【準共有の抵当権の法的扱い(共有物分割・実行・配当)】

1 準共有の抵当権の法的扱い(共有物分割・実行・配当)

1つの抵当権について抵当権者が複数人、ということがあります。抵当権の準共有という状態です。
詳しくはこちら|抵当権の準共有(可否の議論とパターン)
ここで、抵当権が準共有となっているケースで、どのような法的扱いとなるか、という問題があります。本記事では、これについて説明します。

2 準共有の抵当権の法的扱いのまとめ(結論)

準共有の抵当権の法的扱いについては、以下説明するように、多くの深い議論があり、複雑です。そこで最初に、結論部分だけをまとめておきます。
基本的に、抵当権者の1人が単独で抵当権を実行(行使)できると思われますが、全員が共同する必要がある、という見解もあります。
配当は平等(按分)です。
1個の抵当権を複数個にする、つまり分割するには、抵当権者の1人が分割の意思表示をすることで実現する、という見解もあります。
これに対して、被担保債権の一部を代位弁済したことによって(原)債権者と代位者の準共有となったケースだけは例外です。
抵当権実行は、債権者が単独で行うことはできるけれど、代位者は単独では行えません。配当も、債権者が優先です。2つの抵当権にする(分割する)には、少なくとも債権者も合意することが必要となります。

準共有の抵当権の法的扱いのまとめ(結論)

あ 準共有となった経緯のパターン分類(前提)

ア 原始的(最初から準共有だった) ・発生原因=1個
・発生原因=複数個
イ 事後的(後から準共有となった) ・共同相続
・債権の一部譲渡
・一部の代位弁済←これだけ優劣あり(平等ではない)(※1)

い 法的扱い
抵当権実行 配当 分割
原則 単独(または全員共同) 平等(按分) 単独で可能という見解あり
例外(一部の代位弁済(前記※1)) 優劣あり 優劣あり 不可

3 準共有抵当権の法的扱い(原則)

準共有の抵当権の、抵当権実行と(実行した場合の)配当の2つについて、原則的な法的扱いについては、いろいろな見解があります。
まず、抵当権実行(抵当権の行使)については、共有物の変更(処分)にあたると考えると、抵当権者(準共有者)全員が共同して行う必要があることになります。一方、抵当権者Aの被担保債権が債務不履行になっている以上、抵当権(全体)を実行できないのは不合理であるともいえます。つまり、Aだけで抵当権の実行ができる、という考えもあります。
次に、抵当権を実行した場合の配当は、按分してなされます(平等扱いとなります)。配当については見解は統一されています。

準共有抵当権の法的扱い(原則)

あ 山田誠一氏見解

ア 抵当権実行→全員共同 ・・・抵当権が準共有の場合の法律関係が問題となるが、以下のように考えることができる。
準共有である抵当権の実行は、抵当権の変更にあたるとし、準共有者全員が共同で行なうことになる(民法251条参照)。
イ 配当→按分(平等) 準共有である抵当権が実行された場合、その抵当権への配当が、被担保債権の全額に満たない場合は、被担保債権の額に按分された配当が行なわれるべきであると考えられる。
※山田誠一稿『複数債権者・複数担保権者に係る問題』/『動産・債権譲渡担保融資に関する諸課題の検討』全国銀行協会・金融法務研究会2010年p40

い 平成17年最判(配当→按分)

不動産を目的とする1個の抵当権数個の債権を担保し、そのうちの1個の債権のみについての保証人が当該債権に係る残債務全額につき代位弁済した場合は、当該抵当権は債権者と保証人の準共有となり、当該抵当不動産の換価による売却代金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときには、債権者と保証人は、両者間に上記売却代金からの弁済の受領についての特段の合意がない限り、上記売却代金につき、債権者が有する残債権額と保証人が代位によって取得した債権額に応じて案分して弁済を受けるものと解すべきである。
※最判平成17年1月27日

う 下村信江氏見解(抵当権実行→全員共同)

まず、通説は債権者単独の権利行使を認めるが、一部代位者と債権者との間で準共有の状態が生じると考えると、両者は共同して抵当権の実行をする必要があることになるはずで(民251条参照)、この点をいかに説明するのか。
※下村信江稿『一部弁済と代位』/『民法判例百選Ⅱ 債権 第7版』有斐閣2015年p85

え 佐藤歳二氏見解

ア 抵当権実行→単独 (被担保債権の一部譲渡により抵当権の準共有が生じたケース)
そしてこの場合、各債権者は、準共有する担保権を各自実行することができ
イ 配当→按分 また競売手続において優先弁済を主張するときは、譲渡金額と残金額との割合による按分比例で競売代金の配当をそれぞれ受けることになる。
※佐藤歳二稿『担保権の準共有者相互間における競売代金の配当』/『手形研究307号』経済法令研究会1981年1月p88

お 実務(抵当権実行→単独方向)

