【支払督促手続は簡易に債務名義を取得できる】

1 支払督促は簡易に債務名義を取得する手続
2 支払督促手続の流れ
3 支払督促は訴訟と比べて非常にスピーディー
4 仮執行宣言付支払督促確定は執行力があるが,既判力はない
5 支払督促には既判力がない→後から請求異議訴訟が可能
6 『異議』により通常訴訟に以降する|この時点で『取下』も多い
7 督促異議の取下(概要)

1 支払督促は簡易に債務名義を取得する手続

支払督促の手続により,仮執行宣言付支払督促を獲得できます。
仮執行宣言付支払督促は,債務名義の1つです。
要するに,これによって,相手の財産の差押などの強制執行をすることができる,ということです。
別項目;債務名義には多くの種類がある
実際には,相手が『裁判所からの通知』を受け取ることによる心理的なインパクトが大きいです。
その結果,任意に相手が支払うことにつながる,ということも十分にあります。

2 支払督促手続の流れ

『支払督促』は,合計2回,債務者に送達されることになります。
初回は,通常の(仮執行宣言なしの)支払督促です。
この支払督促が債務者に送達されてから2週間が経過すると,2回目の支払督促の送達を申請します。
正確には『仮執行宣言申立』と呼ばれます。
これにより,裁判所から債務者に『仮執行宣言付支払督促』が送達されることになります。
仮執行宣言付支払督促が債務者に送達されてから2週間が経過すると,確定します。
そして,強制執行(差押えなど)ができるようになります。

<支払督促手続きの流れ>

支払督促の申し立て(オンラインでの申立も可能)

初回の支払督促の発付

仮執行宣言付支払督促の発付

確定

差押可能

3 支払督促は訴訟と比べて非常にスピーディー

(1)訴訟により債務名義を取得すると長期間を要する

最も典型的な債務名義取得方法=強制執行へのルートである訴訟の場合は,審理を慎重に行います。
平均的なケースでは訴訟だけで1年程度を要することがあります。
数週間で執行できるようになることはほぼあり得ません。

(2)支払督促による債務名義取得はスピーディー

2回の支払督促と確定までの期間の合計は約4週間となります。
最短で約4週間で債務名義を取得できることになります。

<支払督促がスピーディーである理由・簡易性>

あ 権利の存否の審査は行なわない
い 証拠は提出すら不要
う 口頭弁論などの出席手続はない
え 書面の提出だけの手続
お オンラインシステムによる申立が可能
か 申立手数料(印紙)が通常訴訟の半額

※民事訴訟費用等に関する法律3条,4条,別表第1第10項

支払督促の手続きでは,訴訟と違い,権利内容の審査は行いません。
証拠は一切必要ありません。
そのため,手続きがとても速いのです。
その代わり,債務者から異議が出されると,支払督促の手続きは終わってしまいます。
通常訴訟に移行することになるのです(後述)。

4 仮執行宣言付支払督促確定は執行力があるが,既判力はない

仮執行宣言付支払督促が確定すると,確定判決と同一の効力を有するとされます(民事訴訟法396条)。
しかし,厳密に言うと,確定判決とまったく同じ,ではありません。
同じ性質が多いですが,違う性質もあります。

<仮執行宣言付支払督促の確定の効果>

あ 執行力

債務者の財産の差押えなどの強制執行が可能となります(債務名義;民事執行法22条4号)。
まさに,これが支払督促利用の主な目的です。

い 消滅時効中断

支払督促申立時に,消滅時効中断(延長)という効力が発生します(民事執行法384条,147条,民法147条)。

う 消滅時効期間の延長

仮に当初は10年未満の時効期間(5年の商事時効など;商法522条)であった場合でも,仮執行宣言付支払督促の確定により,新たに進行する時効期間は10年とされます(民法174条の2第1項)。

え 既判力(認められない)

既判力だけは,確定判決とは違います。
支払督促については,既判力はないと解釈されています。

5 支払督促には既判力がない→後から請求異議訴訟が可能

(1)既判力の趣旨と内容

既判力とは>

事後的に別の裁判(訴訟等)で判断した内容を覆すことができなくなる効力

一般論として,訴訟で審理された上で判決が言い渡され,確定した場合,覆すことはできなくなります。
控訴や上告ができなくなるのは当然ですが,別の訴訟で覆すことも封じられます。
別の訴訟等で覆すことができるとすれば,自分が勝つまで何度でも訴訟を繰り返すことが可能となってしまい,審理した意味がなくなってしまうからです。
このように別の手続き(訴訟等)において,確定判決と矛盾する主張ができなくなるという効果を既判力と呼びます(民事訴訟法114条1項)。
別の角度から言えば,確定判決後に別の訴訟(請求異議訴訟)で可能な主張(異議の事由)は口頭弁論終結後の事情のみに限られるということです(民事執行法35条2項)。

(2)支払督促には既判力がない

支払督促に関しては,請求異議訴訟の異議の事由が限定されていません(民事執行法35条1項後段,2項の反対解釈)。
つまり,仮執行宣言付支払督促が確定した後でも,その成立について改めて訴訟で審理を求めることができる,ということなのです。
このことを言いかえると既判力がないということになります。

6 『異議』により通常訴訟に以降する|この時点で『取下』も多い

(1)異議により通常訴訟に移行する|通常移行

支払督促に対し,相手が『異議』を出すと,手続は『通常訴訟』に移行します。
実務では『通常移行』と呼ばれています。
そうすると『申立人』は『原告』と呼び名が変わります。

(2)新たな担当部署に『訴状に代わる準備書面』提出する

請求額が140万円を境に地裁に移るor簡裁のまま,となります。
簡裁のままの場合も含めて『別の部署』に移るのです。
そうすると原告は『訴状』提出を要請されます。
ただ『支払督促の申立書』に基本的な請求内容が記載されています。
そこで『訴状』というよりも,これに補充する内容を書く『準備書面』として提出します。
実務上これを『訴状に代わる準備書面』と呼んでいます。

(3)訴えの取下げは単独でできる

現実には『訴訟に移行する』ことを想定していなかった,ということが多いです。
その場合は,通常移行,の段階で『訴えの取下げ』をします。
この段階では実質的な審理が始まっていないので『被告の同意』は不要です(民事訴訟法261条)。

7 督促異議の取下(概要)

異議の申立の後に,債務者がこの『督促異議』を取り下げることができます。
現実的な交渉の一環として督促異議の取下が活用されるケースも多いです。
これについては別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|支払督促の督促異議の取下(活用シーン・可否の解釈・手続・効果)

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