【共有持分の登記の効力(持分譲渡・持分割合の対抗関係・平等推定)】

1 共有持分の登記の効力(持分譲渡・持分割合の対抗関係・平等推定)

共有不動産については、相続登記が未了ということはありますが、それ以外では通常、共有(持分)の登記がなされています。この共有の登記によるいろいろな法的な扱いについて、本記事で説明します。

2 共有持分譲渡の登記の効力

(1)解釈

共有持分の登記は、対抗要件として機能します。共有持分の譲受人が、共有持分を有している(共有者である)ことを、譲渡の当事者以外の共有者に主張するためには登記を得ていることが必要になるのです。典型的な対抗関係とは違いますが、同じ扱いとなります。

共有持分譲渡の登記の効力

あ 民法177条の「第三者」の意味(前提)

民法177条の「第三者」とは、当事者以外の者であり、かつ、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者である
詳しくはこちら|民法177条の適用範囲(『第三者』の範囲・登記すべき物権変動)の基本

い 対抗関係の判断

ア 判例(要点) 他の共有者は、持分譲渡の登記の欠缺を主張する正当の利益を有する
共有持分の譲受人であることを主張するためには登記が必要である
※大判大正5年12月27日
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定
イ 特殊性 特定の共有持分の譲受につき、譲受人譲渡の当事者以外の共有者との間では、当該共有持分を相互に争う関係に立つもの(=いわゆる対抗問題)ではない
※柳川俊一稿『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和46年度』法曹会1972年p104

(2)現実的な機能→共有者会議への入場券

前述の解釈は少し理解しにくいですが、現実の機能を考えると分かりやすいです。共有持分を取得しただけでは共有者会議(オーナー会議)に参加できない、共有者としての登記が参加券になる(機能する)のです。ここでの共有者会議とは、共有物分割協議や共有物の使用方法に関する意思決定のための協議のことです。
実はこれは、株式会社のオーナーシップである株主となった者も、株主名簿への記載がなければオーナー会議である株主総会に参加できない(会社に株主権を対抗できない、会社法130条1項)、ということと同じです。
さらにいえば、参加券がなくても、他のオーナー側から認めることはできる、ということまで同じです(「対抗要件」に共通する扱いです)。

3 共有者間で登記が必要となる状況

共有者間の対抗関係が具体化するのは、共有者を当事者とする行為の時です。共有物の使用方法の協議と共有物分割請求が典型的状況です。結果的に、登記上の共有者を当事者として扱えばよいということになります。

共有者間で登記が必要となる状況

あ 使用方法の協議における登記の機能(概要)

共有者間の合意は登記上の共有者だけで可能である
登記を得ていない共有者は合意の無効を主張できない
詳しくはこちら|共有物の使用方法の意思決定の方法(当事者・協議の要否)

い 共有物分割請求における登記の機能(概要)

共有物分割請求では、持分譲渡について争いがある場合、登記上の共有者を当事者にする
※最判昭和46年6月18日
詳しくはこちら|共有物分割(訴訟)の当事者(共同訴訟形態)と持分割合の特定

う 共有持分割合

一定の共有者間で共有持分割合も主張するために登記が必要となる(後記※1

4 登記手続における共有者の判定

登記上の共有者を当事者(共有者)として扱うという場面は前記のほかにもあります。それは登記手続です。実体上は共有であっても、登記上は単独所有の登記となっている場合に、共有を前提とする登記申請(共有物分割や共有持分放棄)をする場合、その前提となる更正登記を一緒にする(連件で申請する)必要があります。

登記手続における共有者の判定

あ 登記手続における共有者の判定

(登記手続において)
誰が共有者であるかは登記記録によって判断すればよい(登記には推定力がある)
実体上の所有者が誰かということを審査して登記の手続をする必要はない
※藤原勇喜著『不動産の共有と更正の登記をめぐる理論と実務』日本加除出版2019年p134

い 具体例(概要)

ア 共有物分割の登記 実体や実質が共有であっても、登記記録上共有でなければ共有物分割を原因とする移転登記はできない
※昭和53年10月27日民三5940号民事局第3課長回答
詳しくはこちら|単独所有登記だが実質的な(元)夫婦共有の不動産の共有物分割
イ 持分放棄の登記 登記記録上共有者でない者を権利者とする持分放棄を原因とする移転登記はできない
詳しくはこちら|共有持分放棄の登記(対抗関係・固定資産税・登記引取請求)

5 共有持分割合の主張のための登記

共有者間において持分割合についても登記がないと主張できないということがあります。結果としては登記上の持分割合どおりに扱われるということになります。登記上不明であれば平等の推定が働くので、共有持分割合を示す証拠がない場合には平等(均等の持分割合)ということになります。

共有持分割合の主張のための登記(※1)

あ 登記がないと主張できない状況

共有者Aと、共有者Bから共有持分を譲り受けた者Cとの間において
Aの持分割合は登記が対抗要件となる
(Cは民法177条の『第三者』に該当する)
→平等の推定(後記※2)が適用される

い 判例

不動産の共有者の持分不均等なるもその旨の登記を為さずして単に共有権の登記を為したるに過ぎざる場合に於いては共有者はその1人より持分を均等のものとして善意に譲り受けたる第三者に対しその持分の不均等なることを以て対抗することを得ざるものとす
※大判昭和19年9月28日

う 登記手続との関係

不動産登記では持分の記載が必要である
※不動産登記法59条4号
→不動産登記がなされていれば割合が不明になるということは生じない

6 持分割合の合意認定と平等推定

持分割合が不明な場合に使われる平等推定があります。これが適用されるのは、あくまでも事実認定ができない場合だけ、つまり最終手段ということになります。

持分割合の合意認定と平等推定(※2)

あ 明確な合意

共同購入の場合
→(当事者間では)合意により定めた割合が優先される

い 黙示の合意

『あ』の合意がない場合
→(当事者間では)支出した金額割合によるという合意が認定されることがある

う 平等推定

『ア・イ』のいずれかである場合、持分は均等であると推定される
ア 当事者間で持分割合の合意が認定できないイ 当事者間ではなく共有持分割合を対抗できない

え 平等推定の条文引用

(条文引用)
(共有持分の割合の推定)
各共有者の持分は、相等しいものと推定する
※民法250条

本記事では、共有の登記の法的扱いについて説明しました。
実際には、個別的な事情により結論が異なることもあります。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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