【所在不明・賛否不明の共有者がいる場合の対応・対策まとめ】

1 所在不明・賛否不明の共有者がいる場合の対応・対策まとめ

共有者の中に、所在が分からない、または連絡できない(意思表明をしてくれない)者がいると、いろいろな意思決定ができず、結果的に共有不動産を活用できず、放置することにつながります。たとえば、共有不動産を賃貸して賃料収入を得る、ということができない状況です。
このような問題は全国で起きていたので、令和3年の民法改正でいくつかの解決手段が作られました。便利になった反面、どのような場合にどの手続が使えるか、役立つのか、ということが分かりにくくなっています。本記事では、どのような状況でどの手続が使えるか、ということを整理しながら説明します。

2 協力者だけで過半数・「管理」行為→実行可能(所在不明・賛否不明)

まず、連絡が取れて、賛成してくれる共有者(協力者)だけで共有持分の過半数に達していれば、管理行為の意思決定ができます。たとえば3分の1の持分の共有者の所在が不明、または、連絡がとれない(賛否不明)であっても、3分の2の持分の共有者の賛成で、管理行為の意思決定はできます。
そこで、管理行為にとどまる範囲で活用する、ということができます。
管理行為にとどまる活用方法の典型例は、建物であれば、期間3年以下の定期借家です。
詳しくはこちら|共有物の(狭義の)管理行為の基本的な内容
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類

3 協力者は過半数未満・「管理」行為(1回的)→管理決定裁判(所在不明・賛否不明)

次に、協力してくれる共有者全体で持分の過半数に達しない場合はどうでしょうか。もちろん、管理行為の意思決定はそのままではできません。
ここで、令和3年改正で新しく作られた管理決定の裁判を使えば、所在不明や賛否不明の共有者を除外した残りの共有持分の過半数管理行為の意思決定ができるようになります。
詳しくはこちら|所在等不明共有者がいる場合の変更・管理の裁判手続(令和3年改正)
詳しくはこちら|賛否不明共有者がいる場合の管理の裁判手続(令和3年改正)
管理決定の裁判は、共有者の一部が所在不明の場合でも、(所在は分かっているけど)意思表明をしてくれない場合の両方で使えます。
この方法でたとえば、期間2年の定期借家(として建物を貸す)ことができたとしても、2年後の再契約や他の者に新たに貸すという場合には改めて管理決定の裁判を得る必要があります。つまり解決は1回的(だけ)なのです。

4 協力者は過半数未満・「管理」行為(継続的)→複数手段

<協力者は過半数未満・「管理」行為(継続的)→複数手段>

管理決定の裁判により「共有物の管理者の選任」を行う(所在不明・賛否不明)
所有者不明土地(建物)管理命令を得る(民法264条の2・264条の8)(所在不明のみ)
不在者財産管理人の選任(所在不明のみ)
持分取得裁判(所在不明のみ)
持分買取権(民法253条2項)による持分取得(所在不明・賛否不明)

繰り返し裁判手続を使わずに済むようにする方法もあります。
まず、管理決定の裁判の内容を特定の行為(たとえば定期借家をすること)ではなく、共有物の管理者の選任にするのです。管理決定の裁判の後に、(共有者の1人を)共有物の管理者に選任できます。そうすれば、共有物の管理者がそれ以降は繰り返し管理行為の範囲内の行為(定期借家契約締結)を行うことができます。
詳しくはこちら|共有物の管理者の制度(令和3年改正)
また、裁判所に所在不明の共有者の管理人を選任してもらえば、それ意向は、その管理人と協議して(管理人が賛成してくれれば)持分の過半数の賛成を得られるので、「繰り返し裁判をする」ことは避けられます。裁判所が選任する管理人については、以前は不在者財産管理人だけでしたが、令和3年改正で所有者不明土地(建物)の管理人も追加されました。文字どおり特定の土地か建物だけを管理する管理人なので、コストが小さくて済むのです。逆にいえば、裁判所が選任する管理人は(共有者の1人を選任してくれて、その者が管理人報酬をもらわないなら別ですが)一定のコストがかかってしまいます。
最後に、所在不明の共有者の共有持分を他の共有者が強制的に買い取ってしまえば(共有者から排除すれば)、(当然ですが)それ以降は協力的な共有者だけになるので、管理行為の意思決定も容易にできるようになります。強制的に持分を買い取る手段としては、従来からあった持分買取権(民法253条2項)と、令和3年改正で追加された持分取得の裁判があります。
共有者が所在不明の場合には、以上の手段はすべて使えます。連絡できない(賛否不明)場合に使える手段は管理決定の裁判と持分買取権(民法253条2項)だけとなります。

5 協力者は全員未満・「変更」行為(1回的)→変更決定裁判(所在不明のみ)

以上は管理に分類される行為を行うための手段でしたが、次に変更に分類される行為を行う手段を説明します。変更分類の典型例は普通借家(建物賃貸借)です。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借契約の締結の管理行為・変更行為の分類
変更行為をするためには共有者全員の同意が必要です。1人でも(わずかな共有持分割合でも)賛成が欠けると意思決定ができません。
この点、共有者の一部が所在不明である場合には、令和3年改正で作られた変更決定の裁判が活用できます。この裁判を得れば、残りの共有者の全員の賛成で変更行為の意思決定ができます。
ただし、別の人に貸す(賃貸借契約を締結する)時には、改めて変更決定の裁判をする必要があります。つまり、1回的(だけ)の解決、ということになります。
また、変更決定の裁判は共有者が所在不明の時には使えますが、連絡できない(賛否不明)場合には使えません。

