1 夫婦間の共有物分割請求の可否の全体像(財産分与との関係・権利濫用)
2 夫婦間の共有物分割の基本的扱い
3 登記名義と共有物分割の関係(概要)
4 財産分与と共有物分割の比較
5 財産分与における総合的清算の具体例
6 離婚よりも共有物分割を先行する状況の例
7 共有物分割訴訟における権利濫用(前提・概要)
8 夫婦間の共有物分割請求の権利濫用を肯定した裁判例
9 夫婦間の共有物分割請求を認めた判例
10 財産分与における住宅ローンに配慮した処理の例(参考)
11 潜在的な夫婦共有財産の分割請求(参考)

1 夫婦間の共有物分割請求の可否の全体像(財産分与との関係・権利濫用)

夫婦間の財産の清算は,通常,財産分与として行います。この点,夫婦間の共有となっている財産について,財産分与ではなく共有物分割請求をすることもできるかという問題があります。
一律に共有物分割が否定されるわけではありませんが,事情によっては権利の濫用として否定されることがあります。
本記事では,このような,夫婦間の共有物分割が否定される解釈の問題を全体的に説明します。

2 夫婦間の共有物分割の基本的扱い

自宅が夫婦の共有となっていることは多いです。離婚する場合,財産分与として清算することになります。
一方共有である以上は共有物分割の対象となります。

<夫婦間の共有物分割の基本的扱い>

あ 夫婦間の共有物分割(概要)

共有者が夫婦である場合
共有物分割請求は可能である
財産分与請求が可能な場合でも同様である
※東京地裁平成20年11月18日(中間判決)
詳しくはこちら|夫婦間の共有物分割請求の可否(財産分与との関係)を判断した裁判例

い 分割請求の権利濫用(例外)

個別的事情に特殊な事情がある場合
→共有物分割請求が否定されることもある(後記※1)

う 遺産共有の分割手続(比較)

相続人間の遺産共有の場合,共有物分割請求はできない
遺産分割によるべきである
※最高裁昭和62年9月4日
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の比較(法的性質・分割類型・分割手続の種類)

3 登記名義と共有物分割の関係(概要)

ところで,夫婦間では,実際(実体法上)の権利関係と登記を一致させていないということもたまにあります。例えば,夫婦でマイホームの購入資金を出し合ったので共有という意識であるけれども登記上は夫の単独所有にするようなケースです。実質的には共有といえるかもしれませんが,共有物分割の手続そのものも,登記申請も認められません。
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定

4 財産分与と共有物分割の比較

財産分与と共有物分割のどちらも可能という状態が生じることがあります(前記)。この2つの手続の違いをまとめます。

<財産分与と共有物分割の比較>

あ 財産分与

夫婦生活中の他の財産・経緯を考慮する
夫婦共有財産のすべてを一体として清算対象となる
※民法768条

い 共有物分割

対象の財産だけを分割対象とする
※民法258条

う 違い

処理の対象とする財産の範囲

5 財産分与における総合的清算の具体例

財産分与は総合的な清算という特徴があります。
共有物分割とは違う性格です(前記)。
具体例を用いてこれを説明します。

<財産分与における総合的清算の具体例>

あ 夫婦共有の自宅不動産

妻が夫の共有持分をもらう
妻は本来,夫持分の対価を夫に支払うべき

い 夫名義の預貯金

夫名義の預貯金は夫に帰属したままとする
妻は本来,夫名義の預貯金の半額を請求できる

う 総合的清算

『ア』と『イ』を実質的な相殺とする
→実際の金銭のやりとりは行わない

え 共有物分割の全面的価格賠償における賠償金支払(参考)

共有物分割の全面的価格賠償として妻が夫持分を入手する場合
→適正な対価(賠償金)を支払う
具体的には金銭の支払の給付を命じる(債務名義化)することが行われている
詳しくはこちら|全面的価格賠償における対価取得者保護の履行確保措置(金銭給付・担保設定)
他の財産処理との『相殺』のような方法はない

6 離婚よりも共有物分割を先行する状況の例

離婚・財産分与と共有物分割は別の手続です。
通常は夫婦間で熾烈な対立が生じた場合は離婚する方向性となります。
財産分与として財産の清算をすることになります。
しかし,離婚とは別に共有物分割を行うケースもあります。
このようなレアなケースの具体例をまとめます。

<離婚よりも共有物分割を先行する状況の例>

あ 前提事情

ア 相手方が離婚を拒絶している
イ 当方が有責である
離婚訴訟を提起しても棄却のリスクがある
詳しくはこちら|3大離婚原因の全体と『性格の不一致』の誤解
ウ 共有不動産を夫婦いずれも使用していない
エ 住宅ローンの負担がある
ローン返済を回避することで負担を回避できる
→共有不動産を売却するメリットがある
オ 相手方が共有不動産の売却を拒絶している

