【受益者連続型信託(後継ぎ遺贈型信託)への遺留分の適用】

1 受益者連続型信託(後継ぎ遺贈型信託)への遺留分の適用
2 受益者連続型信託による複数の収益受益権の設定の例
3 受益者連続型信託による収益受益権・元本受益権の設定の例
4 受益者連続型信託への遺留分適用の有無(結論)
5 受益権の承継ルート
6 受益権の経済的評価
7 受益者連続型信託における相続税(概要)

1 受益者連続型信託(後継ぎ遺贈型信託)への遺留分の適用

受益者連続型信託は通常の遺言ではできないような複数回の利益(受益権)の移転を設定することができます。
詳しくはこちら|遺言代用信託(受益者連続型信託)の活用事例と相続税の課税
当然,受益権の動きが複雑になりますので,遺留分がどのように適用されるか,という問題があります。
実は,細かい点について,現在(平成29年12月)でも解釈が統一されていないままとなっています。
本記事では,現時点での一般的な見解を説明します。

2 受益者連続型信託による複数の収益受益権の設定の例

説明をする上で,受益者連続型信託の具体例を想定した方が分かりやすいです。
1つ目の具体例として,賃料収入を得るという受益権が,長男,次男に順番に与えられるという信託が挙げられます。

<受益者連続型信託による複数の収益受益権の設定の例>

あ 信託による所有権移転

委託者Aは,遺言で知人を受託者として土地建物を譲渡する
建物は第三者に賃貸されている(収益を生じている)

い 第1次受益権

長男Bには,A死亡時からB死亡時までの賃料収入を得る受益権を与える

う 第2次受益権

B死亡により,次男Cに賃料収入を得る受益権を与える

長男Bと次男Cは,いずれも賃料収入を得ることができます。
しかし,その時期や期間が違います。遺留分侵害といえるかどうかの問題が生じます。
また,仮に三男Dがいて,相続財産や受益権をもらえない場合には,誰がいくら分の遺留分を侵害しているかという問題が生じます。

3 受益者連続型信託による収益受益権・元本受益権の設定の例

次に,受益者連続型信託のもう1つの具体例として,居住できるという受益権と,将来不動産そのもの(所有権)を得るという受益権が別の人に与えられているという信託があります。

<受益者連続型信託による収益受益権・元本受益権の設定の例>

あ 信託による所有権移転

委託者Aは,遺言で知人を受託者として土地建物を譲渡する

い 収益受益権

配偶者Bには,A死亡時からB死亡時まで居住する権利(収益受益権)を与える

う 元本受益権

B死亡により,長男Cが土地建物の所有権を取得する(元本受益権)

この場合にも,配偶者Bと長男Cは,いずれも何らかの利益を得る立場にあります。
しかし,受け取る利益の内容や時期が違います。
1つ目の事例と同様の遺留分の問題が生じます。

4 受益者連続型信託への遺留分適用の有無(結論)

以上のような具体例を念頭に置いて,遺留分の適用の理論的な説明をします。
まず,結論としては,遺留分は適用されるという結論について,見解による違いはありません。
つまり遺留分侵害があれば遺留分減殺請求ができるということです。

<受益者連続型信託への遺留分適用の有無(結論)>

あ 一般的な信託と遺留分(前提)

一般的な信託に遺留分侵害額請求,遺留分減殺請求は適用される
詳しくはこちら|信託への遺留分減殺請求は認められる(信託と遺留分の解釈の基本・平成30年改正前後)

い 受益者連続型信託と遺留分(結論)

後継ぎ遺贈型受益者連続信託においても,遺留分制度を潜脱することができないことは当然である
平成18年の改正信託法は,遺留分制度を潜脱できないことを当然とし,受益者連続信託を定めるに至った
※『後継ぎ遺贈型の受益者連続信託と遺産分割及び遺留分減殺請求』/『判例タイムズ1327号』2010年9月p19
※寺本昌広著『逐条解説 新しい信託法 補訂版』商事法務2008年p259

5 受益権の承継ルート

受益者連続型信託によって遺留分侵害があれば,減殺請求ができます(前記)。
次に遺留分が侵害されたかどうかをどのように判断するのか,を考えます。
そのためには,受益権が承継される理論的なルートの理解が必要になります。
前記の2つの例のBとCは,両方とも委託者Aから受益権を取得したと解釈するのです。
B・Cの両方とも利益(受益権)を得ています。それぞれが得た受益権の評価額が各自の遺留分額を下回っていなければ遺留分侵害にはなりません。

<受益権の承継ルート>

第2次取得者Cは,先順位の受益者Bから受益権を承継取得するのではない
委託者Aから直接に受益権を承継取得するのである
遺留分算定にあたっては,BCいずれも,A死亡の時点に受益権を取得した者として,各受益権の算定をする
この説明に異論はない
※寺本昌広著『逐条解説 新しい信託法 補訂版』商事法務2008年p260,261
※寺本振透編『解説信託法』(弘文堂2007年)p161
※新井誠監『コンメンタール信託法』(ぎょうせい2008年)p295
第一東京弁護士会総合法律研究所遺言信託実務研究部会編『遺言信託の実務』(清文社2010年)p168
※『後継ぎ遺贈型の受益者連続信託と遺産分割及び遺留分減殺請求』/『判例タイムズ1327号』2010年9月p20

6 受益権の経済的評価

受益者連続型信託で遺留分侵害があったかどうかは,受益権の評価額で決まります(前記)。
受益権の評価方法については,法律上の規定もないですし,また,解釈としても統一的なものがあるわけではありません。

<受益権の経済的評価>

あ Bの受益権の特徴

自己の死亡を終期とする存続期間の不確定な権利である

い Cの受益権の特徴

始期の不確定な権利である

う 特殊性

Bの受益権の存続期間が不確定である
Cが不動産の所有権を取得する時期が不確定である
これらの受益権の市場性がまったくない

え 問題点

B・Cの受益権の価額を合算しても,不動産の価額には及ばない
※『後継ぎ遺贈型の受益者連続信託と遺産分割及び遺留分減殺請求』/『判例タイムズ1327号』2010年9月p20,21

敢えて考えるとすれば,例えば,平均寿命を用いて,形式的に受益権を持っている期間を出して,その期間に得られる利益(賃料収入など)をベースにして現在価値を算定する方法があります。DCF法と呼ばれるものなどです。

7 受益者連続型信託における相続税(概要)

受益者連続型信託では,相続税が課税されます。
相続税の課税に関しては,受益権が与えられるルートが,前記のもの(民事的な解釈)とは異なります。
100%の受益権元の受益者から次の受益者に移転したとして扱うのです。
民事と税務で扱いが大きく異なるので注意が必要です。
詳しくはこちら|遺言代用信託(受益者連続型信託)の活用事例と相続税の課税

本記事では,受益者連続型信託における遺留分の適用について説明しました。
細かい解釈が統一されていないため,解釈の幅(リスク)を意識して信託を設計する必要があります。
実際に受益者連続型信託の設計をお考えの方や,既に作られた信託の遂行の場面で問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【信託の受益権や残余財産の取得による相続税や贈与税の課税】
【委任・請負に付随する信託引受に関する信託業法の適用除外】

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