【債権回収|準備=契約書確認・経済状態調査|強制執行の要点】

1 債権回収の準備・交渉|契約書などの書面のチェック
2 通常取引の中での資産状況の把握
3 弁護士による相手の情報調査|職務上請求・弁護士会照会
4 財産開示請求|強制力が弱いが差押・和解に成功することもある
5 調査会社・探偵・興信所|弁護士から紹介を受けると安心
6 執行(差押・仮差押など)は『現場仕事』の積極性・スピードがカギ
7 相手の会社の代表者が存在しないor不明→仮取締役や特別代理人の選任

債権回収の業務の準備段階で重要なのは『債務者の財産の把握』です。
また,請求権の把握も当然の前提となります。
『契約書』などの書面の確認です。
債権回収の手続の中では,把握した債務者の財産に対して差押などの法的手続を利用することもあります。
『強制執行』と呼ばれる手続です。
強制執行の段階でも,そのやり方によって,回収の実現可能性が違ってきます。
ここでは,債権回収の準備段階や執行に関する付随的な事項の説明をします。

1 債権回収の準備・交渉|契約書などの書面のチェック

債権回収の業務のうち,準備段階・交渉の段階で『契約書』が活用されます。
代金などの『請求権』の裏付けとなる証拠が『契約書』=合意内容の記録,なのです。
また,債権回収の交渉の中で,返済方法・担保設定・継続する取引の条件,などの『合意』をする場面もあります。
このようなシーンでも『契約書』をしっかりした内容で作っておくことはその後の回収可能性に直結します。
逆に言えば,日頃から契約書を作成する時には『回収に役立つか』というところを意識すると良いのです。
契約書の条項のうち『債権回収』と関係するものを整理します。

<契約書における『債権回収』と関わる事項>

あ 期限の利益喪失条項

ア 滞納時に残額全額を請求できるイ 滞納時に契約を解除できる 『解除』は条項がなくても可能だが個別的に設定をする意義はある

い 担保の確保

連帯保証人や抵当権,所有権留保など
詳しくはこちら|担保の種類・全体像|典型担保・非典型担保|実行の要件

う 債務名義化

公正証書,訴え提起前和解という形式にすると(滞納時に)『強制執行』が可能となる
詳しくはこちら|債務名義の種類|確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)など

2 通常取引の中での資産状況の把握

相手の財産の把握のための調査は『債権回収』の1つのハードルとなります。
逆に,通常取引の時点から,『取引相手の資産状況』を把握しておくとベターです。
『資産に関する資料の開示を受ける』タイミングを設定する方法もいくつかあります。
取引をする,という多くの条件の1つなので『どれが正解』ということはありません。
一般的なリスクとリターンの見込みのバランスの1つとなります。
ここではバリエーションをまとめておきます。

<取引相手の資産状況の開示を求めるタイミング>

あ 継続的取引を始める時点

ア 開示を『取引開始』の条件とするイ 『経済状態悪化・延滞の時点(に開示する)』という条項を設定しておくウ 基本契約更新時に『最新の資料提出』を条項として設定しておく

い 債権回収の交渉・返済条件合意時点

相手の経済状態が悪化→『返済条件を決める』に際して開示を求めるなど

<資産状況に関する資料の例>

あ 貸借対照表(B/S)
い 勘定科目付決算書
う 代表者個人の確定申告書(写し)
え 預貯金口座の情報(金融機関・支店・口座番号)

3 弁護士による相手の情報調査|職務上請求・弁護士会照会

相手の財産の調査は,債権回収の準備として,弁護士が扱うこともあります。
大きく分けて2つの調査方法(手続)があります。

(1)弁護士による『公的情報』調査

<弁護士による『公的情報』調査>

あ 調査方法(手続)

『職務上請求』

い 調査事項

ア 住民票の情報 住所・氏名・生年月日など
イ 戸籍の情報 本籍・氏名・生年月日・親族関係など
ウ 登記情報 不動産・会社に関して登記されている情報

以上のような調査は,法律上原則的に,一般の方(債権者自身)でも調査できることとされています。
この点,調査対象となる役所では『プライバシー保護』が非常に強化されています。
現実的に一般の方が調査しようとすると,関連資料の提出や資料を必要とする説明を求められることが多いです。
結果的に余計に時間がかかってしまう,という傾向があります。

弁護士が調査を行う場合『職務上請求』として,手続が大幅に簡略化されています。
また,実際には,弁護士自身と法律事務所のスタッフで分担して具体的な手続・作業を進めます。
よりスピーディーに調査→情報把握をすることが可能です。
詳しくはこちら|『住所』の意味|住所の調査・手続での利用|全体

(2)弁護士による『一般的情報』調査

<弁護士による『一般的情報』調査>

あ 調査方法(手続)

弁護士会照会

い 調査事項

財産に関する情報一般(職務遂行に必要な範囲)
金融機関,電話会社(キャリアー),ライフライン事業者(電気・水道・ガス供給会社)

