【離婚時の財産分与の総合ガイド(法的理論・手続・実務上の問題の全体像)】

1 離婚における財産分与の総合ガイド

離婚する際に、夫婦で財産の清算をすることを財産分与といいます。ただ、これはとても大雑把な言い方です。正確には財産分与(清算)の中身にはいろいろなものがあり、そのルールも複雑です。また、財産分与の手続についても簡単ではありません。本記事では、財産分与に関して実際に問題となることを、網羅的に、かつ、要点だけ整理して説明します。個々の問題の詳しい内容はそれぞれ別の記事で説明しています。

2 財産分与の基本概念と法的枠組み

(1)基本原則

財産分与の内容は、清算的・慰謝料的・扶養的という3種類のものが含まれます。実務では、財産の評価額や貢献度(分与割合)について対立が生じることが多いです。
詳しくはこちら|財産分与の基本(3つの分類・典型的な対立の要因)
ところで、財産分与の場面では「特有財産」という概念が出てきますが、状況によって2つの意味があるので注意が必要です。
詳しくはこちら|夫婦財産制の性質(別産制)と財産分与の関係(「特有財産」の2つの意味)

(2)法的手続き

財産分与請求権は離婚から2年以内に行使する必要があります(期間制限は5年に変更する改正法が成立しましたが、令和7年5月現在、まだ施行されていません)。
財産分与の合意がある場合でも、家庭裁判所の審判を受けられる場合とそうでない場合があります。これは法的性質と関係しています。
詳しくはこちら|財産分与の請求権・合意の法的性質と家裁の手続との関係
財産分与の手続きでは、財産を隠したり資料提出を拒むケースがあります。こうした場合、裁判所は資料提出を拒む側に不利な推定をするなど、実務では様々な対応がとられています。
詳しくはこちら|財産分与の手続(審判・離婚訴訟)における財産の開示拒否への対応
財産分与による将来の財産取得を確実にするためには、保全処分や仮登記を行うことが有効です。また、第三者への譲渡や差押えとの優劣関係についても理解しておく必要があります。
詳しくはこちら|財産分与の保全や仮登記(譲渡・差押との優劣)

(3)他の法的概念との関係

財産分与は他の法的制度と密接に関連しています。
まず、財産分与が債権者への詐害行為となるケースがあります。実際には財産隠しの手段として財産分与が活用されることもあり、状況によっては、債権者による取消が認められることもあります。
詳しくはこちら|財産分与と詐害行為取消権(理論的な背景・実情・具体的事例)
財産分与が詐害行為とされるかどうかには一定の判断基準があります。詐害性が認められた場合の取消範囲は、必ずしも財産分与全体ではなく、不相当に過大な部分に限定されることもあります。
詳しくはこちら|財産分与と詐害行為取消権(詐害性の判断基準と取消の範囲・対象)
夫婦が共有している不動産について、離婚とは関係なく(離婚前であっても)原則として、共有物分割請求をすることができます。ただし、状況によっては否定されることもあります。
詳しくはこちら|夫婦間の共有物分割請求の可否の全体像(財産分与との関係・権利濫用)

3 財産分与のための財産調査

財産分与を適切に行うためには、まず夫婦の財産を正確に把握することが前提となります。しかし、実務では配偶者名義の財産について十分な情報を得られないケースが非常に多く、相手方が財産の開示に非協力的な場合には、法的な調査手段を活用する必要があります。
主要な調査手法としては、弁護士会照会(相手方に知られずに実施可能)、裁判所を通じた調査手続き(調査嘱託・文書送付嘱託)などがあり、事案の状況や調査対象となる財産の種類に応じて適切に使い分ける必要があります。特に調査のタイミングが重要で、別居前の段階では包括的な調査が可能ですが、別居後では財産隠匿行為が本格化する可能性が高まります。
詳しくはこちら|離婚・財産分与に向けた財産調査:総合ガイド(制度・手続の一覧と選択)

4 種類その1:清算的財産分与

(1)基本原則

3種類の財産分与(前述)のうち、主要なものは清算的財産分与です。夫婦で築いた財産(詳しくは後述)を2人で分ける、というものです。分け方には、現物分与、債務(代償)負担など様々な方法があり、財産の内容や当事者の状況に応じて適切な方法が選択されます。
詳しくはこちら|清算的財産分与の具体的分与方法のバリエーション(現物分与の対象・債務負担など)
財産分与の割合は、原則として夫婦共有財産の2分の1ずつとされていますが、資格業や極端に収入の多い職業など、財産形成への貢献度に偏りがある場合には例外的に異なる割合となることがあります。
詳しくはこちら|財産分与割合は原則として2分の1だが貢献度に偏りがあると割合は異なる
住宅ローンなどの債務(マイナス財産)も財産分与の対象となります。債務超過の場合の処理や、債務を引き受ける際の注意点について理解しておく必要があります。
詳しくはこちら|清算的財産分与における債務(マイナス財産)の扱い

