【担保の種類・全体像|典型担保・非典型担保|実行の要件】

1 担保の種類|約定担保物権・法定担保物権・非典型担保
2 不動産の担保権実行|開始の要件
3 動産の担保権実行|開始の要件
4 債権・その他の財産の担保権実行|開始の要件
5 債権に設定した質権の実行|通常の差押に加えて『直接取立』も可能
6 担保物権のデメリット=実行に時間・費用がかかることなど
7 『非典型担保』の種類|時間・費用のコストが軽減→使いやすい
8 代理受領・振込指定|債権譲渡・譲渡担保よりも簡略

1 担保の種類|約定担保物権・法定担保物権・非典型担保

(1)担保の機能

いろいろな商品・サービスの取引・金銭の貸し借りの際『担保』を設定することがよくあります。

<担保の機能>

債務者が通常の弁済をできない場合に特定の『担保』による強制的な回収を確保する機能
債務不履行時に,担保物を『強制的に売却』→債権回収(弁済)に当てる

(2)担保の種類

『担保』には,多くの種類があります。

<担保の分類>

あ 担保物権=典型担保

法律上の制度として存在する『担保』

い 非典型担保

『所有権』など,他の制度の工夫による『担保』

『担保物権』は法律上の規定として次のものが存在します。

<担保物権の種類|典型担保>

あ 約定担保物権

ア 抵当権イ 根抵当権ウ 質権エ 動産抵当・財団抵当

い 法定担保物権

ア 先取特権イ 留置権

非典型担保については後述します(後記『6』)。

2 不動産の担保権実行|開始の要件

『担保』が実際に効果を発揮するのは『本来の弁済がなされない時』です。
『担保の実行=差押→競売→代金を得る』という形で回収が実現するのです。
このような状況においては,手続が急がれる,ということが一般的です。
具体的には『差押や競売の申立』でどのような資料が必要とされるか,が重要です。

<不動産の担保権の実行|開始の要件>

次のいずれか

あ 担保権の存在を証する確定判決・家事審判の謄本の提出
い 担保権の存在を証する公正証書の謄本の提出
う 担保権の登記に関する登記事項証明書の提出
え 『一般先取特権』について『先取特権の存在』を証する文書の提出

『不動産以外の財産への担保権実行』による回収不能が前提(民法335条1項)
※民事執行法181条1項

<不動産の担保権実行=競売申立|具体的方法>

担保物権の種類によって異なる

あ 抵当権・根抵当権

『登記事項証明書』提出

い 不動産先取特権

登記をした上で→『登記事項証明書』提出

う 一般先取特権

『先取特権の存在』を証する文書提出

3 動産の担保権実行|開始の要件

<動産の担保権の実行|開始の要件>

次のいずれか

あ 債権者が執行官に対し,当該動産を提出した
い 債権者が執行官に対し,当該動産の占有者の『承諾書』を提出した
う 債権者が執行官に対し『裁判所の許可の決定書』の謄本を提出+債務者への送達

『担保権の存在』が認定されると『裁判所の許可』が得られる(民事執行法190条2項)
※民事執行法190条1項

<動産の担保権事項=競売申立|具体的方法>

典型的な担保権=先取特権(動産先取特権・一般先取特権)

あ 債務者の協力が得られる場合

次のいずれか
ア 債権者が対象動産を預かる→執行官に提出イ 債権者が債務者の『同意書』を得る→執行官に提出

い 債務者の協力が得られない場合(通常のケース)

『先取特権の存在』を証する文書を裁判所に提出
→『裁判所の許可』
→執行官に提出

4 債権・その他の財産の担保権実行|開始の要件

担保権に基づいて『債権やその他の財産』を差し押える方法を説明します。
なお『債権に設定した質権』は特殊ですので後述します。

<債権・その他の財産の担保権の実行|開始の要件>

あ 『担保』の種類

・金銭請求権
・物上代位(による金銭請求権)
・動産・船舶の引渡請求権
・その他の財産権(=不動産・動産・債権以外)

