【所在等不明共有者の不動産の共有持分譲渡権限付与手続(令和3年改正)】

1 所在等不明共有者の不動産の共有持分譲渡権限付与手続(令和3年改正)

共有者の1人が誰か分からない、または所在が分からないという場合には、管理や変更の意思決定ができなくて困るので、裁判所の決定を得て、これらの意思決定をすることができるようにする制度が、令和3年の民法改正でできました。
詳しくはこちら|所在等不明共有者がいる場合の変更・管理の裁判手続(令和3年改正)
詳しくはこちら|賛否不明共有者がいる場合の管理の裁判手続(令和3年改正)
令和3年改正ではさらに、このような場合に、強制的に所在不明の共有者の共有持分を含めて、共有者全員の共有持分(つまり100%所有権として)第三者に売却することができる制度もできました。本記事ではこの制度について説明します。

2 条文規定(民法・非訟事件手続法)

最初に、条文の規定を押さえておきます。用語としては、特定できない共有者と所在が分からない共有者をあわせて、「所在等不明共有者」といいます。所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡する裁判所の制度のうち、基本部分は民法262条の3に規定され、細かい手続の内容は非訟事件手続法88条に規定されました。

条文規定(民法・非訟事件手続法)

あ 民法263条の3

(所在等不明共有者の持分の譲渡)
第二百六十二条の三 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
3 第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
4 前三項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
※民法262条の3

い 非訟事件手続法

ア メイン(非訟事件手続法88条) (所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与)
第八十八条 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判(民法第二百六十二条の三第一項(同条第四項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判をいう。第三項において同じ。)に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
2 前条第二項第一号、第二号及び第四号並びに第五項から第十項までの規定は、前項の事件について準用する。
3 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後二箇月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者(民法第二百六十二条の三第一項に規定する所在等不明共有者をいう。)の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。
※非訟事件手続法88条
イ 準用される規定(非訟事件手続法87条の一部) 2 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号、第三号及び第五号の期間が経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることができない。この場合において、第二号、第三号及び第五号の期間は、いずれも三箇月を下ってはならない。
一 所在等不明共有者(民法第二百六十二条の二第一項に規定する所在等不明共有者をいう。以下この条において同じ。)の持分について所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあったこと。
二 裁判所が所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間内にその旨の届出をすべきこと。
・・・
四 前二号の届出がないときは、所在等不明共有者の持分の取得の裁判がされること。
・・・
5 裁判所は、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。
6 裁判所は、前項の規定による決定をした後所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするまでの間に、事情の変更により同項の規定による決定で定めた額を不当と認めるに至ったときは、同項の規定により供託すべき金銭の額を変更しなければならない。
7 前二項の規定による裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
8 裁判所は、申立人が第五項の規定による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。
9 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、確定しなければその効力を生じない。
10 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、所在等不明共有者に告知することを要しない。
※非訟事件手続法87条2項1号、2号、4号、5項〜10項

3 対象の限定→不動産のみ

所在等不明共有者の持分の譲渡権限付与の手続が使えるのは、不動産だけです。正確には、借地権など、不動産を使用する権利も含みます。

対象の限定→不動産のみ

あ 規定の内容

持分譲渡権限付与裁判の対象は、不動産・不動産の使用又は収益をする権利である
※民法262条の3第1項、4項

い 不動産に限定した理由(概要)

所有者不明土地対策の観点から、この制度の対象は土地及び土地と密接に関連する建物(とそれらの利用権)とすれば足りると考えられた
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分取得手続(令和3年改正)

4 裁判手続(当事者・管轄)

この手続は、所在等不明共有者Aの持分の譲渡権限を取得したい共有者Bだけが裁判手続上の当事者となります。Bは相手方(被告)にはなりません。AとBの1対1の構造というわけではありません。

裁判手続(当事者・管轄)

あ 申立人

共有者
※民法262条の3第1項

い 相手方

申立人以外の共有者は当事者とならない
※民法262条の3第1項参照

う 管轄裁判所

共有物の所在地を管轄する地方裁判所
※非訟事件手続法88条1項

5 特定不能・所在不明の証明の具体的内容・報告書サンプル(概要)

この手続を利用できるのは、「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」です。つまり、共有者の氏名(個人)や名称(法人)が分からない、または、どこにいるかが変わらない、のどちらかです。一定の調査をしたけれど分からない(知ることができない)、という状況が必要です。具体的な調査の内容としては、登記情報や戸籍・住民票の情報といった公的な資料を取り寄せることや、申立人が、所在等不明共有者以外の共有者に所在を知らないかを質問することが想定されています。
詳しくはこちら|特定不能・所在不明の内容と証明(調査)方法・調査報告書サンプル

