1 共有物分割(訴訟)の当事者と持分割合の特定
共有物分割の手続では、誰が当事者となり、それをどのように特定するのか、また、持分割合をどのように特定するのかということが問題となることがあります。
本記事では、共有物分割における当事者や持分割合について説明します。
2 共有物分割の当事者(基本)
共有物分割の当事者は、共有者全員です。対立していない共有者を除外する、ということはできません。協議(合意)の場合でも、訴訟の場合でも同様です。
共有物分割の当事者(基本)
あ 協議
協議による共有物分割について
→共有者全員の合意がないと成立しない
い 訴訟(概要)
共有物分割請求訴訟の当事者
→共有者全員である
共有者全員が原告or被告となっている必要がある
=固有必要的共同訴訟である
※大判明治41年9月25日
※大判大正12年12月17日
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の当事者(共同訴訟形態・持分移転の際の手続)
う 準共有の抵当権の分割(例外・参考)
準共有の抵当権の共有物分割は(準)共有者の1人の意思表示だけで効果が生じるという見解がある
詳しくはこちら|準共有の抵当権の法的扱い(共有物分割・実行・配当)
3 共有物分割における登記の位置付け(基本)
前記のように、共有物分割の際には、共有者全員が当事者となります。また、分割の内容を決める際には共有持分割合が反映されます。この共有者や持分割合については、基本的には登記で判断することになります。
共有物分割における登記の位置付け(基本)
あ 共有持分取得と登記の要否(前提・概要)
共有持分の譲受人が共有持分の取得を持分譲渡の当事者以外の共有者に対抗するには登記が必要である
※大判大正5年12月27日
詳しくはこちら|共有持分の登記の効力(持分譲渡・持分割合の対抗関係・平等推定)
い 共有物分割請求と登記の要否(概要)
共有物分割請求の性質は、共有者間の権利関係を全員について画一的に創設するものである
→譲渡の当事者以外の共有者が譲渡を争う場合には対抗要件が必要である
→共有者・持分割合は登記を基準として判断する
4 持分譲渡に争いがある場合の分割請求の当事者(発想)
共有者を登記を基準にして判断する、という方法が実際に使われるのは、共有持分の譲渡を受けた(から共有者である)と主張する者と、これを否定する者(他の共有者)がいるという状況です。
まず、素朴な発想としては、実体で判断するという考え方と、登記で判断するという考え方がありえます。
持分譲渡に争いがある場合の分割請求の当事者(発想)
あ 前提事情
第三者が共有持分を譲り受け、譲渡の当事者以外の共有者が当該譲渡を争っている
共有物分割を行う
い 登記基準の発想
持分の譲渡人が共有物分割訴訟の当事者となる
そして、分割の結果譲渡人に帰属することになった部分を譲受人に移転することになる
この場合、譲受人は譲渡人に代位できるか、という問題が生じる
う 実体基準の発想
持分の譲受人が共有物分割訴訟の当事者となる
この場合、譲渡人は譲受人の補助参加人あるいは分割訴訟の被告になるのか、という問題が生じる
※小山昇著『総合判例研究叢書 民事訴訟法(7)』有斐閣1963年p30、31
5 登記未了の持分譲受人による分割請求(大正5年判例)
実際に持分を譲り受けたが移転登記を得ていない者(共有者)が原告となって共有物分割訴訟を提起した判例があります。
共有物分割訴訟では、持分の帰属については(既判力のある)判断できないので、あらかじめ持分の帰属について確定させておくべきだ、という発想もあります。
しかし、裁判所は持分の帰属が未確定の状態のままでも共有物分割訴訟はできると判断しました。当事者としては、未登記の持分の譲受人が原告、持分の譲渡人を含む、登記上の全共有者が被告、ということになります。
登記未了の持分譲受人による分割請求(大正5年判例)
あ 判例(引用)
共有持分を買い受けた者は土地ノ共有に付キ争アル以上売主に対し売買ニ因ル持分ノ移転及ヒ其登記ヲ請求スルコトナク共有者全員ヲ当事者トシ共有地分割請求の訴えを提起しうる
※大判大正5年12月27日
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p477(判例を支持)
い 判例の趣旨
大正5年判例の趣旨は、共有物分割訴訟において、持分譲渡の当事者以外の共有者が右譲渡を争うかぎり、訴訟の前提問題として当該持分の帰属を実質関係によって確定する必要はなく、譲渡の当事者を含む共有者全員について、登記を基準として、共有者およびその持分を確定すれば足りるという趣旨と解せられる。
※柳川俊一稿『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和46年度』法曹会1972年p106
6 持分譲渡に争いがない場合の分割請求の当事者
以上のように、共有物分割訴訟の当事者を登記で判断するというのは一般論としていえるか、というとそうとは限りません。大正5年判例も争いがある限りと明言しています。
そこで、逆に争いがないのであれば実体上の共有者の全員が当事者になる、という原則論どおりになる、と考えられます。
持分譲渡に争いがない場合の分割請求の当事者
※小山昇著『総合判例研究叢書 民事訴訟法(7)』有斐閣1963年p31
※大判大正12年12月17日参照
※大判大正13年11月20日参照
7 共有地の筆界確定訴訟の当事者(参考)
以上のように、共有物分割では、当事者(共有者)を登記で判断することもあります。
ところで、筆界確定訴訟(境界確定訴訟)の問題となる筆界に接する土地の一方が共有地である場合、共有者全員が当事者(原告または被告)になります。当事者となる共有者の判定では、登記は使わず、純粋に実体で判断することになっています。
詳しくはこちら|筆界確定訴訟(境界確定訴訟)の当事者(当事者適格)
同じ共有に関する訴訟でも当事者の判定方法が違うので注意が必要です。
8 夫婦共有財産の共有者(所有者)の特定(概要)
