【公道に接しない土地の所有者は周囲の土地を通行できる(囲繞地通行権)】

1 囲繞地通行権|基本・用語|公道までの他人所有地を通行できる
2 『袋地』と『準袋地』|河川・崖による隔絶は『準袋地』
3 『囲繞』の判断・原則|同一人の土地は一体として捉える
4 『囲繞』の判断|『同一人』の特殊事情
5 『囲繞』の判断|『公道』の解釈|通行可能が前提
6 『囲繞』の判断|私道を『公道』とみなす解釈
7 囲繞地通行権の通路|幅・位置の具体化プロセス|損害が最小限
8 囲繞地通行権の通行料の有無|原則=有償

1 囲繞地通行権|基本・用語|公道までの他人所有地を通行できる

公道と接していない土地は,実質的に意味がない(使えない)状態になります。
そこで,周囲の他人所有地を通行する権利が認められます。これを囲繞地通行権と呼びます。
この規定の基本事項・用語をまとめます。

<囲繞地通行権|基本・用語>

あ 基本的事項

『袋地』所有者は『囲繞地』を通行する権利がある
→『囲繞地通行権(いにょうちつうこうけん)』と言う

い 用語の内容
公道に通じない土地 袋地(ふくろぢ)
袋地の周辺の土地 囲繞地(いにょうち)
囲繞地を通行する権利 囲繞地通行権,隣地通行権,袋地通行権

なお,囲繞地は『いぎょうち』と呼ばれることも多いですが,これは誤りです。

2 『袋地』と『準袋地』|河川・崖による隔絶は『準袋地』

ここで『袋地』は,より細かく分けると2種類があります。

<『袋地』と『準袋地』>

種別 定義 民法
袋地 他の土地に囲まれて公道に通じない土地 210条1項
準袋地 池沼・河川・水路・海・高低差が大きい崖を通らなければ公道に通じない土地 210条2項

3 『囲繞』の判断・原則|同一人の土地は一体として捉える

『袋地』の状態の判断では『同一人の土地』は一体として捉えます。

<『囲繞』の判断・原則|同一人の土地>

同一人の複数の土地の一部が公道に接している
→囲繞地通行権は生じない

『囲繞地通行権』は他人の土地を強制的に利用する最終手段です。
『自分の土地』の範囲内で公道に通じるなら『他人の迷惑をかけない』方向の解釈が取られるのです。

4 『囲繞』の判断|『同一人』の特殊事情

実際には『同一人』と言ってもよいような状況もあります。
特殊な事情について判断した判例をまとめます。

<『囲繞』の判断|『同一人』の特殊事情>

あ 別個の法人格であるが実質的に同一である

囲繞地通行権は認められない

い 夫婦

原則的に『別人格』である(『実質的に同一』ではない)
→囲繞地通行権は認められる
※東京地裁昭和30年9月12日

5 『囲繞』の判断|『公道』の解釈|通行可能が前提

仮に『公道』に通じていても,『現実に通行できない公道』であれば『袋地』と同じです。
そこで解釈上『通行できる公道』が前提となっています。

<『囲繞』の判断|『公道』の解釈>

あ 『公道』の最低条件

次のいずれをも満たす
ア 実質的に公衆が自由・安定的・容易に通行できるイ 袋地の通常の効用を実現するに足る幅員を備えている ※東京高裁昭和29年3月25日
※東京高裁昭和48年3月6日

い 『公道』とは認められない例

極端に不便な『公道』
→民法210条の『公道』に含めない
※大判大正3年8月10日

このように囲繞地の判断では『公道』を文字どおり・杓子定規に捉えるわけではないのです。

6 『囲繞』の判断|私道を『公道』とみなす解釈

『公道』ではなくても『通行できる』通路が他にあれば『囲繞地通行権』を認める必要はありません。
そこで『既に通行できる通路』がある,という場合は『公道』に通じている→囲繞地通行権は生じない,と判断します。

<『囲繞』の判断|私道を『公道』とみなす解釈>

あ 『私道』の扱い

私道でも『公衆が自由に通行できる通路』がある
→民法210条の『公道』に含める
例;建築基準法上の『位置指定道路』
※東京高裁昭和29年3月25日
※東京高裁昭和48年3月6日

い 袋地所有者の持つ『通行権限ある通路』

袋地所有者が,囲繞地上に『通行権限ある通路』がある
→民法210条の『公道』に含める
例;通行地役権・賃借権など
※『判例民法2』第一法規出版p224

7 囲繞地通行権の通路|幅・位置の具体化プロセス|損害が最小限

『囲繞地通行権』は例外的な措置としての通行権です。
『最小限度』のものに決めることになっています。
具体的な『位置・幅』の考え方をまとめます。

<囲繞地通行権の通路|幅・位置の具体化プロセス>

あ 具体化プロセス

『囲繞地通行権』はやむを得ずに認められる通行権である
→『最小限度』のものに決めることになっている
→交渉や訴訟で決める
→交渉で決める場合は『通行権』のバリエーションがある
※民法210条,211条

い 『通行権』のバリエーション

ア 『囲繞地通行権』イ 『通行地役権設定』ウ  『賃貸借』

通行権の幅・位置については別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|囲繞地通行権の通路の幅と接道義務,例外許可申請

8 囲繞地通行権の通行料の有無|原則=有償

囲繞地通行権の『通行料』の有無についてまとめます。

<囲繞地通行権の通行料の有無>

あ 原則

『有償』
金額算定方法は別記事で説明している
詳しくはこちら|囲繞地通行権|通行料|算定手続・算定方法・判例

い 例外

特殊事情がある場合
→『無償』となる

例外的に通行料なし,つまり無償となることもあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|囲繞地の通行料が無償となるケース(分筆+譲渡・共有物分割・一団地の一部譲渡)

本記事では,囲繞地通行権の基本的な内容を説明しました。
実際には,多くの個別的事情によって判断されるので,違う結論となることもあります。
実際の問題に直面されている方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【隣地使用権の基本(規定・趣旨・法的性質・類似規定)】
【建築基準法の『道路』の種類】

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