【将来の遺留分紛争の予防策の全体像(遺留分キャンセラー)】

1 将来の遺留分紛争を予防する生前の工夫
2 遺留分侵害を避けた遺言作成による紛争予防
3 遺留分放棄による遺留分紛争の予防
4 生命保険金,死亡退職金,遺族年金,弔慰金の活用
5 受益者連続信託の活用
6 税務上のみなし相続財産に注意
7 配偶者,養子,実子の増加による遺留分額の縮小
8 税務上の節税養子1または2名の上限
9 事業承継における除外合意・固定合意による遺留分紛争予防
10 事業承継における種類株式を活用した遺留分紛争予防

1 将来の遺留分紛争を予防する生前の工夫

財産を持つ人が,将来亡くなった時の財産の行方を決めておくのが遺言であり,原則として本人(遺言者)が自由に内容を決めることができます。
しかし,遺言の内容が遺留分に違反する内容であった場合,遺留分を侵害された者(相続人)は,是正を求めることができます。結局,遺言者が財産の行方を決めることは制限されているということです。
詳しくはこちら|遺留分の制度の趣旨や活用する典型的な具体例(改正前・後)
そこで,合理的な財産承継の計画でも,遺留分によって実現しないこともあるのです。
しかし,事前の準備により,完全に避けることまではできないとしても,一定程度緩和することはできます。
本記事では,遺留分による紛争発生を抑えるいろいろな工夫・手段を全体的に説明します。

2 遺留分侵害を避けた遺言作成による紛争予防

遺言を作成する時点で,遺留分侵害がないような遺言を作成しておけば遺留分の紛争を予防できます。当然,財産を渡したくない相続人にも一定の財産を渡す内容にしなくてはなりません。
別の問題もあります。遺留分の計算上,財産の評価は,取引価格を用います。
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産の基本的な評価方法(改正前後)
また,評価の基準時(時点)は原則として相続開始時(死亡時)となります。
詳しくはこちら|遺留分に関する財産評価の基準時(基礎財産・価額弁償)(改正前・後)
そのため,遺言作成後の時間経過により,財産に増減が生じる,また,財産自体は同じでも,不動産や有価証券(株式)の評価が変わることがあります。結果的に遺留分を侵害することになる可能性があります。

3 遺留分放棄による遺留分紛争の予防

生前(相続の開始前)に,(推定)相続人が相続放棄をすることはできません。
しかし,遺留分放棄については生前に行うことが可能です。その場合,家庭裁判所の許可を受ける必要があります。
詳しくはこちら|遺留分放棄・基本|被相続人の生前に行える・家裁の許可基準・実情
ただし,当然ですが,この方法は(推定)相続人の協力が大前提となります。具体的には,特定の(推定)相続人が,自身の遺留分相当の財産をもらえない遺言を承諾することが前提となります。
このように,遺留分放棄は,遺留分を侵害する内容の遺言とセットになります。遺留分放棄だけ単体では意味がありません。

4 生命保険金,死亡退職金,遺族年金,弔慰金の活用

相続に伴って相続人が財産を得たら,通常は遺留分の計算の対象となります。しかし,遺留分の計算の対象とはならないものもあります。具体的には,生命保険金,死亡退職金,遺族年金,弔慰金です。俗に遺留分キャンセラーと呼ばれます。
法律的な解釈は複雑ですが,原則として遺留分の対象とはならず,特殊な事情がある場合だけ例外的に遺留分の対象となります。

<遺留分キャンセラー主要3種>

あ 生命保険金

相続人が受取人となっている生命保険金
詳しくはこちら|相続人が受取人の生命保険金の遺留分における扱い(改正前後)

い 死亡退職金

相続人が受け取る死亡退職金
詳しくはこちら|相続における死亡退職金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)

う 遺族年金,死亡弔慰金

相続人が受け取る遺族年金や死亡弔慰金
詳しくはこちら|相続における遺族年金と弔慰金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)

