【共有物の管理者の制度(令和3年改正)】
- 1 共有物の管理者の制度(令和3年改正)
- 2 条文規定
- 3 改正前の問題点=改正の目的
- 4 選任要件を過半数とした理由
- 5 共有物の管理者の資格→共有者限定なし
- 6 管理者の権限(基本)
- 7 管理者による決定の典型例(管理者先行)
- 8 共有者による決定の優先(共有者決定先行)
- 9 共有者の決定(先行)に反する管理者の行為の効力
- 10 管理者による取引の当事者→管理者自身(共有者ではない)
- 11 管理者による登記申請→共有者の代理人(通達)
- 12 管理者との委任契約の当事者→契約をした共有者のみ
- 13 「管理者選任関係」と「委任関係」の2分論
- 14 解任の意思表示(実行行為)→委任者以外も可能
- 15 委任の報酬(2分論前提)
- 16 委任の費用償還義務者→委任者のみ(共有者全員ではない)
1 共有物の管理者の制度(令和3年改正)
令和3年の民法改正で、共有物の管理者の制度が条文として規定されました。本記事では、共有物の管理者の制度について説明します。
2 条文規定
最初に、共有物の管理者に関する条文の規定を押さえておきます。主に民法252条の2に定められています。管理者の選任と解任については民法252条1項に、持分の過半数の賛成で決定できると定められています。
条文規定
あ メイン(民法252条の2)
(共有物の管理者)
第二百五十二条の二 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
3 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
4 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
※民法252条の2
い 選任・解任の要件(民法252条1項)
共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
※民法252条1項
3 改正前の問題点=改正の目的
実は、令和3年改正で共有物の管理者の制度が条文になる前も、共有物の管理者を選任することは可能でした。ただ、選任するという決定は持分の過半数で足りるのか共有者全員の同意が必要か、という点で統一的見解はなく、また、管理者の権限も明確ではありませんでした。
共有物の管理者がいる(選任する)ことのメリットは、具体的な使用方法についていちいち共有者の多数決(持分の過半数による決定)をしなくて済むということにあります。共有物の使用、活用、管理がとてもやりやすくなるのです。
改正前の問題点=改正の目的
あ 改正前の管理者の不便な点
管理に関する事項の決定は、基本的に、共有者の持分の価格の過半数で決することになるため、その決定が必要となる度に、持分の価格の過半数に達するまで、共有者の承諾を得なければならないが、共有者が多数にわたったり、共有者間の関係が希薄であったり、持分の価格の過半数を有する共有者が共有物の管理について無関心であったりして、承諾を得ることが容易でない場合もあると考えられる。
い 改正の目的
そこで、共有物の円滑な管理を図るため、予め管理者を選任し、その管理を管理者に委ねることができるように規律の内容を整理し、明確にする必要がある。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p17
4 選任要件を過半数とした理由
前述のように、管理者の選任の要件について、令和3年改正で、持分の過半数(の賛成)と明確に定めました。この点、共有者全員というルールがよい、という意見もあり、また、このような見解をとったと読める下級審裁判例もありました。しかしこれだと管理者を活用できる(選任できる)場面が少なくなってしまいます。一方、管理者の権限を「持分の過半数で決定できること」に限定すれば(後述)、過半数に満たない持分の共有者が不当に害されることはありません。
そこで、選任の要件として、持分の過半数が採用されたのです。
なお、管理者となる者の範囲については、制限はありません。つまり、共有者の1人でもよいですし、共有者以外(第三者)も可能なのです。
選任要件を過半数とした理由
あ 中間試案・補足説明
現行民法の解釈としては、管理者の選任には共有者全員の同意を得なければならないとの見解もあるが、この見解に従うと、一部の共有者が所在不明である場合などには、管理者を選任することができなくなる。
また、管理者の権限を原則として共有者の持分の価格の過半数で決することができる事項に限るのであれば、共有者の持分の価格の過半数で管理者を選任することができるとしても、特段不都合はないと考えられる。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p18
い 部会資料27
