1 財産分与の計算における不合理な支出(浪費・事業の損失)の持ち戻し
2 別居の際の持出しの返還請求や婚姻費用への影響(参考)
3 財産分与における持戻の基本方針
4 財産分与において浪費分を持ち戻す計算の具体例
5 支出の不合理性(必要性)の判断要素の例
6 財産分与で持戻しが問題となる支出の例
7 マイナスの財産分与
8 浪費などの出費の持戻しをした裁判例
9 無断で持ち出した財産の持戻しをした裁判例
10 遺産分割における持戻し(特別受益)(参考)

1 財産分与の計算における不合理な支出(浪費・事業の損失)の持ち戻し

清算的財産分与は、原則として、別居の時点の夫婦の保有財産を2人で分けるというものです。
詳しくはこちら|財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)
しかし、夫婦の一方が浪費や事業の損失によって財産を減らしてしまったため、別居の時点ではすでに財産が大きく減っていた、というケースもよくあります。その場合、財産分与の計算の中で、流出した財産を持ち戻すこともあります。
本記事では、このような、すでに流出した財産を持ち戻す計算について説明します。

2 別居の際の持出しの返還請求や婚姻費用への影響(参考)

夫婦の一方が多額の浪費をしたというケースでは、別居をする時に金銭(預金)を持出した、というものがよくあります。この場合、持ち出した金銭を返還すべきだ、という発想もありますが、原則として否定されています。
また、持ち出した金銭で生活できるのだから婚姻費用を減額する(支払わない)という発想もありますが、これも原則として否定されています。
詳しくはこちら|別居の際の夫婦共有財産の持出しは婚姻費用に影響しないが例外もある
結局、夫婦の一方が財産を持ち出したケースや、浪費したケースでは、(離婚が成立した時の)財産分与の中で清算することになるのです。

3 財産分与における持戻の基本方針

財産分与では、浪費などで不当に夫婦の財産が減った場合は、減った後の残額をそのまま2人で分けると不公平なので、減った分を戻して計算することがあります。

財産分与における持戻の基本方針

(清算的財産分与において)
同居中に一方の浪費等により夫婦財産を滅失させた場合、別居時には現存しなくてもあるものとして計算することもある
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p100

4 財産分与において浪費分を持ち戻す計算の具体例

浪費した金額を持ち戻す計算の具体例を紹介します。

<財産分与において浪費分を持ち戻す計算の具体例>

あ 事案

本来、1000万円の貯金が蓄積されているはずだった
妻自身の借金に300万円を使った(返済した)
貯金は700万円に減ってしまった

い 持ち戻す計算

財産分与の対象は、1000万円とする
支出した300万円を計算上は持ち戻すという意味である
妻への分与金額は1000万円の2分の1の500万円となる
ただし、既に300万円は妻に渡しているとみなす
結局、実際に夫から妻に支払う財産分与は200万円となる

5 支出の不合理性(必要性)の判断要素の例

実際には、ある支出が浪費といえる(不合理である)のか、必要があったのか、という判断が難しいことがよくあります。
たとえばエステで100万円を使った、というケースでは、家計を破綻させる非常識な出費だといえることもありますし、そうでなく、一般的な主婦の女性磨きなのだから浪費(過剰)ではないといえることもあります。
結局、簡単に判定できる基準があるわけではなく、経済状態から判断するということになります。

支出の不合理性(必要性)の判断要素の例

あ 支出金額

少額であれば、趣味的なものでも文化的な生活として必要といえる

い 家計の収支

収支が均衡している=余裕がない、という場合は極力倹約すべき(趣味的支出は必要ではない)方向となる

う 貯蓄

十分に多額の貯蓄がある場合は、許される趣味的支出の範囲も大きくなる

え 支出自体の必要性

たとえば(高価な)毛皮のコートでも、1着であれば必要性は認められやすいですが、2着目だと必要性はないといえる

6 財産分与で持戻しが問題となる支出の例

ある支出について、持戻しすべきかどうかを一律に判断することはできません(前述)。ただ、問題となりやすい支出について、おおまかな判断の方向性はあります。

財産分与で持戻しが問題となる支出の例

あ 結婚前の借金返済

妻自身が結婚前から負っていた借金などに、夫の収入による財産を充てた
→持戻しが認められる

い 衣類、装飾品、エステ

妻が衣類、装飾品、エステに多額を使った
→経済力のレベルによって異なる

う 事業の損失

妻が無謀な店舗経営のために預金を使って損失を被った
→具体的な無謀の程度や損失の規模によって異なる

え 第三者への損害賠償

妻が、妻子を持つ男性Aと不貞行為をして、Aの妻に慰謝料を支払うことになった
→持戻しが認められる

7 マイナスの財産分与

ところで、浪費の規模が大きい場合は、持戻しをした結果、財産分与額がマイナスになることもあります。
本来的な財産分与は残っている財産を分けるというものですが、この範囲を超えて、残っているはずの財産に戻すという意味になります。
清算的財産分与の本来の姿ではありませんが、公平を実現するためにマイナスの財産分与が認められることもあります。

マイナスの財産分与

本来妻が受け取るべき財産分与の金額よりも多くの財産を、妻が不合理に支出した
→妻から夫へ、財産分与として金銭の支払が命じられることもあり得る
※浦和地裁昭和61年8月4日参照

8 浪費などの出費の持戻しをした裁判例

以上の説明は理論的なものでした。ここで、実際に財産分与の中で持戻しをした裁判例を紹介します。
まずは、第三者への慰謝料の支払いと経済レベルからは高すぎる自動車の購入について持戻しが認められたケースです。

浪費などの出費の持戻しをした裁判例

あ 事案

一時期、預金が300〜350万円あった
夫が既婚女性Aと不貞行為をした
夫がAの夫に示談金500万円を支払うことになった
夫が約300万円の自動車を購入した
その他にも夫の浪費があり、別居時には預金がゼロになっていた

い 裁判所の判断

裁判所は、夫から妻に対する500万円の財産分与を認めた
※浦和地判昭和61年8月4日

9 無断で持ち出した財産の持戻しをした裁判例

次に、金融資産を無断で持ち出して現金化した上で使ってしまった分について持戻しが認められたケースです。

無断で持ち出した財産の持戻しをした裁判例

あ 事案

妻が無断で、夫名義の金融資産(株式や債券)を持ち出した
妻はそれらを売却し、得た代金約140万円を使ってしまった

い 裁判所の判断

財産分与において、約140万円を持ち戻す
※東京高裁平成7年4月27日

10 遺産分割における持戻し(特別受益)(参考)

以上のように、財産分与の中で持戻しが行われることがありますが、これとは別に、遺産分割でも持戻しの制度はあります。むしろ遺産分割では持戻し(特別受益)は条文のルールとなっています。
詳しくはこちら|特別受益の基本的事項(趣旨・持戻しの計算方法)
一方、財産分与の持戻しは条文になっているわけではなく、「当事者双方がその協力によって得た財産の額」、「その他一切の事情を考慮(する)」(民法768条3項)という条文の文言の解釈として持戻しが行われるのです。

本記事では、清算的財産分与における浪費などの持戻しを説明しました。
実際には、個別的事情によって法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に離婚や財産分与の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。