【離婚後の生活費の支払(保障)が認められることもある(扶養的財産分与)】

1 離婚後の保障として扶養的財産分与が認められることがある
2 扶養的財産分与は,有責性,将来の収入見込み,資産の大きさによって判断される
3 扶養的財産分与は,婚姻費用の2〜3年,が1つの目安となる
4 扶養的財産分与として相手の一生分の婚姻費用相当額が認められることもある
5 扶養的財産分与の算定上『割引率=ゼロ』とされることが多い
6 扶養的財産分与を毎月払う場合は,相手方の死亡または再婚まで続く
7 扶養的財産分与の『一括払い』では『贈与税』がかかるリスクがある
8 扶養的財産分与の財産状態の基準時

1 離婚後の保障として扶養的財産分与が認められることがある

夫婦間の扶養義務は,離婚によって終了します。
しかし,事情によっては離婚後の扶養の意味で「財産分与」を算定することがあります。
これを扶養的財産分与と呼んでいます。

<扶養的財産分与の本質的な考え方;例>

ア 妻は結婚時に退職し,キャリアーウーマンの道を閉ざされてたイ 長期間経過後,離婚したが,復職や他の会社への就職はほぼ不可能従前の収入に戻れない
→元配偶者が一時的に経済的サポートをすべき

離婚後に,扶養義務から排除されるので,経済的に厳しくなる,というところがポイントです。
なお,女性特有の一定の職業について,経済面から検討・算定した判例もあります。
参考コンテンツ|『女性の美貌』の経済的価値|判例における逸失利益の算定

2 扶養的財産分与は,有責性,将来の収入見込み,資産の大きさによって判断される

どのような場合に「扶養的財産分与」が認められるのか,を説明します。

原則的なルールとしては「扶養」は婚姻期間中に限定されます。
『夫婦であること』に起因する義務だからです。

一方で,例外的に,実質的な離婚後の扶養=『扶養的財産分与』が認められます。
※新潟地裁長岡支部昭和43年7月19日

原則のルールを破って扶養範囲を離婚後まで延長する,という特別扱いです。
認められるのは限定的です。

<扶養的財産分与の判断基準>

※(元)夫が妻に支払うことを前提としています。逆の方向性の場合は読み替えてください。
※総合評価

あ 離婚に至る経緯について元夫の有責性が大きい

例外的に離婚「後」の扶養を認めるので,一定の特殊事情を要件とする
特殊事情の典型例
元夫が不貞相手と長期間同居し,不貞相手との間に子供が誕生している

い 年齢,健康状態,資産等による離婚後の生活の見通しがネガティブ

典型例
・元妻が,医療費を継続的に要する
・清算的財産分与,慰謝料としての元妻の受領額が少ない

う 再就職の可能性が低い

技能・資格・年齢・健康状態などが関係する
高齢である場合,可能性は低い,ということになる

え 再婚の可能性が低い

年齢や健康状態などが関係する

お 分与する側の経済的余裕がある

年金分割の制度が施行される前は,受給した年金の分配という趣旨もあった
※横浜地裁平成9年1月22日
現在では,年金分割の制度が施行されているので,将来の年金はあまり考慮されない

3 扶養的財産分与は,婚姻費用の2〜3年,が1つの目安となる

(1)扶養的財産分与の標準的算定方法

扶養的財産分与が認められる場合の,その標準的な算定方法について説明します。

(2)扶養的財産分与の単価(月額)

婚姻期間中の「夫婦間の扶養」については,婚姻費用分担金(コンピ)と呼ばれ,しっかりした「基準」ができています。
扶養的財産分与に,敢えて最も近いものを言えば,この婚姻費用分担金ということになりましょう。
婚姻費用分担金の算定方法が参考になります。

(3)扶養的財産分与の期間

ただし,算定においては「一生分」ということはなく,『自立の準備期間として最小限』ということになります。

<扶養的財産分与が認められる『年数』の目安>

あ 平均的な算定年数

2〜3年が目安
特殊事情があれば大幅に異なることもある

い 注意点

『実際に経済的自立ができる時まで』ということではない
理由;離婚後は『扶養義務はない』というのが根本的な関係であるため

う 高額化する特殊事情の例

長期間にわたって『経済的自立が難しい』=『収入を得る可能性に乏しい』という事情
→高額(長期間)になる傾向(後述)

例えば,60歳程度を超える場合は「一生分」(平均余命)という算定となる裁判例もあります。
また,以前は将来受給する年金の分配という趣旨で一生分とするケースもありました。
※横浜地裁平成9年1月22日
しかし,現在は年金分割が施行されているのでこのような考え方は採用されません。

(4)扶養的財産分与の支払方法は一括or毎月

また,具体的支払方法もバリエーションがあります。

<扶養的財産分与の支払い方法のバリエーション>

・n年分の合算額を一括で払う
・n年間,1か月毎に支払う

4 扶養的財産分与として相手の一生分の婚姻費用相当額が認められることもある

扶養的財産分与の算定において,標準的算定方式から外れる場合もあります。

標準的な算定方法における期間経済的自立に要する期間されます(前記)。
この期間に相当する生活費(婚姻費用分担金相当額)を保障する,というのが基本的な考え方です。

ここで,離婚した者の一方が次のような事情がある場合は算定方法が異なります。
裁判例を分析した法則を次にまとめます。
※東京高裁平成元年11月22日
※東京高裁昭和63年6月7日

<特殊事情がある場合の扶養的財産分与算定式>

あ 特殊事情;

長期的に経済的自立が難しい今後収入を得る可能性に乏しい

い 算定式;

