1 遺留分制度の趣旨
2 遺留分制度|典型例|事例
3 遺留分制度|典型例|救済
4 遺留分権利者の範囲
5 相続権の否定→遺留分権利者から除外
6 遺留分放棄|概要
7 遺留分に抵触する遺言×有効性
8 遺留分の趣旨vs相続人の意向|バランス
9 遺留分|計算方法・期間制限|概要
1 遺留分制度の趣旨
相続に関して『遺留分』という制度があります。
本記事では遺留分の基本的事項を説明します。
最初に,遺留分制度の趣旨を説明します。
<遺留分制度の趣旨>
あ 基本的な内容
故人=被相続人の一定の近親者について
一定割合の相続財産を取得することを法律上保障する
残された家族の生活における物質的な基盤を最低限確保する
い 法律上の規定との関係
次の『ア・イ・ウ』の趣旨のバランスを取った
ア 被相続人の処分権
財産の処分の自由は保護される
※民法206条,憲法29条
イ 遺族の生活保護(上記『あ』)
一定の親族間には扶養義務がある
※民法877条
ウ 潜在的持分の清算
配偶者には潜在的な持分がある
※民法条768条;夫婦共有財産
詳しくはこちら|財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)
※内田貴『民法4補訂版 親族・相続』東京大学出版会p302
2 遺留分制度|典型例|事例
遺留分制度の趣旨が活用される典型例を紹介します。
<遺留分制度|典型例|事例>
一家の大黒柱が亡くなってから,故人に愛人がいたことが発覚した
『すべての財産を愛人に遺贈する』という衝撃の遺言が発見された
故人には妻と子2人がいる
そのままでは,妻子の元には一切の財産が残らない
→路頭に迷うことになってしまう
3 遺留分制度|典型例|救済
上記事案において遺留分が活用される状況をまとめます。
<遺留分制度|典型例|救済>
あ 遺留分制度による保護
遺産のうち一定の部分は遺留分として妻子は承継できる
妻と子は,愛人に対して返還請求することができる
請求できるのは,次の『い・う』の割合である
い 請求割合|妻
『本来の法定相続分2分の1』のさらに2分の1
→4分の1
う 請求割合|子
『本来の法定相続分4分の1』のさらに2分の1
→8分の1
4 遺留分権利者の範囲
『遺留分』は一定の親族を強く保護する制度です。
保護される対象者を『遺留分権利者』と呼びます。
遺留分権利者は,法律上明確に定められています。
<遺留分権利者の範囲>
あ 基本
『相続人』のうち次の『い〜え』に該当する者
い 配偶者
う 直系卑属
子・孫・それ以降の世代
う 直系尊属
父母・祖父母・それ以前の世代
※民法1028条
5 相続権の否定→遺留分権利者から除外
本来の相続人でも例外的な扱いもあります。
例外的に遺留分が認められなくなる状況をまとめます。
<相続権の否定→遺留分権利者から除外>
あ 相続権の否定制度
次の規定により『相続権』が否定されることがある
ア 相続欠格
イ 廃除
い 遺留分権利
『あ』により相続権が否定された場合
→『遺留分』の権利も失う
詳しくはこちら|相続人の範囲|法定相続人・廃除・欠格|廃除の活用例
6 遺留分放棄|概要
相続権は否定されないけれど『遺留分』だけ失う扱いもあります。
<遺留分放棄|概要>
あ 基本
『遺留分放棄』の手続をしている場合
→遺留分の権利が否定される
『相続権』自体が否定されるわけではない
※民法1043条
い 具体例
AはBの相続に関する遺留分放棄を行った
Bが亡くなった
遺言があったが一部の財産は記載されていなかった
=未分割の遺産となる
未分割の遺産について遺産分割協議が行われた
Aは遺産分割協議に参加することになる
詳しくはこちら|遺留分放棄・基本|被相続人の生前に行える・家裁の許可基準・実情
7 遺留分に抵触する遺言×有効性
遺留分は,侵害された場合に返還請求を認めるものです(前記)。
遺言よりも遺留分が優先されるのです。
そこで『侵害する遺言は無効』という誤解も多いです。
しかし『遺言の効力』は単純に無効になるわけではありません。
<遺留分に抵触する遺言×有効性(※1)>
あ 遺留分減殺請求がなされない場合
遺言による財産承継について
→有効である
い 遺留分減殺請求がなされた場合
遺留分に抵触する部分について
→無効である
『抵触部分だけ』が無効なのである
8 遺留分の趣旨vs相続人の意向|バランス
遺留分侵害と遺言の有効性の関係はちょっと複雑です(前記)。
その理由は,遺留分制度の趣旨と関係しています。
<遺留分の趣旨vs相続人の意向|バランス>
あ 趣旨
次の『ア』よりも『イ』が尊重される
ア 最低限の保障
イ 相続人の意向
い 具体的な状況の例
ア 遺留分に抵触する遺産分割協議
→有効
イ 遺留分に抵触する遺言
→遺言自体は有効(上記※1)
9 遺留分|計算方法・期間制限|概要
遺留分に関する計算は複雑です。
計算方法については別に説明しています。
詳しくはこちら|遺留分|算定方法|基本・持ち戻しの対象
また遺留分の権利には一定の時間制限があります。
これについても別に説明しています。
詳しくはこちら|遺留分の時効・時間制限と対策・取得時効との関係