1 訴え提起前の和解の債務名義(基本)
2 訴え提起前の和解における争訟性(概要)
3 訴え提起前の和解における互譲の要否
4 訴え提起前の和解の申立手数料
5 訴え提起前の和解の悪用と対策
6 訴え提起前の和解と本人の出席
7 訴え提起前の和解の所要期間(概要)
8 訴え提起前の和解と執行証書の比較

1 訴え提起前の和解の債務名義(基本)

一般的に「合意」を書面にしておくと記録,証拠となるので有用です。
合意内容を強制執行するという場合に書面の種類で違いがあります。
例えば建物を明け渡すという内容を強制執行するケースを考えます。
通常の私文書で調印した場合は,明渡をしない場合に,この書面を元に明渡の強制執行はできません。
強制的に明渡を実現しようと思ったら,訴訟を提起して,勝訴判決を取って,その後強制執行を申立てることになります。
しかし,訴え提起前の和解がしてあれば訴訟をしなくても強制執行ができます。
なお,かつては起訴前和解という名称でした。その後,訴え提起前の和解に改められています。

訴え提起前の和解の債務名義(基本)

あ 債務名義の機能

訴え提起前の和解について
当事者が協力(合意)しているときに使える
債務名義の1つである

い 債務名義の機能(概要)

強制執行を申し立てることができる
訴訟提起などの必要はない
※民事執行法22条7号,民事訴訟法267条
詳しくはこちら|債務名義の種類|確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)など

う 公正証書との比較

公正証書(執行証書)も債務名義となる
しかし,金銭・有価証券の交付に限られる
訴え提起前の和解にはこのような制限はない
例=建物の明渡請求も可能である

2 訴え提起前の和解における争訟性(概要)

一般的な訴訟では,申し立てるためには争訟性が必要です。当事者の間で法的な意見が対立していないと,訴訟を利用できないというルールです。
訴え提起前の和解は,当事者同士が和解をするために申し立てるので,事前に,(ほぼ)合意が成立していることが前提となっています。そこで,争訟性は大幅に緩和されています。実際には対立がなくなった(合意に至った)段階でも利用することができます。
詳しくはこちら|訴え提起前の和解で必要とされる争訟性

3 訴え提起前の和解における互譲の要否

訴え提起前の和解は,ネーミングに「和解」という用語が入っています。そこで,民法上の和解と同様に互譲が必要であるという発想もあります。
しかし,判例では互譲は不要とされています。要するに当事者の間の対立が明確に具体化していなくても訴え提起前の和解を利用できるということです。

訴え提起前の和解における互譲の要否

あ 民法上の和解(比較)

民法上の和解について
当事者の双方が譲歩すること(互譲)が必要である
※民法695条

い 訴え提起前の和解

訴え提起前の和解について
民法上の和解(あ)と同視する必要はない
訴訟予防的機能が重視される
→互譲は要しない
※大判昭和15年6月8日
※兼子一ほか『条解民事訴訟法 第2版』弘文堂2011年p1504
※賀集唱ほか『基本法コンメンタール民事訴訟法2 第3版追補版』日本評論社2012年p344

4 訴え提起前の和解の申立手数料

訴え提起前の和解の申立手数料は一律に2000円です。他の類似の手続よりも大幅に安くて済むのです。

訴え提起前の和解の申立手数料

あ 訴え提起前の和解の申立手数料

一律に2000円
内容・規模に関わらない
※民事訴訟費用等に関する法律3条,別表第一『9』

い 公正証書の作成手数料(参考)

公正証書の作成手数料について
→「法律行為の目的の価額」によって異なる
例=代金債権が1〜3億円の場合
→手数料は8万2000円が基準となる
※公証人手数料令9条別表『8』

5 訴え提起前の和解の悪用と対策

訴え提起前の和解は,1回だけで手続が終わり,和解調書(債務名義)が作られるという特徴があります。そのため,本人が知らない間に和解調書が作られるという悪用(不正な手法)がなされたことがありました。そこで,訴え提起前の和解の手続では,本人の意思(関与)を確認する工夫が取られています。

