【財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)】

1 財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本)

財産分与の分類のうち主要なものは清算的財産分与です。
詳しくはこちら|財産分与の基本(3つの分類・典型的な対立の要因)
本記事では、清算的財産分与で分ける対象となる財産について説明します。

2 清算的財産分与の対象財産の基礎的事項

清算的財産分与の対象となる財産は、民法上、夫婦の協力によって得た財産と規定されています。
実質的な夫婦の財産なので夫婦共有財産と呼びます。

清算的財産分与の対象財産の基礎的事項

あ 条文規定(要約)

夫婦がその協力によって得た財産
※民法768条3項

い ネーミング

夫婦共有財産と呼ぶ

う 除外される財産(概要)

夫婦一方の所有財産であっても
夫婦の協力によって得たものではない場合
→夫婦共有財産ではない(後記※3
特有財産(固有財産)と呼ぶ

3 清算的財産分与の対象財産の範囲と評価の基準時(概要)

清算的財産分与の対象となる財産は、別居の時点で夫婦(のいずれか)が保有していたものです。

清算的財産分与の対象財産の範囲と評価の基準時(概要)

清算的財産分与の対象財産の範囲は、原則として別居時に夫婦が保有していた財産(や利益)である
対象財産の評価額は、離婚時を基準として計算する
詳しくはこちら|清算的財産分与の対象財産の範囲の基準時と評価の基準時

4 典型的なプラスの夫婦共有財産

夫婦共有財産に含まれる財産にはいろいろなもの(種類)があります。まず、一般的な財産、つまりプラス財産の典型的なものをまとめます。

典型的なプラスの夫婦共有財産

あ 不動産

例;土地・建物・借地権
不動産の売却代金も含まれる
※東京高裁昭和57年2月16日;借地権について
※東京高裁平成8年12月25日;借地権について
(参考)賃借権の分与については解除のリスクがあるが否定される傾向にある
詳しくはこちら|清算的財産分与の具体的分与方法のバリエーション(現物分与の対象・債務負担など)

い 預貯金・現金

生活費の一部を貯めた『へそくり』も含む
詳しくはこちら|預貯金は代表的な財産分与の対象であるが例外もある

う 保険

夫婦共有財産により保険料を負担していた場合
→保険に関する財産が夫婦共有財産となる(後記※1

え 有価証券・金融商品

例;株式・投資信託
※広島高裁岡山支部平成16年6月18日;株式について

お 自動車

か 動産

ア 宝石類 夫婦の一方の固有財産となることもある(後記※2
イ 美術品・骨董品ウ 家財道具

き 会員権

例;ゴルフ会員権・レジャークラブ会員権
※東京地裁平成5年2月26日;ゴルフ会員権について
※東京高裁平成7年4月27日;ゴルフ会員権について

く 将来に具体化する財産

ア 退職金 詳しくはこちら|将来の退職金の財産分与
イ 年金受給権 詳しくはこちら|年金分割の制度趣旨|公的年金の基本事項=被保険者・標準報酬
ウ 資格 財産として扱うこともある
例=医師や弁護士など
詳しくはこちら|医師・弁護士などの専門職資格(所得能力)の財産分与

け 婚姻費用の未払分

婚姻費用の未払期間がある場合
→この清算も財産分与に含める
詳しくはこちら|財産分与における過去の生活費負担の過不足(未払い婚姻費用)の清算

こ 婚姻費用の既払分

夫婦共有財産の持出しがある場合
→原則としてこれを財産分与の既払いとして扱う
詳しくはこちら|別居の際の夫婦共有財産の持出しは婚姻費用に影響しないが例外もある

さ ペット(動物)

詳しくはこちら|離婚とペットの奪い合い|引き取り手≒親権者の判断|内縁解消・同棲解消でも同様

5 保険に関する夫婦共有財産性

夫婦共有財産の1つに保険があります(前記)。
保険とはいっても、財産としての具体的内容にはいろいろなものがあります。

保険に関する夫婦共有財産性(※1)

あ 生命保険の満期金

※東京高裁昭和57年2月16日

い 損害保険金

ア 事案 夫が交通事故により身体障害者となった
損害保険金が夫に支払われた
保険金のうち一部を夫婦共有財産とした
イ 対象部分 逸失利益額のうち婚姻中の期間に対応する部分
ウ 期間算定の終期 離婚成立時点まで
※大阪高裁平成17年6月9日

う 解約返戻金

満期前の保険について
→解約返戻金が夫婦共有財産となる
詳しくはこちら|死亡生命保険等は被保険者の同意が必要、事情によっては被保険者が解除請求できる

6 動産に関する夫婦共有財産性

動産も夫婦共有財産の1つです。
具体的な内容によっては、例外的に夫婦共有財産として否定されることもあります。

動産に関する夫婦共有財産性(※2)

あ 一般的な扱い

宝石類について
→夫婦共有財産とした
※東京高裁平成7年4月27日

い 固有財産という扱い

妻の宝石類について
→社会通念上の専用品(固有財産)とした
→清算的財産分与の対象ではない
※名古屋家裁平成10年6月26日

7 清算的財産分与におけるマイナス財産(債務)の扱い(概要)

婚姻生活のために借り入れたという債務も、単純に考えると夫婦で得た(マイナス)財産といえます。そこで、プラス財産からマイナス財産(債務)を差し引くという方法が一般的です。しかし、マイナスの方が大きい(債務超過)の場合には解釈にバリエーションがでてきます。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|清算的財産分与における債務(マイナス財産)の扱い

8 特有財産の内容

夫婦の一方の所有物でも、夫婦共有財産ではないものもあります。
これを特有財産と呼んでいます。特有財産は清算的財産分与の対象とはなりません。ただし、扶養的財産分与では対象となることがあります。
詳しくはこちら|清算的財産分与の具体的分与方法のバリエーション(現物分与の対象・債務負担など)

特有財産の内容(※3)

あ 特有財産

ア 夫婦の一方が結婚前から保有していた資産イ 夫婦の一方が相続・贈与により取得した資産ウ 日常生活の範囲内で夫婦の一方が単独で使用するもの 例=洋服・化粧品・アクセサリー
エ 結婚後に、一方が独自の才覚で自らの財産として形成したもの 例=株式の利益
→『アやイ』の派生的な財産、とも言える

い 子供の固有の財産

例=子供名義の預貯金
お年玉やお祝いを蓄えたもの
※高松高裁平成9年3月27日
詳しくはこちら|子供名義の預貯金は原資や経緯によって財産分与での扱いが決まる

9 「特有財産」の2種類の意味(概要)

ところで「特有財産」には、ふたつの意味があります。清算的財産分与の場面では「分与対象財産ではない」もののことですが、夫婦別産制(民法762条)の「特有財産」はこれとは別です。民法762条の「特有財産」が清算的財産分与の対象財産となることもあります。
詳しくはこちら|夫婦財産制の性質(別産制)と財産分与の関係(「特有財産」の2つの意味)
「特有財産」の言葉を使う時には誤解がないよう注意する必要があります。

本記事では、(清算的)財産分与の対象となる財産、つまり夫婦共有財産の内容について説明しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に財産分与に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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