば、固定資産税の負担を逃れるために無料でも市町村に譲渡してしまいたいところです。
しかし、市町村としても寄付として承継すると管理義務を負います。
道路として使えるなどの使い道がないと寄付を認めません。
寄付採納承認申請をパスすると、寄付ができる→私道管理を市区町村が行う
4 共有解消の典型的な解決手段は共有物分割訴訟である
以上のように、使えない、売れない、共有者間で対立しているという行き詰まりになってしまうこともあります。
この場合は、共有物分割訴訟であれば、安くなってしまいますが競売に持ち込めます。
詳しくはこちら|共有物分割の手続の全体像(機能・手続の種類など)
競売が実施されれば、ようやく共有状態は解消されます。
固定資産税負担が続く無駄な状態は終わります。
5 共有持分放棄により共有から抜けるが移転登記もしないと固定資産税は逃れない
共有持分放棄→登記外れる
(1)共有持分放棄でスピーディーに共有から外れることができる
もっと早く共有関係から脱する方法があります。
共有持分放棄です。
これは、裁判は不要、通知だけで完結します。
詳しくはこちら|共有持分放棄の基本(法的性質・通知方法など)
(2)登記も外れないと納税義務は負ったまま
共有持分放棄の通知で、共有者ではなくなります。
しかし、移転登記をしないと登記上は共有者です。
そうすると、納税義務からは外れないのです。
詳しくはこちら|共有持分放棄の登記と固定資産税(台帳課税主義・登記引取請求)
(3)登記を引き取ってもらう訴訟は難しくない
登記を引き取ってもらうには、原則として他の共有者の協力が必要です。
少なくとも登記申請の委任状にハンコをもらわないとできません。
共有者間で対立が激しい場合、ハンコには応じてくれないでしょう。
このような場合は訴訟によって、相手の関与なしに登記をできるようになります。
詳しくはこちら|登記は共同申請が原則だが判決や相続では単独申請ができる
これを登記引取請求訴訟と言います。
事前の共有持分放棄の通知の記録がしっかりしていれば、すぐに判決を出してもらえます。
共有物分割訴訟とは違って、複雑な審査はないからです。
詳しくはこちら|登記引取請求権の理論と典型的背景(固定資産税・土地工作物責任の負担)
6 使われていない共有不動産のトラブルは多くの事情をしっかりと判断して解決の方針を考えると良い
以上のように、使われていない不動産については、多くの前提事情があるはずです。
使われていない共有不動産のトラブル解決のポイント
活用できない理由は何か
共有者間での協議が可能か
共有物分割訴訟の提起は実効的か
共有持分放棄による共有離脱は実効的か
事情の整理と、法律的な状態をしっかりと把握した上で、解決計画を立てないと、適切なゴールに達することが難しいと言えます。