【民法251条の『変更』の意味(『処分』との関係)】
1 民法251条の「変更」の意味(「処分」との関係)
民法251条には共有物に「変更」を加えるには共有者全員の同意が必要であると規定されています。
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容
この「変更」には法律的な「処分」を含むかどうかという解釈の問題があります。本記事ではこれについて説明します。
2 「変更」「処分」の一般的な意味・用法(前提)
「変更」という用語は、複数の意味で使われます。「処分」という用語についても大きく2種類の意味を含みます。これらを理解していないと以下の説明も理解できなくなります。最初に押さえておきます。
「法律的な変更」という用法における「変更」は、民法251条1項の「変更」(共有物に変更を加える)とは意味が違います。
また、一般的な「処分」という用語は、物理的な損傷と取引により権利を失うという2つの意味があります。
「変更」「処分」の一般的な意味・用法(前提)(※1)
あ 「法律的な変更」の意味
「法律的な変更」とは対象物(共有物の全部)の(法律的な意味の)処分である
(民法251条の「変更」とは関係なく、一般的な「法律的な変更」という言葉の意味である)
※川島武宣ほか編「新版 注釈民法(7)物権(2)」有斐閣2007年p452
い 「処分」の意味
「処分」には、物を損傷し、性質を変ずるなどの物質的処分と、他人に譲渡するなどの取引上の処分とを含む
(民法206条の「処分」の意味として)
※「我妻・有泉コンメンタール民法 第6版」
3 民法251条の条文
以下、民法251条の「変更」の意味について説明しますので、最初に条文を押さえておきます。
民法251条の条文
※民法251条1項
4 民法251条の立法経緯
民法251条が作られるプロセスでは、「変更」には物理的な変更だけが想定されていました。つまり法律的な変更(取引による処分)は想定されていませんでした。
民法251条の立法経緯
※川島武宣ほか編「新版 注釈民法(7)物権(2)」有斐閣2007年p452、453
5 民法251条の「変更」に関する判例と学説
民法251条の「変更」の解釈を示す判例では、物理的な変更という意味で使われてきました。
学説も、立法当初は、前記のように「変更」は物理的な変更だけであるという見解が一般的でした。しかしその後、法律的な変更(=取引による処分)も含ませる見解も出てきています。
民法251条の「変更」に関する判例と学説
あ 判例
民法251条に関わる判断をしている判例はいくつか挙げられる(後記※2)
判例は、おおむね共有物を事実上変形させる行為のみを民法251条の「変更」に当たると見ているといえる
※川島武宣ほか編「新版 注釈民法(7)物権(2)」有斐閣2007年p453
い 学説
立法当時は立法経緯のとおりの学説(法律的な変更は民法251条に含めない)が一般的であった
後日の学説は法律的な変更としての処分をも民法251条の「変更」に含ませることとした
※川島武宣ほか編「新版 注釈民法(7)物権(2)」有斐閣2007年p452
6 共有物の「変更」について示した判例
前述のように、判例では(民法251条に限りませんが)共有物の「変更」という用語を、物理的な変更という意味で使っています。具体的な判例をまとめます。
共有物の「変更」について示した判例(※2)
あ 訴え提起に「変更」を用いなかった
訴え提起を「処分行為」であると判示した(「変更」であると判示しなかった)
※大判大正6年12月28日
い 立木伐採を実質的に「変更」とした
ア 判例の判断の内容
共有の立木の伐採(行為そのもの)に他の共有者の同意がなかった
→他の共有者は伐採禁止の請求をすることができる
※大判大正8年9月27日
イ 分析
立木の伐採は物理的な「処分」ではない、かつ、法律的な「処分」ではない
→「変更行為」にあたるとみたと思われる
※川島武宣ほか編「新版 注釈民法(7)物権(2)」有斐閣2007年p453
う 山林伐採を「変更」とした(刑事)
共有の山林の伐採に森林窃盗罪が成立するか否かについて
→山林の伐採を「共有物の変更」であると判示した
※大判昭和2年6月6日
え 農地から宅地への造成工事を「変更」とした
共有者(相続人)の1人が、他の共有者の同意を得ないで遺産(共有)の農地を宅地造成したケースについて
「共有物を変更した」と指摘した
(他の共有者は原状回復を請求できると判示した)
※最高裁平成10年3月24日
7 まったく別の意味で「変更」の語を用いた判例(参考)
以上の説明は、民法251条の「変更」の意味についてのものでした。
ところで、まったく別の意味で(共有物の)「変更」という用語を使う場面もあります。具体的には、共有物の価値代替物という意味で「変更」という用語を使っている古い判例があるのです。民法251条とは関係ないことですし、また解釈の内容も、現在の一般的な解釈とは違っています。「変更」という用語の具体例として参考として紹介しておきました。
まったく別の意味で「変更」の語を用いた判例(参考)
あ 事案
共有者の1人が共有物を売却して代金を受領した
い 判例の引用
「共有者中のある者が共有物を・・・他の物に変更したる場合において・・・爾後変更した他の物の上に共有権を有する」(現代語化した)
※大判明治37年3月16日
う 「変更」の語の用法
共有物の価値代替物という意味で用いている
「法律的な変更」(前記※1)の意味や、民法251条の「変更」とは違う意味で用いている
え 判断内容の補足説明(概要)
売却代金が共有となるという判断は、現在の解釈(判例)とは異なる
代金債権は可分であり、各共有者に帰属する、または受領した共有者が他の共有者に対して不当利得返還義務を負うという解釈が一般的である
また売主以外の共有者の有する共有持分権が当然に移転するわけではない(部分的に他人物売買ということになる)
詳しくはこちら|共有者単独での譲渡(売却)・抵当権設定の効果(効果の帰属・契約の効力)
本記事では民法251条の(共有物の)「変更」の用語の意味について説明しました。
実際には、個別的な事情により、法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。