【登記は単独所有・実体は共有である財産の共有物分割】
1 登記は単独所有・実体は共有である財産の共有物分割
共有物分割は文字どおり共有の物(財産・権利)を解消する(分割する)ものです。単独所有の財産は対象外です。この点、登記は単独所有となっているけれど、実体上は共有、というケースもあります。
権利関係は実体で判断するのが基本なので、この場合にも共有物分割はできるのが原則です。ただし例外もあります。本記事ではこの問題について説明します。
なお、共有物分割に限らず、いろいろな場面で所有者・共有者は誰か、共有持分割合はいくつかということが問題となります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有であるかどうか・持分割合の認定(民法250条の推定・裁判例)
2 共有物分割(訴訟)の当事者と持分割合の特定(概要・前提)
まず、共有物分割訴訟で、当事者(共有者)と持分割合は原則として、いろいろな証拠から裁判所が認定します。登記は有力な証拠ですが、あくまでも証拠の1つで、登記とは異なる認定となることもあります。
ただし、共有物分割とは関係なく登記で判断する局面があります。持分譲渡があった場合の、譲受人(新たな共有者)と他の共有者です。この場合だけは実体がどうであっても登記で判断することになります。
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定
3 共有物分割訴訟における「単独所有登記」の扱い(基本)
本題に戻ります。
登記ではAの単独所有となっているが、B(原告)が共有物分割訴訟を提起して、最初からAとBの共有である(登記だけ便宜的にA単独所有名義にしておいた)と主張している場合はどうでしょうか。
前述のとおり(持分譲渡が関係するわけではないので)、裁判所は登記に拘束されず、共有なのかどうか(権利の帰属)を判断する必要があります。
なお、登記手続では、登記と申請書類だけを元にして判断するので、登記が単独所有となっていれば、(いろいろな証拠を提出しても)共有とは認めてくれない、その結果、共有物分割を登記原因とする登記申請は受理されない、という結果になります。
共有物分割訴訟における「単独所有登記」の扱い(基本)
あ 共有物分割請求の要件(前提)
実体上共有であれば、共有物分割請求は可能である
い 共有物分割訴訟における権利の認定
ア 前提問題の事実認定
共有物分割訴訟で、裁判所は前提問題として権利の帰属(共有者と共有持分割合)を認定する必要がある
裁判所は、単独所有である(共有ではない)と認定した場合、分割請求の要件を満たさないので請求棄却とする
イ 既判力→否定
共有者と共有持分割合の認定(判断)について、既判力は生じない
既判力を得るためには確認請求も申し立てておく(併合する)必要がある
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定
う 登記手続(概要)
登記上共有になっていない場合、共有物分割を原因とする登記手続はできない
更正登記と一緒に申請する、などの対応が必要となる
詳しくはこちら|共有持分の登記の効力(持分譲渡・持分割合の対抗関係・平等推定)
4 単独所有登記について共有認定・共有物分割を実施した裁判例
実際に、共有物分割訴訟で、単独所有登記がなされた建物について、いろいろな証拠から共有であると認定して、その上で、共有物分割を実施した裁判例を紹介します。
(1)遺産分割で便宜的に1人の名義にした事例
この事案では、遺産共有であったことと、黙示の遺産分割があった(=物権共有になった)ことを認定しました。なお、遺産分割は調停が成立していたので、対象財産(=遺産)については十分確認していたはずですが、調停調書に記載のない建物について黙示の合意を認めたというところが少し変わっています。
遺産分割で実体と異なる登記にした事例
あ 登記は単独所有
本件建物(一)及び(二)については、Mが昭和五七年五月一二日M単独名義の所有権保存登記手続をなした。
い (物権)共有の認定
・・・本件各建物は、・・・もともとUの所有であったこと、そして、本件遺産分割調停において、本件各建物は、黙示的に、本件土地とともに一体的に、M、H、Sが前示の各持分割合で共有する旨合意されたものというべきである。
※神戸地判平成元年6月2日
(2)組合財産について便宜的に組合員1人の名義にした事例(概要)
病院の共同経営をするために購入した不動産について、融資を受ける都合で組合員の1人の単独所有登記にしておいた、という事例があります。実質的な出資も運営も2人の共同で行っていたため、裁判所は実体は共有であると判断し、(解散後であったため)共有物分割を実施しました。
詳しくはこちら|病院経営への組合認定・解散後の共有物分割を認めた裁判例(横浜地判昭和59年6月20日)
5 夫婦の共有の特殊性→潜在的共有の解消は財産分与のみ(概要)
ところで、夫婦の財産については、夫(または妻)の単独所有の名義でも、実質的(潜在的)には夫婦の共有ということがあります。このような、実質的(潜在的)な共有については、これを解消できるのは(清算的)財産分与だけで、共有物分割は使えません。
この点、財産分与の請求ができるのは離婚後2年までです。正確には、「離婚から2年後までは財産分与だけ(共有分割は不可)」ということになると思います。
夫婦の共有の特殊性→潜在的共有の解消は財産分与のみ(概要)
財産分与の場合には、対象となる夫婦共同の財産が夫婦の共有名義ではなく、どちらか一方の単独名義となっていることも珍しくない。
このような事案については共有物分割を論じる余地はなく、専ら財産分与請求をするしかないのであって、その意味においても財産分与請求と共有物分割請求はそれぞれが想定する場面を共通にするものでもない。
※東京地判平成20年11月18日(中間判決)
詳しくはこちら|単独所有登記だが実質的な(元)夫婦共有の不動産の共有物分割
6 関連する問題
(1)共有物分割以外
本記事では、共有物分割訴訟における所有権の帰属の認定を説明しましたが、それ以外の局面(訴訟)でも同じような問題があります。たとえば(離婚後の元夫婦間の)明渡請求、使用対価の請求の中で単独所有登記の不動産について、共有であると認定した裁判例(東京地判平成24年12月27日)などがあります。
詳しくはこちら|単独所有登記だが実質的な(元)夫婦共有の不動産の共有物分割
(2)「単独所有登記」以外
また、単独所有登記ではなく、共有の登記がなされている不動産の共有物分割訴訟で、持分割合について、登記上の割合とは別の数値を認定した裁判例(東京地判平成26年10月6日)もあります。これは元夫婦間の共有物分割であり、実質的な財産分与を実施したといえる裁判例です。
詳しくはこちら|離婚後の元夫婦間の共有物分割(経緯・実例)
本記事では、登記は単独所有でも、実体は共有である財産の共有物分割について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産や共有物分割に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。