1 共有の本質論(トラブル発生傾向・暫定性・分割請求権の保障)
2 共有の本質・分割請求権の保障(判例・民法起草者見解)
3 共有がトラブルを生じる要因
4 共有関係が生じる経緯や共有者の関係性(参考・概要)
5 共有の本質の要点(トラブルの継続性・権利の暫定性)
6 共有物の分割請求権の保障(分割の自由)とその制限
7 共有物分割請求権を制限する森林法違憲判決
8 共有関係性悪説の変遷
9 共有の解消・共有関係からの離脱の手段(概要)
1 共有の本質論(トラブル発生傾向・暫定性・分割請求権の保障)
共有という状態は,それ自体がトラブルを生む構造です。本来の状態は単独所有であり,共有の状態から単独所有に移行する手段として共有物分割請求権が保障されています。このような構造から,共有という状態は暫定的・経過的な状態であるといえます。
本記事では,このような共有の本質論について説明します。
2 共有の本質・分割請求権の保障(判例・民法起草者見解)
共有の本質や分割請求権の保障については,最高裁判例(森林法違憲判決)や民法起草者が明確に指摘しています。最初にこれらを引用します。
<共有の本質・分割請求権の保障(判例・民法起草者見解)>
あ 昭和62年判例(引用)
そこでまず,民法256条の立法の趣旨・目的について考察することとする。共有とは,複数の者が目的物を共同して所有することをいい,共有者は各自,それ自体所有権の性質をもつ持分権を有しているにとどまり,共有関係にあるというだけでは,それ以上に相互に特定の目的の下に結合されているとはいえないものである。そして,共有の場合にあつては,持分権が共有の性質上互いに制約し合う関係に立つため,単独所有の場合に比し,物の利用又は改善等において十分配慮されない状態におかれることがあり,また,共有者間に共有物の管理,変更等をめぐって,意見の対立,紛争が生じやすく,いつたんかかる意見の対立,紛争が生じたときは,共有物の管理,変更等に障害を来し,物の経済的価値が十分に実現されなくなるという事態となるので,同条は,かかる弊害を除去し,共有者に目的物を自由に支配させ,その経済的効用を十分に発揮させるため,各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができるものとし,しかも共有者の締結する共有物の不分割契約について期間の制限を設け,不分割契約は右制限を超えては効力を有しないとして,共有者に共有物の分割請求権を保障しているのである。このように,共有物分割請求権は,各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ,右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり,共有の本質的属性として,持分権の処分の自由とともに,民法において認められるに至つたものである。
したがって,当該共有物がその性質上分割することのできないものでない限り,分割請求権を共有者に否定することは,憲法上,財産権の制限に該当し,かかる制限を設ける立法は,憲法29条2項にいう公共の福祉に適合することを要するものと解すべき・・・
※最高裁昭和62年4月22日(森林法違憲判決)
い 富井正章博士(民法起草者)
各共有者ハ何時ニテモ共有物ノ分割ヲ請求スルコトヲ得ルヲ原則トス(256条1項)是他ナシ共有ハー物ノ所有権力数人二属スル状態ナルカ故二各自己ノ専有物二封スル如クニ其物ノ利用又ハ改良二注意ヲ加フルコトナキハ勿論他ノ共有者ト共ニスルニ非サレハ其利用,改良又ハ處分ヲ為スコトラ得サルヨリシテ自然共有者間ニ意見ノ衝突ヲ来シ紛議ヲ生スルコト頻繁ナルへシ故二共有ハ財産ノ改良及ヒ流通ヲ妨害シ經濟上甚不利ナル状態ト謂フヘク殊二共有者中ニ此状態ヲ持スルコトヲ欲セサル者アルトキハ到底其間ニ圓滿ナル關係ヲ保ツコト能ハサルヤ明ナリトス是即チ何レノ國ノ法律ニ於テモ各共有者ハ常ニ共有物ノ分割ヲ請求スル権利ヲ有スルモノト篇ス所以ナリ(一部現代語化)
(富井正章博士(民法起草者のうち共有の規定を主に担当した者)の記述)
※富井正章『民法原論第2巻 物権(復刻版)』有斐閣1985年p172〜
※秦公正稿『共有物分割の自由とその限界』/『現代民事手続の法理−上野秦男先生古稀祝賀論文集』弘文堂2017年p116,117参照
う 梅謙次郎(民法起草者)
共有ハ経済上頗ル不利益ナルモノトス何トナレハ共有者ノ意見合致スルニ非サレハ充分二物 ノ利用及ヒ改良ヲ為スコト能ハス
(梅謙次郎(民法起草者のひとり)の記述)
※梅謙次郎『民法要義 二之巻 物権編(復刻版)信山社出版1992年p170
※秦公正稿『共有物分割の自由とその限界』/『現代民事手続の法理−上野秦男先生古稀祝賀論文集』弘文堂2017年p117参照
3 共有がトラブルを生じる要因
前記の判例や民法起草者の見解の内容を噛み砕いて説明します。
まず,共有という状態がトラブルを生じやすいということについて,その理由や要因を整理します。
<共有がトラブルを生じる要因>
あ 基本
共有者で協議して決めることが多い
→意見の対立・紛争が生じやすい
この関係が無期限に継続する
相続により関係の希薄な人が増える
い 協議して決定する事項の内容(概要)
共有物の管理行為や変更行為は,共有者が協議(意思決定)をする必要がある
具体的な決定事項としては,共有物の使用・管理に関する多くのものがある
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
う 協議・決定事項の典型例
ア 共有者の1人による占有
