1 債権回収は最初の『方針決定』で結果が大きく違ってくる|優先順序の設定
2 交渉開始前の準備|請求権の確認・相手の財産把握・詐害行為対応
3 交渉開始前の準備|相手の財産調査
4 交渉開始前の準備|財産の保全(仮差押・仮処分)
5 『請求する』のは書面or電話|通知書・督促状・電話督促
6 『請求する』手段の選択|内容証明・普通郵便・電話督促
7 交渉のポイント|最適な最終着地点を特定・手続の組み合わせを設定する
8 債権回収の手続における債務名義取得
9 債権回収における強制執行(差押)・担保権実行・任意売却

みずほ中央では,東京・埼玉の企業・会社様の『債権回収』を扱っております。
弁護士の実戦経験から,債権回収の手法や弁護士を利用するメリットを説明します。

1 債権回収は最初の『方針決定』で結果が大きく違ってくる|優先順序の設定

(1)債権者サイドの優先順序を決めておく

債権回収がうまくいくかどうかは,最初の(債権回収手続全体の)『方針の検討→決定』にあります。
最適な方針は,具体的状況によって違います。
相手(債務者)側の状況も重要ですが,債権者側のニーズの優先順序・状況もしっかりと考慮に入れないと最適化はできません。
原則として最優先は『回収額・回収率』です。
しかし,他のニーズとの『優先順序』を変えて設定した方が良い,ということもあります。
方針選択について説明します。

<債権者側のニーズ(優先順序)>

ア 回収可能性(回収額)
イ スピード(所要期間)
ウ 費用
エ 相手へのインパクト(その後の継続取引)
オ 周囲へのインパクト(イメージ・後述)

(2)『債権回収』→周囲へのインパクト|信用というプラスイメージもある

例えば『弁護士からの通知』の時点で一定の『インパクト』があります。
回収実現,というプラス効果がある一方,『強硬』と思われることを心配する債権者もいらっしゃいます。
しかし,債務者やその他の方が生じるイメージには『信用・信頼』というものもあります。

<債権回収の徹底に対するイメージ・影響>

あ プラスイメージ

『債権管理をしっかりと行っている』

い その影響

関係者への報告・説明が可能→次のような影響が生じる
ア 金融機関からの評価が上がる
イ 顧客・取引先・株主からの評価が上がる
ウ 税務上(税務調査で)損金処理が否認されるリスクを生じさせない

(3)債権回収の『方針・方向性』を決める

以上のような債権者側の事情によって,具体的な手続選択の方針を決めます。

<手続選択の方針の典型例>

ア 交渉限定(裁判なし)
イ 交渉優先
ウ 回収額優先

この大まかな『方針』をハッキリとさせれば,より具体的な遂行する手続の選択が適切にできるようになります。
具体的な手続・アクションの組み合わせ・選択については後述します(後記『7』)。

2 交渉開始前の準備|請求権の確認・相手の財産把握・詐害行為対応

(1)請求権(債権)の確認

交渉開始のための準備としては,当然ではありますが『請求権』の確認,があります。
実際には債務者側と『見解の違い』がある→債務者が支払義務がない,と主張する,ということもあります。
延滞の理由が,単に『支払う資金がない』とは限らないのです。
詳しくはこちら|債権回収の準備・交渉|契約書などの書面のチェック

(2)取引を止める・リースの引き上げ

状況によっては,初動段階で『継続的な取引を中止する』方が良い場合もあります。
例えば,納入をやめる,とか,リース物件を引き上げるなどです。
『債権回収』の前処理として『債務が増え続けることを防ぐ』という趣旨です。
ここで重要なことは,解除や契約終了の事由として定められた条項の確認です。
『解除・終了事由に該当しないのに納入しない』場合,逆に『納入義務の不履行』として賠償責任が生じます。
また,リース物件の引き上げについても『契約の解除・終了』に関する契約条項をしっかりと確認します。
いずれにしても,条項によっては『相手の経済状態が悪化している』ことの確認が必要になるのです。
詳しくはこちら|債権回収としての『引き上げ』|法的リスク予防法|民事・刑事の違法性