5 受益者連続信託の活用

信託が遺留分に関してどのような扱いになるか,ということについては不明確なところがあります。遺留分としてまったくカウントされない,ということはありませんが,遺留分対策として機能することもあります。
もともと信託契約では,内容の設定の自由度がとても高いです。たとえば,受益者連続信託では,財産を受領した者が処分(売却など)はできないけれど価値は承継するという扱いになる手法もあります。その結果,遺留分侵害を避けることになり,遺留分の紛争を予防することにつながります。
詳しくはこちら|受益者連続型信託(後継ぎ遺贈型信託)への遺留分の適用

6 税務上のみなし相続財産に注意

前記のような特殊な財産(の動き)は,遺言による財産の承継ではないし,また,生前贈与でもないため,遺留分の対象ではない扱いとなるのです。
しかし,税務的な扱いは異なりますので注意が必要です。生命保険金や死亡退職金は基本的に税務上のみなし相続財産として相続税の対象となります。
ただし,財産の種類によっては税務上の特例(控除)が適用されます。結論として,相続税を完全に回避することはできないとしても,節税対策として機能することはあります。
詳しくはこちら|税務上のみなし相続財産や控除・非課税(生命保険金・死亡退職金・墓地・礼拝施設)

7 配偶者,養子,実子の増加による遺留分額の縮小

遺留分額の計算では,法定相続分が使われます。
詳しくはこちら|遺留分権利者・遺留分割合と遺留分額の計算(改正前後)
そこで,法定相続人が増えると,相続人1人の遺留分額は小さくなるという関係があります。もちろん,配偶者は1人までしか持てないですし,相続対策として実子を増やすということもありえないでしょう。
ただ,親しい関係にある人と養子縁組をして,それが相続対策として機能するということは実際によくあります。
いずれにしても,相続人の人数が増えることで遺留分侵害を避けるために特定の(推定)相続人に渡さなければならない財産が少なくて済むようになるという結果になります。

<相続人が増えることによる遺留分額の縮小>

あ 婚姻→配偶者ができる

(未婚である場合)婚姻により相続人が増える→他の相続人の遺留分額が縮小する
ただし,遺留分対策だけが目的の婚姻は無効となる
詳しくはこちら|婚姻の実質的意思が婚姻届提出の時まで維持していないと無効になる

い 養子縁組→養子ができる

養子縁組により相続人が増える→他の子の遺留分額が縮小する
ただし,遺留分対策だけが目的の養子縁組は無効となる
詳しくはこちら|養子縁組の縁組意思の内容のまとめ(実質的意思の判断基準)

う 実子の誕生

実子が誕生した場合,相続人が増える→他の子の遺留分額が縮小する

8 税務上の節税養子1または2名の上限

ところで,相続人の人数が1人増えると相続税の非課税枠が600万円増えます。そうすると,養子縁組を活用すれば容易に相続税を回避や軽減できることになります。節税養子と呼ばれる手法です。この点,節税が目的であるからといって養子縁組が無効になるわけではありません(前記)。
結局,節税養子は合法的な節税策となるので,税法上,非課税枠がアップするのは,実子がいる場合は(養子)1人まで,実子がいない場合は(養子)2人までという上限が定められています。
詳しくはこちら|相続税の節税|相続人を増やす|養子縁組・2割加算・養子人数上限

9 事業承継における除外合意・固定合意による遺留分紛争予防

相続の対策をする方が,事業主である場合に活用できる遺留分紛争予防の制度があります。遺留分の算定上,特定の財産を除外したり,評価額を固定する,という手続です。この手続については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|固定合意・除外合意|事業承継と遺留分の抵触を予防できる

10 事業承継における種類株式を活用した遺留分紛争予防

たとえば家業を会社組織として行っている場合,事業承継に関する紛争を予防する工夫として,種類株式を活用する手法もあります。
株式の種類,設定は広いバリエーションが認められています。そこで,事業を承継しない相続人にも株式を渡して遺留分侵害を避けつつ,議決権は事業を承継する相続人(後継者)に集中させるという方法です。この対策については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|種類株式の活用により事業承継と遺留分の抵触を避ける方法

本記事では,将来の遺留分に関する紛争を事前に予防するいろいろな対策を全体的に説明しました。
実際には,個別的な事情によって法的扱いや最適な対策が異なります。
実際に相続や遺留分の予防策を検討されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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