1 相殺の機能=簡易決済・担保|名称=自働債権・受働債権
2 相殺の要件|相殺適状
3 相殺の方法|相殺通知
4 相殺の効果|相殺適状時点に遡って債務消滅
5 相殺を利用する上での注意点|債権の存在・内容+相殺実行の『証拠化』
6 相殺のデメリット|『相殺しないほうが良い』の可能性
7 相殺合意・相殺契約|相殺内容=要件・効果をカスタマイズ

1 相殺の機能=簡易決済・担保|名称=自働債権・受働債権

(1)相殺の機能

相殺は『お互いの支払を打ち消し合う』という意味では単純です。
『そうさい』というのが正式な読み方です。
『そうさつ』という誤用が多く,文字変換機能(IME)でも変換できてしまうことが多いくらいです。
相殺の特徴を整理すると2つの機能に分けられます。

<相殺の機能>

あ 簡易決済機能

お互いに『送金』『現金持参』の手間を省略できる

い 担保的機能

『払ってもらえない』場合に,結果的に『こちらも払わない』
→『払ってもらった』と同様になる

ここまでは特に難しいことはありません。
しかし,状況によってはいろいろな解釈によって大きな違いが生じます。
要するにどちらかの経済力が悪化した場合に問題が具体化します。
いわゆる『債権回収』のカテゴリの問題です。

(2)債権の名称|自働債権・受働債権

以下相殺の内容を説明します。
2つの債権が登場します。
法学上の名称を示しておきます。

<2つの債権の名称>

AがBに対して相殺(の意思表示)をする
Aの持っている債権=『自働債権』
Bの持っている債権=『受働債権』

2 相殺の要件|相殺適状

<相殺が行われる構造>

相殺の要件(相殺適状)+相殺の意思表示→相殺の効果発生
これ以外に『相殺合意』という方法もある

まず,前提条件,つまり『相殺できる状態』というものがあります。
『相殺適状』(そうさいてきじょう)といいます。

<相殺の要件|『相殺適状』>

次のすべてを満たすこと

あ 当事者双方が同種の債権を対立させている
い 自働債権(債務)が弁済期にある
う 『相殺禁止事由』に該当しない

※民法505条1項本文,136条2項本文

『相殺禁止事由』については次にまとめます。

<相殺禁止事由>

あ 相殺を禁ずる合意(相殺禁止特約)がある
い 法律上,相殺が禁止されている;民法505条2項

ア 不法行為によって生じた債権を受働債権とする場合
※民法509条,709条
※最高裁昭和42年11月30日
使用者責任における使用者から従業員への求償債権も含む
※最高裁昭和32年4月30日
イ 差押禁止債権;民法510条
《例》
・扶養請求権;民法881条
・賃金請求権
・破産法・民事再生法・会社更生法関係
詳しくはこちら|給与は4分の3,公的年金は全額が差押できない|差押禁止

う 解釈上,自働債権とすることができない債権

ア 相手が抗弁権をもっている債権
抗弁権の例=同時履行の抗弁権,催告・検索の抗弁権
イ 差押を受けた債権

3 相殺の方法|相殺通知

<相殺の実行方法|相殺通知>

当事者の一方から他方への意思表示
※民法506条1項

相殺を実行する方法は単純です。
『意思表示』です。
相殺の意思表示を『相殺通知』と呼ぶことも有ります。
意思表示だけで効果が生じるので,逆に言えば,トラブル=主張の相違,が生じるのは『意思表示』です。
通知を『受領したこと』については特に不明確になりやすいのです。
実務上は内容証明郵便で『通知書』として送付するのが一般的です。