試案第1の1(5)では、管理者の権限を原則として共有者の持分の価格の過半数で決することができる事項に限ることを前提に、共有者の持分の価格の過半数で管理者を選任することができるとすることなどを提案したところ、パブリック・コメントでは、試案に賛成する意見が多数を占めた。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料27』p15
う 「共有財産管理人選任」要件を全員同意とした裁判例(参考)
・・・原告主張の共有財産管理人選任が有効であるか否かについて検討する。
・・・原告及び訴外Kは、昭和三九年九月二四日付内容証明郵便で、Tに対し、本件土地を含む原告、訴外K、同T共有のGの遺産につき民法第二五二条に基づく管理人を決定したいので、昭和三九年一〇月四日午前一〇時、原告方に参集願いたい旨の内容証明郵便を発したこと、右内容証明郵便は昭和三九年九月二六日Tに送達されたがTはその受領を拒絶したこと、原告及び訴外Kは、昭和三九年一〇月四日T欠席のまま右両名のみで本件土地を含むGの遺産につき、訴外Kを共有財産管理人に選任する旨の決議をしたことが認められる。
そこで、右管理人選任の効力について按ずるに、共有財産管理人選任は、共有財産の管理それ自体ではなく、むしろ、共有財産の管理よりは一層重要なことがらに属するから、共有者の持分の過半数決によってでは足りず、共有者全員の同意によらなければ無効であると解すべきである(注釈民法(25)一二四頁参照)。
※東京地判昭和47年12月22日
5 共有物の管理者の資格→共有者限定なし
誰を共有者の管理者として選任するか、ということについて、共有者の中の1人にするというアイデアもありました。しかし、現実に共有者以外の者に管理を委ねることが望ましい状況もあるので、最終的にできたルール(条文)には、このような制限・限定はついていません。
共有物の管理者の資格→共有者限定なし
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p20
6 管理者の権限(基本)
共有物の管理者が行う(決定する)ことができる範囲は管理行為に限定されています。なお、令和3年改正で、変更のうち軽微変更は管理行為として扱うことになったので、軽微変更も管理者が行える範囲に含みます。
(軽微ではない)変更行為は、共有者全員の同意(共有者による意思決定)があれば、管理者が行う(実行行為)ことができます。
管理者の権限(基本)
あ 管理行為の限定
共有物の管理者が行うことができるのは、共有物の管理に関する行為(軽微変更を含む)である
変更行為を行うためには、共有者全員の同意が必要である(軽微変更を除く)
※民法252条の2第1項
い 事実行為・法律行為
ここでいう管理に関する行為には、事実行為のほか、法律行為も含まれる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p13
7 管理者による決定の典型例(管理者先行)
共有物の管理者は、管理行為の範囲内のことであれば、自身で決定して、実行行為を行うことができます。共有者が判断を委ねている、という構造になっている、ともいえます。
たとえば、共有の土地を駐車場として1年間賃貸するということを自身の判断で行うことができます。この賃貸借は適法なので、共有者が賃貸借を否定すること(明渡請求をすること)はできません。
管理者による決定の典型例(管理者先行)
あ 管理者による決定
ア 中間試案(本体)
(注1)共有物の管理に関する事項についての定めがない場合には、管理者が自己の判断で共有物の管理に関する事項を定めることができる。
※民法・不動産登記法部会『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案』2019年12月p4
イ 中間試案・補足説明
管理者は、共有者が定めをした場合には、その定めに従わなければならないが、共有者が管理者を選任する際に、特段の定めをしていない場合には、共有者はその管理を管理者の判断に委ねていると考えられるのであり、管理者は、共有者の意見を聞くなどしながら、自己の判断で、共有物を適宜管理することになる。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p18
い 具体例(賃借権設定)
また、共有物の管理者が、その権限に基づき、例えば、第三者に対して賃借権(共有者全員の同意を得なくとも設定することができるものに限る。試案第1の1(1)④参照)を設定した場合には、他の共有者がその賃借権を否定することはできないことになる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料27』p15
8 共有者による決定の優先(共有者決定先行)
共有物の管理者は管理行為の範囲の決定(と実行行為)をすることができますが、管理者に権限が専属するわけではありません。つまり、管理者が選任されていても、共有者自身が持分の過半数で意思決定をすることもできるのです(後述)。つまり、管理行為範囲内の意思決定は、管理者と共有者自身が競合します。結果的に、先に決定した方が優先となります。
