1 共有物の賃貸借契約の締結・更新の管理行為・変更行為の分類

共有物(共有不動産)について賃貸借契約を締結することは非常によくあります。いわゆる収益物件が共有になっている状態のことです。共有不動産の賃貸借に伴う各種行為が、管理行為・変更行為のいずれに分類されるかという問題があります。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借に関する各種行為の管理行為・変更行為の分類(全体)
本記事では共有物の賃貸に関する行為のうち、契約締結や更新に関するものの分類について説明します。

2 賃貸借等の設定に関する令和3年改正の条文

民法の令和3年改正で、共有物を対象とした賃貸借や使用貸借契約の締結に関する規定が新たに作られました。一定の期間を超えない契約であれば、管理行為にあたる、という内容の規定です。一定の期間とは、短期賃貸借の期間と同じ内容になっています(後述)。

賃貸借等の設定に関する令和3年改正の条文(※2)

あ 民法252条1項

共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
・・・
※民法252条1項

い 民法252条4項

共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年
二 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年
三 建物の賃借権等 三年
四 動産の賃借権等 六箇月
※民法252条4項

3 令和3年改正前の賃貸借等の設定に関する問題点

令和3年改正で、賃貸借等の契約締結に関する規定が新たに作られた経緯(目的)は、明確に判断できるようにする、というものでした。というのは、改正前は、賃貸借等の契約締結が変更、管理行為のいずれか、ということを定める条文はなかったのです。

令和3年改正前の賃貸借等の設定に関する問題点

[問題の所在]
・・・
賃借権等の使用収益権の設定は、基本的持分の価格の過半数で決定できるが、長期間の賃借権等については全員同意が必要と解されており、長期間かどうかの判断基準が明確でなく、実務上、慎重を期して全員同意を求めざるを得ないため、円滑な利用を阻害
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p30

では、令和3年改正で賃貸借契約締結を変更、管理行為に明確に判別できるようになったか、というとそうではありません。以下説明します。

4 賃貸借契約の締結(原則=管理行為)

令和3年改正の前から、判例や裁判例が共有物の賃貸借の分類を判断してきました。最初に、基本的な判断をした判例を紹介します。昭和39年判例は、一般論として賃貸借契約の締結管理行為にあたると判断しました。
令和3年改正の規定の中では、短期賃貸借の期間を超えない場合が昭和39年判例に相当するといえるでしょう。

賃貸借契約の締結(原則=管理行為)

あ 基本

共有物を対象として、共有者全員が賃貸人となる賃貸借契約を締結することについて
賃貸借契約の締結の一般論
管理行為に該当する
※最高裁昭和39年1月23日

い 補足説明

「あ」の判例の事案は土地の賃貸借である
判決(判断)の中で、期間や借地法の適用の有無(建物所有目的であるか否か)には触れられていない

5 賃貸借契約の締結(例外・長期間→「処分」)

前述のように、賃貸借契約締結は管理行為であるというのが大原則です。しかし、この原則については、実際には例外の方が多いといえます。
例外の1つ目は、賃貸借の期間が長い場合です。具体的には、短期賃貸借の期間を超える場合は、処分と同じ扱いになります。つまり共有者全員の同意が必要となるのです。
以前は複数の下級審裁判例がそのような判断を示してきました。令和3年改正でその内容が条文になった(明文化した)といえます。

賃貸借契約の締結(例外・長期間→「処分」)

あ 裁判例

短期賃貸借の期間(後記※1)を超える
処分に相当する
=共有者全員の同意が必要である
※東京高裁昭和50年9月29日(土地)
※東京地裁昭和39年9月26日(土地)
※東京地裁平成14年7月16日(前提としての一般論)

い 令和3年改正

「あ」の内容が明文化された
※民法252条4項(前記※2

う 短期賃貸借の期間(概要)(※1)
目的物 上限期間
山林 10年
山林以外の土地 5年
建物 3年
動産 6か月

※民法602条
詳しくはこちら|明渡猶予制度・短期賃貸借|競売→建物の賃借人は一定の保護が与えられる

6 賃貸借契約の締結(例外・借地借家法の適用→「処分」)