6 協力者は全員未満・「変更」行為(継続的)→複数手段

<協力者は全員未満・「変更」行為(継続的)→複数手段>

所有者不明土地(建物)管理命令を得る(民法264条の2・264条の8)(所在不明のみ)
不在者財産管理人の選任(所在不明のみ)
持分取得裁判(所在不明のみ)
持分買取権(民法253条2項)による持分取得(所在不明・賛否不明)
変更裁判+転貸可能特約付賃貸借(賃借権設定)→原賃借人が繰り返し賃貸(転貸)できる(所在不明)

何度も裁判手続をしなくても繰り返し変更行為ができる方法もあります。
前述したとおり、裁判所が選任する管理人がいれば、毎回その管理人と協議して(賛成してくれれば)意思決定をすることができます。管理人には、所有者不明土地(建物)の管理人と、不在者財産管理人がある、ということも前述のとおりです。
また、これも繰り返しになりますが、所在不明の共有者の共有持分を強制的に買い取ることで、それ以降は協力的な共有者だけになるので、全員一致(賛成)を実現するのが容易になります。これで繰り返し変更行為をすることができるようになります。強制的に持分を買い取る手段には、持分買取権と持分取得の裁判の2つがあります。
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分取得手続(令和3年改正)
詳しくはこちら|共有持分買取権の基本(流れ・実務的な通知方法)
共有者が所在不明の場合には、以上の手段はすべて使えます。連絡できない(賛否不明)場合に使える手段は持分買取権(民法253条2項)だけとなります。

なお、たとえば1棟の共有建物で居室が10戸ある場合、入居者の入れ替わりが続きます。つまり、賃貸借契約の締結を継続的に行うことになります。前述のように、共有物の管理者を選任すれば個々の契約締結は管理者が行うことができますが、3年以内の定期借家など、管理分類にとどめる必要があります。
共有者が所在不明のケースでは、建物をA社に転貸可能特約付きの普通借家として賃貸することについて変更裁判の決定を得れば、個々の入居者との間で、変更分類の賃貸借(転貸借)をA社が行うことができるようになります。繰り返し裁判手続を行うことを避けられます。
なお、このように変更の裁判で賃貸借契約をすることの決定を得た場合は、所在不明の共有者を除外した共有者だけで賃借権設定登記を行うこともできます。
詳しくはこちら|所在等不明共有者がいる場合の変更・管理の裁判手続(令和3年改正)

7 協力者は全員未満・処分(売却)→複数手段

<協力者は全員未満・処分(売却)→複数手段>

持分取得裁判+その後に通常の売却(所在不明のみ)
持分買取権(民法253条2項)+その後に通常の売却(所在不明・賛否不明)
持分譲渡権限付与裁判(所在不明のみ)
所有者不明土地(建物)管理命令+管理人が裁判所の許可を得て売却する(所在不明のみ)
不在者財産管理人の選任+管理人が裁判所の許可を得て売却する(所在不明のみ)

共有の問題から完全に解放される手段として、共有不動産全体を第三者に売却(処分)する、というものがあります。いわゆる共同売却です。
方法としてはまず、所在不明共有持分を他の共有者が強制的に買い取ってから(持分の集約をした上で)第三者に売却する、というものがあります。強制的に買い取る方法には、前述のように、持分取得の裁判と持分買取権があります。
この点、ストレートに所在不明共有者の持分他の共有者の持分を共同して第三者に売却する手段として、持分譲渡権限付与の裁判という制度が令和3年改正で作られました。これも利用できます。
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分譲渡権限付与手続(令和3年改正)
また、所在不明共有者の管理人が選任されれば、共同売却ができます。この管理人には所有者不明土地(建物)の管理人と不在者財産管理人の2種類がある、ということは前述のとおりです。
共有者が所在不明の場合には、以上の手段はすべて使えます。連絡できない(賛否不明)場合に使える手段は持分買取権(民法253条2項)だけとなります。
なお、変更決定の裁判を得ても、売却することはできませんので、これは解決手段に入りません。
詳しくはこちら|所在等不明共有者がいる場合の変更・管理の裁判手続(令和3年改正)

8 共有物分割訴訟による共有解消

一般的に、共有の問題の解決の最終手段は共有物分割(共有を解消すること)です。
詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の基本(全面的価格賠償・現物分割・換価分割)
所在不明または連絡できない(賛否不明)共有者がいる場合でも、訴訟によって共有の解消は強制的に実現します。
ただし、(特に共有者が多数である場合には)手続の負担が大きくなることがあり、また、結果の予測可能性が高くない(裁判所の判断にブレが大きい)こともあります。
むしろ、この最終手段にはこの2点のデメリットがあることから、他の解決手段を令和3年改正で作った、という経緯があったのです。逆にいえば、共有物分割訴訟も、事案によっては、また、やり方によっては現在でも最適な解決手段であるケースも多いです。

9 裁判所の手続が使える状況(所在不明・賛否不明)のまとめ

以上のように、状況、予定する行為(なにをしたいのか)によって、手段が違ってきます。その中で、共有者の1人が所在不明の場合と連絡できない(賛成や反対を表明しない=賛否不明)の場合で、使える手段(裁判手続)に違いがあります。表にまとめます。
といっても、ご覧のとおり、賛否不明で使えるのは管理決定の裁判だけ、と一言でもいえる結論ではあります。

<裁判所の手続が使える状況(所在不明・賛否不明)のまとめ>

(手続の種類) 所在不明 賛否不明
管理決定の裁判
変更決定の裁判
持分取得の裁判
持分譲渡権限付与の裁判
所有者不明土地(建物)管理命令
不在者財産管理人の選任

本記事では、所在不明や賛否不明の共有者がいる場合にとることができる対応・対策を状況ごとに整理して説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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