ですから、共有者自身が過半数で決定した管理行為を管理者が否定する(別の使用方法を採用する)ことはできません。
共有者による決定の優先(共有者決定先行)
あ 共有者による決定→可能
共有者は、共有物の管理に関する事項につき、変更又は処分を含むものは共有者全員の同意により、その余のものは各共有者の持分の価格の過半数により定めることができるのであり、
い 管理者の決定→不可(具体例)
例えば、共有物が土地である場合に、共有者がその土地を第三者に賃貸することを定めたり、駐車場や私道として利用することを定めたりした場合には、管理者は、その定めに従って当該土地を管理すべきであり、その定めに反することは許されないと考えられる。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p18
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料27』p17(同内容)
9 共有者の決定(先行)に反する管理者の行為の効力
前述のように、管理行為について共有者による意思決定が先行していた場合、これが優先なので、後から管理者が管理行為をしても、原則として無効(共有者に効果が帰属しない)となります。ただし、これだと管理者を信じて取引をした者が被害を受けるので、第三者が善意である(管理者の行為が無効であると知らなかった)場合には、結果的に管理者の行為は有効として扱われます。
共有者の決定(先行)に反する管理者の行為の効力
あ 基本設計→無効+第三者保護
共有者が管理に関する事項を決した場合には、管理者はこれに従わなければならず、管理者がこれに違反したときは共有者に対して効力を生じないが、取引の安全を確保するために、善意者保護規定を置くこととしている。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p14
い 無効・第三者保護の具体的内容
ここでいう「効力を生じない」とは、管理者が共有物の利用方法などに関して共有者の定めに反する行為をした場合には、共有者がその利用方法等を否定することができることを、
「共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない」とは、共有者が善意の第三者に対してその利用方法等を否定することができないことを念頭においている。
う 第三者保護の具体例
例えば、定めに反して管理者が第三者に共有物を賃貸した場合に、第三者はその土地を共有者に無断で使用していることになるが、その第三者が善意である場合には、その使用は適法となり、共有者がその第三者に対して共有物の使用差止等を求めることはできないということになる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p14
10 管理者による取引の当事者→管理者自身(共有者ではない)
たとえば、管理者が第三者との間で(管理行為にとどまる)賃貸借契約を締結したことを想定します。賃貸人は誰になるのでしょうか。
共有者全員の代表(代理人)であるという発想もありますが、これは、法改正の時の議論では、否定されています。賃貸人は、単純に管理者だということになります。
代理権授与の意思表示をしていない共有者については、規定や解釈で代理権授与を認めることはできない、という理由です。
この見解によると、賃貸借契約の効果が(直接的に)共有者に及ぶわけではないことになります。
この点、改正前の議論では、持分の過半数による決定で授権を認める見解がありました(谷口氏・平野氏見解)。
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除の意思表示の方法(反対共有者の扱い)
法改正の際の議論では、従来の見解について触れられていませんが、谷口氏・平野氏見解を否定するものとも読めます(後述)。
なお、当然ですが、管理者選任の多数決とは別に共有者から管理者への代理権の授与があれば、管理者は代理人として行為ができるという指摘もなされています。
管理者による取引の当事者→管理者自身(共有者ではない)
あ 部会資料27
契約の当事者は当事者間の合意で決まるものであることや、共有関係の規定(民法第252条等)は、管理者に対して共有者を名義人とする契約を締結する権限自体を付与するものではないと考えられるとすると、管理者は、管理に関する行為として契約を締結する場合には、基本的には、自己の名で行わなければならず、契約の当事者は管理者と第三者であり、共有者は契約の当事者にはならないと解することが考えられる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料27』p15
い 部会資料41
なお、管理者が法律行為をする際には、自己の名ですることができると解される。
例えば、管理行為の一環として共有物の修繕を修理業者に依頼する際には、自己の名ですることが多いと思われる。
