1 筆界確定訴訟(境界確定訴訟)の当事者(当事者適格)
2 筆界確定訴訟の当事者適格の基本
3 所有権以外の物権の権利者の当事者適格
4 時効取得と筆界確定訴訟の当事者適格の関係(まとめ)
5 平成7年判例の理由(判例解説)
6 分筆・譲渡による接続部分全部の取得と当事者適格
7 3筆以上の土地が接する点と当事者適格
8 共有の土地の筆界確定確定訴訟の当事者(概要)

1 筆界確定訴訟(境界確定訴訟)の当事者(当事者適格)

境界(筆界)に関して意見が対立する紛争はよくあります。いろいろな解決方法がありますが,代表的なもののひとつが筆界確定訴訟(境界確定訴訟)です。
詳しくはこちら|土地境界のトラブルの解決手続の種類や方法の全体像
ケースによっては,筆界確定訴訟で誰が当事者(原告や被告)になるのかがはっきりしないこともあります。本記事では,筆界確定訴訟の当事者適格について説明します。

2 筆界確定訴訟の当事者適格の基本

筆界確定訴訟の当事者適格,つまり,誰が当事者となるのか,という問題の基本部分は単純です。問題となっている筆界に隣接するふたつの土地の所有者です。
誰が所有者か,ということは,登記ではなく実体で判断します。登記上は譲渡前の所有者が出ている場合は,その者ではなく,譲受人(現在の所有者)が当事者になります。

筆界確定訴訟の当事者適格の基本

あ 所有者の当事者適格

筆界確定訴訟(境界確定訴訟)について
相隣地の所有者が当事者適格を有する
※最判昭和59年2月16日ほか多数

い (所有者についての)登記と実体の関係

筆界確定確定の当事者適格を有する者は,登記記録上の所有者ではなく実質的な所有者であることを要する
※最判昭和59年2月16日

3 所有権以外の物権の権利者の当事者適格

前述のように,筆界確定訴訟の当事者は土地の所有者です。この点,所有権以外の権利者についても,当事者適格を認めるという見解もあります。ただ,判例は所有者に限定しています。

所有権以外の物権の権利者の当事者適格

あ 判例

所有権者以外の物権者(権利者)は当事者適格を有しない
※最判昭和57年7月15日(地上権者)
※大判大正10年5月16日(賃借権者)

い 別の見解

地上権者,賃借権者,抵当権者なども,境界の確定に強い利害関係を有するので当事者適格を認める見解もある
※奥村正策「土地境界確定訴訟の諸問題」/『実務民事訴訟法講座4』p191
※小川正澄「経界確定の訴についての若干の考察」/『判例タイムズ159号』p27
※大橋弘稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成7年度』法曹会1998年p325〜参照

4 時効取得と筆界確定訴訟の当事者適格の関係(まとめ)

以上のように,筆界確定訴訟の当事者は,問題となっている筆界をはさむ2筆の土地の所有者なのですが,筆界付近の土地について取得時効がなされると,隣接地の所有者同士とはいえないような状況になります。
そうはいっても結局,筆界を特定しないと困る状況に変わりはありません。そこで取得時効があっても,隣接地の所有者が筆界確定訴訟の当事者になることに変わりはありません。
ただし,一方の土地の所有者が時効により,他方の土地(1筆)全部を取得した場合は,いわば,原告と被告が同一人物ということになってしまいますので,筆界確定訴訟の当事者としては認められなくなります。

時効取得と筆界確定訴訟の当事者適格の関係(まとめ)

あ 接続部分の一部の時効取得

隣接する甲乙土地において
甲地のうち筆界の一部に接続する部分につき乙地の所有者の時効取得が認められた場合でも,甲地の所有者は,この筆界部分についても筆界確定を求めることができる
※最判昭和58年10月18日

い 接続部分の全部の時効取得

ア 基本(判例) 隣接する甲乙土地において
甲地のうち筆界の全部に接続する部分を乙地の所有者が時効取得した場合でも,甲乙両地の各所有者は,筆界に争いがある隣接土地の所有者同士という関係にあることに変わりはない
当事者適格を失わない
※最判平成7年3月7日(後記※1
イ 譲渡による取得(概要) 甲土地を分筆し,接続部分の全部を含む部分が乙土地所有者に譲渡された場合
→甲乙土地の各所有者は当事者適格を失わない(後記※2

う 隣接する土地全体の時効取得

隣接する甲乙土地において
乙地の所有者が甲地の全部を時効取得した場合,甲地の元所有者は当事者適格を失う
※最判平成7年7月18日
※岡口基一著『要件事実マニュアル 第2巻 第5版』ぎょうせい2016年p670

5 平成7年判例の理由(判例解説)

前述のように,問題となっている筆界の全体を含む土地について取得時効があった場合でも,(1筆全体の取得時効でない限りは),筆界をはさむ2筆の土地の所有者は筆界確定訴訟の当事者となります。平成7年判例が,このことを示しています。平成7年判例が示した理由と,それを解説する判例解説の要点を紹介します。要するに,取得時効があっても,筆界を確定する必要性はなくならず,また,最も強い利害関係を有するのは隣接地所有者同士であることも変わらない,という理由です。