い 共有物分割先行

離婚の成立までにはある程度の期間を要する
一方,共有不動産の売却をすぐに実現したい
共有物分割請求により早期の売却が実現できる

7 共有物分割訴訟における権利濫用(前提・概要)

夫婦間に限らず,特殊事情がある場合,共有物分割請求が権利の濫用として否定される,つまり請求棄却となることが一般的にあります。
詳しくはこちら|共有関係からの離脱・解消|方法・典型的経緯
しかし権利の濫用や信義則違反として分割を否定されることもあります。
まずは基本的事項をまとめます。

<共有物分割訴訟における権利濫用(前提・概要)(※1)>

あ 共有物分割訴訟の特殊性

主張・立証の程度が不十分である場合でも
→請求棄却はできない
詳しくはこちら|共有物分割訴訟|形式的形成訴訟|当事者の主張の位置付け

い 権利濫用や信義則違反による請求棄却

個別的事情の特殊性により,共有物分割請求権の行使が権利濫用や信義則違反として認められないこともある
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における権利濫用・信義則違反・訴えの利益なし(基本・理論)

8 夫婦間の共有物分割請求の権利濫用を肯定した裁判例

実際に,夫婦間の共有物分割が権利の濫用として否定された裁判例があります。夫が原告でしたが,妻の居住を奪う結果となるものであり,一方,夫が共有物分割をしないといけない理由が乏しい,という状況であると判断されたのです。

<夫婦間の共有物分割請求の権利濫用を肯定した裁判例>

あ 前提事情

住居である甲不動産の共有者が夫婦である
夫は負債整理の目的で共有物分割を請求している

い 分割回避の必要性

ア 妻・長女が甲不動産に居住している
夫は既に退去している
イ 妻は収入に乏しい
ウ 長女は精神疾患である
エ 婚姻費用分担金がゼロまたは少ない金額である
夫が妻に婚姻費用分担金を支払っている
しかしその金額がゼロまたは少ない金額である

う 分割回避の相当性

抵当権が設定されている
→形式的競売によって得られる金額は多くない
→負債整理という主張は不合理である

え 裁判所の判断(結論)

夫から妻への攻撃的な意図がある
共有物分割を認めた場合,妻・長女を苦境に陥れることになる
内容=居住場所を奪う+転居先の確保が困難である
原告の共有物分割請求権の行使は,権利の濫用に当たる→請求を棄却する
※大阪高裁平成17年6月9日

9 夫婦間の共有物分割請求を認めた判例

次に,夫婦間の共有物分割が認められた判例を紹介します。これは,有責配偶者の相手方配偶者の方が共有物分割を請求した(原告であった)というケースです。そのため,財産分与との関係,や,権利の濫用といった問題点は主張自体されておらず,裁判所も積極的に判断したということはありません。

<夫婦間の共有物分割請求を認めた判例>

あ 事案の要点

X(夫)とY(妻)は別居をして破綻状態にあるがまだ離婚をしていなかった
XはYに対して,夫婦で共同生活をしていた建物について共有物分割を請求した
控訴審(原審)の継続中にXYの協議離婚が成立した

い 原審判決

控訴審は,Xが取得する全面的価格賠償の判決を言い渡した
※大阪高判平成7年3月9日

う 最高裁判決

裁判所は,全面的価格賠償の許否について職権で実体判断を示すことをせず,いわゆる例文判決をもって上告を棄却した
(=全面的価格賠償の結果は維持された)
※最判平成8年12月17日
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p880参照

え 共有物分割訴訟提起の経緯

Xは,Yの提起した別件の離婚訴訟において,Yが有責配偶者であると主張し離婚請求を争っていた(離婚を拒否していた)
ことから,離婚訴訟において予備的にせよ財産分与を求めることなく,共有物分割の訴えを提起したものと推測される
したがって,この共有物分割訴訟は,財産分与請求の実体を有するものであるといえる
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p881

10 財産分与における住宅ローンに配慮した処理の例(参考)

元夫婦間の共有物分割ではなく財産分与の請求について,財産の内容の複雑さから,裁判所が財産分与を認めなかったという裁判例があります。要するに,将来改めて財産分与をする,または共有物分割をすることにした,つまり解決を後回しにしたという趣旨のものです。
詳しくはこちら|財産が複雑であるため財産分与請求を棄却した裁判例(消長見判決)

11 潜在的な夫婦共有財産の分割請求(参考)

以上で説明した共有物分割は,夫婦の間で物権的に共有となっている財産が前提でした。
これに対して,夫婦の間での潜在的な共有という状態もあります。
要するに登記では夫か妻の単独所有となっているというものです。
この場合は共有物分割請求自体ができません。
しかしこれとは別の財産管理者変更とともに行う分割請求はすることができます。
詳しくはこちら|夫婦財産契約で決めた財産の管理者変更と夫婦共有財産の分割請求

本記事では,夫婦間で共有となっている財産にの共有物分割請求の法的問題を全体的に説明しました。
前記のように,例外的な扱いがいろいろとあります。
実際に夫婦間の共有財産(不動産)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。