1 共有持分放棄の基本(法的性質・通知方法など)
2 不動産の共有持分放棄を用いる典型的状況
3 共有持分放棄の意思表示と権利変動の法的性質
4 共有持分放棄の通知への通謀虚偽表示の類推適用
5 共有持分放棄の意思表示(通知)の方法
6 遺産共有における共有持分放棄(概要)
7 共有持分放棄の登記・課税(概要)
8 未成年者の共有持分放棄における利益相反
9 共有持分放棄と担保物権の負担
10 共有持分放棄と農地法の許可
11 区分所有建物における共有持分放棄(分離処分禁止との関係)
12 持分買取権・持分放棄・共有物分割の比較(概要)

1 共有持分放棄の基本(法的性質・通知方法など)

共有関係からスピーディーに離脱する手段として,共有持分の放棄があります。
本記事では,共有持分放棄の基本的事項を説明します。

2 不動産の共有持分放棄を用いる典型的状況

共有持分の放棄という制度があります。これを活用する典型例は,使われていない,または使われてはいるけれどマイナス(負担)の方が大きい状態の共有不動産です。

<不動産の共有持分放棄を用いる典型的状況>

あ 典型的状況

土地がA・B・Cの共有になっている
一部は貸地になっている
→少しは地代収入があるが
しかし,共有地の大部分は荒れ地である
結局,固定資産税と収入が同じくらいである
共有から抜けたい

い 共有持分放棄による解決

『共有持分を放棄する』という通知を出す
→放棄した者の共有持分は消える
その分,他の共有者の持分が増加する

3 共有持分放棄の意思表示と権利変動の法的性質

共有持分の放棄は,意思表示により効果を生じます。この意思表示の性質は相手方のない単独行為です。遺言と同じカテゴリです。
そして,共有持分放棄によって他の共有者が持分を取得する性質は,原始取得です。

<共有持分放棄の意思表示と権利変動の法的性質>

あ 前提事情

不動産の共有者が共有持分の放棄を行った
→この共有持分は他の共有者に帰属する
※民法255条

い 意思表示の法的性質

共有持分権の放棄の意思表示について
相手方のない単独行為である
ただし,他の共有者に対する意思表示も可能である
※最高裁昭和42年6月22日(後記※1

う 権利の帰属の性質

他の共有者の持分の取得は,実体法上は原始取得である
※最高裁昭和44年3月27日
※川島武宣ほか編『新版注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p464
※林良平『物権法』有斐閣1951年p135

え 遺留分減殺請求に関する扱い(参考)

遺留分減殺請求(平成30年改正前)の前の受贈者や受遺者からの譲渡に関する扱い(民法1040条(改正前))において
共有持分放棄は取引ではないので譲渡に含まれないと解釈される
詳しくはこちら|遺留分減殺前の受贈者・受遺者による譲渡(第三者保護・価額賠償)(平成30年改正前)

4 共有持分放棄の通知への通謀虚偽表示の類推適用

共有持分放棄の意思表示の相手は,理論的には必要ありません。しかし実際には,他の共有者に対して意思表示(通知)をすることが多いです(前記)。
この場合,通謀虚偽表示の規定の類推適用が認められます。つまり,相手方のある意思表示として扱われたことになります。

<共有持分放棄の通知への通謀虚偽表示の類推適用(※1)

あ 法的性質(前提)

共有持分権の放棄について
→相手方のない意思表示である

い 実務的方法

放棄によって他の共有者が直接利益を受ける
→他の共有者に対する意思表示も可能である

う 通謀虚偽表示

放棄の意思表示を行った者放棄の意思表示を受領した者が通謀して虚偽の意思表示をした場合
→意思表示は無効となる
※民法94条類推適用
※最高裁昭和42年6月22日

5 共有持分放棄の意思表示(通知)の方法

前記のように,共有持分放棄は相手方のない意思表示によって行います。実際には通常,他の共有者に対する通知(意思表示)によって行います。

<共有持分放棄の意思表示(通知)の方法>

あ 理論

共有持分放棄の相手方は不要である(前記※1
他の共有者に知らせることについて
→法律上は不要である

い 実務

他の共有者への権利帰属が生じる
登記手続を行う必要性が生じる
→他の共有者に対して通知を行う

う 通知方法

『放棄した』ことを記録・証拠として残す
→内容証明郵便で通知することが望ましい

6 遺産共有における共有持分放棄(概要)

