1 協議・決定ない共有物の使用に対し協議・決定を行った上での明渡請求
2 昭和41年判例の引用(概要・前提)
3 令和3年改正後の民法252条1項
4 民法252条1項後段の具体例=決定なしの使用
5 令和3年改正の経緯=使用している共有者の扱い
6 令和3年改正前のいろいろな解釈論(概要)
7 被相続人と同居していた相続人の保護(平成8年判例)
8 配偶者居住権との関係(参考)
9 決定した使用方法の変更(参考・概要)

1 協議・決定ない共有物の使用に対し協議・決定を行った上での明渡請求

共有物(共有不動産)を誰が使用(占有)してよいか、という事項は、共有物の管理方法に該当するので、共有者の持分の過半数で決することになります。
詳しくはこちら|共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容
しかし、実際には共有者は親族同士であることが多く、正式な協議や意思決定をしないまま、共有者の1人が使用していることがよくあります。その場合でも、他の共有者は明渡請求をすることは原則としてできません。
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・金銭の請求(基本)
ここで、明渡請求をする前処理として共有物の使用方法の協議・意思決定をして、その上で明渡請求をする”という発想が出てきます。本記事ではこのような場合の法的判断を説明します。

2 昭和41年判例の引用(概要・前提)

最初に、昭和41年判例の判決文を押させておきます。
結論として明渡請求を否定したものですが、この中で当然に(は明渡請求を認めない)、という記述があり、また、明渡を求める理由を示せば明渡請求を認めるという記述もあります。そこで、協議・意思決定をした上でなら明渡請求が認められるのではないかという発想につながります。

昭和41年判例の引用(概要・前提)

他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。
けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によつて、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。
従つて、この場合、多数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。
※最高裁昭和41年5月19日
詳しくはこちら|共有物を使用する共有者に対する明渡・金銭の請求(基本)

3 令和3年改正後の民法252条1項

この問題について、令和3年改正で、民法に新たなルール(条文の記載)が作られました。
共有物の管理についての意思決定は持分の過半数で決するというものは、改正前から変わりません。この後に(後段として)、共有物を使用する共有者があるときも同様ですることが新たに明記(新設)されたのです。

令和3年改正後の民法252条1項

共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
※民法252条1項

4 民法252条1項後段の具体例=決定なしの使用

令和3年改正で付け加えられた民法252条1項後段が適用される典型例は、共有者による意思決定がないのに(無断で)共有者の1人が共有物を使用(占有)している状況です。
たとえばABCが各3分の1の持分割合で建物を共有していて、ABCで話し合いや意思決定をしていないのに、Aが居住しているという状況です。
この場合には、ABCが話し合いをして、「Bが使用(居住)する」ことにBCが賛成すれば過半数に達するので意思決定として成立します。Aが反対していてもこのような意思決定をすることができる、ということになります。結果的にAは退去することになります。

民法252条1項後段の具体例=決定なしの使用

共有者間の定めがないまま共有物を使用する共有者の同意なく、持分の過半数でそれ以外の共有者に使用させる旨を決定することも当然に可能。
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p31

5 令和3年改正の経緯=使用している共有者の扱い

前述のような、共有者による使用方法の意思決定は、一見当たり前のように聞こえますが、令和3年改正前は、別の見解もありました(むしろ有力でした)。実際に使用(占有・居住)している共有者がいる場合は、これを保護するという解釈もあったのです。保護すべきかどうか、保護する場合、どの程度保護するのか、ということについて統一的な見解はなかったのです。令和3年改正で、解釈が統一されたといえます。

令和3年改正の経緯=使用している共有者の扱い

[問題の所在]
1.共有物を使用する共有者がいる場合に、その共有者の同意がなくても、持分の価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定できるかは明確でない。
→無断で共有物を使用している共有者がいる場合には、他の共有者が共有物を使用することは事実上困難
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p31

6 令和3年改正前のいろいろな解釈論(概要)

前述のように、令和3年改正前は、共有物を使用(占有)する共有者を保護する解釈が一般的となっていました。最高裁判例はなく、多くの解釈が提唱されていました。いろいろな解釈については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|協議・決定ない共有者による共有物の使用の保護(令和3年改正前の解釈)

7 被相続人と同居していた相続人の保護(平成8年判例)

以上の説明は、共有物の使用方法の決定がない時点で共有者の1人が占有している、ということを前提とした一般論でした。理論的には、共有者の1人として共有物を使用している(占有権原は共有持分権である)という状態です。
この点、共有者の1人が、共有持分権ではない占有権原に基づいて占有していることもあります。
まず、平成8年判例が示した、被相続人との間の使用貸借契約に基づく占有というものが挙げられます。この場合は、共有者全員で使用方法の協議・決定をしても、この占有権原(使用貸借)を消滅させることはできません。

被相続人と同居していた相続人の保護(平成8年判例)

あ 平成8年判例(概要)

被相続人と同居していた相続人は、被相続人との間に始期付使用貸借契約が推定される
相続開始後、遺産分割完了までは、他の共有者は明渡(と金銭の)請求をすることができない
詳しくはこちら|被相続人と同居していた相続人に対する他の共有者の明渡・金銭請求(平成8年判例)

い 使用方法の決定をした上での明渡請求

『あ』に該当するケースでは、占有共有者(相続人)は、使用貸借契約による占有権原を有している
共有者が共有物の使用方法の意思決定をしても占有権原を喪失させることはできない

8 配偶者居住権との関係(参考)

共有者の1人が、共有持分権に基づいて占有するのではなく、配偶者居住権に基づいて使用(居住)している場合もあります。この場合も、共有者の協議や決定でこの占有権原(配偶者居住権)を消滅させることはできません。

配偶者居住権との関係(参考)

あ 配偶者居住権と共有者による意思決定

配偶者居住権が成立している場合には、他の共有者は、持分の過半数により使用者を決定しても、別途消滅の要件を満たさない限り配偶者居住権は存続し(民法1032Ⅳ、1038Ⅲ参照)、配偶者居住権を消滅させることはできない。
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」法務省民事局2021年p31

い 遺産分割における配偶者居住権(参考)

遺産分割の方法の1つとして、配偶者居住権を設定する方法がある
詳しくはこちら|遺産分割における用益権設定による分割(現物分割の一種)

9 決定した使用方法の変更(参考・概要)

以上で説明したのは、共有物の使用方法の意思決定がなされていない状況を前提としていました。
これとは別に、いったん共有物の使用方法を決定した後はどうなるか、という問題があります。具体的には、共有者ABCで「Aが使用(居住)する」と決定した後に、「Bが使用する」という決定をする(Aを退去させる)ことができるか、という問題です。
いったん決めた以上、Aの承諾がないと別の意思決定はできない(共有者全員の同意を要する)という解釈もありますが、必ずしもAの承諾が必要なわけではないという解釈もあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有者が決定した共有物の使用方法(占有者)の事後的な変更

本記事では、共有物の使用方法の意思決定がないまま共有者の1人が使用している場合に、他の共有者が協議、意思決定を行った上で明渡請求をした場合の法的判断を説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)の使用・占有(居住)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。