また、管理者である第三者等が共有者の代理人として共有者を当事者とする法律行為をすることも考えられるが、そのためには、別途、共有者から代理権の付与を受ける必要があると解される。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p13、14
11 管理者による登記申請→共有者の代理人(通達)
令和3年改正に対応する登記手続を説明する通達が令和5年に出されました。この中に、共有物の管理者が行う登記申請についての説明があります。その説明の中では、管理者が行う取引は管理者自身が当事者になる方法と、授権をした共有者が当事者であり、その代理人として管理者が取引をする方法の2つがあることを前提として、登記申請については管理者自身は申請人になれない、つまり共有者の代理人という方式だけしか認めない、という扱いが示されています。そこで、登記申請を管理者が行う際には代理権を示す必要があるのですが、これについては、管理行為であれば管理者選任(多数決)、変更行為であれば当該変更行為についての共有者全員の同意で足りるという扱いが示されています。つまり、登記申請についての授権(代理権授与)は、その前段階の意思決定(多数決か全員同意)に含まれるという考え方がとられているといえます。
管理者による登記申請→共有者の代理人(通達)
あ 分筆・合筆の登記
ア 登記の申請人→共有者(管理者は代理人)
共有物の管理者が共有物について分筆又は合筆の登記を申請する場合には、管理者を選任した共有者らが登記申請人となり、それ以外の共有者らは登記申請人となる必要はない。
当該共有物の管理者が分筆又は合筆の登記の申請をする場合には、管理者を選任した共有者らの代理人として行うものと解される。
イ 授権→管理者選任に含む
前記(1)の過半数による決定により共有物の管理者を選任したことを証する情報が、代理人の権限を証する情報となる(これとは別に登記申請について代理権を授与したことを証する情報の提供は要しない。)。
い 短期賃借権の設定
ア 賃貸人→管理者、共有者の全部または一部(前提)
共有物の管理者が、共有物について短期の賃借権等を設定し(管理者自らが契約当事者になる場合と、共有者の全部又はその一部が契約当事者になり、管理者がこれらの者から委任を受けて契約を締結する場合がある。)、
イ 登記の申請人→選任した共有者(管理者は代理人)
当該短期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、管理者を選任した共有者らが登記申請人となり(それ以外の共有者らは、登記申請人とはならないが、登記義務者としてその氏名又は名称及び住所を申請情報の内容とする必要がある。)。
当該共有物の管理者は、管理者を選任した共有者らの代理人となって申請をすることになると解される。
ウ 授権→管理者選任に含む
過半数による決定により共有物の管理者を選任したことを証する情報が、代理人の権限を証する情報・・・となる(これとは別に登記申請について代理権を授与したことを証する情報の提供は要しない。)。
う 長期賃借権の設定
ア 賃貸人→管理者、共有者の全部または一部(前提)
共有物の管理者が共有物について長期の賃借権等を設定し(管理者自らが契約当事者になる場合と、共有者の全部又はその一部が契約当事者になり、管理者がこれらの者から委任を受けて契約を締結する場合がある。)、
イ 登記の申請人→共有者全員(管理者は代理人)
当該長期の賃借権等の設定の登記を申請する場合には、共有者全員が登記申請人となり、管理者がその代理人となって申請をすることになる。
ウ 授権→賃借権設定の同意に含む
この場合には、上記(4)の代理人の権限を証する情報として挙げたものに加えて、各共有者が共有物について長期の賃借権等を設定したことに同意したことを証する情報・・・が代理人の権限を証する情報として必要となる(不登令第18条)。
※法務省民事局長令和5年3月28日『法務省民二第533号』通達p5〜8
12 管理者との委任契約の当事者→契約をした共有者のみ
次に、共有者と管理者の関係を考えてみます。共有者が、多数決をして「Cを管理者として選任する」ことを決定します。その後、共有者(のうち誰か)が、Cに管理者となってくれることを頼み、Cが承諾して、正式に「Cが管理者」になります。この契約の種類は委任契約です。
この委任契約の当事者ですが、受任者が管理者(C)であることはよいのですが、誰が委任者か、という問題があります。
共有者全体として意思決定をしたのだから、共有者全員が委任者になるという発想も出てきますが、法改正の際の議論では、これは否定されています。実際に管理者との間で契約をした共有者(A)だけが委任者である、という見解が示されています。厳密には、管理者に対して委任契約の申込または承諾の意思表示をした共有者(A)、ということになります。
管理者との委任契約の当事者→契約をした共有者のみ
(そのように解さないと、委任契約の締結に反対した当事者もその契約上の義務を負うことになるし、民法第252条は、共有者を本人とする契約の代理権を法律上管理人(注・「管理者」が正しいと思われる)に付与するものではないと解される。)。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p12