(3)『壁』=財産の把握+資産逃し|その対策

一般的な債権回収の『壁』=回収不能となるポイントをまとめます。

<通常の請求・回収方法の問題点>

あ 財産を把握できなくなる

相手の財産の把握ができていない
→『無い袖は振れない』と言われてシャットアウトされる
→次の『強制手段』=差押が取れない

い 資産を逃される

相手の経済的危機+対立的状況
→資産の所在を隠される・資産自体を隠される(移動させる)

逆に言えば,債権回収の実現のためには,この2つの問題点を解消することがカギになります。

<債権回収実現のカギ>

あ 相手の財産を把握する

財産の調査

い 資産をロックする

仮差押の手続

(4)財産逃し→詐害行為取消訴訟or自主的な『戻し』を待つ

さらに『既に財産逃しをされた』という場合は,回復方法がいくつかあります。
しっかりと検討・判断すべきです。

<詐害行為=財産逃し,への対応>

あ 詐害行為取消訴訟

処分禁止の仮処分(登記される)→詐害行為取消訴訟提起

い 自主的な『戻し』を待つ

ア 税務署への通告を行う
→『贈与税』や『法人税』課税を嫌って『戻す』ことがある
イ 沈黙で待機(愛しい妻作戦)
→敢えて『知らないふり』をする→相手が油断する

実務では,『安易に債務者が財産を逃す』ことがよくあります。
財産の規模・内容によっては,税務署から,思わぬ課税を指摘されます。
課税を避けるために,例えば,不動産登記を『錯誤』を原因として『戻す(抹消登記)』ということもよく生じるのです。
関連コンテンツ|実績|財産逃し→『自発的に戻す』のを待って差押→2800万円回収

3 交渉開始前の準備|相手の財産調査

債権回収で『回収の実現可能性』に直結するのが『相手の資産・財産の把握』です。
既に担保を設定して,『確保』している場合もありますが,『担保なし』『担保があっても価値が不十分』ということも多いです。
資産の調査は多くの方法があります。

<相手の財産調査>

あ 平常取引時に情報取得

相手の取引金融機関→預貯金の所在
相手の取引先→売掛債権

い 弁護士会照会の利用
う 財産開示手続
え 債権回収の交渉の中で情報開示を受ける

担保設定を受ける,という方法もある

適切な方法を選択し,スピーディーに情報を取得・把握することが回収の実現につながります。
危機時・対立時であっても,債権回収に慣れた弁護士であれば調査により相手の資産を把握できる可能性が高まります。
詳しくはこちら|通常取引の中での資産状況の把握
詳しくはこちら|弁護士による相手の情報調査|職務上請求・弁護士会照会
詳しくはこちら|裁判所による債務者の財産調査(財産開示手続の全体)
なお,財産開示手続は,純粋に財産に関する情報を得るために用いるとは限りません。財産開示手続をきっかけとして交渉による回収を実現する方法もあります。実例について,別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|債権回収での財産開示手続の工夫や活用の実例

4 交渉開始前の準備|財産の保全(仮差押・仮処分)

(1)事前に不意打ち的に財産をロックする

交渉開始=対立状況,となる前には『強力な方法』が取れます。
相手の資産を逃されることを防ぐために民事保全(仮差押・仮処分)を活用することです。
裁判所を利用した強制的な手続です。
仮差押を実現するためには,債権自体の証拠と『相手の経済状態が悪化している』証拠が必要となります。
仮差押の申し立ては確実な資料の収集・整理をスピーディーに行う,ということがとても重要です。

(2)仮差押→タイミングが重要

仮差押を申し立てるタイミングで結果が大きく違ってきます。
特に預貯金については常時残高が変わります。
どのようなタイミングで申し立てるとベストか,という検討が不可欠です。
残高が多い時を狙うのが一般的です。
逆に『低い時』を狙う作戦もあります。
詳しくはこちら|預貯金差押執行・効果|範囲・時間的前後関係|申立タイミング・作戦

(3)仮差押→和解促進作用がある

仮差押などの手続は『和解促進作用』という副作用もあります。
裁判官や金融機関が『和解を後押し』してくれる状況が生じます。
これも踏まえて作戦を決定すると良いのです。
詳しくはこちら|保全手続×和解|審尋期日/執行後|効力・解釈|和解促進作用
詳しくはこちら|預貯金仮差押×インパクト|実例|解放金の弱点×和解促進作用