い 開始の要件

ア 原則 担保権の存在を証する文書の提出
イ 例外 担保が登記・登録を要する財産+『一般先取特権』ではない

不動産の担保権執行と同じ
《具体的提出資料》
・担保権の存在を証する確定判決・家事審判の謄本の提出
・担保権の存在を証する公正証書の謄本の提出
・担保権の登記に関する登記事項証明書の提出
※民事執行法193条1項

具体的な手続として『一般先取特権に基づいて債権や特許権を差し押える』という場合の手続を整理しておきます。

<債権・その他財産の担保権実行=差押申立|具体的方法>

典型的な担保権=先取特権(一般先取特権)

あ 債権の差押

担保権の存在を証する文書を裁判所に提出

い 特許権などの『登録可能な財産』の競売申立

『確定判決』or『公正証書』を裁判所に提出

5 債権に設定した質権の実行|通常の差押に加えて『直接取立』も可能

(1)債権への質権設定→直接取立が可能

債権に対する質権設定もできます。
金銭債権に質権を設定した場合『直接取立』が認められています。

<債権への質権設定の効果;民法366条>

あ 質権者

対象債権を直接に取り立てることができる

い 質権設定者

自ら取り立てることができなくなる
※大判大正15年3月18日
※大判昭和5年6月27日

この部分だけを見ると『債権譲渡』と同じ状態です。
しかし質権設定はあくまでも『担保』です。
債権の『帰属』は設定者のままです。
とは言っても質権設定者は『取立』ができないので,非常に限られたことしかできません。

<質権設定者ができること>

債権の確認請求(訴訟)→消滅時効の中断
※大判昭和5年6月27日

(2)質権者の保護|設定者の不当行為の禁止

<質権者の保護|設定者の不当行為の禁止>

あ 設定者による『相殺』

禁止される
※大判大正15年3月18日

い 設定者による『債権譲渡』

『対抗関係』となる(後述)
→質権設定の対抗要件が備わっていれば優先される
※民法364条

う 設定者による『第三債務者の破産申立』

質権者の同意がない限り,できない
※最高裁平成11年4月16日

債権質の対抗要件は2種類あります。

<債権質の対抗要件>

質権設置通知・承諾 民法364条
質権設定登記 動産債権譲渡特例法14条

(3)質権者の保護|第三債務者の不当行為の禁止

<質権者の保護|第三債務者の行為の禁止>

あ 第三債務者による『相殺』・反対債権取得時期

『設定通知or承諾』の後に取得した反対債権による相殺は禁止される
※大判大正5年9月5日

い 第三債務者による『相殺』・履行期

質権設定通知よりも『後』の履行期の反対債権での相殺は禁止される
※大判大正7年12月25日

う 『あ・い』の『禁止』行為を行った場合

質権者に対抗できない→2重払いを強要される
※民法481条1項の類推解釈
※我妻・担保物権法p191;通説

(4)債権質の実行|差押・直接取立のいずれも可能

債権質は『直接取立』ができる,という特殊性があります(前述)。
『直接取立』は,裁判所を通さないので非常に簡略・スピーディーです。
しかし『第三債務者が被担保債権の内容が分からない』という弱点があります。
この点,質権者としては,通常どおりの民事執行法に基づく『差押』も可能です。

<債権質の実行方法|まとめ>

あ 担保権一般の方法

裁判所に差押を申し立てる;民事執行法193条

い 直接取立;民法366条1項

通常,第三債務者は被担保債権額の確証が不十分
→『債権者不確知』として供託する方法が安全

う 供託請求;民法366条4項

『被担保債権の弁済期到来』+『担保の債権の弁済期到来
→質権者は第三債務者に『供託』を請求できる

6 担保物権のデメリット=実行に時間・費用がかかることなど

(1)担保物権=典型担保のデメリット

オーソドックスな担保の形態は抵当権や根抵当権です。
『担保物権』とか『典型担保』と呼びます(上記『1』)。
これは法整備がしっかりしており,使いやすい担保権です。
しかし,このルールがしっかりしているところは,裏を返すと不便な面もあります。

