1 共有物の変更行為と処分行為の内容
2 一般的な『変更・処分』行為の基本
3 共有物の『変更』と『処分』の関係(概要)
4 物理的変化を伴う行為
5 法律的な処分行為
6 共有物全体を対象とする契約の意味と注意点
7 共有物の売却→処分
8 用益物権設定→処分
9 共有物への抵当権設定→処分
10 根抵当権の元本確定請求→処分
11 共有者単独による処分行為の法的効果(概要)
12 決定した使用方法の事後的変更→変更
13 共有持分を取得した者による抵当権消滅請求(参考)
1 共有物の変更行為と処分行為の内容
共有物に関する行為は,変更(処分)・(狭義の)管理・保存の3種類に分類できます。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
本記事では,これらの中の(共有物の)変更・処分行為について説明します。
2 一般的な『変更・処分』行為の基本
最初に,共有物とは関係なく,一般的な用語としての『変更・処分』行為の基本的事項をまとめます。
<一般的な『変更・処分』行為の基本>
あ 意思決定の要件
共有物の『変更・処分』に関する意思決定
→共有者全員の同意が必要である
※民法251条
い 『変更』行為の解釈
管理行為(狭義)以外の処分行為全般に民法251条(変更・処分)があてはまる
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2物権 第3版』第一法規2019年p343
う 変更・処分の解釈の基本
次のいずれかに該当する行為
ア 物理的変化を伴う行為(※1)
対象物の性質を変える程度の行為
イ 法律的に処分する行為(※2)
3 共有物の『変更』と『処分』の関係(概要)
なお,民法251条の条文の文言は,共有物に変更を加えるというものです。解釈としては,物理的な変更(変化)だけを意味し,法律的な処分も含まないという見解と,法律的な処分も含むという見解があります。この点,法律的な処分は民法251条に含まないという見解を前提としても,当然に(別の理由で)共有者全員の同意が必要になる,という結論に違いはありません。
詳しくはこちら|民法251条の『変更』の意味(『処分』との関係)
この考え方(『変更』と『処分』の関係)は講学上の理論であり,現実のプラクティスには影響はありません。本サイトでは基本的に特に区別しないでこれらの用語を使用します。
4 物理的変化を伴う行為
前記の『物理的変化を伴う行為』の内容・具体例をまとめます。
<物理的変化を伴う行為(※1)>
あ 物理的な『処分』
例=廃棄・消費
い 物理的な損傷
う 土地の造成
ア 田畑を宅地に造成する工事
イ 土地への土盛り工事
え 土地上への建物建築
お 建物の大規模な改修・建替え
具体例=(共有の)建物(ビル)に自動ドア・カウンターを設置する行為
※東京地裁平成20年10月24日
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・原状回復請求(特殊事情のあるケース)
か 山林の樹木伐採
参考となる具体例=共有の立木の伐採
※大判大正8年9月27日
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・原状回復請求(特殊事情のあるケース)
5 法律的な処分行為
前記の法律的な処分行為の具体的内容・典型例をまとめます。
<法律的な処分行為(※2)>
あ 所有権を失う契約の締結
例=売却(売買契約締結)・贈与契約(後記※3)
い 売買契約の解消
例=解除・詐欺による取消
共同買主の一部による解除を無効とした判例がある
詳しくはこちら|解除の不可分性に反する解除の効力(一部当事者の通知を欠く解除)
う 用益物権の設定
例=地上権・地役権(後記※4)
え 一定の賃貸借契約締結(概要)
『ア・イ』のいずれかに該当する賃貸借契約を締結すること
ア 短期賃貸借の期間を超える
イ 借地借家法の適用がある
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結・更新の管理行為・変更行為の分類
お 借地上の建物の建替の承諾
共有の土地が借地となっている場合に,当該借地上の建物の建替を承諾すること(処分(変更)行為であると思われる)
詳しくはこちら|共有物の賃貸借に関する各種行為の管理行為・変更行為の分類(全体)
か サブリースの賃料変更
一般的な賃料変更は『管理』である
しかしサブリースにおけるマスターリース契約の賃料変更の場合
→共有物の『変更』として扱われる
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の賃料増減額に関する管理・変更の分類と当事者
き 介入権の行使(概要)
借地人による借地権譲渡許可申立に対して優先譲受申立(介入権行使)をすること
詳しくはこちら|借地権優先譲受申出(介入権)の要件や申立人
く 使用貸借契約締結(処分または管理)
使用貸借契約の締結は,処分・管理のいずれかに分類される
詳しくはこちら|共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類
け 担保権の設定
例=抵当権・質権(後記※5)
こ 根抵当権の元本確定請求
共有不動産に設定された根抵当権の元本確定請求をすること(後記※8)
さ 決定した使用方法の変更
共有者間で決定した使用方法を後で変更すること(後記※6)
し 追認権の行使
準共有する追認権の行使
※最高裁平成5年1月21日(処分として扱っているように読み取れる)
6 共有物全体を対象とする契約の意味と注意点
以上の一般的な『変更・処分』の用語の意味を前提として,共有物の『変更・処分』の法的扱いについて,以下説明します。
まず,典型的な『処分』は売買(売却)です。
なお,ここでは,共有物(全体)を対象とした売却(処分)を前提として説明します。逆に,共有持分権だけを売却するのであれば,当該共有者が単独で売却できるのは当然です。
