1 遺留分放棄は相続放棄と違って『相続権あり・生前に行える』
2 遺留分放棄|相続開始後の『対立表面化』の予防策となる
3 遺留分放棄|『遺留分を抵触する遺言・生前贈与』とセットで初めて意味がある
4 遺留分放棄の手続|家庭裁判所の許可が必要
5 家裁の許可|合理性・遺留分放棄の対価→厳格な審査はされない
6 例外的な不許可|『一時的な感情の高ぶり』など
7 遺留分放棄と同様の制度=固定合意・除外合意|事業承継特例法
8 遺留分放棄の撤回・解消|条文はないが家裁の手続は可能

1 遺留分放棄は相続放棄と違って『相続権あり・生前に行える』

遺留分放棄とは,将来,遺留分減殺請求ができなくなるという制度です。
相続放棄と似ているけど違います。
比較をまとめます。

<遺留分放棄と相続放棄の比較>

手続 相続権 遺留分の権利 (被相続人の)生前に行うこと 裁判所の手続
遺留分放棄 必要
相続放棄 (☓) 必要

相続放棄は,生前に行うことができませんが,遺留分放棄は生前に行うことが可能です。
事業承継などの計画的な財産,事業の承継の一環として活用することがあります。
詳しくはこちら|将来の遺留分紛争を避ける生前の工夫;遺留分キャンセラー

2 遺留分放棄|相続開始後の『対立表面化』の予防策となる

例えば,父から子への相続は一般的に想定されます。
父の生前は,子は将来は遺留分などの権利は行使せず,兄弟仲良くすると言うことが多いです。
しかし父の死後,兄弟では相互に対立する,というのはよく生じます。
詳しくはこちら|遺言作成×遺留分ケア|子なし・公益団体への遺贈・1次/2次相続の違い

時間の経過もそうですが,父の存在が潜在的な対立を抑えている,という構造があるのです。

3 遺留分放棄|『遺留分を抵触する遺言・生前贈与』とセットで初めて意味がある

遺留分放棄相続権を否定しません。
つまり,遺留分放棄をした者も遺産分割協議に参加できるのです。
そもそも遺留分が具体化するのは遺留分侵害(抵触)を含む遺言または生前贈与があった場合です。
詳しくはこちら|遺留分の基本|趣旨と遺留分権利者や算定方法
通常『遺言+遺留分放棄』や『生前贈与+遺留分放棄』としてセットとして使われるのです。

もちろん,遺言を書くかどうか未定の状態で遺留分放棄の手続をしておく,という利用法もあり得ます。
言わば保険としておく,というようなものです。
ただ,家庭裁判所の許可の手続で『合理性』が審査されます(後述)。
この点で多少問題があります。

4 遺留分放棄の手続|家庭裁判所の許可が必要

遺留分放棄についての手続の基本的事項をまとめます。

<遺留分放棄|手続=家裁の許可>

あ 遺留分放棄の手続

家裁の許可が必要
※民法1043条1項

い 当事者間の合意

関係者で合意・調印しても家裁の許可がないと無効である

n 遺留分放棄|家裁の許可基準
遺留分放棄について家裁が許可する基準をまとめます。

<遺留分放棄|家裁の許可基準>

あ 真意

遺留分放棄が放棄者の真意に出たものである

い 合理性・必要性

遺留分放棄に合理的・必要的理由がある

う 対価の存在

遺留分放棄に対する代償財産の提供がある
※東京家裁昭和54年3月28日

5 家裁の許可|合理性・遺留分放棄の対価→厳格な審査はされない

遺留分放棄についての家裁の審査の実情をまとめます。

<遺留分放棄|家裁の審査・実情>

あ 重要な事情

遺留分放棄の理由の合理性

い 『合理性』の典型例

ア 引き換えとしての対価
遺留分放棄者が,遺留分放棄の引き換えとして金銭の贈与を受けた
イ 過去に対価を得ている
遺留分放棄者が,過去に,一定の財産の贈与や利益を受けている

う 審査の実情

原則として許可する

実務上,ほぼすべて許可されているのが実情です。
家裁への申立をする時点で,当事者が『遺留分放棄を理解・納得している』のが通常なのです。
もちろん,例外的に『不許可』となるケースもあります。
これについては次に説明します。

6 例外的な不許可|『一時的な感情の高ぶり』など

レアではありますが,家庭裁判所が,遺留分放棄を許可しなかった事例もあります。
『冷静な本心ではない』というような事例がほとんどです。
典型的な不許可の事例と,裁判例を次に示しておきます。

<遺留分放棄を家庭裁判所が許可しないケース;典型例>

あ 不許可となる事情

遺留分放棄をする者(申立人)が大きな間違いをしている

い 不許可の具体例

ア 熾烈な対立
相続とは関係ない問題で,推定される被相続人と申立人の間に熾烈な対立がある
例;両親が結婚に強く反対している
イ 駆け引きとしての『遺留分放棄』
対立の駆け引きの一環として『遺留分放棄』が使われた

う 不許可となった裁判例

※東京家裁昭和35年10月4日
※神戸家裁昭和40年10月26日
※大阪家裁昭和46年7月31日
※和歌山家裁妙寺支部昭和63年10月7日
※水戸家裁下妻支部平成15年6月6日

<熾烈な対立・駆け引き→本心ではない|具体例>

やりとり・セリフとしての再現
ア 親
『どうしても結婚したいなら親子の縁を切る!』
『現在の法律では『縁を切る』ができない。仕方ないから『遺留分放棄』をしろ!』
イ 子
『もう縁を切る!遺留分放棄をする!』

7 遺留分放棄と同様の制度=固定合意・除外合意|事業承継特例法

遺留分放棄と同様の効果を得られる制度が別にあります。
事業承継特例法による固定合意・除外合意,という制度です。
事業承継に関する場合には有用です。
実際にこの制度が施行された後は『遺留分放棄』の活用数は減っています。
一方,固定合意・除外合意は適用されるためには一定の条件があります。
これに該当しないために『遺留分放棄を活用する』というケースもまだ多いです。
詳しくはこちら|固定合意,除外合意により事業承継と遺留分の抵触を予防;中小企業経営承継円滑化法

8 遺留分放棄の撤回・解消|条文はないが家裁の手続は可能

遺留分放棄の手続をした後から,撤回・解消したいと考えるケースも多いです。
この場合の撤回・解消については,別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|遺留分放棄の取消|家裁の手続・判断基準=前提事情の変化・裁判例