【預貯金は代表的な財産分与の対象であるが例外もある】

1 財産分与における預貯金の実務的扱い
2 預貯金に関するトラブルと事前の工夫
3 別産的な夫婦の関係と預貯金の扱い
4 子供名義の預貯金は状況によって扱いが異なる(概要)

1 財産分与における預貯金の実務的扱い

預貯金は夫婦の協力で得た財産であり,夫婦共有財産の典型的なものの1つです。
詳しくはこちら|財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)
正確には,預貯金の残高のすべてが,夫婦の協力で得たものとはいえません。
預貯金のうち婚姻中に増えた額が,夫婦の協力によるものです。
実務上の一般的な計算方法をまとめます。

<財産分与における預貯金の実務的扱い>

あ 夫婦共有財産の考え方

婚姻中に増加した資金について
→夫婦の協力によって得た財産である
=夫婦共有財産である

い 具体的計算方法

夫婦共有財産
=(別居スタート時の残高) − (婚姻時の残高)

2 預貯金に関するトラブルと事前の工夫

実際には,預貯金の分与に関してトラブルとなることがよくあります。
典型的な要因の1つは,記録がない,というものです。
このような困った事態を回避できる良い管理状況もあります。
当初から離婚を想定して予防するというより,財産の管理の合理化といえるものです。
このようなトラブルや管理状況の具体例を紹介します。

<預貯金に関するトラブルと事前の工夫>

あ 実務における典型的なトラブル

婚姻時の残高に関する記録が一切ない
金融機関も保管期間切れにより取引履歴を保有していない
→婚姻時の残高が分からない
『い・う』の状況があればこのような事態に陥らない

い 婚姻時の残高の記録化

『ア・イ』の事情があれば残高が記録として残っている
ア 通帳を保管しておくイ Web上の閲覧記録を画像として保管しておく

う 管理用口座の新規開設

婚姻後に夫婦の財産の管理用口座を新たに作る
→婚姻前/後で混ざることがなくなる

なお,婚姻時にストレートにトラブルを想定しておくことは,本来良いことです。
問題になりがちな事項をルール化しておくというものです。
民法上の制度である『夫婦財産契約』というものです。
詳しくはこちら|夫婦財産契約(婚前契約)によって夫婦間のルールを設定できる
ただし日本では『不吉なことは考えない』という風潮が強く,普及度がまだ低いです。
詳しくはこちら|夫婦財産契約が普及しない現状・原因・米国との比較や利用される典型的状況

3 別産的な夫婦の関係と預貯金の扱い

以上のように,預貯金は夫婦共有財産の典型的なものの1つです。
しかし,特殊な夫婦の関係性によって,預貯金を夫婦共有財産として扱われないこともあります。

<別産的な夫婦の関係と預貯金の扱い>

夫婦がいずれも芸術家であった
婚姻後も各自で収入・預貯金を管理していた
個別家計で生活費を支出していた
→夫婦各自の名義の預貯金を夫婦共有財産から除外した
※東京家裁平成6年5月31日

4 子供名義の預貯金は状況によって扱いが異なる(概要)

実際に財産分与を行う場面では,子供名義の預貯金が問題となることがあります。
夫や妻の収入について,子供の名義だけ借りた口座で保管しているようなケースでは,夫婦共有財産として扱われます。
しかし,本来的に子供の財産とされることや,親から子供への贈与として認められることもあります。当然,このような場合は,子供名義の預貯金は夫婦共有財産から除外されます。
詳しくはこちら|子供名義の預貯金は原資や経緯によって財産分与での扱いが決まる

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【財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)】
【清算的財産分与の対象財産の範囲の基準時と評価の基準時】

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