夫婦間の財産の帰属は特殊性があります。実質的な夫婦共有の財産でも、形式的な名義(不動産であれば登記上の所有者・共有者)が共有でなければ、通常、共有物分割の手続そのものも、登記申請もできません。
ただし、離婚の時に財産分与から不動産を除外した結果、離婚後にも登記上は夫の単独所有のままになっているようなケースでは、財産法上の共有が認められることがあります。
詳しくはこちら|共有であるかどうか・持分割合の認定(民法250条の推定・裁判例)
具体例のひとつは、共有物分割訴訟の中で共有持分割合を認定する、というようなものです。共有物分割を認めた場合でも、登記手続としては、いったん共有にする登記が必要になります。
詳しくはこちら|単独所有登記だが実質的な(元)夫婦共有の不動産の共有物分割
9 共有者の相続の際の共有物分割の当事者の特定
実際には、不動産の共有を解消しようとした時点で、登記は長期間そのままとなっていて、数代にわたる相続で、現在の共有者(相続人)が多数に増えているということがよくあります。そして、亡くなっているけれど相続人が(戸籍上)存在しないという共有者が含まれていることもあります。
相続財産管理人が選任され相続人不存在が確定した後であれば、結果的にこの被相続人は当事者から外れます。そうでなければ相続財産法人が当事者になります。
具体的には相続財産管理人の選任を申し立てるか訴訟上の特別代理人の選任を申し立てるということになります。
なお、このような対応は、共有持分の放棄やこれに伴う登記引取請求訴訟でも同じことになります。
共有者の相続の際の共有物分割の当事者の特定
あ 具体例(前提事情)
登記上の共有者はABCである
Cは既に亡くなっている
い 原則(相続人)
Cの相続人は登記されていないが、相続による権利の移転は登記がなくても主張できる
→共有物分割の当事者は、(ABと)Cの相続人となる
う 例外(相続人不存在−確定未了)
ア 当事者の特定
Cの相続人が存在しない場合で、相続人不存在が確定していない場合
→相続財産法人が共有物分割の当事者となる
詳しくはこちら|相続人不存在では遺産は特別縁故者か共有者か国庫に帰属する
イ 手続の遂行(概要)
具体的には、相続財産管理人が手続を遂行する
相続財産管理人が選任されていない場合、共有物分割訴訟の中で相続財産法人の特別代理人を選任することもできる
※大決昭和6年12月9日
詳しくはこちら|民事訴訟法の特別代理人の選任の要件の内容と解釈
え 例外(相続人不存在−確定後)
Cの相続人が存在しない場合で、相続人不存在が確定した後である場合
→当該被相続人が有していた共有持分は他の共有者に帰属する(民法255条)
→相続財産法人は共有物分割の当事者にならない(他の共有者全員が当事者となる)
詳しくはこちら|相続人不存在では遺産は特別縁故者か共有者か国庫に帰属する
10 共有物分割のための処分禁止の仮処分(概要)
共有物分割を請求してから、手続が完了するまでの間に、相手の共有者が共有持分を第三者に譲渡すると手間が増えたりします。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の当事者(共同訴訟形態・持分移転の際の手続)
この点、最初に処分禁止の仮処分をしておけば、このようなリスクを予防できます。
しかし、認められるかどうかの見解は統一されていません。
詳しくはこちら|共有物分割のための処分禁止の仮処分は認められない可能性がある
11 共有物分割における持分割合の扱い
以上の説明は、共有物分割の手続において共有者(当事者)は誰かという問題でした。
これとは別に、共有物分割で、持分割合が問題となることもあります。というのは、通常、共有物分割では、登記を基準にします。
この点、持分割合とは異なる結果にするケースもあります。公平ではないですが、当事者が合意すれば成立します。ただし、税務上のリスクに配慮する必要もあります。
共有物分割における持分割合の扱い(基本)
あ 一般的扱い
共有物分割において
『持分割合』に応じた分割内容とするのが一般的である
い 持分割合とのズレ
分割結果が持分割合と異なることについて
→私人間の合意では契約自由・私的自治が尊重される
→適法・有効である
※大決昭和10年9月14日
う 税務上の扱い
税務上は別の認定となるリスクがある
例=低額譲渡として贈与税が課税される
詳しくはこちら|低額譲渡・共有持分放棄×課税|みなし譲渡所得課税・贈与税
12 持分割合についての登記と実体の齟齬の処理(昭和46年判例)
共有物分割が、共有者の合意で成立した場合には、前記のように大きな問題はありません。しかし、共有者の間で、持分割合について主張が食い違うこともあります。
その場合は、前述の、共有者の特定と同じように、登記で判断することになります。
持分割合についての登記と実体の齟齬の処理(昭和46年判例)
あ 判例(引用)
そして、共有物分割の訴は、共有者間の権利関係をその全員について画一的に創設する訴であるから、持分譲渡があつても、これをもつて他の共有者に対抗できないときには、共有者全員に対する関係において、右持分がなお譲渡人に帰属するものとして共有物分割をなすべきものである
※最高裁昭和46年6月18日
い 持分割合についての争い(当事者の主張)
ア 原告の主張
登記と実体は、共有持分割合の点で異なっている(共有者としては違いはない)
イ 被告の主張
登記と実体に食い違いはない
う 裁判所の判断結果
第1、2審とも、登記上の持分によって代金分割を命じた
本判決(昭和46年判例)もこれを是認した
え 大正5年判例との関係
昭和46年判例は、大正5年判例を踏襲したものである
※柳川俊一稿『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和46年度』法曹会1972年p106
本記事では、共有物分割の手続における当事者や共有持分割合の特定について説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。