多数抵当権者、抵当権の共有者被担保債権が可分の場合に各自単独で競売申立ができるか
(東京・大阪両地裁においては)申立を許している
〔右に関する判例・決議〕
申立を可とするもの=大阪控決明四一・六・二新聞五二〇号一九頁、昭三〇・六・一〇民事法調査委員会決議・要録三九九頁
反対趣旨=大五・一二・二大阪区執行事務協議会決議・執行便覧三九頁
※執行事件実務研究会編『債権・不動産執行の実務』法曹会1976年p199

4 単独の抵当権実行を認めた判例(昭和6年大決)

前述のように、準抵当権について、抵当権者の1人だけで抵当権を実行することができるかどうか、については両方の見解があるのですが、古い判例でこれを認めたものがあります。
これは、一部代位弁済をした者Aと(原)債権者Bが抵当権を準共有していたケースで、Aだけによる抵当権実行を認めた、というものです。ただし、後述のように、一部代位弁済によって抵当権の準共有が生じたというケースでは、その後の判例や条文で、一般論とは別の解釈が採用されています。少なくとも一部代位弁済のケースについてはこの昭和6年大決は現在は生きていません。
しかし、昭和6年大決の読み方として、抵当権の準共有一般論として、準共有者の1人による単独の行使(抵当権実行)を認めた、とも読めると思います。この一般論としては現在でも生きている、と考えることもできるでしょう。

単独の抵当権実行を認めた判例(昭和6年大決)(※2)

債権の一部につき代位弁済をなした者はその取得した権利が可分である以上これを行使するため債権者と共同する必要がない。(要旨)
※大決昭和6年4月7日

5 準共有抵当権の分割

前述のように、抵当権が準共有である場合には、実行するには原則として、抵当権者全員が揃う必要がある、という見解もあります。この見解では、抵当権者Aが、自分の分だけを実行する、ということはできません。
ただし、これを実現する方法はあります。
それは、抵当権を分割するというものです。1個の抵当権を2個(以上)の抵当権に分ける、ということです。法律的には、共有物分割ということになります。
一般的な共有物分割では、共有者全員の合意または、裁判所の判決が必要です。
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定
詳しくはこちら|共有物分割の手続の全体像(機能・手続の種類など)
しかし、抵当権の(共有物)分割の場合には、例外的に、共有者(抵当権者)の1人の意思表示だけで分割が実現する、という見解が提唱されています。
ただし、実際に抵当権の分割の登記がなされた実例はみあたりません(実際に法務局でどのような対応になるかは未確定といえます)。
なお、最初から抵当権の準共有者1人が単独で実行できるという見解に立つと、分割する実益はない、ということになります。

準共有抵当権の分割

あ 抵当権の分割をする実益

抵当権が準共有の場合、上に述べたように、その抵当権は、準共有者AとBが共同で実行しなければならない。
抵当権を分割した後は、AとBのそれぞれに別個の抵当権が帰属すると考えられ、その結果、AもBも単独で、抵当権を実行することができると考えられる。

い (分割を肯定する)理由

ア 実質的利害 抵当権が実行されないことにより事実上の利益が抵当不動産所有者や後順位抵当権者に生ずる場合はありうるが、被担保債権の履行期が到来しているならば、そのような利益が保護されなければならないかは疑わしいというべきである。
イ 抵当権の不可分性→無関係 また、抵当権の不可分性と言われるものは、被担保債権の全額が弁済されない限り抵当権は消滅しないことを意味するのであって、
準共有である抵当権が分割されない理由にはならないと考えることができる。

う 結論→分割肯定

ア 基本(一般的な共有の規定) したがって、抵当権の準共有は、少なくとも抵当権の準共有者全員の合意によって分割できるものと考えるべきである。
イ 準共有抵当権の特殊扱い どのようにして準共有の抵当権の分割が行なわれるかという問題については、抵当権は価値把握であるので、抵当権の準共有者の1人が民法256条の分割請求権の行使することにより、特に協議や裁判を経ずに分割することができると考えられる。

え 分割後の法的扱い

準共有である抵当権が分割された場合、複数の抵当権はそれぞれ1個の被担保債権を担保し、相互に同順位であり、抵当権者は単独で、抵当権を実行することができると解するべきである。

お 登記実務

しかし、準共有の抵当権を分割する登記実務が行なわれているのかどうかは、不明である。
※山田誠一稿『複数債権者・複数担保権者に係る問題』/『動産・債権譲渡担保融資に関する諸課題の検討』全国銀行協会・金融法務研究会2010年p41

6 一部代位における法律関係(平成29年改正前・昭和60年最判)

以上の原則論に対して、例外があります。それは、被担保債権の一部を代位弁済したことにより、抵当権の一部代位が生じた(ことで抵当権の準共有が生じた)というケースです。
このようなケースについて、昭和60年最判は、配当については債権者が優先となる、と判断しました。
ここで、抵当権の実行については代位者が単独で行えるかどうかは判断していないように読めます。そこで、少なくとも実務では、前述の昭和6年代決が生きていると考え、代位者による単独の抵当権実行を認めていました。

一部代位における法律関係(平成29年改正前・昭和60年最判)

