【遺留分に関する財産評価の基準時(基礎財産・価額弁償)(改正前・後)】

1 遺留分に関する財産評価の基準時(基礎財産・価額弁償)(改正前・後)
2 遺留分に関する財産評価の基準時のバリエーション(改正前後)
3 遺留分算定基礎財産の財産評価時点(改正前後)
4 価額弁償の抗弁(改正前民法1041条)における評価基準時(改正前)
5 減殺請求前の譲渡における価額弁償(改正前民法1040条)の評価基準時(改正前)
6 平成10年判例の引用(減殺請求前の譲渡)

1 遺留分に関する財産評価の基準時(基礎財産・価額弁償)(改正前・後)

<民法改正による遺留分の規定の変更(注意)>

平成30年改正民法により,遺留分の規定(制度)の内容が大きく変更されました。
令和元年6月30日までに開始した相続については,改正前の規定が適用されます。
令和元年7月1日以降に開始した相続については,改正後の規定が適用されます。

遺留分に関してはいろいろな計算が必要になります。遺留分に関する計算の中で,財産の評価(評価額を出す)ことが必要になる場面があります。
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産の基本的な評価方法(改正前後)
本記事では,遺留分に関する計算の中で行う財産の評価の際の基準時(どの時点を基準として評価額を出すか)について説明します。

2 遺留分に関する財産評価の基準時のバリエーション(改正前後)

遺留分に関して財産の評価をする場面は,3種類があります。遺留分算定基礎財産の評価は平成30年改正の前後で共通ですが,価額弁償(賠償)については改正前だけで出てくる計算です。それぞれの場面について評価の基準時は異なります。最初に基準時のバリエーションの全体をまとめておきます。

<遺留分に関する財産評価の基準時のバリエーション(改正前後)>

あ 相続開始時

算定の基準時を相続開始時とする
遺留分算定基礎財産における一般的見解である(後記※1

い 遺産分割時

不動産の価額の算定について,遺産分割時の評価額とする
※広島家裁呉支部昭和33年12月26日(遺産分割における財産評価について)

う 口頭弁論終結時

事実審口頭弁論終結時の評価額とする
価額弁償の抗弁における一般的見解である(後記※2

え 処分額

当該財産の処分額(売却代金)を基準とする
減殺前の譲渡における価額弁償における一般的見解である(後記※3
※最高裁平成10年3月10日(後記※4

3 遺留分算定基礎財産の財産評価時点(改正前後)

遺留分算定基礎財産の評価の基準時は相続開始時とするのが一般的な見解です。

<遺留分算定基礎財産の財産評価時点(改正前後)(※1)

遺留分算定基礎財産の計算(遺留分侵害の有無の判断)における財産の評価について
相続開始時を評価額の基準時とする
※民法1044条(改正前),904条参照
※中川=泉『相続法』p656
※我妻=唄『判例コンメンタールⅧ』p318
※『総判民(遺留分)』p30
※大判大正7年12月25日(遺留分減殺の当否の判断について)
※最高裁昭和51年3月18日(遺留分算定基礎財産における金銭の貨幣価値について)

4 価額弁償の抗弁(改正前民法1041条)における評価基準時(改正前)

改正前の遺留分減殺請求に対して,その相手方が価額弁償の抗弁を主張した時の弁償金を計算する際の財産評価の基準時は口頭弁論終結時とするのが一般的見解です。

<価額弁償の抗弁(改正前民法1041条)における評価基準時(改正前)(※2)

あ 価額弁償の抗弁(前提・概要)

遺留分減殺請求の相手方(受遺者・受贈者)が価額弁償の抗弁を主張することにより,相手方は現物の返還に代えて弁償金の支払で済ませることができる
詳しくはこちら|遺留分減殺請求(平成30年改正前)に対する価額弁償の抗弁の基本(行使方法・時期)

い 口頭弁論終結時

価額弁償における価額算定の基準時は,現実に弁償がされる時である
遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあっては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時であると解するのが相当である
※最判昭和51年8月30日(価額弁償の抗弁における評価について)
※最判平成9年2月25日(価額弁償の抗弁における評価について)
※最判平成9年7月17日(価額弁償の抗弁における評価について)

う 処分額(減殺前の譲渡の場合・参考)

遺留分減殺請求の前に受遺者・受贈者が目的物を第三者に譲渡した場合の価額賠償(弁償)においては処分額を基準とする見解が一般的である
価額弁償の抗弁における弁償金の計算と,減殺前の譲渡における賠償金の計算では,評価基準時が同じわけではない(後記※4

5 減殺請求前の譲渡における価額弁償(改正前民法1040条)の評価基準時(改正前)

前述の価額弁償の抗弁と似ているものに,遺留分減殺請求の前に相手方が当該財産を第三者に譲渡した場合の価額賠償(弁償)があります。
似ているので,財産評価の基準時も,価額弁償の抗弁(前述)と同じとする発想もありますが,平成10年の最高裁判例はこれを否定し,処分額としています。過去の下級審裁判例で,これとは違う見解を採用したものもありますが,最高裁判例の見解の方が一般的です。

<減殺請求前の譲渡における価額弁償(改正前民法1040条)の評価基準時(改正前)(※3)

あ 減殺請求前の譲渡による価額賠償(前提・概要)

遺留分減殺の対象物を相手方(受遺者・受贈者)が第三者に譲渡した場合
→遺留分権利者は価額賠償(弁償)を請求できる
詳しくはこちら|遺留分減殺前の受贈者・受遺者による譲渡(第三者保護・価額賠償)(平成30年改正前)

い 処分額(一般的見解)

処分額が客観的に相当と認められる場合にはその処分額を基準とする
※最判平成10年3月10日(後記※4

う 相続開始時

相続開始時を基準時とする
(約2か月後の時点の評価と同じと推認した)
※東京地判昭和61年10月30日(減殺前の譲渡における価額賠償について)

え 目的財産の譲渡時(≒処分額)

当該譲渡がなされた時目的物の価額を基準とするのが相当である
※東京地判昭和63年2月29日(減殺前の譲渡における価額賠償について)(昭和51年8月判例の適用を否定)

6 平成10年判例の引用(減殺請求前の譲渡)

前述の平成10年の最高裁判例は,昭和51年8月の判例(価額弁償の抗弁に関する判断)の見解を採用しませんでした。この部分は重要なので,平成10年判例の引用をまとめておきます。

<平成10年判例の引用(減殺請求前の譲渡)(※4)

あ 判決の引用

遺留分減殺請求を受けるよりも前に遺贈の目的を譲渡した受遺者が遺留分権利者に対して価額弁償すべき額は,譲渡の価額がその当時において客観的に相当と認められるものであったときは,右価額を基準として算定すべきである。
(略)
所論引用の最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁は,事案を異にし本件に適切ではない。論旨は採用することができない。
※最高裁平成10年3月10日(減殺前の譲渡による価額賠償について)(昭和51年8月判例の適用を否定)

い 補足説明

昭和51年8月判例は,価額弁償の抗弁(改正前民法1041条)における弁償金の計算についての判断である
平成10年判例は,遺留分減殺前の譲渡における賠償金(改正前民法1040条)の計算についての判断である
平成10年判例は,この2つの計算における相続財産の評価時点は同じではないと示している

本記事では,遺留分に関する財産評価の基準時について説明しました。
実際には,個別的な事情により,法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に遺留分や相続に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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