1 扶養請求権の処分や強制執行の禁止(民法881条など)
2 民法881条の条文
3 扶養請求権の性質(一身専属性・公的性質)(前提)
4 婚姻費用・養育費への適用(肯定)
5 『扶養を受ける権利』の意味(抽象的・具体的段階)
6 金銭請求権になった権利の処分(禁止否定)
7 扶養請求権の処分にあたる行為
8 扶養請求権の相殺
9 扶養請求権の代位行使(否定)
10 強制執行・破産手続における扶養請求権の扱い

1 扶養請求権の処分や強制執行の禁止(民法881条など)

民法881条は,扶養を受ける権利(扶養請求権)の処分を禁止しています。また別の法律(規定)でも扶養請求権の扱いについて制限が加えられています。
本記事では,このような,扶養請求権の特別な法的扱いを説明します。

2 民法881条の条文

最初に,民法881条の条文を押さえておきます。条文自体はシンプルです。

<民法881条の条文>

(扶養請求権の処分の禁止)
第八百八十一条 扶養を受ける権利は,処分することができない。

3 扶養請求権の性質(一身専属性・公的性質)(前提)

扶養請求権には,一身専属性と,公的性質という特徴があります。これが,民法881条の規定の趣旨になっています。

<扶養請求権の性質(一身専属性・公的性質)(前提)>

扶養をうける権利は身分関係にもとづく一身専属権である
またそれは要扶養者の生存を維持することを目的とし,これが実現されないときには社会ないし国家の負担となるものであることから公的性格(公法的性質)を有する
※久喜忠彦ほか著『民法講義7 親族』有斐閣1977年p316
※久喜忠彦著『民法学全集9 親族法』日本評論社1984年p323

4 婚姻費用・養育費への適用(肯定)

民法881条の条文では,扶養を受ける権利という文言が使われていますが,これには,婚姻費用(分担金請求権)や養育費(請求権)も含みます。

<婚姻費用・養育費への適用(肯定)>

民法881条は,扶養的意味を有する夫婦間の扶助義務ないし婚姻費用分担義務未成熟子の養育監護費用についても適用されうる
※於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)親族(5)改訂版』有斐閣2004年p814

5 『扶養を受ける権利』の意味(抽象的・具体的段階)

もともと扶養を受ける権利は抽象的な権利です。権利者と義務者が協議して合意するか,裁判所が決めることで具体的な金額が定まり,具体的な権利となります。
民法881条が処分を禁止する『扶養を受ける権利』の内容は,抽象的権利の段階と具体的権利の段階の両方を含みます。

<『扶養を受ける権利』の意味(抽象的・具体的段階)>

あ 抽象的権利・具体的権利の2段階

ア 抽象的な権利の段階 扶養必要状態と扶養可能状態とが併存するときでも,『い』のように扶養当事者・権利義務の内容が特定する前の段階では,『扶養を受ける権利』は,単に一般的抽象的な扶養を請求しうる地位にすぎない
この段階における当事者間の地位は,一種の期待権ないし状態権たるに止まる(=将来の扶養請求権ないし抽象的扶養請求権)
それ自体は債権でもなければ請求権でもない
イ 具体的な請求権の段階 特定の扶養当事者において,個別具体的に扶養の権利義務発生の要件が備わり,協議または審判(調停)によって,扶養当事者および権利義務の内容が特定した時に,具体的な扶養請求権が生じる

い 抽象的権利への民法881条の適用(肯定)

(抽象的な権利の段階について)
期待権としての将来の扶養請求権は,民法881条の趣旨に鑑み,また,その内容が極めて不確定でもあるので,条件附権利(民法129条)と異なって処分対象とすることができないことは当然である
→民法881条の『扶養を受ける権利』の一態様として,この期待権的ないしは状態権的なるものもまた処分禁止の対象となる
※久喜忠彦著『民法学全集9 親族法』日本評論社1984年p323
※川井健ほか『民法コンメンタール : 親権・後見・扶養 (22)親族3』ぎょうせい1988年p3375
※大阪高決昭和31年9月26日(子の扶養料の放棄)
※於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)親族(5)改訂版』有斐閣2004年p814

6 金銭請求権になった権利の処分(禁止否定)

扶養を受ける権利が,具体的権利になった後は,一般的な金銭請求権となるので,処分の禁止は適用されなくなります。ただ,別の規定によって処分が制限されることはあります。

<金銭請求権になった権利の処分(禁止否定)>

扶養義務者に対する請求によって債権として具体的に形成された後の扶養料の給付を求める権利については,処分禁止の対象にはならないと考えられている
※於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)親族(5)改訂版』有斐閣2004年p813

