【低額譲渡・共有持分放棄による課税(みなし譲渡所得課税・贈与税)】

1 低額譲渡・共有持分放棄による課税(みなし譲渡所得課税・贈与税)

不動産を通常の評価額よりも低い金額で譲渡(売買)すると、税務上、差額部分を贈与したとみなされることがあります。低額譲渡(低廉譲渡)による課税です。
また、共有持分放棄により、結果的に無償で持分(所有権の一種)が無償で移転します。
詳しくはこちら|共有持分放棄の基本(法的性質・通知方法など)
そこで税務上は基本的に低額譲渡と同じような課税がなされます。
本記事ではこれらの税務の扱いを説明します。

2 個人から個人→低額譲渡による贈与税(概要)

課税関係は、当事者が個人か法人か、によって扱いが違います。パターンを分けて説明します。

個人から個人→低額譲渡による贈与税(概要)(※1)

あ 基本

著しく低い価額で個人が財産の譲渡を受けた場合
→贈与税が課税される
課税対象=財産の対価と時価との差額
※相続税法7条本文

い 「著しく低い価額」の判断基準

個別具体的に判断される
一律の基準は法令上定められていない
時価の78%での売却について低額譲渡の適用を否定した裁判例がある
詳しくはこちら|低額譲渡(低廉売買)によるみなし贈与課税の基本(規定と実務的判断)
なお、所得税・法人税のみなし譲渡所得課税の「著しく低い価額」には法令上に基準がある(後記※2

3 個人から法人→みなし譲渡課税と益金発生

(1)みなし譲渡課税と益金発生

個人から法人に共有持分が動いたというケースの課税を整理します。

みなし譲渡課税と益金発生

あ 譲渡者(個人)

みなし譲渡所得課税が生じる(後記※2

い 譲受人(法人)

時価相当額と対価との差額が益金となる
→法人税課税の対象となる
※法人税法22条2項

(2)みなし譲渡所得課税

個人から法人への財産の動きには譲渡とみなす制度があります。みなし譲渡所得課税と呼ばれる制度です。

みなし譲渡所得課税(※2)

あ 基本

個人が法人に対して著しく低い価額の対価で譲渡した場合
→時価相当額を対価として資産の譲渡があったものとみなす
→譲渡所得・山林所得の計算をする
※所得税法59条1項1号

い 「著しく低い価額」の基準

時価の2分の1未満の金額
時価=実勢価額
※所得税法施行令169条
詳しくはこちら|所得税におけるみなし譲渡所得課税(低額譲渡・所得税法59条)

(3)同族会社への低額譲渡による株式の評価額増加→贈与税

実務では個人から同族会社への財産移転がよくあります。これら低額譲渡に該当すると株式の評価額が上がり、これについて贈与税が課税されることがあります。

同族会社への低額譲渡による株式の評価額増加→贈与税

あ 前提事情

個人株主Bが会社Aに資産を譲渡した
会社AはB個人の同族会社に該当する
会社Aに経済的な利益が生じた

い 株主への贈与税課税

Aの株主のうちB以外の者Cの有する株式について
価額が増加した場合
→CはBから贈与により取得したものとして扱う
贈与税課税対象=Cの有する株式の評価額増加部分
※相続税法9条、相続税法基本通達9−2

4 法人から個人→益金と所得税

法人から個人に共有持分が動いたケースの課税を整理します。

法人から個人→益金と所得税

あ 譲渡人(法人)

時価で資産を譲渡したものとして益金を計上する
※東京地裁昭和55年10月28日

い 譲受人(個人)

時価と対価の差額について
→所得税(給与所得・退職所得・一時所得)が課税される
※所得税法34条、所得税法基本通達34−1(5)

5 法人から法人→益金発生

法人から法人に共有持分が動いたケースの課税を整理します。

法人から法人→益金発生

あ 譲渡人(法人)

時価で資産を譲渡したものとして益金を計上する
※東京地裁昭和55年10月28日

い 譲受人(法人)