訴え提起前の和解の悪用と対策

あ 手続の悪用の実例

和解期日に当事者として他人が替え玉になって出頭した事例や,相手方代理人の委任状の有効性,代理権の不備が問題にされた事例がある
債権者が債務者の白紙委任状を利用する等して代理人を選任し,債権者側で債務名義を取得する場合のトラブルがある。

い トラブル対策

ア 本人への呼出状・和解条項送付 呼出状と同時に,相手方に対し,申立人が提出した和解申立書副本和解条項及び和解条項についての注意書きと疑問がある場合の連絡方法を書いた「事務連絡」という文書を同時に送付している。
期日指定前に相手方に代理人がついている場合にも,これらの呼出状等の送付は相手方本人に対して行う。
・・・相手方に事件の内容と和解条項をあらかじめ知らせ,和解の真意を確認するとともに,本人出頭の場合に本人であることを確認し,代理人出頭の場合に代理権の授与に問題が生じない配慮をしているのである。
イ 代理人への確認資料提出の要請 相手方の代理人には,相手方本人宛の呼出状を持参してもらい,委任状には,和解条項(修正したときは修正後のもの)を添付し,本人印で契印したものを求める。
和解申立時から相手方に代理人がついている場合には,本人の印鑑証明書を提出してもらって委任状の印影と照合することもある。
※簡裁民事実務研究会編『改訂 簡易裁判所の民事実務』テイハン2005年p459
※京野哲也著『クロスレファレンス 民事実務講義 第2版』ぎょうせい2015年p29

6 訴え提起前の和解と本人の出席

訴え提起前の和解は裁判所の手続です。裁判所の手続は,代理人弁護士だけが出席すればよいのが通常です。しかし,前述のように,本人が知らない間に和解調書が作られてしまうことを防ぐために,代理人がついていても当事者本人の出席が求められることもあります。
とはいっても,本人の出席が必須,というわけではありません。実際に代理人弁護士の出席だけで足りることが多いです。つまり,前述のような書面の提出による本人の意思確認で済ませることが多いということです。

訴え提起前の和解と本人の出席の要否

あ 原則(一般論)

代理人弁護士が出席する場合
→本人の出席は不要である

い 例外

裁判所の判断により
代理人ではなく本人の出席が命じられることがある
※民事訴訟規則32条

7 訴え提起前の和解の所要期間(概要)

訴え提起前の和解によって債務名義を獲得するまでに,通常は1〜2か月を要します。ケースによってはそんなに待っていられないことも多いです。
そのような場合には,いろいろな工夫でこの所要期間を短縮することができます。

訴え提起前の和解の所要期間(概要)

あ 原則

訴え提起前の和解の申立から和解調書獲得まで
→1〜2か月程度を要する

い 短縮する工夫

ア 空いている簡裁へ申し立てるイ 当事者双方が簡裁に出頭する 詳しくはこちら|訴え提起前の和解の手続の流れと申立の方式・工夫(双方出頭方式)

8 訴え提起前の和解と執行証書の比較

訴え提起前の和解と執行証書(公正証書)はとても似ています。
債務名義を獲得するという目的が同じだからです。しかし,いろいろな違いもあります。違いをまとめておきます。

訴え提起前の和解と執行証書の比較

あ 共通点

いずれも債務名義になる
詳しくはこちら|債務名義の種類|確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)など

い 相違点
比較項目 訴え提起前の和解 執行証書
内容の限定 なし 金銭・有価証券の給付のみ
作成者(手続を行う機関) 簡易裁判所 公証人(公証役場)
争訟性 一定程度必要 不要
費用 一律2000円(安い) 規模に応じた金額

本記事では,訴え提起前の和解の基本的なところを説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に裁判所による手続を検討していて不安をお持ちの方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。