ところで,相続が開始して複数の相続人の間で遺産分割が未了である場合は,遺産共有という状態になります。遺産共有である財産について共有持分放棄をすることができます。
その理論や,共有持分放棄の後の遺産分割などについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺産の中の特定財産の処分(遺産共有の共有持分の譲渡・放棄)の可否
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在(遺産譲渡タイプ)における分割手続
詳しくはこちら|遺産の中の特定財産の処分(譲渡)の後の遺産分割(不公平の是正)

7 共有持分放棄の登記・課税(概要)

共有持分放棄により他の共有者が持分を取得するのは原始取得です。譲渡(承継取得)とは異なります。
しかし登記では移転登記,つまり譲渡(承継取得)と同じ方式が使われます。
さらに課税の面でも譲渡と同じ扱いとなります。
登記や税務上の扱いについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有持分放棄の登記(対抗関係・固定資産税・登記引取請求)
実務での解決手段の選択では,これらへの配慮も必須です。

8 未成年者の共有持分放棄における利益相反

実際に共有持分放棄を活用する場面では,複数の共有者が同時に持分放棄をするということがよくあります。持分放棄をする共有者の中に未成年者が存在し,親権者が法定代理人として放棄の意思表示をするということもあります。ここで親権者も共有者であり,持分放棄をする場合,利益相反に該当するので特別代理人の選任が必要であると思われます。

<未成年者の共有持分放棄における利益相反>

母と共に共同相続登記をした未成年者の全員が,その共有持分を放棄するには,特別代理人を選任するのが相当である
※昭和37年2月7日法曹会決議新要録p345,法曹時報14巻2号p159

9 共有持分放棄と担保物権の負担

共有持分放棄による他の共有者の持分取得は原始取得であるため,物権の負担も消滅するはずです。しかし,共有持分放棄の場合には例外的に担保物権は存続することになります。

<共有持分放棄と担保物権の負担>

あ 原始取得の原則論

一般的な原始取得について
担保物権の負担は承継しない

い 共有持分放棄の特別扱い

担保物権の負担のある共有持分について共有持分放棄がなされた場合
担保物権により制約されたままの持分が他の共有者に帰属する
→担保物権の負担は承継される
※川島武宣ほか編『新版注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p464
※林良平『物権法』有斐閣1951年p135

10 共有持分放棄と農地法の許可

農地の譲渡については農地法の許可が必要です。この点,共有持分放棄では農地法の許可は不要と解釈されています。原始取得という性質がストレートに反映された解釈ともいえます。
実務では登記申請において許可の証明書の添付は必要ないことになります。

<共有持分放棄と農地法の許可>

あ 農地法の許可の原則論

農地の所有権移転について
農業委員会の許可が必要である
効力要件とされている
※農地法3条

い 過去の裁判例

農地調整法(旧法)の許可に関して
持分放棄の登記において許可は不要である
※福岡高裁昭和29年10月29日

う 現行法の解釈

現在の農地法の許可について
『い』と同様に許可は不要である
※川島武宣ほか編『新版注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p464
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p245

11 区分所有建物における共有持分放棄(分離処分禁止との関係)

区分所有建物は,専有部分(建物)と敷地利用権が一体となっているので,分離処分が禁止されます。ここで,敷地利用権の内容は,所有権の共有持分権や賃借権の準共有持分権です。そこで,専有部分や敷地利用権の(所有権や)共有持分の放棄ができるか,という問題があります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|区分所有建物における共有持分放棄(分離処分禁止との関係)

12 持分買取権・持分放棄・共有物分割の比較(概要)

共有持分の放棄は,共有関係から離脱する方法として活用されます。これ以外にも,共有関係の解消につながる制度はあります。共有関係を解消(離脱)する主要な3つの手続の比較については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|持分買取権・持分放棄・共有物分割|3つの制度の比較

本記事では,共有持分の放棄の基本的事項を説明しました。
実際には,個別的な事情によって最適な解決手段・アクションは違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。