1 財産分与として不動産の利用権を設定した裁判例(集約)
2 夫所有建物→妻の賃借権設定
3 共有マンション→夫持分に妻の賃借権設定
4 共有土地建物→夫に分与+妻の使用借権設定
5 夫所有土地建物→土地分与+建物に妻の使用借権設定
6 夫実質所有土地建物→建物分与+土地に妻の使用借権・賃借権設定

1 財産分与として不動産の利用権を設定した裁判例(集約)

離婚の際の財産分与の中で,裁判所が住居などの不動産に利用権(賃借権・使用借権)を設定するという方法があります。
詳しくはこちら|財産分与として利用権を設定する方法(法的問題点)
実際に裁判所が不動産に利用権を設定したケースが多くありますので,本記事ではそのような裁判例を紹介します。

2 夫所有建物→妻の賃借権設定

土地と建物が夫の所有となっていて,建物に妻の賃借権を設定したケースです。10年間は妻が賃料を支払いながら居住できるという結果になっています。

夫所有建物→妻の賃借権設定

あ 所有関係

住居(土地・建物)は夫の単独所有であった

い 財産分与の内容

土地・建物を夫が取得する(所有権はそのままとする)
建物に妻の賃借権を設定する
期間=約10年間
賃借権設定登記をする
※浦和地判昭和59年11月27日

3 共有マンション→夫持分に妻の賃借権設定

マンションが夫婦の共有となっていて,夫の持分に妻の賃借権を設定したケースです。期間としては,妻が引き取った子が高校を卒業する時期まで(約6年間)が設定されました。この時期までは,妻が賃料を支払いながら居住できる結果になっています。
理論的には,共有持分を対象とした賃貸借というのは本来適切ではないという見解もありますが,別の見解をとったとしても,妻が居住できるという結論に影響はありません。
なお,期間が満了し,妻(と子)が退去した後は,共同売却するなど,何らかの対応が必要になり,売却の方法や内容について意見が一致しない場合には共有物分割の手続が必要になる,という問題があります。

共有マンション→夫持分に妻の賃借権設定

あ 所有関係

住居(マンション)は,夫88.3%,妻11.7%の共有であった

い 財産分与の内容

妻の共有持分は特有財産である(分与対象財産ではない)
夫の共有持分だけが夫婦共有財産である(分与対象財産である)
夫の共有持分は夫が取得する
夫の共有持分を妻に賃貸する
期間=約6年間(長女が高校を卒業するまで)
※名古屋高判平成21年5月28日

う 共有持分の賃貸借(参考)

共有持分は賃貸借(や使用貸借)の目的にはならないという見解が一般的である
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)

4 共有土地建物→夫に分与+妻の使用借権設定

もともと夫婦の共有であった土地・建物を,夫に分与(夫の所有)した上で,建物に妻の使用借権を設定した,というケースです。妻は,共有持分を失う代わりに,末っ子が小学校を卒業するまでの約7年10か月の間は賃料の支払なしで建物に居住できる,という結果になっています。
妻の共有持分が夫に移転するのは即時なのですが,移転登記は,退去の時点(約7年10か月後)に行う,というようにして,退去前に夫が売却してしまうことを(事実上)防止する工夫をしました。

共有土地建物→夫に分与+妻の使用借権設定

あ 所有関係

住居(土地・建物)は夫婦の共有であった

い 財産分与の内容

土地・建物を夫が取得する
夫が一定金額(対価)を支払う
建物に妻の使用貸借権(使用借権)を設定する
期間=決定の日から約7年10か月間(末の子が小学校を卒業するまで)
使用貸借の期間満了時に(妻から夫への)持分移転登記をする
※名古屋高決平成18年5月31日

5 夫所有土地建物→土地分与+建物に妻の使用借権設定

夫が所有していた土地・建物のうち,土地については妻が取得した(所有者となった)上で,建物は夫所有を維持しつつ,妻が10年間無償で居住できる結果となっています。土地と建物の所有者が異なるというとてもイレギュラーな内容です。背景には,原審を元にして妻が建物に居住できるところだけを変えた内容で,当事者が合意した,つまり実質的には和解が成立していたという事情という事情がありました。ただ,形式的には裁判所の決定にすることを当事者が希望したので,和解ではなく決定(裁判例)となっている,という特殊な経緯があります。

夫所有土地建物→土地分与+建物に妻の使用借権設定

あ 所有関係

住居(土地・建物)は夫の単独所有であった

い 審理の経過

抗告審において,裁判所の事実上の和解勧告により,当事者間に合意が成立した
裁判所は,合意内容に沿った決定をした

う 財産分与の内容

土地は妻が取得する
建物に妻の使用借権を設定する
期間=10年間
※大阪高決平成3年10月1日

え 裁判(決定)という形式をとった理由(参考)

ア 前提理論(通説) 非訟事件については特別の規定がない限り,和解はできない
抗告審でも裁判上の和解はできない
イ 本裁判例が採用した形式の理由 本件の処理は一般に財産分与について裁判上の和解ができないと解されているための代替処置と考えられる。
※大津千明稿『抗告審が当事者の合意に沿った財産分与を命じた事例』/『民商法雑誌107巻6号』1993年3月p131,132,134

6 夫実質所有土地建物→建物分与+土地に妻の使用借権・賃借権設定

もともと,複数の土地・建物について,ともに夫が相続で得た財産(特有財産・固有財産)といえるものでしたが,登記名義としては個々の不動産について夫または妻の単独所有にしていました。
離婚の後の妻の状況としては,住居(自宅の母屋)と店舗の使用を継続する必要がありました。そこでまず,この2つの建物は妻が取得する(登記名義を維持する)ことにしました。次に,2つの建物の敷地ですが,これを妻に取得させると,評価額として過剰な取得となってしまいます。そこで,敷地(土地)については,夫の所有を維持しつつ,20年間,妻の使用を認めることにしました。使用形態としては,住居については無償(使用貸借),店舗については営業利益を生むことから有償(賃貸借)としました。
当初の権利関係(実体と登記)も複雑ですし,結果も複雑にみえますが,いろいろな工夫が盛り込めるという良い例です。

夫実質所有土地建物→建物分与+土地に妻の使用借権・賃借権設定

あ 所有関係

ア 土地 土地(宅地)は夫の単独所有であった
山林は夫の特有財産であるが妻単独所有の登記がなされていた
イ 建物 自宅の母屋,店舗は夫の特有財産であるが妻単独所有の登記がなされていた

い 財産分与の内容

ア 単純分与 自宅の母屋・店舗(建物)は妻が取得する
イ 利用権設定 自宅の母屋の敷地(土地)に妻の使用借権を設定する
期間=妻の生存中
店舗の敷地(土地)に妻の賃借権を設定する
期間=20年間
※東京高判昭和63年12月22日

本記事では,財産分与として利用権を設定する方法を採用した実例(裁判例)を紹介しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に自宅や事業用の不動産が関係する離婚の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。