<担保物権=典型担保のデメリット>

あ 実行のための時間・費用のコストが大きい
い 動産については『債務者の手元に残せない』

(2)不動産の典型担保は実行のために時間・費用のコストが大きい

不動産については,質権も適用されますが,抵当権,根抵当権がオーソドックスです(民法369条,398条の2)。
抵当権,根抵当権のデメリットは,実行の際に,一定の時間・費用のコストがかかってしまう,というものです。
ルール,手続きが整備されている分,柔軟性に欠ける,という側面があるのです。

(3)動産の典型担保は手元に残せない

民法上,動産に関して約定担保物権として規定されているのは質権のみです(民法342条)。
典型的な高価な指輪を質入れするというイメージそのものです。
質権は『引き渡し』が必要とされています(民法344条,345条)。
致命的なデメリットは『債務者の手元に担保物を置いておけない』ということです。

7 『非典型担保』の種類|時間・費用のコストが軽減→使いやすい

従前より,所有権を工夫した形で活用することにより,便利な担保権(担保機能)が作られ,利用されてきました。
いずれも『物権』というわけではなく『担保の機能を持った仕組み(契約形態)』と言うべきものです。
『典型担保』以外なので『非典型担保』と呼ばれます。
典型担保の弱点が回避されています。

<非典型担保の種類>

あ 譲渡担保
い 売渡担保

売買契約+買戻特約,という形式

う 仮登記担保
え 所有権留保
お 代理受領
か 振込指定

『代理受領・振込指定』については次に説明します。
それ以外の担保の内容などについては,別に説明しています。

8 代理受領・振込指定|債権譲渡・譲渡担保よりも簡略

債権譲渡をやや簡略にした,債権回収の手段として『代理受領・振込指定』というものがあります。
これらについて説明します。

(1)代理受領

<代理受領>

あ 代理受領の設定

債務者が第三債務者に対する債権Aを持っている
債権者が債務者から『債権Aの取立+受領』の権限の委任を受ける

い 回収方法

債権者が第三債務者から(債務者に代わって)弁済を受ける
本来『債権者から債務者に返還する弁済金』と『債権』(貸金・売掛金など)を相殺する
→結果的に『回収した』ことになる

(2)振込指定

<振込指定>

あ 振込指定の設定

債務者が第三債務者に対する債権Aを持っている
債務者が第三債務者に対し『弁済用口座』として債権者名義の口座を指定する

い 回収方法

第三債務者が『債務者への弁済』として指定された口座に送金する
本来『債権者から債務者に返還する送金された金銭』と『債権』(貸金・売掛金など)を相殺する

債権者が『銀行』である場合,よりスムーズ・自然に『口座の指定』ができます。
この場合『指定する口座』は,『債権者の銀行で扱う債務者名義の口座』となるのです。
『口座名義』を『債権者』にしないで,『債務者』のまま,ということができるのです。
『振込指定』は,実質的には『代理受領』の中の1つの種類,と言えます。

(3)代理受領・振込指定のメリット・デメリット

代理受領・振込指定は,債権回収・担保として『簡易』に実現できる方法です。
これが『良い面』と『悪い面』の両方を持ちます。

<代理受領・振込指定のメリット・デメリット>

あ メリット

ア 債権譲渡ほど『大げさではない』 →関係者が『抵抗を感じる』程度が低い
イ 『譲渡禁止債権』であってもこの方式が可能

い デメリット

先に↓が行なわれると,結果的に回収できなくなる
ア 債務者による回収イ 他の債権者による差押ウ 他の債権者(第三者)への債権譲渡

当然ですが,債権回収・担保の手段は多くのものがあります。
あくまでも個別的事情に応じて最適な手段を検討・判断すべきです。

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【職務発明の『通常実施権』を超える使用には『相当対価』が必要】
【譲渡担保権の設定方法と実行方式(処分清算方式と帰属清算方式)】

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