1 形式的競売における担保権の処理(全体像)
2 一般的な競売における担保権の処理方法(消除主義・前提)
3 形式的競売における担保権の処理方法の選択肢(概要)
4 形式的競売における無剰余取消の適用の有無(概要)
5 形式的競売における担保権処理方法の判断権者
6 融資契約の期限の利益喪失との関係(参考)
1 形式的競売における担保権の処理(全体像)
共有物分割の換価分割による競売は,担保権実行や強制競売(債権回収のための差押)とは異なる競売なので,形式的競売と呼びます。
形式的競売の対象不動産に担保権の設定がある場合には,競売手続の中でどのように扱うか,という問題があります。この解釈の問題は少し複雑なので,本記事では,どうして問題となるのか,という問題の全体像を説明します。
2 一般的な競売における担保権の処理方法(消除主義・前提)
形式的競売での担保権の扱い(解釈)は,一般的な競売(担保権実行・強制競売)における担保権の処理と大きく関係しています。そこで最初に一般的な競売における担保権の処理方法を押さえておきます。
要するに,担保権はすべて消滅するという単純なものであり,逆に言えば,買受人は担保権の負担がない状態の不動産を取得することができるということになります。
<一般的な競売における担保権の処理方法(消除主義・前提)>
あ 一般的競売の種類
担保権に基づく競売(担保権実行)
一般債権者の差押による競売(強制競売)
い 目的
債権回収が目的である
う 担保権の処理
売却代金について
(申立人以外の担保権者も含めて)
担保権者への弁済・配当が優先して行われる
担保権は消滅・抹消する
これを消除主義と呼ぶ
※民事執行法59条
3 形式的競売における担保権の処理方法の選択肢(概要)
形式的競売においては,担保権をどのように扱うか,ということについて条文上明確な規定がありません。解釈としては,担保権を消滅させるという消除主義(前述)と,担保権を存続させるという引受主義があり,さらに形式的競売の種類によって異なる方法をとるという二分説もあります。
<形式的競売における担保権の処理方法の選択肢(概要)>
あ 担保権の処理に関する条文の規定
形式的競売については担保権の実行の手続を流用するという規定があるだけである
担保権の処理について明確に定める規定がない
※民事執行法195条
い 目的の特殊性
換価分割の形式的競売の目的は,分けることができる財産に換えることである
債権回収が目的ではない
う 解釈のバリエーション
担保権の処理方法は大きく3つに分けられる
ア 消除主義
担保権者への配当を行う
担保権は消滅する
通常の競売と同じ方式である
イ 引受主義
担保権者への配当を行わない
担保権は存続する
→買受人が担保権の負担の引き受ける
ウ 二分説
形式的競売の種類によって『ア・イ』のいずれかを選択する
詳しくはこちら|形式的競売の担保権処理は引受主義より消除主義が主流である
4 形式的競売における無剰余取消の適用の有無(概要)
担保権の処理方法の延長として,形式的競売にも無剰余取消の規定を適用(準用)するかどうか,という問題もあります。これはオーバーローン(設定されている担保の金額の方が不動産の価値を上回ること)の場合には,担保権者以外の者による競売の申立をできなくする(競売手続を取り消す)という制度です。
判例により,結論としては形式的競売にも適用することとなっていますが,これは消除主義が前提となっているので,必ず無剰余取消が適用されるとは言い切れません。詳しくは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|形式的競売における無剰余取消の適用の有無(オーバーローン不動産売却の可否)
5 形式的競売における担保権処理方法の判断権者
以上のように,形式的競売において担保権をどのように扱うか,という判断にはバリエーションがあります。ここで,実際の案件で実際に判断するのは,執行裁判所です。
たとえば,共有物分割訴訟の判決が言い渡されると,その後,共有者(の1人)が裁判所の別の部署に形式的競売の申立をします(東京であれば東京地裁民事執行センター)。その形式的競売の手続を担当する部署(執行裁判所)が担保権の処理方法を判断,決定することになります。
逆に,共有物分割訴訟を担当する裁判所が判断して判決に担保権の処理方法を記載するということはできないのです。
<形式的競売における担保権処理方法の判断権者>
あ 判決で指定する→否定
換価分割の判決において
裁判所は担保権の処理方法(消除主義をとるか引受主義をとるかなど)についての判断を行わない
判決の中で指定することはできない
い 執行裁判所が判断する→肯定
執行裁判所が独自に判断をする
執行裁判所に裁量がある
※東京高裁昭和61年3月24日
6 融資契約の期限の利益喪失との関係(参考)
ところで一般的に,融資の契約では,担保とした不動産について差押や競売がなされることが,期限の利益の喪失の事由として規定されていることが多いです。そうすると,担保とした不動産について形式的競売がなされると期限の利益を喪失し,金融機関が一括返済を請求するということが一応考えられます。このようなリスクやその回避策については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|形式的競売×担保権への影響|期限の利益喪失
本記事では,形式的競売における担保権の処理方法の全体像を説明しました。
実際には,個別的事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に共有不動産や競売に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。