例外の2つ目は、借地借家法の適用がある場合です。借地借家法の適用がある場合には、賃貸人サイドから契約を終了させる場合に正当事由が必要です。つまり、そう簡単に終了させられないことになります。そこで、借地借家法の適用がある賃貸借契約の締結は処分行為と同じ扱いになります。つまり共有者全員の同意が必要になるのです。
この点、借地借家法の適用自体はあっても、借地借家法の規定のうち大部分が適用されない、というケースもあります。具体的には一時使用目的の賃貸借や定期借家契約です。このように、借地借家法のコア部分のルールが適用されない場合には、借地借家法の適用なしと同じ扱い、つまり、原則に戻って、管理行為ということになります。
なお、定期借家でも、期間が3年を超えると、短期賃貸借の期間を超えるので、これが理由となって処分行為と同じ扱いになります。
なお令和3年改正の条文では、借地借家法の適用の有無による別扱いについては規定されていません。改正法施行後も、解釈として、従前の判断はいきていると思われます。

賃貸借契約の締結(例外・借地借家法の適用→「処分」)

あ 借地借家法の全面的適用あり(処分相当)

ア 裁判例 借地借家法の適用がある
処分に相当する
=共有者全員の同意が必要である
※東京地裁平成14年11月25日(建物)
イ 法務省解説 借地借家法の適用のある賃借権の設定は、約定された期間内での終了が確保されないため、基本的に共有者全員の同意がなければ無効。
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p30

い 借地借家法の一部の適用なし(管理行為)

ただし、一時使用目的(借地借家法25、40)や存続期間が3年以内の定期建物賃貸借(借地借家法38Ⅰ)については、持分の価格の過半数の決定により可能である・・・
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p30

7 賃貸借の「性質の変更」(民法103条)該当性(参考)

以上のように共有物の賃貸借契約締結は、内容によって、管理処分(変更)かが違ってきます。ところで別の条文(民法103条)でも「変更」(条文上は「性質を変えない」)という言葉が出てきます。
民法103条の性質の変更の解釈としても、(土地については)借地法の適用あり、または民法602条の期間を超える賃貸借は性質の変更ありと判断する、ということになっています。前述の、共有物の変更(処分)(か管理か)の判断基準と同じです。

賃貸借の「性質の変更」(民法103条)該当性(参考)

あ 共有物の行為の区分と「性質の変更」の関係(前提)

共有物の「変更」行為とは、性質を変えることである
民法103条に性質を変える(正確には「変えない」)という記載がある
共有物の「変更」行為の解釈において民法103条の解釈が参考になる
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容

い 賃貸借一般の「性質の変更」該当性

物の賃貸は、それ自体が目的物の性質を変更するものにあたるわけではない
しかしながら、借主の占有利用によって物が滅失・損傷する危険を当然に含むものである。
そのため、その危険の程度によっては所有権の性質(物の支配の内容)を変えるものとして、本条の範囲に属さないとされることがありうる。
また、借主の占有利用を容易に覆すことができない場合も、本人による物支配が実質的に妨げられることになるから、本条の範囲に属さない(注・性質を変える)とされる。

う 不動産の賃貸借の「性質の変更」該当性

とくに不動産の賃貸については、借地借家法の適用を受ける賃貸や民法602条を超える賃借権の設定は、処分行為に準ずるものとして、あるいは不動産所有権の性質を変えるものとして、本条の範囲には属さないとされている
(大阪地判昭36・3・17下民集12・3・522、幾代339以下。また、於保228、石田(穣)395、川井257)。
※佐久間毅稿/於保不二雄ほか編『新版 注釈民法(4)』有斐閣2015年p89、90

