【自己借地権の対抗要件(建物登記で代用することの不都合)】

1 自己借地権の対抗要件(建物登記で代用することの不都合)

借地契約の貸主(借地権設定者)と借主(借地権者)が同一の者である、というものは、民法上は認められていません。しかし、一定の範囲で、例外的に自己借地権として認められます。
詳しくはこちら|自己借地権の基本(混同回避の趣旨・種類・認める範囲)
ところで、借地権としては土地の賃貸借契約が圧倒的に多く、この場合に、建物の登記が、土地の賃借権の登記の代用となります。この点、自己借地権についても建物の登記が賃借権登記の代用になりますが、いろいろな不都合が生じます。本記事では、このことについて説明します。

2 自己借地権設定の任意性(前提)

自己借地権の設定が認められている状況であっても、自己借地権を設定することは強制されません。この任意性があるため、登記だけを見ても自己借地権が設定されているかどうかが分からない状態(後述)が生じてしまうのです。

自己借地権設定の任意性(前提)

借地借家法15条を反対解釈すれば、自己借地権の設定は任意であると解せる
※村田博史稿『自己借地権の要件』/潮崎勤ほか編『裁判実務大系23巻 借地借家訴訟法』青林書院1995年p197

3 共有建物と土地利用権の関係

登記上、土地所有者がAであり、建物所有者(共有者)がABである場合には、自己借地権が設定されていることが予想されます。つまり賃貸人がA、賃借人がABである賃貸借契約ということです。
しかし、可能性としては、賃借人がBだけ、という契約になっているかもしれません。さらに、賃貸借ではなく使用貸借契約が結ばれている(だけに過ぎない)かもしれません。
結局、登記(公示)だけを見ても(自己)借地権が存在するかどうかは分からないのです。

共有建物と土地利用権の関係

あ 建物共有者の一部だけが借地権者である可能性

建物を共有する他の者について借地権が設定されていても、建物の一部を共有する土地所有者にも当然に建物所有のために自己借地権が設定されていることにはならない
(この場合に土地所有者の所有権と他の者の借地権に基づいて建物が建てられたことになるが、その法律関係をどのように解せるかは、結局立法以前の議論と同じレベルの問題となってしまう)
※村田博史稿『自己借地権の要件』/潮崎勤ほか編『裁判実務大系23巻 借地借家訴訟法』青林書院1995年p197

い 土地利用権が使用借権である可能性

建物自体が共有されている場合でも、その共有者である他人が土地利用権として賃借権や地上権を設定されずに土地使用借権しか有していないことも考えられる
※村田博史稿『自己借地権の要件』/潮崎勤ほか編『裁判実務大系23巻 借地借家訴訟法』青林書院1995年p198

う 共有建物と自己借地権の公示の関係

こうした場合(あ・い)に、建物について土地所有者と他の者が共有の建物を所有するからといって自己借地権が設定されていることにはならない
建物について共有の登記がなされているからといって、自己借地権の設定が公示されることにはつながらない
※村田博史稿『自己借地権の要件』/潮崎勤ほか編『裁判実務大系23巻 借地借家訴訟法』青林書院1995年p197、198

4 建物(区分所有)登記による対抗力と公示の関係

一般論として、借地権(賃借権)の登記そのものがなくても、建物の登記があれば、対抗力が認められます。建物登記は賃借権登記の代用として機能するのです。
詳しくはこちら|借地権の対抗要件|『建物登記』があれば底地の新所有者に承継される
たとえば土地A所有、建物は区分所有であり1階はA所有、2階はB所有の登記となっていて、自己借地権の設定がなされていれば、自己借地権の対抗力があります。ただし、この登記だけをみても、自己借地権があるかどうかは分かりません。自己借地権があったとしても、ABのもっている借地権の準共有持分割合は登記からは読み取れません(後述のように賃借権の登記そのものがあれば別です)。
このように建物登記(借地権の代用対抗要件)では、自己借地権が存在するかどうか、またその内容が公示されない(登記から読み取れない)のです。

建物(区分所有)登記による対抗力と公示の関係

あ 問題点→建物登記では自己借地権の有無を判定できない

建物の登記をすることによって自己借地権を第三者に対抗することができるか(借地借家一〇条)についても問題になる。
借地借家法一〇条一項は、従来の建物保護法一条を踏襲した規定であるが、借地権者が地上に登記されている建物を所有することによって第三者に借地権を対抗することができる旨規定している。
したがって、借地権に基づいてその地上に借地権設定者と他の者とが共有する建物の登記があれば、そこに設定されている自己借地権の対抗要件が備わることになる。
しかし、問題は土地所有者が他の者と共にその地上に建物を共有することによって、常に自己借地権が設定されたことにならない点にある。

い 専有部分床面積と敷地利用権の割合→一致しない可能性あり

また、区分所有建物の敷地使用権に関しても、規約によって建物の専有部分の床面積の割合と異なる割合を決めることができることになっており、建物の一部を所有する土地所有者が敷地使用権の全体を有するように定める可能性が考えられるし、またその逆に建物の一部を所有する土地所有者は敷地使用権を有しないように定めることも可能である。
※村田博史稿『自己借地権の要件』/潮崎勤ほか編『裁判実務大系23巻 借地借家訴訟法』青林書院1995年p198、199

5 建物登記による代用ではない賃借権登記のメリット

建物の登記によって土地の賃借権(や地上権)の登記の代用となりますが、建物の登記には賃貸借の内容は現れませんので、不確実なところがあります。
このことは一般の借地権にいえることですが、自己借地権の場合には、以上で説明したような多くのバリエーションがあるのでさらに、(登記だけで判断するのは)不確実であるといえます。
代用ではない、賃借権の登記があれば、準共有持分割合も登記(公示)されますので、このような不確実なことは回避できます(区分所有建物の敷地権の登記がなされている場合は建物の登記の方に賃借権の準共有持分割合が登記(公示)されます)。
ただし、賃借権の登記は賃貸人(地主)が任意に協力しないとすることができません。この点、自己借地権の場合には、地主は同時に借地人(の一部)でもあるので、当事者全員が協力して賃借権の登記を行うこともあります。

建物登記による代用ではない賃借権登記のメリット

あ 建物登記による対抗要件の不都合(前提・概要)

『借地上の建物の登記』がある場合、借地権を第三者に対抗できる(対抗力となる)
=土地賃借権・地上権の登記の代わりになる
※借地借家法10条1項、旧建物保護法1条
詳しくはこちら|借地権の対抗要件|『建物登記』があれば底地の新所有者に承継される

い 賃借権登記のメリット

一般的に土地を差し押さえられたような場合にも、自己借地権が登記してあれば土地の使用を継続することができるなど借地権設定者にとっても自己借地権を公示することが有利である
賃借権自体が登記されるケースは増えることが予測される
(建物登記による代用(あ)ではなく、『賃借権』そのものの登記(民法605条)という意味)
※村田博史稿『自己借地権の要件』/潮崎勤ほか編『裁判実務大系23巻 借地借家訴訟法』青林書院1995年p197

本記事では自己借地権(賃借権)の登記を建物の登記で代用することの不都合について説明しました。
実際には個別的な事情によって判断が違ってくることがあります。
実際に借地・貸地に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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