(4)相手に弁護士が付いていると財産逃しリスクがあるが,意外と逃されないケースも多い

債務者側としては,仮差押を受けないために財産を逃しておくという対応をすることが多いです。
まさに,一刻の違いによって結果が大きく変わる=『早さの勝負』ということができます。
ところで,債務者側にアドバイスする弁護士によっては,(あまり慣れていないと)適切なアドバイスがされない,ということも多いです。
財産逃しをアドヴァイスしない,ということもあり得ます。
ですから,相手に弁護士が付いていても,最適・最善の手段を試行することは有意義です。

(5)連帯保証人の財産についても仮差押可能

回収のために注目するのは『債務者』だけではありません。
連帯保証人についても,『債務者』と同様の回収方法を取ることができます。
詳しくは別に説明します。

5 『請求する』のは書面or電話|通知書・督促状・電話督促

債権回収の最初の段階では『相手に通知書を送付する』のが一般的です。
単純ではありますが,いろいろな効果があり,また個別的な設定の幅も広いです。
次にまとめます。

<書面による請求の効果>

あ 消滅時効の進行を止める効果

『暫定的な時効中断』と呼ばれる効果です。
消滅時効の完成が近い場合には意識的にタイミングを図るべきです。
ただし『時効の中断』の効果は一時的です。
6か月以内に回収を実現するか,提訴等の手続を取る必要があります。
詳しくはこちら|時効完成を避ける緊急時は『催告』で6か月延長できる

い プレッシャー→相手の『返済の優先順位』を上げる

強い『回収への姿勢』を伝えることができる
《具体的工夫》
・弁護士名で作成・発送する
・内容証明郵便を使う
・法的措置(提訴)の予告を記載する
・期限を設定(明記)する
・『相殺の意思表示』を記載する(※1)

※1 相殺の意思表示
詳しくはこちら|相殺のまとめ|機能・要件・効果・デメリット・相殺契約

6 『請求する』手段の選択|内容証明・普通郵便・電話督促

『請求する』通知では内容証明郵便を用いるのが一般的です。
ルールがあるわけではないですが,次のようなメリットがあるのです。

<内容証明郵便のメリット>

あ 記録化・証拠化

時効中断・遅延損害金の発生

い プレッシャー

『回収への姿勢』をアピールする(前述)

逆に,『内容証明郵便を使わないメリット』もあります。
『使わないメリット』の方が大きい場合は内容証明郵便を使わない手法を選択すべきです。

<敢えて内容証明郵便を使わない場合>

あ 内容証明郵便を使わないほうが良い場合

『任意の支払に応じる』可能性が高い場合

い 仮に内容証明郵便を使ってしまった時の影響|例

対立的な関係になる
→今後の取引が続かないor態度を硬化させる・警戒させる
→相手が『返済の優先順序』を下げる
→元の状態の方が『回収可能性』が高かった

う 内容証明郵便以外の請求方法

ア 普通郵便での通知書
イ 電話督促

7 交渉のポイント|最適な最終着地点を特定・手続の組み合わせを設定する

債権回収の手続・アクションを分けると『交渉』と『強制手段』の2つになります。
『交渉』においても,常に『強制手段への切り替え』を想定します。
つまり『交渉』を始める段階では『手続の組み合わせ・順序』を特定しておくべきなのです。
ある程度幅のある設定をしておき,かつ,実際の状況に応じた臨機応変な対応も必要です。
手段の組み合わせによって,回収額・その他の結果に違いが出るのです。
具体的アクション・手続は数多くあります。
債権者側の優先順位・債務者側の状況によって『最適』な組み合わせは異なります。
ここでは概要・全体像だけまとめておきます。

<債権回収『手段』のバリエーション>

あ 任意の手段(交渉内容)

ア 一括払い
イ 分割払い(期限の猶予)
ウ 担保を付ける
連帯保証人や抵当権の設定・代理受領や振込指定など
エ 代物弁済
債権譲渡・デッドエクイティスワップ(DES)も含む
オ 債務名義の取得(※2)
カ 保証人への請求