この点,売買その他の債権契約については,もともと権利を持たない者であっても契約を締結できます。契約の当事者以外には契約に基づく効果が帰属しないことになるだけです。共有者の1人が他の共有者に無断で共有物全体を売却した場合には,他の共有者の共有持分については他人物売買に該当することになります(後記※7参照)。
以下説明するのは,このような他人物売買(処分)ではなく,共有者全員に効果が帰属するために必要な同意の範囲です。やや複雑なところなので注意が必要です。
7 共有物の売却→処分
共有物を売却することは代表的な法律的処分なので,共有者全員の同意が必要です。
これは,変更と同じ扱いをする,と説明しなくても,すべての共有者の有する共有持分権の処分であるため,民法251条によって共有者全員の同意が必要となるわけではなく,当然のことであるともいえます。
<共有物の売却→処分(※3)>
あ 分類
共有物(全体)を売却すること
→共有物の処分に該当する
→共有者全員の同意が必要である
※最高裁昭和43年4月4日
い 効果(概要)
債権契約としては有効である
売却した共有者の共有持分は移転する
8 用益物権設定→処分
用益物権の設定に関する判例の判断をまとめます。
<共有物への用益物権設定→処分(※4)>
共有地(全体)に用益物権を設定すること
例=地役権
→『変更』に該当する
=共有者全員の同意が必要である
※名古屋地裁昭和61年7月18日(地役権について)
※東京地裁昭和48年8月16日(地役権について)
9 共有物への抵当権設定→処分
抵当権設定に関する判例の判断をまとめます。
<共有物への抵当権設定→処分(※5)>
共有物に抵当権を設定すること
→『処分』に該当する
→共有者全員の同意が必要である
※最高裁昭和42年2月23日
10 根抵当権の元本確定請求→処分
共有不動産に設定された根抵当権について,設定者として元本確定請求をすることは処分(変更行為)に分類されます。
<根抵当権の元本確定請求→処分(※8)>
あ 分類(変更行為)
数人で共有している不動産の全部を目的として根抵当権が設定されている場合
根抵当権設定者からの元本確定請求(民法398条の19第1項)について
処分(変更行為)にあたる
→共有者全員が共同してしなければならない
※貞家克己ほか著『新根抵当法』金融財政事情研究会1973年p263
※商事法務研究会編『新根抵当法の解説』商事法務研究会1971年p241
※『登記研究443号』p94
い 元本確定登記の申請人
元本が確定した場合
根抵当権の元本確定の登記申請は,共有者全員が根抵当権者と共同でなければならない
※『登記研究549号』p183
※坪内秀一著『根抵当権実務必携Q&A』日本加除出版2020年p125参照
11 共有者単独による処分行為の法的効果(概要)
『処分』行為は共有者単独では行えません(前記)。
実際には共有者単独で行ってしまったケースもあります。
その場合の法的効果の概要をまとめます。
<共有者単独による処分行為の法的効果(概要・※7)>
あ 前提事情
共有者Aが単独で共有物の『処分』(売却,担保権設定,用益物権設定)を行った
他の共有者の同意がない
→『処分』の権限がない状態である
い 債権的効果
『契約』自体は有効とされる傾向がある
う 物権的効果
ア 譲渡,担保権設定
売却(譲渡),担保権設定については,Aの共有持分の範囲内で効果が生じることがある
イ 用益物権設定
用益物権設定については,Aの共有持分についても効果は生じない
え 金銭の清算
売却代金の受領などがあった場合
→他の共有者への帰属が認められる傾向がある
詳しくはこちら|共有者単独での譲渡(売却)・抵当権設定の効果(効果の帰属・契約の効力)
詳しくはこちら|共有者単独での用益物権設定・貸借契約(賃貸借・使用貸借)の効果
12 決定した使用方法の事後的変更→変更
使用方法を決定した後から内容を変更することがあります。
この場合の法的な扱いをまとめます。
<決定した使用方法の事後的変更→変更(※6)>
あ 前提事情
共有物の使用方法が共有者間で決定された
→決定内容の変更を希望する共有者がいる
い 決定内容の変更による影響
決定内容を変更すると次のような影響が生じる
ア 金銭的補償を超える損失を生じるおそれがある
イ 分割請求では使用収益を奪われたことの代償を得られない
う 裁判例(『変更』該当)
決定内容の変更について
→『変更』にあたる
=共有者全員の同意が必要である
※東京地裁昭和63年4月15日
※仙台高裁昭和42年2月20日(同趣旨;共有者間の合意内容を,民法252条の準用により,持分の価格の過半数により変更や否認することはできない)
え 学説
(共有者の占有の現状を維持する議論において)
一旦協議で決定した使用方法を変更するのであれば,全員の同意を要すべきことはより強い要請となるであろう
※原田純孝稿『判例タイムズ682号』1989年2月p65
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・金銭の請求(基本)
13 共有持分を取得した者による抵当権消滅請求(参考)
抵当権が設定された不動産の共有持分を取得した者(共有者)が,当該共有持分を対象とした抵当権消滅請求ができるかどうか,という問題があります。結論としては,滌除に関する判例の解釈を当てはめて否定する傾向があります。
詳しくはこちら|共有持分を取得した者による滌除の可否(平成9年判例=否定説)
これは共有物全体の処分(変更)とは違いますが,似ていて間違えやすいので参考として指摘しておきました。
本記事では,共有物の変更行為の内容について説明しました。
実際には,具体的・個別的な事情によって違う法的な分類となることもあります。
実際の共有物の扱いの問題に直面されている方は,本記事の内容だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。