【民法の添付(付合・混和・加工)の規定(民法242〜248条)】

1 民法の添付(付合・混和・加工)の規定(民法242〜248条)
2 一物一権主義との関係(概要)
3 付合
4 混和
5 加工(基本)
6 不動産の加工
7 付合・混和・加工に伴う償金請求
8 信託財産の付合・混和・加工への準用(概要)

1 民法の添付(付合・混和・加工)の規定(民法242〜248条)

民法の中で物権に関する基本的な規定として付合・混和・加工というものがあります。総称して添付と呼びます。
本記事では、付合・混和・加工の規定について説明します。

2 一物一権主義との関係(概要)

添付の規定を必要とする背景には、一物一権主義があります。これは、1つの独立した有体物に1つの物権しか認められないという原則です。複数の有体物(ボルトやガラスなど)が物理的に結合して、1つの有体物(自動車)の構成部分となった場合には、構成部分だけの所有権というものは認められないのです。
そこで複数の所有者の有体物が結合した時に全体(合成物)の所有権をどうするかを法律上定めたものが、添付(付合・混和・加工)の規定なのです。
詳しくはこちら|物権の客体の適格性(要件)の中の「独立性」

3 付合

付合というのは2つの物が分離できない状態となることをいいます。
2つの物に主従があれば、全体がの所有者の所有物となります。主従がなければ元の物の価格の割合で共有になります。不動産と動産であれば常に全体が不動産の所有者の所有物となります。

<付合>

あ 不動産の付合

不動産に従として物が付合した場合
→不動産の所有者が物の所有権を取得する
※民法242条
詳しくはこちら|不動産の付合の基本(従として付合した動産は不動産所有者が取得する)

い 動産の付合(主従あり)

所有者を異にする数個の動産が付合した
その結果、『ア・イ』のいずれかに該当した場合
→合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する
ア 損傷しなければ分離することができなくなったイ 分離するのに過分の費用を要する ※民法243条

う 動産の付合(主従なし)

付合した動産について主従の区別をすることができない場合
→各動産の所有者は、価格の割合に応じてその合成物を共有する
※民法244条

4 混和

混和というのは、複数の物が混ざり合って識別できなくなったことをいいます。液体や穀物が混ざるのが典型例です。
混和については、前記の付合と同じ法的な扱いとなります。つまり、の所有者が全体を所有するか、主従がない場合には共有となります。

<混和>

所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合
→動産の付合の規定(民法243条、244条)を準用する
※民法245条

5 加工(基本)

加工というのは文字どおり、一定の作業(工作)によって新たな価値ができた(価値が上がった)という状態です。
原則としては元の物(材料)の所有者が全体を所有することになります。しかし、加工によって増加した価値がとても大きいという場合には、全体を加工した者が所有することになります。
ただし、このルールは、所有権の帰属に関する合意(や慣行)がない場合が前提です。合意や慣行があればこちらが優先となります。

<加工(基本)>

あ 原則

(所有権の帰属に関する合意がないことを前提とする)
加工者が他人の動産に工作を加えた場合
→加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する

い 例外

工作によって生じた価格材料の価格を著しく超える場合
→加工者が加工物の所有権を取得する

う 加工者による材料提供

加工者が材料の一部を供した場合
工作によって生じた価格提供した材料の価格を加えて『い』の判断をする
※民法246条

う 任意規定

加工物の帰属に関して合意があるときはその合意によって、加工に関して合意していたときには、帰属に関する黙示の合意あるいは当該取引の慣行によって、加工物の帰属を決めるべきであり、本条は適用されない(通説)
※五十嵐清・瀬川信久稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p418

え 建築請負における所有権の帰属(参考)

請負建築契約において注文者が材料を供した場合、特約がない限り、材料の主要部分を供給した者に完成建物の所有権が帰属する
加工の規定は適用されない
※大判昭和7年5月9日
※大判昭和10年11月6日

6 不動産の加工

ところで、加工の規定には、動産と明記されています。不動産に工作したケースには適用されません。一方、もともと動産(不動産未満の未完成建物=建前)に工作して不動産に至った、というケースでは加工の規定が適用されます。典型例は建物の新築工事です。
ただし、建物の工事(請負契約)では、独自のルールがあり、材料の主要部分を提供した者が所有者となります(前記)。

<不動産の加工>

あ 動産→不動産

動産に工作を加えて不動産を作った場合
加工の規定(民法246条)が(類推)適用される
※最判昭昭和54年1月25日
※大阪高判昭和54年10月30日

い 不動産への加工

不動産に工作を加えた場合
加工の規定は類推適用されない
※東京地判昭和34年2月17日
※東京地判昭和34年12月24日
※大阪高判昭和38年11月30日
一部の学説は加工の規定の類推適用を認める
※五十嵐清・瀬川信久稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)』有斐閣2007年p416

7 付合・混和・加工に伴う償金請求

以上の付合・混和・加工の規定により、全体が1人の所有物となる場合には、他方で所有権を失うまたは加工した作業が無駄になるということになります。
そこで、このような損失については利得を得た者に対して償金として請求できます。

<付合・混和・加工に伴う償金請求>

付合・混和・加工の規定(民法242条〜247条)の適用によって損失が生じた場合
→損失を受けた者は不当利得として償金を請求できる
※民法248条、703条、704条

8 信託財産の付合・混和・加工への準用(概要)

民法上の付合・混和・加工の規定はとても基本的・一般的です。そのため、いろいろな場面で直接または間接的(類推)に適用されます。
典型例の1つが、信託財産と他の財産の識別ができなくなった場合です。信託法で民法の付合・混和・加工の規定が準用されています。
詳しくはこちら|信託財産の付合・混和・加工と識別不能(信託法17〜19条)

本記事では、民法上の付合・混和・加工の規定について説明しました。
実際にストレートにこのような状況になることは多くないですが、似ている状況で類推適用することはいろいろな場面であります。
実際に付合・混和・加工に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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