平成7年判例の理由(判例解説)(※1)

あ 現実的な影響

そのため,境界確定訴訟においては取得時効の主張が(多くは予備的に)されることが少なくないのであるが,仮に,境界確定訴訟の審理を尽くした結果,境界線が明らかになり,同時に境界に接続する部分の土地につき取得時効が成立していることが判明すると,その時点で訴えが不適法になり却下判決をせざるを得なくなるとしたら,それまでの訴訟活動が無意味になることになる。
訴訟経済に反することおびただしいだけでなく,境界を新たに定めることによって隣地所有者同士の境界が不明なことによる紛争を終息させるという境界確定訴訟本来の目的も果たせなくなるであろう。

い 現実的な必要性(分筆との関係)

また,時効によって取得した土地を分筆する上でもそれぞれの土地の範囲が明らかになる必要があるのである。
隣接する土地の一部につき取得時効が成立したというだけでは,境界を確定する必要性は少しも失われないというべきである。

う 利害関係の所在

そして,通説及び判例が確定されるべき境界を公法上の境界としながら当事者適格を隣接する土地の所有者に認めているのは,境界の確定につき最も密接な利害関係を有する者が当該境界に係る土地の所有者であることに由来しているところ,隣接する土地の所有者同士間で境界付近の一部の土地につき取得時効が成立してもなお両地の境界を確定する必要性が失われない限り,当該境界の確定に最も密接な利害関係を有する者は,依然として隣接する土地の所有者以外にはあり得ないのであり,これらの者に当事者適格を認めざるを得ないと思われる。

え 平成7年3月判例の読み取り

このように考えると,境界確定訴訟において当事者適格を有するのは隣接する土地の所有者であるという命題から,境界に接続する部分が一方の土地所有者に時効取得されたと認定判断されるとその途端に訴えが不適法になる,という結論を導き出すのは,やや教条主義的にすぎるといわざるを得ない。
本判決(平成7年3月判例)は,以上のような点を考慮して,境界接続部分の土地につき取得時効が成立しても,なお両地の所有者は当事者適格を失わないとしたものと思われる
※大橋弘稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成7年度』法曹会1998年p325〜

6 分筆・譲渡による接続部分全部の取得と当事者適格

前述のように,筆界に接続する部分の全体の所有権が,時効により隣接する土地の一方の所有者に移転した場合にも当事者適格に変化はありませんでした。
これと似たようなことが,隣接地の一方を分筆し,接続部分全体を含む土地(筆)他方の土地所有者に譲渡した場合にも起きます。起きていることは取得時効と同じです。そこで,筆界確定訴訟の当事者適格についても取得時効の場合と同じです。つまり,隣接地所有者同士が当事者となります。

分筆・譲渡による接続部分全部の取得と当事者適格(※2)

隣接する甲乙土地において
甲地のうち乙地との筆界の全部に接続する部分を乙地所有者Aが譲り受けた
甲地のうち残りの部分をCが譲り受けた
A・Bは,甲乙両地の筆界確定訴訟の当事者適格を有する
※最判平成11年2月26日

7 3筆以上の土地が接する点と当事者適格

実際には,土地と土地の境界(筆界)は入り組んでいることが多く,3筆以上の土地(筆)が1つの点で接触するということがよくあります。
この場合,接する土地(3筆以上)のすべての所有者が筆界確定訴訟の当事者となる必要はありません。あくまでも意見が食い違う者(争いがある者)だけが当事者となれば足ります。当然ですが,筆界確定訴訟の当事者にならなかった者は,その訴訟(判決)の効力は及びません。

3筆以上の土地が接する点と当事者適格

あ 当事者(共同訴訟形態)

3筆以上の土地の筆界が1点で交わる(接する)場合
3筆の土地の所有者全員が当事者となる必要はない固有必要的共同訴訟ではない
争いのある者のみを当事者とすれば足りる
※大判大正3年12月24日
※山梨簡判昭和53年5月30日

い 複数の筆界確定訴訟の関係

3筆以上の土地が1点で接するケースにおいて,筆界確定確定訴訟(A)の判決が確定した
その後,当該訴訟の当事者となっていなかった者の間で筆界確定訴訟(B)が提起された
Aの判決はBの訴訟を拘束しない
※東京高判昭和59年8月8日

8 共有の土地の筆界確定確定訴訟の当事者(概要)

問題となっている筆界に接する土地の一方が共有であるケースでは,特有の問題が生じます。結論としては,共有者の全員が当事者となる必要があります。共有者の一部が筆界確定訴訟を提起しようとして,残りの共有者が反対している(協力しない)場合には,残りの共有者を被告に加えるような対応になります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物と共同訴訟形態(損害賠償・境界確定・地役権設定登記請求・賃料増減額)

本記事では,筆界確定訴訟の当事者について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に,筆界(土地の境界)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。