【賃借権の譲渡・転貸と賃貸人の承諾と無断譲渡・転貸に対する解除】

1 賃借権譲渡・転貸の承諾と解除

賃貸借契約では,賃貸人を賃借人との関係が長期間継続します。
そして,賃借人の対象物の使用態様で損傷・損耗の程度が大きく異なります。
そこで,賃貸人と賃借人の信頼関係が重要です。
そのため,賃貸人の承諾のない賃借権譲渡・転貸については解除が認められています。
これは借地・借家(建物賃貸借)を含めた賃貸借一般で共通することです。

<賃借権譲渡・転貸の承諾と解除(※1)

あ 賃貸人の承諾の必要性

賃借権の譲渡・対象物の転貸について
→賃貸人の承諾が必要である
※民法612条1項

い 違反に対する解除

『ア・イ』の両方に該当する場合
→賃貸人は解除できる
ア 賃借人が無断で賃借権の譲渡or転貸を行ったイ 譲受人・転借人が使用or収益を始めた ※民法612条2項
※大判昭和13年4月16日

2 賃借権譲渡・転貸の承諾のタイミング

賃借権の譲渡や賃貸借の対象物の転貸には,賃貸人の承諾が必要です(前記)。
承諾を得るタイミングは譲渡や転貸の前です。特殊なケースでの例外もあります。

<賃借権譲渡・転貸の承諾のタイミング>

あ 承諾のタイミング

賃借権譲渡・転貸のに承諾がない場合
→解除権が発生する
※民法612条2項

い 事後的な承諾の扱い

賃借権譲渡・転貸のに賃貸人が承諾した場合
→いったん発生した解除権は消滅する

う 借地上の建物の競売・公売の例外

借地上の建物の競売・公売の場合
→借地権の譲渡に該当する
しかし,事後的な許可で足りる
詳しくはこちら|借地上の建物の競売・公売における買受人譲渡許可の裁判の趣旨と特徴
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p244

3 無断の賃借権譲渡・転貸による解除の制限(概要)

無断で賃貸借の譲渡や転貸がなされた場合,賃貸人は契約を解除できます(前記)。
しかし,大きな例外があります。
事情によっては解除が認められないのです。
実際には解除できないことは結構多いです。

<無断の賃借権譲渡・転貸による解除の制限(概要)>

あ 原則

無断譲渡・転貸があった場合,賃貸人は契約を解除できる(前記※1

い 解除の制限

背信行為と認めるに足りない特段の事情がある場合,解除は認められない
※最高裁昭和28年9月25日
詳しくはこちら|無断転貸・賃借権譲渡による解除の制限(背信行為論)

4 経営委託や会社の支配権の変動と転貸等(概要)

形式的には賃借権譲渡や転貸にはあたらないけれど,実質的にこれらと同じような状況になることがあります。
具体的には,店舗(建物)の賃貸借における,経営委託契約や,賃借人の会社の構成員(株主)や役員が大きく変わったというような状況です。
いずれの場合も,実質・実態が重視されますが,これらに関する特約があるかどうかでも結論(賃借権譲渡や転貸にあたるかどうか)は違ってきます。
それぞれ別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|営業用建物賃貸借における経営委託と転貸
詳しくはこちら|会社の支配権や役員の変動を禁止する特約(COC条項)と解除の効力

5 解除権の時効消滅(概要)

解除権は,時効で消滅することがあります。
無断での賃借権譲渡に限らず,解除権について一般的にいえることです。
ところで,無断での賃借権譲渡や転貸では,解除せずに明渡請求をする方法があります(後記)。
解除しない方法については(当然ですが)解除権の消滅時効は適用されません。

<解除権の時効消滅(概要)(※2)

あ 解除権の時効消滅(概要)

解除権自体が時効により消滅することがある
詳しくはこちら|解除権の消滅時効と解除により生じる債権の消滅時効

い 所有権による明渡請求との関係

所有権に基づく明渡請求について
→時効消滅することはない(後記※3

6 賃借権無断譲渡と所有権に基づく明渡・損害賠償請求

承諾なしで賃借権譲渡や転貸があった場合の対応はほかにもあります。
賃貸人ではなく所有者としての明渡や損害賠償の請求です。

<賃借権無断譲渡と所有権に基づく明渡・損害賠償請求(※3)

あ 賃借権の無断譲渡(前提事情)

賃借人BはCに対して賃借権を譲渡or転貸した
Cが目的物に入居した(使用・収益をした)
賃貸人Aは賃借権譲渡or転貸を承諾していない

い 解除なしの明渡請求

賃貸人は占有者Cに対して『所有権に基づく明渡請求』ができる
『解除』は必要ではない
※最高裁昭和26年4月27日
※最高裁昭和26年5月31日
※最高裁昭和41年10月21日

う 解除権の時効消滅との関係

解除権自体が時効消滅した(前記※2)場合でも
→(解除しないので)明渡請求(い)は可能である
※最高裁昭和55年12月11日

え 損害賠償請求

賃貸人は占有者に対して『不法行為による損害賠償請求』ができる

7 借地上の建物の譲渡と借地権譲渡(概要)

以上の説明は賃借権譲渡についてのものでした。
賃借権譲渡というとやや抽象的です。
賃借権譲渡の典型的な具体例は,借地上の建物の譲渡です。
借地(権)は経済的価値が大きい財産です。
うっかりした行為で解除されてしまった場合のダメージがとても大きいです。
注意が必要です。

<借地上の建物の譲渡と借地権譲渡(概要)>

あ 前提事情

『借地人=建物所有者』Aが,建物をBに譲渡(売却)した
地主の承諾は得ていない

い 借地権の譲渡

借地権もAがBに売却=譲渡したことになる

う 解除と損害賠償

借地契約を解除される
明渡・損害賠償を請求される
※民法612条2項
詳しくはこちら|借地上の建物の譲渡は借地権譲渡に該当する

え 借地権の譲渡許可(参考)

借地権(土地の賃借権)譲渡について地主が承諾しない場合
地主に変わって裁判所が許可を与える制度がある
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判の趣旨と機能(許可の効力)
借地権以外の賃借権(建物賃借権など)についてはこのような制度はない

8 URの定期借地における譲渡承諾(参考)

ところで,URの商品として「UR定期借地」というものがあります。URが所有する土地上の建物(住居)を定期借地権つきで販売しているものです。URが地主(土地の賃貸人)になっているという構造です。この場合には,一定の条件を満たせば借地権の譲渡を承諾する決まりになっています。そこで通常は,地主が承諾してくれないから裁判所の許可を求めるということにはなりません。
法律的な話しから離れますが,参考として紹介しました。

本記事では,賃貸借契約では賃借権譲渡や転貸が禁止されていることや,無断でこれらを行ったことによる解除について説明しました。
実際には,個別的事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃貸借契約における賃借権譲渡や転貸に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【夫婦間の共有物分割請求の可否の全体像(財産分与との関係・権利濫用)】

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