(2)住宅・不動産の清算方法

住宅や不動産は、財産分与の中でも特に重要かつ複雑な問題を含んでいます。
まず、住宅の財産分与の方法は、裁判(審判・訴訟)と和解とでは選択できる方法が異なります。裁判所による審判では難しい方法でも、当事者間の和解なら柔軟な解決が可能な場合があります。
詳しくはこちら|マイホームの財産分与の方法(選択肢)は裁判(審判・訴訟)と和解で異なる
住宅ローン残債のある住宅の財産分与には、売却する方法と一方が住み続ける方法がありますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。
詳しくはこちら|住宅ローンが残っている住宅の財産分与の全体像(分与方法の選択肢など)
住宅ローン付き住宅を財産分与で取得する場合、ローンの滞納リスク(差押を受けるリスク)などがあります。これらのリスクを回避するための工夫にはいろいろな手法があります。
詳しくはこちら|住宅ローンが残っている住宅の財産分与における法的リスクと予防法
財産分与として不動産の所有権ではなく、利用権(使用借権・賃借権)を設定する方法もあります。
詳しくはこちら|財産分与として不動産の利用権を設定した裁判例(集約)
住宅そのものではなく、私道が問題となることもあります。その1つが、私道の評価です。
詳しくはこちら|私道の評価(共有物分割・遺産分割・財産分与における私道減価)

(3)特殊ケース:財産の持ち戻し

清算的財産分与は残っている(現存する)財産を分ける、のが基本です。ただし、一方配偶者が浪費や事業の失敗で財産を減らしてしまった場合や持ち出した(隠匿した)場合、すでに失われた財産でも「持ち戻し」として財産分与の計算に含めることがあります。
詳しくはこちら|財産分与の計算における不合理な支出(浪費・事業の損失)の持ち戻し
詳しくはこちら|夫婦の一方が別居時に財産を持ち出したケース:財産分与への影響
過去に、夫婦の一方が親族に送金していたことが発覚することもあります。これも、状況によっては持ち戻しをすることになります。
詳しくはこちら|離婚時の財産分与における親族送金の持ち戻し(扶養との区別)

ところで、別居時に一方が多額の夫婦共有財産(預貯金)を持ち出した場合、当面の生活費は足りるので、婚姻費用分担金の支払は不要になるという発想もありますが、原則としては、婚姻費用の算定には影響しません。
詳しくはこちら|別居の際の夫婦共有財産の持出しは婚姻費用に影響しないが例外もある

(4)過去の婚姻費用の清算

一方、過去に婚姻費用の未払いや過払いがあった場合、財産分与においてそれを清算することになります。ただし、単純に未払いや過払いの金額分を加減する、とは限りません。
詳しくはこちら|財産分与における過去の生活費負担の過不足(未払い婚姻費用)の清算

(5)財産の複雑性による財産分与の否定

財産が複雑すぎて評価困難な場合、財産分与請求自体が棄却されることもあります。ただしこれはあくまでも特殊な使い(レアケース)です。
詳しくはこちら|財産が複雑であるため財産分与請求を棄却した裁判例(消長見判決)

5 清算的財産分与の対象財産

(1)基本原則

清算的財産分与は夫婦で築いた財産を分けます(前述)。つまり、清算的財産分与の対象となるのは(実質的な)夫婦共有財産です。夫または妻だけの財産(特有財産)は対象外です。夫婦共有財産には不動産、預貯金、株式、保険、自動車などが含まれます。
詳しくはこちら|財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)
実務では、財産分与の基準時の問題があります。対象財産の範囲をどの時点で決めるかという基準時と、財産の価値をいつの時点で評価するかという評価の基準時は異なります。
詳しくはこちら|清算的財産分与の対象財産の範囲の基準時と評価の基準時

