【慰謝料的財産分与(清算的財産分与との区別など)】

1 慰謝料的財産分与(清算的財産分与との区別など)
2 慰謝料的財産分与の財産状態の基準時
3 財産分与と慰謝料の区別が曖昧さによる典型的トラブル
4 財産分与後の慰謝料請求の可否(昭和46年判例)
5 財産分与における慰謝料の趣旨の判断要素

1 慰謝料的財産分与(清算的財産分与との区別など)

一般的には,財産分与と慰謝料は別個のものです(民法768条,709条,710条)。しかし,実務では,財産分与に慰謝料を含めることもあります。これを慰謝料的財産分与といいます。
詳しくはこちら|財産分与の基本(3つの分類・典型的な対立の要因)
そして,後から,この趣旨が曖昧であることによりトラブルが生じることもあります。
本記事では慰謝料的財産分与について説明します。

2 慰謝料的財産分与の財産状態の基準時

裁判所が,財産分与の中に慰謝料も含める場合,金額的にどの程度含めるかということが問題となります。これについては,相手に与えた精神的ダメージをベースとするのは当然ですが,両者の経済的状態も考慮します。正確には,分与をする時点の経済的状態を考慮します。
当然ではありますが,扶養的財産分与はこれとは違いますので,一応指摘しておきました。

<慰謝料的財産分与の財産状態の基準時>

あ 慰謝料的財産分与の基準時

慰謝料的財産分与は,(別居時ではなく)分与時の財産状態が判断の基礎となる
※島津一郎ほか『新版注釈民法(22)親族(2)』有斐閣2008年p221

い 清算的財産分与の対象財産の範囲の基準時(参考)

清算的財産分与の対象財産の範囲は原則として別居時を基準とする
詳しくはこちら|清算的財産分与の対象財産の範囲の基準時と評価の基準時

3 財産分与と慰謝料の区別が曖昧さによる典型的トラブル

実際に,慰謝料的財産分与の問題が出てくるのは,財産分与の後に慰謝料の請求がなされたという状況です。一方は既に支払ったと思っていて,他方はまだ支払われていないと思っているという対立です。

<財産分与と慰謝料の区別が曖昧さによる典型的トラブル>

弁護士などの専門家を介さずに,当事者同士で「離婚協議書」を調印した
書面上の「財産分与」と記述されている
Aは(清算的)財産分与として捉えていて,Bは,慰謝料の意味で捉えている
後日,AがBに慰謝料を請求した

4 財産分与後の慰謝料請求の可否(昭和46年判例)

財産分与が終わった後に慰謝料を請求できるかどうか,について,判例が基準を示しています。内容を単純にいうと,既に終わった財産分与の中に慰謝料の趣旨を含むのであれば慰謝料は支払い済みなので,重ねて請求できないというものです。

<財産分与後の慰謝料請求の可否(昭和46年判例)>

そして,財産分与として,右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には,さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の支払を請求したときに,その額を定めるにあたつては,右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり,このような財産分与によつて請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには,もはや重ねて慰藉料の請求を認容することはできないものと解すべきである。
しかし,財産分与がなされても,それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか,そうでないとしても,その額および方法において,請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには,すでに財産分与を得たという一事によつて慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく,別個に不法行為を理由として離婚による慰藉料を請求することを妨げられないものと解するのが相当である。
※最高裁昭和46年7月23日

5 財産分与における慰謝料の趣旨の判断要素

前述の判例の判断基準は単純です。実際に対立するポイントは,既に終わった財産分与に慰謝料の趣旨が含まれていたか,いなかったかということです。
離婚協議書などに明記してあれば問題ないのですが,明記がない場合(だからトラブルになっている)は,周辺の事情から判断するということになります。

<財産分与における慰謝料の趣旨の判断要素>

あ 離婚協議書の表現

「財産分与には慰謝料は含まれない」と明記してあれば慰謝料の趣旨ではないことが明確となる

い 財産分与の内容の決定方法,算定方法

夫婦共有財産を評価し,これに分与割合をかけて算出した,ということが明確であれば,清算的財産分与(だけ)であることが明確となる
慰謝料的財産分与は含まないと読み取れる

う 財産分与の金額や支払方法と(元)夫婦それぞれの経済力

当事者の経済力を前提として,慰謝料も含んでいるとみるには少ないといえる場合,慰謝料は含まれていないと読み取る方向となる

え 財産分与の合意に至る経緯

財産分与の協議中に,当事者が破綻の責任には一切触れていなかったが,その後,不貞(有責行為)が発覚した場合
慰謝料は含まれていないと読み取る方向となる

本記事では,慰謝料的財産分与について説明しました。
実際には,個別的事情により,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に離婚,財産分与や慰謝料の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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