【共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類】
1 共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類
共有物(共有不動産)について使用貸借契約を締結することがあります。実際には、共有の土地上に、共有者以外の者(主に親族)が所有する建物が建っている場合に、使用貸借の関係であることが認められるような状況です。
共有物の使用貸借に関して、その契約締結や解約(解除)が、共有物の管理なのか、処分(変更)なのか、という分類が問題となることがあります。
詳しくはこちら|共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容
本記事では共有物の使用貸借に関する行為の扱い・分類を説明します。
2 使用貸借契約締結を処分と判断した判例・学説
共有物の使用貸借契約の分類は、処分と判断した古い判例と平成18年の裁判例があります。
平成18年の裁判例の事案は、建物所有目的の土地の使用貸借であり、かつ、返還時期の定めがないため、長期間継続することになります。
詳しくはこちら|借主の死亡による使用貸借の終了と土地の使用貸借の特別扱い
この裁判例は、長期間継続することを理由として処分であると判断しています。
比較的短い期間(返還時期)が定められていれば、貸主側の負担が小さく、管理となる可能性を示しているともいえます。
使用貸借契約締結を処分と判断した判例・学説
あ 大審院判例
第三者への使用貸借を処分とした
※大判昭和11年6月13日新聞4043号p9(『判例タイムズ706号 臨時増刊 主要民事判例解説』p36〜)
い 下級審裁判例
ア 要旨
共有の土地の使用貸借について、次の事情を理由として処分行為であると判断した
・鉄筋鉄骨コンクリート造の建物の所有を目的とする
・返還時期の定めがない
イ 判決文引用
本件使用貸借契約は、返還時期の定めがない上、本件建物の敷地として本件土地を使用するにとどまらず、本件建物を解体撤去して新たに建築する建物の敷地として本件土地を使用する目的をも含むものであり、しかも、原告が新築を予定しているのは鉄骨鉄筋コンクリート造の堅固な建物であるから、民法602条2号所定の5年を優に超える相当長期間にわたり存続使用させる結果となること、加えて、使用貸借であるから、賃貸借と異なり対価なく無償で使用させるものであること等の事情を考慮すると、原告とAとの間の本件使用貸借契約の締結は、共有者である被告の本件土地に対する使用収益権能を著しく制限するものであって、共有物である本件土地の管理行為とはいえず、その処分行為に該当すると認めるのが相当である。
※東京地判平成18年1月26日
う 学説
共有物に使用貸借を設定することは、その期間、その他の条件にもよるが、共有物を無償で使用させることであるから、原則として管理行為を逸脱するものと解される
※澤野順彦編『不動産法論点大系』民事法研究会2018年p224
3 使用貸借契約締結を管理と判断した裁判例
共有物の使用貸借契約について、内容を評価することなく、つまり一般的に管理であると示した裁判例もあります。ちなみに、これは上告されたので、確定していません。そして上告審ではこの判断については判断していません。
使用貸借契約締結を管理と判断した裁判例
※大阪高裁昭和61年10月30日(未確定・上告審最高裁昭和63年5月20日は判断していない)
4 共同相続人間の使用貸借契約の解除を管理とした判例
次に、共有物の使用貸借契約の解除(解約)が問題となった判例があります。当事者が共同相続人同士の間でしたが、このような特殊事情が反映されているかどうかはこれだけでは断言できません。
なお、共同相続人間である場合には、使用貸借だけでなく賃貸借、寄託契約(の解除)にもあてはまるという見解もあります。
共同相続人間の使用貸借契約の解除を管理とした判例
あ 事案
ア 使用貸借契約
Aが建物を所有していた
AがYに無償で建物を貸していた
使用貸借契約である
イ 相続
Aが亡くなった
相続人X・B・Yが建物を承継した
X・B・Yの相続分(共有持分割合)は各3分の1である
(親族会でXを家督相続人に選定した決議があったが無効と判断された)
ウ 解約
CがBに対して使用貸借の解除(解約)を主張した
い 裁判所の判断(判決文引用)
共同相続人がなす相続財産について存する使用貸借の解除は民法252条本文の管理行為に該当し、共有者(共同相続人)の過半数決を要する旨の原判示は相当である
※最高裁昭和29年3月12日
う 支持する見解
共同相続人の1人あるいは数人が相手方である場合、その者の表決権がないとすると、時には、極めて僅少な相続分を有する者の反対で解約不可能となり不公平な結果を招くこともあろうから、本判決の判示の如く相続分過半数説の方が妥当であろうと思われる
※谷口知平稿『民商法雑誌31巻2号』p224
え 判例の射程(参考)
共同相続人の1人が使用借主である場合に限らず、賃借人、受寄者など相続財産の利用権や占有を有する者である場合に拡張して適用しうるかであるが之は肯定してよいであろう
※谷口知平稿『民商法雑誌31巻2号』p224
詳しくはこちら|共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容
5 「貸借契約」の解除を管理とした判例(概要)
最判昭和39年2月25日は、相続とは関係なく、一般論として「賃借契約」の解除は管理行為であると判断しています。「賃借契約」には使用貸借契約も含まれると考えられます。
詳しくはこちら|共有物の「貸借契約」の解除を管理行為とした判例(昭和39年最判)
6 賃貸借の処分・管理の分類との類似性(参考)
以上のように、使用貸借の契約締結は処分・管理のどちらかとなり、解除(解約)は管理となると、大きくまとめることができます。このことは、賃貸借の契約締結、解除とほとんど同じ考え方、判断であるといえます。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除・終了と明渡請求に関する変更・管理・保存行為の分類
本記事では、共有物(共有不動産)の使用貸借の契約締結や解約(解除)が処分(変更)、管理のいずれに分類されるかということを説明しました。
実際には個別的な事情によって判断は違ってきます。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。