【財産分与として不動産の共有関係を形成(創設)する理論と実例】

1 財産分与として不動産の共有関係を形成(創設)する理論と実例

離婚の際に、マイホームの住宅ローンが残っていると、財産分与としてどのように分与したらよいか、ということが問題となります。
詳しくはこちら|住宅ローンが残っている住宅の財産分与の全体像(分与方法の選択肢など)
簡単にいえば、どのような方法をとっても問題が残りますが、もっともマシな選択肢を選ぶ、ということになります。選択肢の1つとして、(元)夫婦の共有としてしまう、という奇抜な方法もあります。本記事では、不動産を共有とする財産分与の理論や実例を説明します。

2 山本拓氏見解→肯定方向

最初に、山本氏の見解を紹介します。たとえば夫の単独所有だった不動産(住居)の一部である共有持分を妻に分与すれば、夫婦の共有となり、離婚後も妻が居住できる、という発想を指摘しています。一般論として、共有は、いずれは解消する(共有物分割)ことになるので、暫定的な状態、解決未了の状態といえます。
詳しくはこちら|共有の本質論(トラブル発生傾向・暫定性・分割請求権の保障)
このことを火種が残ると指摘もしています。妻の居住を確保するための苦肉の策、という位置づけであるともいえるでしょう。

山本拓氏見解→肯定方向

このような住宅ローン返済中の居住用不動産を財産分与においてどのように処理すべきか。
・・・
④夫から妻に不動産の持分を分与するといった方法も考えられるが、・・・抵当権実行時における清算が可能となるものの、当事者間に共有物分割という火種が残ってしまうという難点がある。
※山本拓稿『清算的財産分与に関する実務上の諸問題』/『家庭裁判月報62巻3号』最高裁判所事務総局2010年p17

3 松谷佳樹氏見解→肯定

松谷氏も、夫婦の共有とする財産分与を提唱しています。具体例を踏まえて、債務負担の方式を指摘した上で、それよりは共有持分の分与の方がよいのではないか、という見解を示しています。ここで出てきた債務の負担を命じる方式は、この方法自体に問題があり、実務では通常使われません。
詳しくはこちら|清算的財産分与における債務(マイナス財産)の扱い
松谷氏はもちろん、共有関係を作り出すことについて、事後的な共有物分割というマイナス面も指摘しています。

松谷佳樹氏見解→肯定

あ 検討する事案

3 事例2
〈申立人・負債1000万円:相手方・不動産3000万円〉

い 単純計算

申立人に負債のみがあって、相手方に資産のみがあるような事案は、実際には稀であるが、住宅ローンの弁済の仕方によって、結果的に双方の名目的な資産、負債の額に不均衡が生じることはあり得る(これは、机上の設例ではあるが、例えば、夫婦で別々にローンを組み、その後に夫名義のローンだけを優先的に繰り上げ弁済したような場合があり得る。)。
このような場合、夫婦全体の資産は、相手方の資産から、申立人の負債を引いた2000万円であり、夫婦の寄与が均等であるとして、これを双方が1000万円ずつ保有するように配分するためには、清算的財産分与額を2000万円とする必要があることになる。
(計算式)
〈3000万円-(-1000万円)〉÷2=2000万円

う 抵当権の負担がある場合の問題点

上記で申立人の負債を被担保債務として相手方の不動産に抵当権が設定されている場合はどうであろうか。
この場合も結論は同じことになると思われるが、申立人が仮に金銭で2000万円もらったとして、それで自己の債務を支払えば問題がないが、債務を不払にし、担保権が実行されてしまう場合がないとはいえない。
もちろんそのときは、相手方は申立人に求償できることにはなるが、そのころには申立人が先にもらった財産分与金を消費してしまっている危険もある。

え 債務分担をする発想

そうすると、申立人の債務1000万円を相手方に負担させ、財産分与金を1000万円とするのが合理的ではないかとも考えられる。
ここで、債務分担を命じる財産分与が有効な余地が出てくるかもしれない。

お 共有持分の分与の発想

しかし、抵当権実行の危険がある場合は、金銭で分与を命じるのではなく、不動産の持分を分与しておくことが適当とも考えられる。
上記の場合だと、相手方の不動産の持分3分の2を申立人に分与することにすれば、抵当権実行の時に清算可能となるから、先に金銭を支払って、費消されてしまう危険を回避できる(反面、共有物分割の問題は残ってしまうが。)。
同様の事例で、申立人の負債について、相手方が保証をしている場合も考えられるが、抵当権設定の場合と同様に解することができる。