なお、最後のカッコ書きの部分で、民法252条は代理権付与(授権)の根拠とならないという趣旨の記述があります。これは前述の谷口氏・平野氏見解を否定するものと読めます。
13 「管理者選任関係」と「委任関係」の2分論
前述の見解を前提とすると、管理者と契約をしていない共有者(B)は委任者ではない、かつ、Bは管理者に代理権の授与をしていない、そして、たとえば管理者が行った第三者Dとの間の賃貸借契約などの効果がBに直接及ぶわけではない、ということになります。
では、BはDの賃借権(占有権原)を否定できるかというとそれはできません(前述)。
このように、一見整合しない2つの「関係」が登場するのです。法改正の議論の中では、委任関係と管理者選任関係という2つに分類される、という説明がなされています。
「管理者選任関係」と「委任関係」の2分論
あ 2分論
この考え方によれば、持分の価格の過半数により管理者を選任した場合には、管理者と共有者全員との間に管理者選任関係が成立し、それとは別に委任契約が締結されれば、管理者と実際に契約の当事者となった共有者との間に委任関係が成立することになる。
い 将来の解釈論発展の望み
管理者選任に反対をしていた共有者と管理者との間に委任関係があるとみることはできないと解されるが、いずれにしても、この問題は今後の解釈に委ねることも考えられる。
う 実務的な視点
もっとも、実際には、管理者は、持分の過半数の者の意向に沿って活動をすることになるであろうし、管理費用や管理者の報酬は、基本的に委任契約の当事者である共有者から回収することになることには変わりがないと考えられる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p12
14 解任の意思表示(実行行為)→委任者以外も可能
以上のように、共有者と管理者の関係は2つに分けられます(分けないと説明がつきません)。
2つのうち、委任関係は、共有者のうち実際に委任契約をした者Aと管理者Cの間にだけ存在します。
では、解任のことを考えてみます。共有者の持分の過半数(多数決)で解任することを決定できます(前述)。その後、一般論としては、委任者が受任者に対して解任の意思表示をします。
この一般論を元にすると、委任者ではないBが受任者(管理者)Cに対して解任の意思表示をすることはできないことになります。
しかし、これについては、法改正の際の議論では、Bが解任の意思表示をすることができる方向の見解が示されています。明確な理由や解釈は示されていません。
解任の意思表示(実行行為)→委任者以外も可能
※法制審議会民法・不動産登記法部会第13回会議(令和2年6月2日)『部会資料27』p16
15 委任の報酬(2分論前提)
以上で、誰が委任者になるかということを説明しましたが、このことが実際に問題となるのは、管理者の報酬を誰が支払うかというものです。
これについては、要するに、委任契約の中で報酬を決めるということが想定され、この場合は、(共有者の全員ではなく)(共有者のうち)委任者となった者が報酬の支払義務を負うことになります。
だからといって、他の共有者Bは報酬を負担しなくてよいというわけではありません。たとえば共有者Aが管理報酬を支払った場合、この費用(負担)は共有物の管理の費用にあたるので、AはBに(Bの持分割合相当額を)求償できることになります。
委任の報酬(2分論前提)
あ 報酬の合意→個別合意
もっとも、持分の価格の過半数によって共有者の1人を管理者に選任する場合に、その管理者になる者とその選任に賛成をした者との間で、民法上の共有者間のルールとは別に、管理者と選任に賛成する共有者の間の法律関係を別に定める契約をすることができるのかについては、別途問題となり得る。
例えば、選任に賛成をした者が管理者に対して報酬を支払うことを合意することは、許されると考えられる
い 合意していない共有者→拘束なし+求償を受ける
(この合意は、合意をしていない他の共有者を拘束しない。なお、共有者が報酬を支払った場合に、それが管理費用(民法第253条)に該当し、求償が認められるのかは、別途問題になる。)。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p13
16 委任の費用償還義務者→委任者のみ(共有者全員ではない)
共有物の管理者の金銭関係は前述の報酬とは別に(管理者が立て替えた)費用もあります。費用の支払義務を負うのも、委任者(になった共有者)です。委任者であるAが費用を支払った後に、共有者の内部的処理として、AがBに求償できるのも、報酬の扱いと同じです。
委任の費用償還義務者→委任者のみ(共有者全員ではない)
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p14
本記事では、共有物の管理者の制度について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。