共有者のうち誰が占有(居住)するか
占有の対価の金額をどうするか
イ 第三者への賃貸(収益化)
第三者に賃貸する場合に,賃料や期間その他の条件をどのように定めるか
修繕や立て替えをどのように行うか
収益の分配をどのように行うか
4 共有関係が生じる経緯や共有者の関係性(参考・概要)
ところで,共有関係が生じるのは相続ということが多いです。また,夫婦でマイホームを購入うした時に共有とすることや,また,私道についてはこれを使用する者(隣接地の所有者)で共有としておくこともあります。
つまり,共有者間には親族であるとか,近隣の住人などの関係性があるのが通常です。
現実には,関係性が良好であるため,問題が生じない(表面化しない)ことが多いです。逆に,関係が悪化したとたんに,細かいことで意見が対立してトラブルとなるという構造にあるのです。
共有関係が生じる背景については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有関係が生じる経緯・共有者間の関係性
5 共有の本質の要点(トラブルの継続性・権利の暫定性)
共有の状態は,何かがきっかけとなって関係が悪化するとトラブルが発生し,いったん対立状態になると,容易に解決しないという構造もあります。
そこで,本来の姿は単独所有であるといえます。逆に共有という状態は単独所有になるまでの間の仮の姿であるという位置づけなのです。共有(持分権)は暫定的(経過的)な権利であるといえます。
<共有の本質の要点(トラブルの継続性・権利の暫定性)>
あ 基本的な弊害
共有者間に意見の対立・紛争が生じた場合,共有物の管理・変更などに支障が生じる
→対象物の経済的価値が十分に実現されなくなる
=経済的効用が十分に発揮されない
い トラブルの継続性
共有状態が続く限り対立は継続する
→共有状態を解消しない限り解決しない
う 権利の暫定性
私有財産制は近代市民社会の要素である
近代市民社会における原則的所有形態は単独所有である
共有は暫定的(経過的)な状態である
※最高裁昭和62年4月22日(森林法違憲判決)
※秦公正稿『共有物分割の自由とその限界』/『現代民事手続の法理−上野秦男先生古稀祝賀論文集』弘文堂2017年p120
6 共有物の分割請求権の保障(分割の自由)とその制限
暫定的な共有から,本来の単独所有に移行する(直す)手段は共有物分割請求権です。そこで分割請求権は尊重されます。分割請求権を制限をする法律があった場合,その理由などの合理性によっては違憲・無効となることもあります。
<共有物の分割請求権の保障(分割の自由)とその制限>
あ 分割請求権の保障
共有物分割請求権は,共有の本質的属性として,持分権の処分の自由とともに,民法において認められている
分割請求権を制限することは,憲法29条2項に違反する可能性がある
い 不分割特約による分割の制限
共有者が合意することにより不分割特約が可能である
ただし,期間は5年に制限(上限)される
※民法256条2項
詳しくはこちら|共有物分割禁止特約の基本(最長5年・登記の必要性)
7 共有物分割請求権を制限する森林法違憲判決
実際に,共有物分割請求権を制限する法律がかつてありました。森林法です。最高裁は森林法の分割請求権を制限する規定を違憲としました。法令違憲と判断した数少ない最高裁判決の1つです。
<共有物分割請求権を制限する森林法違憲判決>
あ 共有物分割請求権の制約
森林法186条は,共有の森林につき持分価格2分の1以下の共有者の分割請求権を否定していた
い 最高裁の判断
森林法186条は憲法29条2項に違反する
→法令違憲である
※最高裁昭和62年4月22日(森林法違憲判決)
う 国会の対応(参考)
国会は,昭和62年改正により森林法186条を削除した
8 共有関係性悪説の変遷
以上のように,共有関係は問題を生じる根源となるという考え方を,共有関係性悪説ということもあります。
なお,共有物分割に関して,時代とともに柔軟化,自由化が進んでいて,たとえば共有関係を残存させるような手法も認められてきています。そこである意味,共有関係性悪説は弱まっているということもできるでしょう。
<共有関係性悪説の変遷>
特定物件の共有関係の存続自体は悪であるという従来古くからかつ長い間にわたって存していた考え方・・・
共有関係性悪説は,現在では,殆ど払拭されたと思われるが,一寸前までは,むしろ,学説の通説であったのみならず,長年染み着いたところの基本的な考えであったものでもある。
この基本的考えについての,学説による批判・検討も本格的になされないままに,いつの間にか,学説の大勢が代わることは,果たしてよいことなのかとの疑念を抱く。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p12,13
9 共有の解消・共有関係からの離脱の手段(概要)
以上の説明のように共有という状態は好ましくないので,共有を解消する手段として共有物分割請求権があります。実際には,これ以外にも共有を解消する,あるいは共有関係から離脱する手段はあります。
これらについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共有関係からの離脱・解消|方法・典型的経緯
本記事では,共有の本質論について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,最適な解決手段は異なります。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。