(2)預貯金・金融資産の扱い

預貯金は典型的な財産分与の対象財産ですが、婚姻前から所有していた預貯金や相続で取得した預貯金など、例外的に対象とならないケースもあります。
詳しくはこちら|預貯金は代表的な財産分与の対象であるが例外もある
子供名義の預貯金が財産分与の対象となるかどうかは、その原資や開設の経緯によって判断されます。親の財産を子供名義にしただけのケースと、本当に子供のために贈与した場合では扱いが異なります。
詳しくはこちら|子供名義の預貯金は原資や経緯によって財産分与での扱いが決まる
特有財産を原資とした株式投資や金融取引の収益が、特有財産となるか共有財産となるかは、投資に費やした労力や専業主婦(夫)の支援の有無などによって判断されます。
詳しくはこちら|離婚時の財産分与における金融資産の扱い(夫婦共有財産か特有財産か)

(3)将来の退職金・資格の扱い

将来受け取る予定の退職金も、婚姻期間中に相当する部分については財産分与の対象とするのが実務の傾向です。ただし、退職金を受け取る確実性や退職までの期間などが考慮されます。
詳しくはこちら|将来の退職金の財産分与
医師や弁護士などの専門職資格は、原則として財産分与の対象とはなりませんが、配偶者の貢献によって資格取得が可能となった場合などには、例外的に考慮されることがあります。
詳しくはこちら|医師・弁護士などの専門職資格(所得能力)の財産分与

(4)ペットの財産分与

法律上はペットも財産の1つとして(清算的)財産分与の枠組みがあてはまります。ただ、子どもの親権者の決め方(どちらが引き取るか)に近い考え方が適用されることがあります。
詳しくはこちら|離婚とペットの奪い合い|引き取り手≒親権者の判断|内縁解消・同棲解消でも同様

6 種類その2:慰謝料的財産分与

財産分与の中身の2つ目として、慰謝料的財産分与があります。文字どおり、離婚の原因を作った配偶者に対する損害賠償(慰謝料)の性質を持つ財産分与です。実務では、清算的財産分与との区別や、一般的な離婚慰謝料との関係が問題になることがあります。
詳しくはこちら|慰謝料的財産分与(清算的財産分与との区別など)

7 種類その3:扶養的財産分与

財産分与の中身の3つ目は扶養的財産分与です。文字どおり、離婚後の扶養(生活保障)を目的とする財産分与です。原則として発生しませんが、特に専業主婦(夫)や高齢者など、経済的な弱者の保護として認められることがあります。
詳しくはこちら|離婚後の生活費の支払(保障)が認められることもある(扶養的財産分与)

8 職業・所得の特性による財産分与の特殊性

収入・資産が多い方の離婚では、財産の把握が困難になりやすく、財産分与をめぐる対立も熾烈になりがちです。高収入者特有の財産分与の問題点と対策について理解しておくことが重要です。
詳しくはこちら|収入が多い方の結婚・離婚|専門弁護士ガイド
医師の離婚における財産分与では、医療法人の資産と個人資産の混在や、病院と自宅が一体となった不動産など、特有の問題があります。
詳しくはこちら|医師の離婚|財産分与における特徴

9 財産分与に関する課税

財産分与により、財産が移転しても、大部分は非課税です。しかし、譲渡所得税などのように課税されるものもあります。誤解が多いところですので要注意です。
詳しくはこちら|離婚の際の財産分与に関する課税の全体像

10 その他関連記事

(1)財産分与完了前の死亡→相続との優劣

離婚や内縁解消の合意後、財産分与が完了する前に所有者が死亡した場合、財産分与請求権が相続財産に対して行使できるかどうかは、財産分与の解釈によって異なります。
詳しくはこちら|離婚・内縁解消→所有者死亡|財産分与の有無|財産分与の解釈で決まる

(2)係争中のリスク予防→遺言書作成

相続との関係は重要です。万一、離婚が成立する前に夫婦の一方が亡くなった場合、他方が配偶者(相続人)という立場になります。財産を取得することになり、また、他の相続人との間でより深刻な問題となることもあります。そこで、夫婦間の対立が始まった段階で、保険として遺言書を作成しておくという対応も実務ではよくあります。
詳しくはこちら|離婚係争中×相続リスク|予防法=遺言作成・信託・遺留分キャンセラー

(3)財産分与制度の歴史

財産分与制度は昭和22年の民法改正によって創設されました。それ以前は財産分与の制度がなく、離婚しても財産は名義人のものとされていました。
詳しくはこちら|離婚(財産分与)に関する規定の創設(昭和22年改正民法)

本記事では、離婚における財産分与の全体像について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産分与など、離婚(夫婦)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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