1 共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容
共有物に関する行為は変更(処分)・(狭義の)管理・保存に分類できます。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
本記事では共有物に関する(狭義の)管理行為の基本的な内容を説明します。
2 条文による『管理』の広義・狭義の意味
最初に、民法上の『管理』行為という用語には2種類の意味があります。広義と狭義の2種類です。本記事で説明する『管理』行為とは狭義の方になります。
条文による『管理』の広義・狭義の意味
あ 狭義の『管理』|概要
財産の性質を変えない範囲内の利用または改良(後記※1)
※民法252条・103条2号・602条
い 一般用語の『管理』
維持・改良行為
一般的・日常的な用語の意味である
※民法253条
3 狭義の『管理』行為の基本的な内容と意思決定要件
狭義の『管理』行為とは、共有物の使用・利用・改良行為を広く含みます。逆に言えば、変更や保存行為は除外されることになります。
狭義の『管理』行為について共有者として意思決定するには、持分の価格の過半数を持つ共有者が賛成することが必要です。
狭義の『管理』行為の基本的な内容と意思決定要件(※1)
あ 意思決定要件
狭義の『管理』に関する意思決定
→共有者の持分の価格の過半数で決する
※民法252条本文
い 管理行為の意味
狭義の管理(行為)の意味
→共有物の使用・利用・改良行為
う 利用・改良行為の意味
利用 | 共有物の性質を変更せずに収益を上げる行為 |
改良 | 共有物の交換価値を増加させる行為 |
4 狭義の『管理』行為の具体的内容(全体)
狭義の『管理』行為に該当する行為の全体的な具体例をまとめます。
狭義の『管理』行為の具体的内容(全体)
あ 目的物の使用方法の決定
ア 典型例
共有者のうち誰が実際に使用(占有や居住)するかを決める(→管理行為である)
イ 例外(特殊事情)
すでに共有者Aが共有物を使用(占有)している場合
→共有者Bが共有物を使用するという決定は変更に該当する傾向がある
詳しくはこちら|協議・決定ない共有物の使用に対し協議・決定を行った上での明渡請求
い 賃貸借契約の締結・更新(概要)
『ア・イ』の両方に該当しない賃貸借契約を締結すること
ア 短期賃貸借の期間を超えるイ 借地借家法の適用がある
なお、賃貸借の更新についても同様である
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結・更新の管理行為・変更行為の分類
う 賃貸借契約の解除
解除するという意思決定
決定後の解除通知は別である(後記※3)
え 賃借権譲渡の承諾
賃借人の賃借権譲渡を承諾すること(後記※3)
お 一般的な賃貸借の賃料変更
賃借人との間で賃料変更の合意をすること
賃借人に対して賃料増額請求をすること
ただし、サブリース契約における例外もある(後記※3)
か 建物買取請求権の行使
土地賃貸借の賃借人が複数いる場合(共同賃借人)において、期間満了の際に建物買取請求権を行使すること(後記※5)
き 使用貸借契約の締結(処分または管理)
処分(変更)・管理行為のいずれかに該当する(後記※2)
く 使用貸借契約の解除(解約)
一般的に管理行為に該当すると思われる(後記※2)
け 寄託契約の解除
管理行為に該当するという見解がある(後記※4)
こ 準共有の株式の権利行使者の指定・議決権行使(概要)
株式の準共有者が権利行使者を指定すること、議決権を行使することは管理行為に該当する
詳しくはこちら|株式の準共有における権利行使者の指定・議決権行使
5 共有物の賃貸借に関する個々の行為の分類(概要)
共有物を賃貸するケースはよくあります。いわゆる収益物件です。
この場合、賃貸人としていろいろなアクションが生じます。具体的には契約締結・解除・賃料変更・賃借権の譲渡承諾などです(※3)。
これらの行為の分類(変更(処分)・管理・保存)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借に関する各種行為の管理行為・変更行為の分類(全体)
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除・終了と明渡請求に関する変更・管理・保存行為の分類
6 建物買取請求権の行使
借地上の建物が共有(借地権の準共有)であるケースで、借地契約が終了した場合に、建物買取請求権が生じます。これを行使することについては、建物を失うことから処分のように思えますが、実質的には建物を維持できるわけではないので管理に分類されています。
建物買取請求権の行使(※5)
あ 学説
借地上の共有建物に係わる、借地法第4条2項もしくは第10条による買取請求権の行使は、一応処分に当るが、収去か買取請求かの選択をせまられての措置であるから、管理として過半数で決定しうると解すべきであろう
※我妻栄著『新訂 物権法 民法講義Ⅱ』岩波書店1983年p323
※澤野順彦編『不動産法論点大系』民事法研究会2018年p225(同趣旨)
い 裁判例
一般に共有建物の敷地の賃借権がすでに消滅し、建物の買取請求をしない限りその建物を収去せざるを得ない状況にある場合、建物の価値を最も有効に保持活用するには買取請求権を行使する以外に方法がない。(建物を取りこわして廃材とした場合はいちじるしくその価値を減ずることになる)ところで買取請求権の行使によつて共有建物の所有権は相手方に移転するのであるがこの場合買取請求権の行使は全共有権者のために建物の価値を最大限に維持し、しかも実状に適した唯一の活用方法であるという実質的な観点からみると買取請求は民法二五一条の共有物に変更を加える行為というよりもむしろ同法二五二条の共有物の管理に関する行為に類するものといえるから同条に準じて持分の過半数を占める共有者が建物全体につき買取請求をなし得るものと解するのを相当とする。
※東京地判昭和41年12月9日
7 共有物の使用貸借に関する個々の行為の分類(概要)
親族間で共有物の使用貸借が認められることがよくあります。共有物の使用貸借の締結については、内容によって処分または管理のどちらかに該当し、解除(解約)については管理に分類されます(※2)。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類
8 寄託契約の解除を管理とする見解
共有物の寄託契約の解除について、管理行為であるという見解があります。ただしこの見解は、共同相続人の間の契約を前提としています。
寄託契約の解除を管理とする見解(※4)
あ 前提となる判例
共同相続人(共有者)間の使用貸借契約の解除について
管理行為である
※最高裁昭和29年3月12日
詳しくはこちら|共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類
い 判例の射程の見解
共同相続人の1人が使用借主である場合に限らず、賃借人、受寄者など相続財産の利用権や占有を有する者である場合に拡張して適用しうるかであるが之は肯定してよいであろう
※谷口知平稿『民商法雑誌31巻2号』p224
9 令和3年改正による軽微変更の管理行為扱い(概要)
ところで、令和3年改正で、変更行為のうち軽微なものは、管理行為と同じ扱いとなる、つまり、持分価格の過半数で決定できる、というルールが新設されました。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有物の「軽微変更」の意味や具体例(令和3年改正による新設)
本記事では、共有物の管理行為の基本的な内容について説明しました。
実際には、具体的・個別的な事情によって違う分類となることもあります。
実際の共有物の扱いの問題に直面されている方は、本記事の内容だけで判断せず、みずほ中央法律事務所の弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。