1 共有物分割請求における権利濫用の主張
2 共有物分割における権利濫用主張の位置づけと傾向
3 共有物分割請求の権利濫用が問題となる典型
4 共有物分割請求が権利の濫用と評価される類型
5 共有物分割をすることの不合理性の具体的内容
6 権利濫用を肯定した裁判例
7 実質的に権利濫用を肯定した裁判例
8 権利濫用・信義則違反を否定した裁判例

1 共有物分割請求における権利濫用の主張

共有物分割請求権は,これが行使されると最終的には裁判所が何らかの形で分割する(共有を解消する)ことになります。共有者には,分割の自由が保障されています。
詳しくはこちら|共有の本質論(トラブル発生傾向・暫定性・分割請求権の保障)
しかし,例外的に共有物分割請求が認められないこともあります。権利の濫用などを理由として裁判所が共有物分割を認めないことがあるのです。
本記事では,共有物分割請求自体を否定する権利濫用その他の理論について説明します。

2 共有物分割における権利濫用主張の位置づけと傾向

もともと,共有という状態は望ましいものではなく,原則形態である単独所有を実現するまでの暫定的な権利形態とされています。別の角度からいうと,共有物分割請求は極力尊重されるということです。これを裏返すと,権利の濫用のような例外的な事情がある場合にだけ,共有物分割請求が否定されるということになります。
実際に,共有物分割を請求された側(共有物分割訴訟の被告)が権利の濫用を主張するという実際のケースは多いです。

<共有物分割における権利濫用主張の位置づけと傾向>

あ 分割の自由の保障(前提・概要)

共有の状態は暫定的・経過的な位置づけである
→分割の自由は強く保障される
詳しくはこちら|共有の本質論(トラブル発生傾向・暫定性・分割請求権の保障)
共有者が共有物分割を請求しさえすれば,裁判所は分割を実現することになる(分割類型の選択をする)
詳しくはこちら|共有物分割訴訟|形式的形成訴訟|当事者の主張の位置付け

い 共有物分割請求における権利濫用の位置づけ

共有者が共有物分割を請求した場合に,請求された側(被請求者)がこれを止めるには権利の濫用くらいしか手段がない
(権利の帰属(原告の共有持分権を否定するなど)は除く)

う 共有物分割請求における権利濫用の主張の実情

共有物分割請求訴訟において
被告が,原告の分割請求は権利の濫用にあたると主張することが少なくない
※秦公正稿『共有物分割の自由とその限界』/『現代民事手続の法理−上野秦男先生古稀祝賀論文集』弘文堂2017年p120

3 共有物分割請求の権利濫用が問題となる典型

実際に権利濫用と認められるかどうかは別として(後述します),権利濫用ではないか,という発想が生じる類型(パターン)はある程度決まっています。
相続において共有のままという内容で遺産分割を終えた(共有とする内容の遺言も含む)ケース,夫婦間で住居(などの財産)が共有となっているケース,共用の通路が共有となっているケースです。これらのケースでは背景にある事情から,分割請求をするのは不当(非常識)だと思えることが多いのです。

<共有物分割請求の権利濫用が問題となる典型>

あ 遺産流れ

遺産分割が完了し,建物が複数の相続人の共有となった
相続人(共有者)の1人が当該建物に居住している

い 夫婦間の共有

不動産が夫婦の共有となっている(夫婦共有財産)
→共有物分割と(離婚に伴う)財産分与が重複する状態となっている

う 共有(共用)通路

通路として使用する土地が共有となっている

4 共有物分割請求が権利の濫用と評価される類型

実際に共有物分割請求が権利濫用と認められるケースは多くあります。権利濫用が認められた理由は大きく2つに分類できます。
分割する(単独所有にする)こと自体が不合理である,というものと,分割を請求する者に着目して,その目的が不正・不当であるというものです。

<共有物分割請求が権利の濫用と評価される類型>

あ 分割することの不合理性

共有関係の目的,性質などに照らして,分割の自由の貫徹が著しく不合理である
具体的内容は後記※4のとおりである

い 請求者の加害目的や意思

分割請求が請求権者の加害目的ないし意思によりなされた
※秦公正稿『共有物分割の自由とその限界』/『現代民事手続の法理−上野秦男先生古稀祝賀論文集』弘文堂2017年p126

5 共有物分割をすることの不合理性の具体的内容

共有物分割をすること自体が不合理であるという事情があると,分割請求が権利の濫用であると認められる方向に働きます。要するに,分割することが望ましくないという事情のことです。多くの事情を総合して判断(評価)しますが,判断に影響を与える事情のカテゴリはある程度決まっています。

<共有物分割をすることの不合理性の具体的内容(※4)>

あ 建物への居住の経緯・現状

(共有建物の分割において)
共有建物の居住利用などが前提とされたこと
共有建物が依然として生活の本拠とされている(=転居の事実がない)

い 共有通路の使用目的・性質・現状

(共用する共有通路(道路)において)
通路としての使用目的,通路という性質の有無
通路として現に利用されていること(=他の通路の設置・利用がされていないこと)