い 裁判所を利用しない強制的手段

ア 商品の引き上げなど(担保権実行・任意の場合もある)
イ 相殺(任意(合意)による場合もある)

う 裁判所を利用する強制手段

ア 仮差押・仮処分(保全)
イ 差押(一般の強制執行)
ウ 担保権実行(差押や競売)

※2 債務名義の取得
債務名義の種類も含めて次に説明します。

個々の具体的アクションの内容は別に説明しています。
詳しくはこちら|代物弁済・デッドエクイティスワップ(DES)|基本・仮登記担保法・課税リスク
詳しくはこちら|債権回収としての『引き上げ』|法的リスク予防法|民事・刑事の違法性
詳しくはこちら|相殺のまとめ|機能・要件・効果・デメリット・相殺契約
詳しくはこちら|担保の種類・全体像|典型担保・非典型担保|実行の要件
詳しくはこちら|所有権留保|設定方法・実行方法・利用例
詳しくはこちら|譲渡担保|設定方法・実行方式|処分清算・帰属清算方式
詳しくはこちら|代理受領・振込指定|債権譲渡・譲渡担保よりも簡略
詳しくはこちら|先取特権|種類・優先順位・実行=競売申立方法・活用例
詳しくはこちら|保証契約|『連帯』保証・保証否認

8 債権回収の手続における債務名義取得

交渉の前から『債務名義』を取得してあるケースもあります。
まだ取得していない場合,交渉の中で『債務名義を取得する』というプロセスを入れることがあります。
最終解決=和解内容の1つとして『債務名義取得』を含める方法もあります。
『債務名義を取得する』という方法も多くのバリエーションがあります。
最適なものを選択することが重要です。

<債務名義の種類>

あ 公正証書(執行証書)
い 訴え提起前の和解(調書)

代物弁済も対象に含まれる

う 勝訴判決(通常訴訟,少額訴訟)
え 仮執行宣言付支払督促
お 調停調書

なお,『債務名義』があってもれば回収が実現する,とは限りません。
判決に勝訴して『判決』を獲得しても,これが現金に変わるかどうかは別なのです。
詳しくはこちら|債務名義は確定判決以外にも多くの種類がある
詳しくはこちら|訴え提起前の和解の基本(債務名義機能・互譲不要・出席者)
詳しくはこちら|支払督促手続は簡易に債務名義を取得できる

9 債権回収における強制執行(差押)・担保権実行・任意売却

(1)一般の差押・強制執行

交渉による債権回収が難しい場合は,強制的手段を検討します。
いわゆる『差押』です。
この場合,相手の財産の把握・特定,ができるかどうかが,回収の実現に直結します。

<差押における重要事項>

あ 対象財産を把握・特定する
い 効果的な対象を選択する

主な差押の対象財産の類型は決まっています。
詳しくはこちら|差押対象財産の典型例
差押の対象の特定はもちろん,決めたら間髪を入れずに実行(申し立て)する,ということも非常に重要です。

(2)担保権の実行→優先的扱い

また,最初から『担保の設定』を済ませてある場合は『担保権実行』も可能です。
担保権がない場合の,一般的な差押(強制執行)よりも優先的な扱いになります。
逆に『担保を有している』場合でも『それ以外の財産について差し押さえる』ということも可能です。

(3)担保対象物の任意売却

また『債務者に任意に対象不動産を売却してもらう』という方法もあります。
これを『任意売却』と言います。
特に,不動産に抵当権を有している場合,これを実行すると,時間,費用(予納金)が結構かかります。
そのため,他に執行しやすい財産が判明している場合,『担保権実行は後回し』にする戦略が有用です。

(4)債権回収の交渉中の『新たな担保設定』

債権回収の交渉において『支払条件を設定』することが一般的です。
支払猶予の条件の1つとして『新たな担保設定』をする,ということもよくあります。
交渉中の最適なタイミングで適切な担保を獲得できると,回収可能性が一気にアップします。
詳しくはこちら|担保の種類・全体像|典型担保・非典型担保|実行の要件