時価相当額と対価との差額が益金となる
→法人税課税の対象となる
※法人税法22条2項

6 低額譲渡における課税関係のまとめ

以上のように低額譲渡の課税関係は複雑です。当事者の種類による税務上の扱いの全体をまとめます。

低額譲渡における課税関係のまとめ

当事者 譲渡人 譲受人 個人→個人 所得税 贈与税 法人→個人 益金→法人税 所得税 個人→法人 みなし譲渡所得課税 益金→法人税 法人→法人 益金→法人税 益金→法人税

7 共有持分放棄による課税

共有持分放棄による課税は、無償で共有持分が移転したと考え、基本的には以上で説明した低額譲渡の課税関係があてはまります。ただ、個人から法人に持分が移転した場合の譲渡所得税については否定する見解もあります。

共有持分放棄による課税

あ ベース→無償による試算の移転

共有物の持分が放棄されたときは、その持分は他の共有者が取得することになるので(民255条)、無償による資産の移転があったものとして次のような課税関係を生じる。

い 個人から個人

1 個人から個人に持分が移転する場合
取得者の持分の取得は贈与によるものとみなされる(相税9条、相基通9-12)。

う 個人から法人

2 個人から法人に持分が移転する場合
ア 益金発生 放棄した個人には課税関係は生じないが、取得した法人には益金が生じる。
イ みなし譲渡課税 この場合は、放棄した個人に対するみなし譲渡課税の可否について検討する必要がある(所税59条1項1号)。
所得税法59条の立法趣旨は、資産価値の増加益に対する無限の課税繰延べの防止にあるとされている。
したがって、共有持分の放棄にみなし譲渡課税を(類推)適用しないと、持分放棄の経済的実質は贈与に等しいにもかかわらず、これが共有持分の放棄として行われたことをもって、値上がり益に対する課税の機会が失われてしまうことになり、これが贈与として行われた場合との課税の公平に反する結果になる。
持分放棄は放棄者の意思に基づく行為であり、これを民法の規定(共有の弾力性)を利用した贈与として、みなし譲渡規定の(類推)適用を肯定することには相当の根拠があると理解することができる。
しかし、持分放棄は贈与とは異なる行為である。
租税法律主義の立場から考えれば、明文の規定を欠く所得税法において持分放棄者に譲渡収入の発生を擬制することは妥当ではない。
持分放棄者には課税関係は生じないものと考えるべきであろう。
ウ 益金発生の理由 なお、放棄された持分の取得は、法人税法の「その他の取引」に含まれるので(法税22条2項)、取得法人には益金が生じることになる。
ここにいう取引は会計上の取引の意味であり、法律上の契約を意味するものではない。

え 法人から個人

3 法人から個人に持分が移転する場合
放棄した法人には譲渡益が生じ、取得した個人には、贈与税は課せられず(相税21条の3第1項1号)、その取得の原因関係により一時所得、(所税34条1項、所基通34-15))又は給与所得(所税28条1項)の課税関係が生じる。
放棄した法人に対しては、前述の個人と異なり、自由意思により行われた「無償による資産の譲渡」(法税22条2項)として、譲渡益課税が行われる。

お 法人から法人

4 法人から法人に持分が移転する場合
放棄した法人には譲渡益が生じ、上記3に記載したとおり、譲渡益課税がなされ、取得した法人には益金が生じる。
※東京弁護士会編著『法律家のための税法 民事編 新訂第8版』第一法規2022年p57、58

8 関連テーマ

(1)共有物分割における不均衡→低額譲渡扱い

共有物分割の合意をしたケースで、合意内容が持分割合と整合していない場合は、税務上低額譲渡と同じ扱いとなることがあります。
詳しくはこちら|現物分割(共有物分割)における課税(共有物分割の通達・交換の特例)

本記事では、一般的な低額譲渡の課税と共有持分放棄に関する課税について説明しました。
このように、共有不動産の解決などで無償(または低額)での財産の移転が生じるケースでは贈与税の課税に配慮する必要があるのです。
共有持分放棄や低額譲渡に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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