う 現在の使用者の意思

共有物を現在使用する者(分割を求められた者)に,今後も同様の使用を継続する意思がある
例=共有建物に居住する意思,共用通路として使用する意思

え 退去を強制される状況

ア 分割類型の予測
(共有建物の分割において)
現物分割,全面的価格賠償の方法を選択できない=換価分割の方法しかとれない場合
→分割を求められた者(現在の使用者)が退去を余儀なくされる
イ 被請求側の転居可能性
現在の使用者(分割を求められる者)の年齢,収入,労働能力などによる経済状態を基礎として,転居・代替住居の取得をすることが不可能(困難)である

お 請求者側の必要性

分割を求める側の事情の経済状態などから,即時分割(金銭取得)の必要性が低い
分割を求める側に,分割を貫徹する強い意思がない

お (夫婦の)離婚の際の財産分与の予測

(夫婦共有財産の分割において)
離婚へ向けた行動がない(弱い)
婚姻関係の破綻がない(弱い)
財産分与となった場合に当該共有物を被請求側が取得すると予測される
※秦公正稿『共有物分割の自由とその限界』/『現代民事手続の法理−上野秦男先生古稀祝賀論文集』弘文堂2017年p126,127

6 権利濫用を肯定した裁判例

以下,実際の共有物分割訴訟で裁判所が権利の濫用(やそれ以外の理由)により分割請求自体を認めるかどうかを判断した裁判例を整理します。
まずは,裁判所が権利の濫用(そのもの)を認めた裁判例です。

<権利濫用を肯定した裁判例>

あ まとめ
裁判例 共有物 共有者の関係性 特殊事情
東京地裁平成3年8月9日 土地・建物 遺産分割後の相続人(遺産流れ) 先行する遺産分割で占有者は占有の対価を実質的に負担している,この時点では全面的価格賠償の判例がなかった(ので選択できなかった)
東京地裁平成8年7月29日 マンション 遺産分割後の相続人(親子・遺産流れ) 占有者は60歳以上,原告は医師
東京高裁平成25年7月25日 マンション 遺産分割後の相続人(遺産流れ) 先行する遺産分割協議では占有者の居住を前提としていた
大阪高裁平成17年6月9日 土地・建物 夫婦 本来は財産分与で占有者(妻)が取得する見込み,居所の確保は原告う(夫)の義務である(※1)
東京地裁平成26年4月25日(※2) マンション 夫婦 婚姻関係は破綻していない
東京地裁平成27年5月27日 マンション 持分購入者と他の共有者 ※2の控訴審係属中に共有者の1人が持分を売却した→持分の買主が新たに共有物分割訴訟を申し立てた
福岡高裁平成19年1月25日 通路(土地) 隣接地の所有者
い 補足説明

※1の裁判例について
別の記事で説明している
詳しくはこちら|夫婦間の共有物分割は権利濫用となることもある(財産分与とは違う)

7 実質的に権利濫用を肯定した裁判例

次に,裁判所が権利の濫用(そのもの)は認めなかったけれど,他の理由で分割請求を否定したという裁判例です。

<実質的に権利濫用を肯定した裁判例>

あ まとめ
裁判例 共有物 共有者の関係性 特殊事情 裁判所の判断
横浜地裁昭和62年6月19日(※5) 通路(土地) 隣接地の所有者 民法257条,676条に準じ,その権利に内在する制約として・・・共有物の分割を求めることができない
東京高裁昭和57年12月27日 土地の賃借権 土地上には原告・被告の単独所有・共有・区分所有の建物が存在する 事柄の性質上,特段の事由のない限り,敷地の賃借権の分割を請求することは出来ない
い 補足説明

※5の裁判例について
別の記事で説明している
詳しくはこちら|共同通路=共有の私道×共有物分割禁止|3つの見解

8 権利濫用・信義則違反を否定した裁判例

最後に,当事者(被告となった共有者)が権利の濫用信義則違反を主張したけれど裁判所がこれを認めなかった(共有物分割を実現した)裁判例です。
結局,分割請求自体を否定する事情のパターンはある程度決まっているけれど,最終的な判断は個別的事情によって違ってくるということが分かります。

<権利濫用・信義則違反を否定した裁判例>

あ まとめ
裁判例 共有物 共有者の関係性 特殊事情
大阪地裁昭和41年2月28日 建物 遺産分割後の相続人(遺産流れ) 過去に立退料の授受があった
東京地裁平成4年2月28日(※3) 通路(土地) 隣接地の所有者 裁判所は現物分割を選択した
東京高裁平成4年12月10日(※6) 通路(土地) 隣接地の所有者 ※3の控訴審,裁判所は現物分割を選択した(維持した)上で,通行地役権を認めた
東京地裁平成3年10月25日(※7) 通路(土地) 隣接地の所有者 被告は信義則違反を主張したが裁判所は認めなかった(分割を実現した)
い 補足説明

※6,※7の裁判例について
別の記事で説明している
詳しくはこちら|共同通路=共有の私道×共有物分割禁止|3つの見解

本記事では,共有物分割請求を否定する権利濫用その他の理論について説明しました。
実際には,個別的な事情によって結論は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。