<相殺通知の注意>

あ 重要な注意点

『通知したこと+受領したこと』の記録・証拠化

い 記録・証拠化の方法

ア 配達証明付内容証明郵便を用いる
イ 両者で『相殺』の書面に調印する
一般的に『相殺合意書』『相殺契約書』などと呼ぶ

4 相殺の効果|相殺適状時点に遡って債務消滅

<相殺の効果>

あ 法的効果

双方の債務は相殺適状の時点に遡及して消滅する
※民法506条2項

い 具体的な効果|例

相殺適状以降のイベントを『なかったこと』にできる
《『なかったこと』になるイベント》
ア 利息・遅延損害金の発生
イ 自働債権の『消滅時効完成→援用→消滅』
ウ 自働債権の差押・譲渡

う 注意点=『なかったこと』にはならない事項

相殺適状『前』のイベントは『なかったこと』にできない
例;差押(民法511条)

このように『差押や債権譲渡』を,言わば無効化できるのです。
この特徴は,『債権回収』という面では非常に『優先的』と言えます。
また『簡易』という特徴もあります。

<相殺の『簡易』という特徴>

あ 実行のための具体的アクション

『通知』(意思表示)のみ

い 省略できるアクション

ア 登記・登録などの公的な手続
イ 相手の同意・承諾(書面への調印)

5 相殺を利用する上での注意点|債権の存在・内容+相殺実行の『証拠化』

以上のように,相殺は非常に『簡易』に『優先的』な効果を得られるのです。
実務上トラブルになること,はこのような相殺の性質・特徴から類型が決まっています。
そこから,実際に利用する上での注意点,も整理できます。

<相殺を利用する上での注意点>

あ 債権の存在・内容(特約)の証拠の確保

《生じがちなトラブル》
ア 『2つの向かい合う債権が存在する』というところが曖昧→見解の相違発生
イ 『相殺適状』が成立するか否か,について見解の相違発生

《対策》
金銭貸借・売買契約などの契約書を作成・保管しておく
『期限の利益喪失条項』を条項として明記しておく

い 相殺実行(通知)についての証拠の確保

《生じがちなトラブル》
相殺の通知を行った/行っていない,という見解の相違発生

《対策》
相殺通知を内容証明郵便で行う
両者で『相殺合意書』として調印する

6 相殺のデメリット|『相殺しないほうが良い』の可能性

相殺を行うことはメリットが大きいです。
一方で,相対的なデメリット=『他の手段の方が有利』という可能性,があります。

<相殺のデメリットの分析→最適化>

あ 相殺の効果のうち注意を要する側面

自分の持つ債権(自働債権)も消滅させる

い 具体的な『失う利益』

ア 利息・遅延損害金(将来発生分含む)
イ 担保(保証人・担保権)

う 判断の相対性

『相殺した場合』と『相殺しない場合』の比較によりトータルの利害を検討する
↓判断の概要
仮に相殺しない場合『失う利益』について『活用の最適化』がどこまでできるのか

え 『相殺契約』による利害の最適化

相殺の要件・効果を個別的にカスタマイズする
→『当事者両方が合意』すれば可能;相殺合意・相殺契約

7 相殺合意・相殺契約|相殺内容=要件・効果をカスタマイズ

当事者両方が合意すれば,本来的な『相殺の細かい内容』を変えることが可能です。
これを『相殺合意』『相殺契約』と言います。

<相殺合意(相殺契約)|まとめ>

あ 意味

相殺の要件・効果について当事者両者の合意で変更(カスタマイズ)すること

い 相殺合意の活用方法|例

ア 『要件』を変更
『相殺通知』(一方的に実行)できない場合
・相殺禁止
・履行期前
・金銭同士,ではない→この場合,むしろ『代物弁済』が混ざっている
イ 『効果』を変更
遡及しない,訴求する『時点』を特定する

う 類似語の注意

『相殺の意思表示』+『意思表示受領の確認』という趣旨で『相殺契約書』を調印するケース(前記『3』)
これは,法的な意味での『相殺契約』=『要件・効果を変えるもの』とは違う

以上説明したように,『相殺』は単純で便利です。
しかし,いろいろと細かい注意点・検討が必要な事項があります。
適切・最適なタイミング・方法で行い,債権回収の手段として効果的に活用すべきです。