【共有者単独での用益物権設定・貸借契約(賃貸借・使用貸借)の効果】

1 共有者単独での用益物権設定・貸借契約(賃貸借・使用貸借)の効果
2 共有者単独での用益物権の設定行為の効果
3 単独の共有者による貸借契約(賃貸借・使用貸借)の効果
4 共有者から使用承諾を受けた第三者への明渡・金銭の請求(概要)
5 共有者単独での売却,担保権設定の効果(概要)

1 共有者単独での用益物権設定・貸借契約(賃貸借・使用貸借)の効果

共有物に用益物権を設定する行為は処分行為なので共有者全員の同意が必要です。
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容
共有物を対象とする賃貸借や使用貸借の契約締結は処分(変更)または管理行為となるので,共有者全員または共有持分の過半数の同意が必要です。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
詳しくはこちら|共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類
いずれにしても,用益物権設定や賃貸借・使用貸借契約の締結は原則的に共有者のうち1人だけで行うことはできません。それにも関わらず実際には共有者の1人が他の共有者の関与なくこれらの行為(契約)をしてしまうケースもあります。その場合にはどのような法的効果が生じるのか,について本記事で説明します。

2 共有者単独での用益物権の設定行為の効果

共有者が単独で用益物権を設定した(契約した)としても,これは処分行為なので無効となります。正確にはまず,関与していない共有者に効果は帰属しません。さらに,当該共有者の共有持分についてだけ用益物権が設定される,ということにもなりません。

<共有者単独での用益物権の設定行為の効果>

あ 前提事情

共有者が単独で(他の共有者の関与なく)第三者に対して用益物権を設定する合意(契約)をした

い 共有物(全体)に及ぶ効果(概要)

用益物権の設定は処分行為であるため,共有者単独で行うことはできない
(民法252条によるまでもなく当然に効果が生じないともいえる)
※名古屋地裁昭和61年7月18日(地役権について)
※東京地裁昭和48年8月16日(地役権について)
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容

う 共有持分に及ぶ効果

ア 他の共有者の持分への影響 共有者中一部の者だけがその共有地につき地上権設定行為をしたとしても,これに同意しなかった他の共有者の持分は,これによりその処分に服すべきいわれはない
※最高裁昭和29年12月23日(前提部分として・地上権について)
イ 設定の合意をした共有者の持分への影響 そもそも,共有持分に用益物権を設定すること自体ができない
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)
→設定の合意をした共有者の持分にも効力は生じない

3 単独の共有者による貸借契約(賃貸借・使用貸借)の効果

次に,共有者の1人が他の共有者の関与なく賃貸借や使用貸借契約を締結したとしても,原則としてこれらは変更または管理行為なので無効です。正確には,まず,関与していない共有者に効果は帰属しません。
さらに,当該共有者の共有持分だけを対象とする賃貸借や使用貸借が成立するかというと,これも否定されます。

<単独の共有者による貸借契約(賃貸借・使用貸借)の効果>

あ 前提事情

共有者が単独で(他の共有者の関与なく)第三者との間で賃借契約(賃貸借・使用貸借)を締結した

い 共有物(全体)に及ぶ効果

(共有物を対象とする契約としては)共有物の変更(処分)または管理行為に該当する
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結・更新の管理行為・変更行為の分類
詳しくはこちら|共有物の使用貸借の契約締結・解除(解約)の管理・処分の分類
要件に該当すれば有効である(全共有者に効果が帰属する)
ただし,協議がないことにより効果が否定されることもある
詳しくはこちら|共有物の使用方法の意思決定の方法(当事者・協議の要否)

う 共有持分に及ぶ効果(概要)

共有持分を対象とする賃借権設定(賃貸借)や使用貸借はできない(と,現在では解釈されている)
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)

え 債権契約としての効果

仮に賃貸借・使用貸借契約に関与していない共有者には効果が帰属しない場合でも
契約当事者の間では債権契約として有効である
→債務不履行責任が生じる

4 共有者から使用承諾を受けた第三者への明渡・金銭の請求(概要)

以上のように,共有者間の協議や意思決定をせずに,共有者が単独で賃貸借や使用貸借の契約を第三者と締結した場合には,共有物全体にも,契約当事者の持分だけにも契約の効果は生じません。ただし,これらの契約そのものではなく,共有者の1人が共有物の使用を承諾した状態となります。原則的に,他の共有者は明渡請求をすることはできなくなります。金銭の請求は原則的に認められます。これらについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けて占有する第三者に対する明渡請求
詳しくはこちら|共有者から使用承諾を受けた第三者が占有するケースにおける金銭請求

5 共有者単独での売却,担保権設定の効果(概要)

以上の説明は,共有者が単独で用益物権を設定した,または賃貸借,使用貸借契約を締結したケースについてのものでした。
この点,共有者が単独で共有物(全体)を売却した場合や,担保権を設定した場合には,以上とは異なり,当該共有者の有する共有持分についてだけ効果が生じることがあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有者単独での譲渡(売却)・抵当権設定の効果(効果の帰属・契約の効力)

本記事では,共有者が単独で用益物権の設定や賃貸借,使用貸借契約を締結した場合の法的効果を説明しました。
実際には,細かい事情によって法的扱いが違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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