あ 昭和60年最判

ア 抵当権実行→「債権者と共に」(前提) 債権者が物上保証人の設定にかかる抵当権の実行によつて債権の一部の満足を得た場合、物上保証人は、民法五〇二条一項の規定により、債権者と共に債権者の有する抵当権を行使することができるが、
イ 配当→債権者優先 この抵当権が実行されたときには、その代金の配当については債権者に優先されると解するのが相当である。
ウ 理由 けだし、弁済による代位は代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するための制度であり、そのために債権者が不利益を被ることを予定するものではなく、この担保権が実行された場合における競落代金の配当について債権者の利益を害するいわれはないからである。
※最判昭和60年5月23日

い 実務(抵当権実行→単独可能)

なお、上記判例(注・最判昭和60年5月23日)の立場からすると、代位弁済者単独の競売申立権を認めても、債権者がその権利を著しく害されることはないと考えられるので、一部の有力な反対説(我妻・債権総論255頁等)はあるが、東京地裁執行部では競売申立権を認めている
※東京地裁民事執行実務研究会編著『改訂 不動産執行の理論と実務(下)』法曹会1999年p604

7 一部代位における法律関係(平成29年改正条文による変更)

前述のように、昭和60年最判とこれを元にした実務では、代位者単独での抵当権実行を認めていました。しかしこの扱いは、平成29年の民法改正で変更されました。
代位者が抵当権を実行するには、債権者の同意が必要ということになったのです。前述の昭和6年大決の解釈が廃止されたことになります。
そこで、東京地裁では、(平成29年改正の施行前に一部代位弁済があったケースも含めて)代位者による抵当権実行の際には債権者の同意書を求める運用になっています。
なお、判例も条文も、(一部代位による準共有の場合の)抵当権の分割については触れていません。この点、仮に抵当権者のうち1人の意思表示により分割されるとした場合、(抵当権実行と配当についての)債権者の優先扱いが無効化されてしまいます。これは不合理なので、少なくとも債権者が反対する限りは分割できないと考えるべきです。

一部代位における法律関係(平成29年改正条文による変更)

あ 条文

(一部弁済による代位)
第五百二条 債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、債権者の同意を得て、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使することができる。
2 前項の場合であっても、債権者は、単独でその権利を行使することができる。
3 前二項の場合に債権者が行使する権利は、その債権の担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について、代位者が行使する権利に優先する
4(略)

い 平成29年改正の趣旨

ア 抵当権実行→同意書必要 [1]新法は、債権者の権利が優先されることを確認したうえで、債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は「債権者の同意を得て」その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使することができることとした。・・・
大決昭和6・4・7(前記※2)は変更されたことになる。
[2]その場合でも、債権者は、単独でその権利を行使することができる。
イ 配当→債権者優先 [3]債権者が行使する権利は、その権利の行使によって得られる担保の目的となっている財産の売却代金その他の金銭について、代位者が行使する権利に優先すること(配当手続等における債権者優先主義)を明記した。
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p1045

う 実務

・・・同改正法の施行日の前日である令和2年3月31日までに生じた債務を一部弁済した場合については従前の例によることとされているが(同改正法附則25条1項)、同改正法による改正前の民法にはこの点に関する明確な規定があったわけではないことから、同改正法による改正の趣旨を踏まえ、一部代位弁済者の単独の競売申立てについても可能な限り原抵当権者作成にかかる同意書の提出を求める運用である。
※中村さとみほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(上)第5版』金融財政事情研究会2022年p100

8 原則と一部代位ケースの法的扱いの関係

以上のように、準共有の抵当権の法的扱いは、2つ(一部代位のケースとそれ以外のケース)に分けられます。この2つの関係は、原則と制度趣旨による特別扱い(例外)、ということになります。

原則と一部代位ケースの法的扱いの関係

あ 抵当権実行

一部弁済による代位について、最判昭和60年5月23日民集39巻4号940頁は、一部代位者は債権者と共に債権者の有する抵当権を行使することができるとする。
仮に、一部弁済による代位が生じた後、債権者は一部代位者の意思にかかわらず単独で抵当権を行使することができるという考え方に立つ場合は、準共有ではあるが、求償権を確保するための代位が生ずるという制度趣旨から、一部弁済による代位については、特別の規律が妥当すると考えるべきである。
※山田誠一稿『複数債権者・複数担保権者に係る問題』/『動産・債権譲渡担保融資に関する諸課題の検討』全国銀行協会・金融法務研究会2010年p40

い 配当

・・・最判昭和60年5月23日は、一部弁済による代位について、一部代位者は、抵当権が実行されたときのその代金の配当については、債権者が一部代位者に優先するとするが、この点も、求償権を確保するために代位が生ずるという制度趣旨を根拠とする特別の規律による解決であると理解すべきである。
※山田誠一稿『複数債権者・複数担保権者に係る問題』/『動産・債権譲渡担保融資に関する諸課題の検討』全国銀行協会・金融法務研究会2010年p40

本記事では、準共有の抵当権の法的扱いについて説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に抵当権の準共有に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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