【共有関係が生じる経緯・共有者間の関係性】
1 共有関係が生じる経緯・共有者間の関係性
2 共有関係が生じる経緯の法的な分類
3 共有関係が生じる経緯の典型例
4 共有者間の関係性の典型例
5 土地の共有の増加傾向と背景
6 共有物への担保権設定の背景や典型例
1 共有関係が生じる経緯・共有者間の関係性
共有不動産(共有物)に関する法的問題には多くのものがあります。これを解決するためには,共有関係が生じた経緯が大きく関係してくることが多いです。つまり紛争解決のヒントになるといえます。
そこで本記事では,共有関係が生じる経緯や,共有者の間の関係性の典型的なものを説明します。
2 共有関係が生じる経緯の法的な分類
最初に,共有関係が生じる経緯を法律的に分類すると,法律の規定によるものと,意思表示(個人の判断)によるものの2つに分けられます。
<共有関係が生じる経緯の法的な分類>
あ 法律の規定
法律の規定によって共有関係が生じる
例=動産の付合・混和・相続
※民法243条〜245条,898条
詳しくはこちら|民法の添付(付合・混和・加工)の規定(民法242〜248条)
い 意思表示
意思表示によって共有関係が生じる
例=共同購入・組合
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2物権 第3版』第一法規2019年p334
3 共有関係が生じる経緯の典型例
前述の分類は抽象的(理論的)なもので分かりにくいです。具体的には,相続によって兄弟(や親子)の共有となっているケースやマイホームが夫婦の共有となっているというケースがとても多いです。
また,私道を隣地所有者の共有としているケースや,例えば収益物件(不動産)を組合財産として運用(使用)しているというケースもあります。
これらのケースによって,特有の法的問題があります。
<共有関係が生じる経緯の典型例>
あ 相続
単独所有者が亡くなり,複数の相続人が共有することになった
→共有を解消する手続が問題となる
詳しくはこちら|遺産共有の法的性質(遺産共有と物権共有の比較)
い マイホーム(夫婦の共有)
住宅を夫婦の連名で購入した
→共有を解消する手続が問題となる
詳しくはこちら|夫婦間の共有物分割請求の可否の全体像(財産分与との関係・権利濫用)
う 私道
私道を複数の隣接地所有者(住人)が共有し,共同で使用している
→共有を解消する手続や妨害を解消する方法が問題となる
詳しくはこちら|共同通路=共有の私道×共有物分割禁止|3つの見解
え 共同事業(組合)
ア 組合による購入
複数人で不動産を購入し,組合財産として共同事業に使用している
イ 現物出資
組合員の1人が所有する財産を組合に出資し,組合財産として共同事業に使用している
→共有持分の譲渡や共有の解消の制限が問題となる
詳しくはこちら|民法上の組合の財産の扱い(所有形態・管理・意思決定・共有の規定との優劣)
詳しくはこちら|法律上の規定による共有物分割の制限(境界上の工作物・組合財産・区分所有建物関係)
4 共有者間の関係性の典型例
共有の関係が生じるには何らかの背景があります(前記)。
つまり,共有者相互の間には特殊な関係があるのが通常です。
共有者の関係性の典型例をまとめます。
<共有者間の関係性の典型例>
あ 特殊事情の例
共有者が相互に身内である
過去の付き合いがある
い 共有者間の関係性の典型例
ア 兄弟イ 親子ウ 夫婦 内縁を含む
5 土地の共有の増加傾向と背景
たとえば夫婦でマイホーム用地(敷地)として購入した土地について,単独所有よりも共有にした方が有利な点があります。典型例は,ペアローン(夫婦それぞれが借り入れる)を使って融資を受けられる金額を上げるというようなものです。土地の価値(価格)が上がるほど,このように共有を活用するメリット(必要性)が出てくるのです。
<土地の共有の増加傾向と背景>
・・・地価の上昇に伴い,課税その他の理由から土地を単独で所有することができず,そのために土地共有関係が増加しつつあるという社会経済的事情があり,これが背景となって,問題の解決を更に困難にしている。
※最判平成6年12月20日・裁判官千種秀夫補足意見
6 共有物への担保権設定の背景や典型例
前述のように,共有者相互には通常,特殊な関係性があります。そして,債権や債務に関するつながりも存在することが多いです。典型例として,共有者の全員やその一部が借り入れた融資に関する担保権を共有不動産に設定しているということはよくあります。
<共有物への担保権設定の背景や典型例>
あ 共有不動産への担保権設定
共有不動産に担保権が設定されている
い 複数の共有者の関与の典型例
被担保債権について
→複数の共有者が関係している
例=連帯債務・連帯保証
う 担保権の存在による法的問題
ア 共有物分割への障害
共有不動産に担保権が設定されている場合,共有を解消する手続において問題となる
詳しくはこちら|全面的価格賠償の賠償金算定における担保負担額の控除
詳しくはこちら|形式的競売における担保権の処理(全体像)
イ 競売(担保権実行)における法定地上権の問題
土地または建物が共有である場合,競売によって法定地上権が成立するかしないかという問題が発生することがある
詳しくはこちら|共有と法定地上権の成否(全体像と共有者全員による抵当権設定)
本記事では,共有関係が生じる経緯や,共有者の間の関係性の典型的なものを説明しました。
実際には,このような背景事情も含めた多くの細かい事情によって,最適な対応・解決方法は違ってきます。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。