婚姻費用分担金相当額 × 平均余命

いわば,将来の婚姻費用分担金債権を買い取るという取引になぞらえた算定方法,とも言えます。
またこのような場合,仮に離婚せずに片方が亡くなった場合,残った方は相続により財産を承継できたはず,ということも考慮に含まれます。
つまり,そのままだったら相続で財産が入ったはずという期待にも一定の保障を与える,ということです。
これも例えると,将来の相続の権利を事前に買い取るということです。
さかのぼって考えると,結婚したことによって,このような権利が生じる,という見方ができます。
経済的なメカニズムに着目すると結婚債権と同様の考え方,算定方法です。

<ポイント;結婚債権>

将来の婚姻費用分担金の権利化 + 将来の相続で受ける利益の権利化 → 結婚債権
詳しくはこちら|収入大→離婚時の清算が大きくなる;婚費地獄,結婚債権評価額算定式

5 扶養的財産分与の算定上『割引率=ゼロ』とされることが多い

「扶養的財産分与」の一括払い(前払い)の時における割引率について説明します。
一般に損害賠償請求の損害額算定金融工学上の債権評価において前払いについては割引が適用されます。

(1)割引率の説明

金融工学上,一般的に,将来の債券の価値と,現在価値は異なります。
不確実性の程度生じるはずの利息(中間利息)割引率として数値化し,これを元に割引の計算を行います。
「扶養的財産分与」として3年なり10年分の「婚姻費用分担金」相当額を一括で払う場合にも同様の状況となります。
詳しくはこちら|収入大→離婚時の清算が大きくなる;婚費地獄,結婚債権評価額算定式

(2)割引率の設定

実務上,裁判所の算定や当事者間の算定(交渉)で用いられる「割引率」はまちまちです。
統一された相場,と言えるほどのものはありません。

裁判所の判断においては,明確に割引の計算を行うことはほとんどありません。
明確なコメントがなく,一定額に丸めるということはあります。
※東京高裁平成元年11月22日
※東京高裁昭和63年6月7日
なお,当事者が請求した金額よりも高い金額を裁判所が認定したという珍しい裁判例もあります。

<当事者の主張と裁判所の判断の行き違い

あ 当事者の請求(主張)

ライプニッツ係数(法定利率5%)による割引計算をして請求した

い 裁判所の判断(判決)

割引計算を行わなかった
※東京高裁平成元年11月22日

これは,裁判所が当事者の請求以上の内容を審判で認めた,という状態です。
訴訟では禁止されているものですが,審判では適用されないのです。
詳しくはこちら|家事審判|対立構造|緩和的|不成立なし・処分権主義・既判力

また,交渉においては,まさに『交渉内容の1つ』です。
他の状況によって割引率は変わってきます。
方向性として言えるのは,離婚成立を急ぐ当事者が相手方の要望を飲むという傾向くらいです。

6 扶養的財産分与を毎月払う場合は,相手方の死亡または再婚まで続く

扶養的財産分与として月額が設定された場合にいつまで払うのかについて説明します。

まず本来,離婚後は,夫婦関係がないので,扶養義務,夫婦相互扶助義務はありません。
しかし,一定の特殊事情がある場合,例外的な救済措置として扶養に準じた生活費のサポートが認められます。
これが「扶養的財産分与」の性格です。

そこで,逆に,特殊事情が事後的に消滅した場合,「扶養的財産分与」の支給義務も終期に至る,と解釈すべきです。

この点,「扶養的財産分与」を認める判決において,最初から終期として(元妻の)死亡または再婚するに至るまでと明示した裁判例があります。
※新潟地裁長岡支部昭和43年7月19日
※横浜地裁平成9年1月22日
仮に判決や離婚協議書などの書面において,終期について何ら明示がない場合でも,次のような場合は,解釈上,扶養的財産分与支給義務の消滅は認められるでしょう。

<扶養的財産分与の終期の例>

あ (元妻の)死亡の時

扶養義務には相続性がないので当然である

い (元妻の)経済的状況の変化の時

経済的な状況の変化により経済的苦境状態が解消された時という趣旨である
状況の変化の典型例=再婚

逆に,離婚協議書を作成し,条項として扶養的財産分与を定める場合は,終期について明示しておくと解釈の違いを生じないのでベターでしょう。

7 扶養的財産分与の『一括払い』では『贈与税』がかかるリスクがある

扶養的財産分与が一括払いとなると,1度に多額の金銭が動きます。
この場合,当事者は納得していても,税務署が黙っていないことがあります。
『贈与』として扱い,贈与税の対象と扱われるリスクがあります。
贈与税は税率が高いので,この点も注意すべきです。
詳しくはこちら|扶養に対する課税はないが,扶養的財産分与は高額→贈与認定リスクあり

8 扶養的財産分与の財産状態の基準時

ところで,扶養的財産分与を判断する基礎となる財産状態は,分与の時点となります。当然ではありますが,扶養的財産分与はこれとは違いますので,一応指摘しておきました。

<扶養的財産分与の財産状態の基準時>

あ 扶養的財産分与の基準時

なお,扶養的財産分与については,別居時ではなく口頭弁論終結時(分与時)の財産状態が検討の対象とされるのは当然である。
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p100
※島津一郎ほか『新版注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p221(同旨)

い 清算的財産分与の対象財産の範囲の基準時(参考)

清算的財産分与の対象財産の範囲は原則として別居時を基準とする
詳しくはこちら|清算的財産分与の対象財産の範囲の基準時と評価の基準時

本記事では,扶養的財産分与について説明しました。
実際には,扶養的財産分与が認められるかどうか,認められる場合にその金額や期間について,個別的事情の主張と立証で大きく違ってきます。
扶養的財産分与を含めて,離婚の際の清算の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【財産分与割合は原則として2分の1だが貢献度に偏りがあると割合は異なる】
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