か 実務での共有持分分与の実情

不動産の持分を分与するような財産分与は、金銭の支払能力の問題や居住用不動産の確保等の観点から選択されることがあるが、この場合は、後に共有物分割の問題が残るという不安がある。
※松谷佳樹稿『財産分与と債務』/『判例タイムズ1269号』2008年8月p9

4 共有持分分与+分割禁止の財産分与の実例(昭和48年大阪高決)

以上のように、共有関係を作り出す財産分与は完全な解決ではない(事後的に共有物分割が必要になる)というデメリットがありますが、他の選択肢よりはマシ、というケースもあり得ます。実際の財産分与としてこの方法を採用した裁判例を紹介します。
この事案では、問題となった不動産は収益物件(第三者に賃貸しているアパート)でした。妻の居住を死守するために苦肉の策として共有の創設を選択した、という典型的な苦肉の策とは少し違いました。ではどんなメリットのために共有創設のデメリットを受け入れたのでしょうか。それは、妻の定収入の確保でした。裁判所は、賃料収入の分配についても、妻の方に有利にする金額を設定しました。
ところで、元夫が共有物分割を請求した場合、せっかく作った共有状態が解消されてしまいます。そこで、裁判所は決定の中で5年間の分割禁止を設定しました。もともと共有物分割禁止は上限が5年となっています。
詳しくはこちら|共有物分割禁止特約の基本(最長5年・登記の必要性)
裁判所が設定できる最大限の共有維持の仕組みを採用したということになります。

共有持分分与+分割禁止の財産分与の実例(昭和48年大阪高決)

あ 主文

原審判を次のとおり変更する。
抗告人は相手方に対し別紙目録記載の各不動産につき財産分与を原因とし持分四分の一の所有権移転登記手続をせよ。
抗告人と相手方はこの裁判確定の日から五年間たがいに前項記載の各不動産の分割を請求してはならない
抗告人は相手方に対し、昭和四三年一〇月一六日以降前項の共有不動産分割禁止期間の終期までの間、毎月二万円あて毎月末限り支払え

い 理由

ア 実質→夫婦の共有 右事実によれば、別紙目録記載の各不動産(以下本件不動産という)はいずれも実質上、抗告人と相手方の共有に属するものであつて、離婚とともにこれを清算して抗告人は相手方に対し財産分与をすべきものである。
イ 共有形成(+登記の給付) そして、抗告人の支払能力に鑑みるときは、一時に多額の金銭支払いを命ずることは相当でなく、抗告人において本件各不動産を管理運営してきたこと、離婚に至つた原因は相手方に女性関係が生じたことによるものであるが、相手方から抗告人に対し慰藉料などの金品の支払いはなされていないこと、相手方は自分の意思で抗告人と別居して本件各不動産の使用収益を放棄し、その管理収益を抗告人に委ねていたが、その後生活困難となるに及んでその使用収益の回復分配ないし不動産所有権そのものの分配を抗告人に要求するに至つたものであることその他諸般の事情を考慮するならば、抗告人は相手方に対し本件不動産の所有権持分四分の一の財産分与をすべきであり、その旨の所有権移転登記手続をなすべき義務がある。
ウ 分割禁止 ただし、本件不動産をただちに分割することは、抗告人が唯一の収入源であるアパート収益を失い、生計の困難を来たす結果になるおそれもあり、相当ではないから、この裁判確定の日から五年間は、抗告人と相手方はたがいに本件不動産の分割請求をしてはならないと定むるのが相当である。
エ 共有不動産の収益の分配方法の指定 そして、右アパートの収益は、本件財産分与の調停申立前の分は相手方において前述のとおり放棄したものと認め、申立以後の分については、抗告人において労力を提供し、管理することにより得られるものであるから、この点を考慮すると、抗告人において相手方に対し、前記アパート経営による収益のうち前記共有持分割合より少い毎月二万円を本件財産分与の調停申立後である昭和四三年一〇月一六日以降前記共有不動産分割禁止期間の終期までの間、毎月末限り、支払うのが相当である。
※大阪高決昭和48年4月11日

本記事では、財産分与として不動産の共有関係を形成する理論と実例を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に住居を含む財産分与など、離婚に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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