え 土地賃貸借の「性質の変更」該当性判断基準

ア 理由部分 ・・・借地法によれば同法所定目的のためにする土地賃貸借の期間は任意に当事者において定められず債務不履行による解除がなされない限り最低二〇年の長期に亘り(同第二条、同第一一条)しかも期間満了の場合も所有者たる賃借人において任意に契約の終了を求めえず借地人より更新請求がある限り正当事由がなければこれを拒絶しえず又しえても地上建物の買取りをせねばならない負担を甘受しなければならないこともあり(前同第四条)又借地権が譲渡され又は転貸され地主がその承諾をしない場合にも地上建物の買取を請求される虞があり、これに右更新請求がなされるのが通常でありこれを拒否するに足る正当事由の存在については相当厳重な解釈が行われ容易に認められないのが借地法存在下の公知の社会事情であること及び民法第六〇二条が土地について五年をこえる賃貸借は処分行為と同視して取扱つている法の趣旨を考え併せば
イ 規範部分 借地法の適用ある賃借権(借地権)或は民法六〇二条をこえる賃借権が或土地に設定された場合はその所有権者自らの使用権能は前者の場合は地上建物の朽廃迄即ち半永久的に又後者の場合は相当長期間に亘りその制限されることとなりその結果所有権はその性質を変更するもの、従つてかかる借地権の設定行為は民法第一〇三条二号によつても許されないと云わざるをえない
※大阪地判昭和36年3月17日

8 変更行為・管理行為の判断の個別性(参考)

ところで、一般論として、共有物の変更・管理(・保存)行為の分類については、行為の類型だけで判定できず、(同じ類型の行為でも)個別的事情で分類が異なることがあります。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
もちろん、共有物を対象とした賃貸借契約の締結についても、個別的事情が判断に影響します。次に説明します。

9 賃貸用建物の賃貸借契約締結を管理行為と判断した裁判例

前述の判断基準によると、借地借家法の適用のある賃貸借契約締結は処分行為に分類されます。しかし個別的事情によって管理行為にあたると判断した裁判例を紹介します。
その事情とは、もともとビルが収益用(第三者に賃貸する目的)であった、ということです。共有者の現実的な利益としては、賃料収入を確保することであり、誰が入居するかということで共有者としての権利を侵害する程度は低い、もっと言えば、むしろ共有者が1人でも反対したら賃貸できない方が共有者全体として不利益になりかねない、という実質的な判断がなされたのです。
個別的事情が反映されたともいえますが、賃貸用建物については広く当てはまる判断であるともいえるでしょう。

賃貸用建物の賃貸借契約締結を管理行為と判断した裁判例

あ 事案

共有不動産を対象とする複数の賃貸借契約が締結されていた
その中には、短期賃貸借の期間を超えるもの、借地借家法の適用されるものが含まれていた

い 原則と例外(概要)

賃貸借契約の締結は、原則として管理行為であるが、短期賃貸借の期間を超える場合または借地借家法の適用がある場合には処分行為に該当する

う 個別的事情による修正の基準

(『い』によると処分行為に該当する場合であっても)
持分権の過半数によって決することが不相当とはいえない事情がある場合には、管理行為にあたる

え 事案のあてはめ(想定していた使用方法)

本件についてみると、・・・本件ビルは、業務用の貸しビルとして設計され、補助参加人が使用中の本件ビル9階の一部を除く本件ビルのその余の部分を補助参加人が訴外会社に一括して賃貸する形式がとられ、訴外会社がこれを各テナントに転貸して賃料収入を得るという方法で使用されてきたものであること、従来も、本件ビルの各共有権の行使は、ビル運用による収益を分かち合うこと・・・を主目的とし、原告は本件ビルを自己使用するのではなく、訴外会社に賃貸し、賃料収入によって収益を得てきたことが認められ、この点からすれば、原告としても、テナントに賃貸すること以外の使用方法は予定していなかったと推認される。

お 事案のあてはめ(賃貸借契約締結の評価)

