1 別居の際の夫婦共有財産の持出しの婚姻費用への影響
2 別居時の夫婦共有財産の持出しの具体例
3 持ち出した金銭の返還請求(前提)
4 別居時の夫婦共有財産の持出しの婚姻費用への影響(基本)
5 例外的な婚姻費用への影響
6 財産分与(離婚)における過去の不合理な支出の清算(概要)

1 別居の際の夫婦共有財産の持出しの婚姻費用への影響

夫婦の仲が悪くなり、別居が始まることがあります。別居の際に、収入がないか、あっても少ない方は、相手の名義の預金をおろしてまとまった金額を確保することをよく行います。預金が一方の名義でも、中身が婚姻中の収入であれば夫婦共有財産です。
本記事では、このような金銭(夫婦共有財産)の持ち出しはその後どのような結果となるのかということを説明します。

2 別居時の夫婦共有財産の持出しの具体例

最初に、別居の際に夫婦共有財産を持ち出すという状況の典型例をまとめておきます。ここでは妻に収入がない(妻が婚姻費用の権利者である)というケースを前提にします。当然、夫と妻が逆でも同じことです。

別居時の夫婦共有財産の持出しの具体例(※1)

妻は専業主婦なので、夫の給料収入で夫婦が生活していた
夫婦の別居が始まった
妻は、夫が生活費(婚姻費用)を送金してくれないと生活ができなくなると心配していた
そこで、別居を始める際、妻は、夫名義の預金のキャッシュカードを確保した
その直後に、妻は、キャッシュカードを使って当面の生活費として300万円を引き出した

3 持ち出した金銭の返還請求(前提)

妻が金銭を持ち出した場合、すぐに思いつくのは「夫名義の預金なのだから夫に返すべき」ではないか、ということです。確かに夫名義の預金ではあったのですが、その預金の中身は夫の収入であり、夫の仕事は妻の協力があったからできたといえるので、実質的には夫婦の共有財産です。単純に「他人の金銭を無断でとった」というわけではないのです。そこで、原則として返さなくてよいことになります。ただし、夫婦共有財産の全体の半分以上を持ち出したという場合や、相手を困惑させる目的で持ち出したというような極端な場合には返す義務が発生します。

持ち出した金銭の返還請求(前提)

あ 一般的見解

婚姻関係が悪化して、夫婦の一方が別居決意して家を出る際、夫婦の実質的共有に属する財産の一部を持ち出したとしても、その持ち出した財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するとか、他方を困惑させる等不当な目的をもって持ち出したなどの特段の事情がない限り違法性はなく、不法行為とならないものと解するのが相当である。
※東京地判平成4年8月26日

い マイナーな見解(参考)

財産の持ち出しについて、不法行為による損害賠償請求を認めるとも読める裁判例がある
ただし、一般的な見解ではない
詳しくはこちら|妻による夫名義の預金の引き出しを不法行為と位置づけた裁判例

4 別居時の夫婦共有財産の持出しの婚姻費用への影響(基本)

ところで、別居が始まると夫婦の間で生活費(婚姻費用)を支払うことになります。
詳しくはこちら|別居中は夫(妻)に対して生活費の送金を請求できる(婚姻費用分担金)
妻はまとまった金銭を持ち出したのだから、しばらくはその金銭で生活できる、婚姻費用はしばらく支払わなくてもよいのではないか、という発想もあります。
しかし通常、そのような解釈はとられていません。金銭の持ち出しは婚姻費用(の金額)に影響しないのが原則です。
持出しストックに影響する行為なので、ストックの清算である財産分与の中で扱う、一方、フローの調整である婚姻費用では扱わない、という考え方です。

別居時の夫婦共有財産の持出しの婚姻費用への影響(基本)

あ 夫婦共有財産の持出し(前提事情)

権利者(妻)が別居にあたって夫婦共有財産を持ち出した
権利者(妻)がこれを生活に充てた(前記※1

い 原則

『あ』の清算は、(清算的)財産分与においてされるべきである(後記※2
原則として婚姻費用分担額算定の際に考慮すべきことではない
※松本哲泓著『婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務−』新日本法規出版2018年p149

う 例外

事情によっては婚姻費用の算定に影響することもある(後記※3

5 例外的な婚姻費用への影響

例外的に、持出し婚姻費用の算定の中で考慮(控除)するということもあります。この例外的扱いをするのは、持ち出された方(夫)が持ち出した財産を生活費にあてることを許容しているというような状況が典型です。もっと広く、原則どおりに婚姻費用の清算を財産分与まで先送り(後回し)にする(後述)と不公平だといえる状況があれば、例外的扱いをするということになります。

例外的な婚姻費用への影響(※3)

あ 例外的な扱い

『い』のいずれかに該当する場合
婚姻費用の既払いとして扱うことは可能である

い 例外となる事情(要件)

ア 追認的状況 持ち出した額が明白であり、これを婚姻費用に充当することに義務者(夫)に異存がない
イ 公平確保 その財産を権利者(妻)に保有させて消費可能な状態に置いたまま、さらに、義務者(夫)に婚姻費用の分担を命じることが義務者(夫)に酷である
※札幌高裁平成16年5月31日
※大阪高裁昭和59年12月10日
※大阪高裁昭和62年6月24日

6 財産分与(離婚)における過去の不合理な支出の清算(概要)

以上のように、別居の時の金銭の持ち出しは、原則として返さなくてよい、かつ、婚姻費用にも影響しません。だからといって、一切清算しなくてよい、というわけではありません。
そこで、過去の婚姻費用の過不足は、最終的に離婚が成立した時に清算することになります。具体的には、(清算的)財産分与の算定で考慮(加算や減額)されるということです。
つまり、離婚が成立するまではアンバランスは是正されず、離婚が成立した時に、それまでのいろいろなアンバランスをまとめて是正する(清算する)という構造になっているのです。

財産分与(離婚)における過去の不合理な支出の清算(概要)(※2)

離婚が成立した時の(清算的)財産分与の中で、過去の不合理な支出は戻して計算することになる
詳しくはこちら|財産分与の計算における不合理な支出(浪費・事業の損失)の持ち戻し

本記事では、別居の際の夫婦共有財産の持出しが婚姻費用の算定に影響するかどうかという問題を説明しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に財産の持出しの問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。