弁護士会照会による調査は文字どおり『弁護士』だけが行うことができます。
法律上特に『調査範囲』は制限されていません。
金融機関など,民間の情報開示を受けられることもあります。
ただし当然,弁護士会による審査でパスした範囲に限定されます。
審査では『プライバシー』など,開示を否定する必要性も考慮されます。
詳しくはこちら|弁護士会照会|回答義務|開示拒否の正当事由・法的責任・不利益扱い

4 財産開示請求|強制力が弱いが差押・和解に成功することもある

相手の財産の調査方法として,裁判所を利用する『財産開示手続』があります。
これは前提として『債務名義』を有していることが条件となります。
財産開示手続は,相手が応じない場合のペナルティが実際には『弱い』です。
開示に応じない,という結論で終わるケースも多いです。
と言っても『実効性がない』とは限りません。
相手(債務者)によっては,財産開示手続の中で返済に関する『和解』が成立することもあります。
特に,債務者がコンプライアンス(法令順守)を尊重・徹底する会社である,という場合はしっかりと対応する傾向が強いです。
債務者が財産を開示し,これによって差押の成功や返済する和解成立につながることもあります。
詳しくはこちら|裁判所による債務者の財産調査(財産開示手続の全体)

5 調査会社・探偵・興信所|弁護士から紹介を受けると安心

相手の財産を調査する方法として民間の調査会社を利用する方法もあります。
財産調査・信用調査に関しては対象となる範囲は広範です。
ただし,公的資格・許認可の制度は実質的にありません。
信頼性に乏しい事業者によるトラブルも多いのです。
そこで,調査会社は信頼できる業者を選ぶことが重要です。
合理的なのは『弁護士の紹介を受ける』ことです。
債権回収の実績・ノウハウのある弁護士であれば,信頼できる調査会社も知っているはずです。
詳しくはこちら|調査会社・探偵・興信所|相手方の財産や住所の調査

6 執行(差押・仮差押など)は『現場仕事』の積極性・スピードがカギ

差押・仮差押・仮処分といった手続はある意味特殊です。
手続自体は法律でしっかりと規定されていて,そのとおりに裁判所・執行官に申し立てれば実行されます。
実際には『うまくいくかどうか』『回収に至るかどうか』は,申し立てた後の対応で決まってきます。
特に動産執行・自動車執行では『現地に赴く』というプロセスがあるのです。

<現場仕事が重要となる執行の種類>

あ 店舗・事務所の動産執行
い 自動車執行

もちろん,依頼を受けた弁護士が債権者代理人として,執行官とともに現地訪問をするのが通常です。
さらに現実的には,執行官とともに赴く前に,独自に現地確認をしておくこともあります。
動産執行・自動車執行では,リアルタイムで現地で『押さえられる』ものが変わります。
要するに,執行官が赴く日時を『最適のタイミング』に設定できるかどうか,で回収が成功するかどうかが決まるのです。
執行というのは申し立て自体は書面中心のデスクワークです。
しかし,これに続く『現場仕事』を,積極的・スピーディーに行える,ということが債権回収成功のカギなのです。
詳しくはこちら|動産執行・自動車執行|店舗・事務所などに直接趣く|ハードルが高い・インパクトは大きい

7 相手の会社の代表者が存在しないor不明→仮取締役や特別代理人の選任

(1)相手(債務者)の代表者が分からないと法的手段を取れない

債権回収の場面では,相手(債務者)の会社の実態がしっかりしていない,ということがあります。
『代表者が不明確』というようなものです。
そうすると,債権者として困ることがあります。
差押・仮差押・訴訟提起・破産などの申立について『債務者の代表者』の特定・記載が必要だからです。
これは『法人は個々の法律行為を自然人(代表者)を通して行う』という,法人制度の本質を反映するルールです。

(2)相手の代表者が『存在しない』→仮取締役選任申立が可能

ところで,代表取締役は会社の登記事項の1つです。
登記事項証明書で容易に把握できるはずです。
原則として登記上『代表取締役』とされた者が『代表権』を持っています。
しかし『代表取締役』について『死亡』『解任』の登記があり,かつ,後任の選任登記がなされていない場合は『役員(代表者)』不在,ということになります。
代表者が不在,という場合は,債権者も『利害関係人』として『仮取締役』の選任を裁判所に申し立てることができます。
詳しくはこちら|役員不足|緊急時は『一時取締役(仮取締役)』を裁判所が選任できる

(3)相手の代表者が『不明』→『特別代理人選任申立』が可能

役員が変わるor終了していても,登記申請が行われないまま,ということもあります。
結局,『登記を見ても本当の役員(代表者)』が不明,ということが生じることもあるのです。
この場合,特定の裁判手続限定での『特別代理人』を選任すればクリアできます。
詳しくはこちら|訴訟無能力者への提訴では民事訴訟法の特別代理人の選任ができる

(4)債務者の代理人の不在・不明→対応法|まとめ

債務者の代表者が不在,や不明,という場合の債権者としての対応をまとめておきます。

<債権者サイドの対応策|まとめ>

債務者の代表者不在が明らか 一時取締役(仮取締役)の選任申立
債務者の代表者の存否・人物が不明 特別代理人の選任申立
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