7 扶養請求権の処分にあたる行為

禁止される扶養請求権の処分の内容としてはいろいろなものがあります。譲渡や担保設定,放棄が代表的なものです。

<扶養請求権の処分にあたる行為>

あ 譲渡

扶養請求権を,第三者に譲渡することはできない
他の扶養権利者に対して譲渡することもできない
なお,扶養権利者間の協議による順序付けは可能である(民法878条)
ただし,より困窮度の高い者が困窮度の低い者に不合理に扶養を受ける順位を譲ることは認められないであろう

い 担保設定

質入れその他の方法で担保に供することはできない
※於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)親族(5)改訂版』有斐閣2004年p815,816

う 放棄(不請求の合意)(概要)

扶養請求権を放棄することはできない
実際には,主に子を養育する母が子自身の代理人として扶養請求権を放棄するというよりも,一定の条件のもとで養育費を請求しないという扶養義務者間の分担免除の形が採られることが多いようであるが,実質的に子の扶養請求権行使を制限することになることから,その効力には疑問がある
※於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)親族(5)改訂版』有斐閣2004年p816
詳しくはこちら|養育費を請求しない合意は無効となることもある(子供からの扶養請求との関係)

8 扶養請求権の相殺

扶養請求権が金銭債権として具体化している段階で,扶養義務者が,扶養権利者に対して何らかの債権を持っていた場合,扶養請求権と相殺するという発想があります。
すでに具体化している扶養請求権なので,民法881の処分にはあたらない(禁止されない)とも考えられます。そうだとしても,別の規定によって相殺は制限されます。
まず,民事執行法により,4分の3の部分は差押禁止となっています。民法上,差押禁止の債権を相殺で消滅させることはできないことになっています。結局,扶養請求権の4分の3は相殺できないことになります。
なお,民事執行法の施行(制定)前は4分の3ではなく全体が差押禁止であったので,相殺も全部否定されていました。

<扶養請求権の相殺>

あ 扶養請求権の差押禁止(前提・概要)

(具体化した扶養請求家について)
債務者の有する扶養請求権は,原則としてその4分の3に相当する部分(または33万円までの部分)は差押が禁止されている
※民事執行法152条1項1号
詳しくはこちら|差押の対象財産の典型例・債権者破産・差押禁止・範囲変更申立

い 相殺

扶養請求権を受働債権とする相殺について
差押禁止の範囲は相殺できない
※民法510条
※久喜忠彦著『民法学全集9 親族法』日本評論社1984年p323

う 民事執行法施行前の扱い(参考)

民事執行法の施行前は,民事訴訟法で扶養請求権の差押は全部が禁止となっていた
※旧民事訴訟法618条1項1号
扶養請求権を受働債権とする相殺は(全部が)否定されていた
※広島高判昭36年1月16日
※久喜忠彦ほか著『民法講義7 親族』有斐閣1977年p316

9 扶養請求権の代位行使(否定)

扶養権利者の債権者が,扶養請求権を代位行使するという発想があります。しかし,一身専属性(という性質)によって否定されます。

<扶養請求権の代位行使(否定)>

扶養請求権の権利行使には一身専属性がある
→債権者が代位行使することはできない
※於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)親族(5)改訂版』有斐閣2004年p816

10 強制執行・破産手続における扶養請求権の扱い

扶養請求権は具体化すると金銭債権となりますが,通常の金銭債権とは違う特殊性(性質)があります。そこでいろいろな法律で特別扱いが定められています。
差押については制限され,債権者は一部だけしか引き当てにできません。破産手続でも同じように,一部だけが債権者への配当に回るということになります。

<強制執行・破産手続における扶養請求権の扱い>

あ 強制執行(概要)

債務者の有する扶養請求権は,原則としてその4分の3に相当する部分(または33万円までの部分)は差押が禁止されている
※民事執行法152条1項
詳しくはこちら|差押の対象財産の典型例・債権者破産・差押禁止・範囲変更申立

い 破産手続

破産者の有する扶養請求権は,差押禁止債権の範囲については破産財団に属さない
※破産法34条3項2項
※於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(25)親族(5)改訂版』有斐閣2004年p815,816

本記事では,扶養請求権の処分や強制執行に関する特別扱いについて説明しました。
実際には,個別的な事情によって法的解釈や最適な対応方法が違ってくることがあります。
実際に扶養請求権(養育費・婚姻費用など)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。