これを前提とすれば、本件賃貸借契約は、もともと予定されていた本件ビルの使用収益方法の範囲内にあるものということができ、原告及び補助参加人が予定していた本件ビルについての共有権の行使態様を何ら変更するものではない
そして、原告は、自己の持分権に基づき、補助参加人に対する求償権を有すると考えられるから、本件賃貸借契約を有効としても、原告の利益に反するものではない
このように解した場合、賃借人の選定及び賃料の決定に関して原告の意に添わない賃貸借契約が締結される可能性もあるが、不動産の有効な活用という観点からすれば、賃借人の選定及び賃料の決定は、持分権の過半数によって決すべき事項であると考えられる。
したがって、本件賃貸借契約の締結は管理行為に属するというべきであり・・・
※東京地判平成14年11月25日

10 各共有者が使用できる範囲内の賃貸(参考)

共有物の使用方法として、共有者が多数決で、共有者Aが使用できると決めたケースで、Aは自身ではなく第三者に賃貸する、ということを想定します。これは共有者による意思決定の範囲内であるとして、Aが自由に行うことができる、という発想もあります。
しかし、共有者が多数決で賛成した意図は通常、A自身が使用(居住)するというものであるはずです。新たに賃貸することについても意思決定が必要になる、という解釈がとられる可能性も高いと思います。
特に、前述の処分扱いとなる賃貸借については、共有者全員の同意が必要なので、Aの使用を決定した過半数の同意で足りる、ということにはならないと思われます。

各共有者が使用できる範囲内の賃貸(参考)

各共有者が自己の使用し得る範囲で共有物を賃貸することは、各共有者が自由にでき
(例えば、自分に認められた使用期間中他人に利用させたり、分割まで場所を区切って各共有者に使用が認められているそれぞれの土地部分を賃貸する)、
それは共有物の管理ではなく共有物の使用の問題である。
※平野裕之稿/能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 第3版』第一法規2019年p347

11 区分所有建物の共用部分の賃貸借契約締結(参考)

ところで、区分所有建物の共用部分は区分所有者の共有となっていますが、一般的な共有の不動産とは扱いが異なります。共用部分の賃貸借は、期間に関わらず、原則として管理に関する事項として普通決議となります。賃貸借の期間以外の内容によっては変更にあたることもあります。一般的な共有物の変更であれば共有者全員の同意が必要ですが、区分所有建物の共用部分の変更は特別決議、つまり、一定の多数の賛成で可決します。

区分所有建物の共用部分の賃貸借契約締結(参考)

あ 裁判例

(区分所有建物の)共用部分を第三者に賃貸して使用させる場合に必要な決議は、第三者に使用させることにより『敷地及び共用部分の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)』をもたらすときは特別決議、これをもたらさないときは普通決議であると解される
※札幌高裁平成21年2月27日

い 普通決議・特別決議の対象事項と決議要件

ア 普通決議 対象事項=共用部分の管理に関する事項
決議事項=区分所有者及び議決権の各過半数(原則)
※区分所有法18条1項、39条1項
イ 特別決議 対象事項=共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)
決議要件=区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数(原則)
※区分所有法17条1項

12 賃貸借契約の期間満了の際の更新

期間満了の際に、契約を更新するかしないかを決めることは、最初の契約の締結と同じように考えられます。最初の締結が管理行為であれば、更新するかしないかの決定管理行為と考えるのが自然です。

賃貸借契約の期間満了の際の更新

あ 見解

(契約締結が管理行為に該当する賃貸借について)
賃貸借契約の期間満了に際し、契約を更新する、更新しないの意思決定について
→賃貸借契約を締結し直すことになるため、管理行為に該当することになる
※鈴木一洋ほか編『共有の法律相談』青林書院2019年p66、67

い 補足説明

明記はないが締結が管理行為に該当することが前提になっていると思われる

13 農地・森林への利用権設定の特則(概要)

ところで、共有の土地が農地や森林である場合は、地方自治体が利用権(使用権)を設定する、という制度もあります。原則ルールである、共有者による賃借権設定の意思決定に対する特則という位置づけの制度です。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|地方自治体による農地・森林への利用権設定(共有者不確知)

本記事では、共有物(共有不動産)の賃貸借契約の締結・更新が管理行為・変更行為のいずれに分類されるか、ということを説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に共有不動産の賃貸借に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。