6 遺産共有の除外

この持分譲渡権限付与の裁判手続は、譲渡権限付与を受けようとする持分(所在等不明共有者のもっている持分)が遺産共有である場合、つまり、共同相続で遺産分割が未了というケースでは、原則として使えません。ただし、相続開始から10年が経過していれば遺産分割が未了であっても使えます。
この点、共有持分取得裁判では、相続開始から10年経過後でも、持分譲渡権限付与裁判の申立人以外の共有者が遺産分割の申立をした場合には、やはり原則に戻って持分譲渡権限付与の裁判はできなくなりますが(→該当箇所)、共有持分譲渡権限付与裁判ではこのようなルールはありません。決定が出たとしても、共有者の1人でも協力しない限り実際に共有持分の売却はできません(→該当箇所=効果)。申立人以外の共有者に、何らかの不服申立手段を与えなくても、決定内容の実現は止められるという構造があるからです。

遺産共有の除外

あ 条文規定

所在等不明共有者の持分相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
※民法262条の3第2項

い 解釈(概要)

所在等不明共有者の持分が遺産共有である場合には持分譲渡権限付与の裁判はできない
遺産分割が完了している、単独相続、相続人不存在のケースでは、遺産共有ではないので持分譲渡権限付与の裁判ができる
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分取得手続(令和3年改正)

7 決定の効果1=譲渡権限付与

持分譲渡権限付与裁判の申立を受けた裁判所は、最終的に持分譲渡権限を付与する決定をします。この決定の内容は、所在等不明共有者Aの持分を第三者に譲渡(売却)する権限を申立人Bに付与する、というものです。この第三者への売却は、共有者全員が(つまり100%所有権として共同して)売却することが前提です。

決定の効果1=譲渡権限付与

あ 条文規定

「申立人に、所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する」
※民法262条の3第1項

い 不動産全体売却の前提(限定)

本文①(注・法案)では、「所在等不明共有者以外の共有者全員の同意を得て」としているが、これは、所在等不明共有者の持分のみを売却することはできず共有物である不動産全体を売却する場合に限り、その持分の売却を認める趣旨である。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p10

う 売却の条件(代金額)・相手方→制限なし

ア 中間試案・補足説明 なお、権限を取得した共有者が、不動産を低廉な金額や無償で第三者に譲渡することも不可能ではないが、・・・
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p38、39
イ 法務省・改正のポイント 誰に、いくらで譲渡するかは、所在等不明共有者以外の共有者の判断による
※「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(令和5年5月版)」法務省民事局2023年p38

8 決定の効果2=対価請求権発生

BがAの持分も含めて売却してしまうことで、Aは持分を失います(奪われます)。そこで、その代わりに対価を請求できることになります。具体的には、AがBに対して不動産(全体)の時価のうち自身Aの持分割合に相当する金額を請求できる(請求権を取得する)ことになるのです。持分譲渡権限付与の裁判の時点では、第三者への売却が実現したわけではありません(実際に一定期間に売却をしないと決定(裁判)は失効します)。そこで、請求権の取得(発生)は、第三者への売却(譲渡)の時点となっています。

決定の効果2=対価請求権発生

あ 条文規定

第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
※民法262条の3第3項

い 請求権発生の時点

対価請求権が発生するのは、(所在等不明共有者の持分を含めた)不動産所有権全体の譲渡(売却)の時点である
その理由は、持分移転(物権変動の効果)が生じた時点と一致させる趣旨である

う 持分移転の効果の発生時点

・・・請求をした共有者が、所在不明共有者以外の共有者全員の同意を得て不動産の所有権を第三者に譲渡することができる権限を取得しただけでは、所在不明共有者の持分の帰属に変更はない
所在不明共有者の持分が第三者に譲渡されるのは、請求をした共有者が権限を取得した上で、他の共有者の同意を得て、第三者との間で売買契約を締結するなどして物権変動の効果を生じさせたときである。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』2020年1月p38

9 対価請求(供託金額算定)における共有減価→なし

Aが取得する対価請求権の金額は、不動産そのものの価値をベースにしますので、共有減価がされることはありません。なお、後述のように、持分譲渡権限付与の裁判の中で裁判所が供託金額を定めますが、これは対価請求権の金額が基準となります。つまり共有減価なしということは同じです。

対価請求(供託金額算定)における共有減価→なし

ここで、「所在不明共有者の持分の時価」ではなく、「不動産の時価相当額を所在不明共有者の持分に応じて按分して得た額」としているのは、この規律の下では、共有持分が譲渡されるのではなく、共有物の全体が譲渡されるため、その代金は共有減価を考慮せずに決定されると考えられ、所在不明共有者に対して支払われるべき金額も共有減価を考慮しないことを前提として持分に応じて按分した額とすべきと考えられるからである。
※法務省民事局参事官室・民事第二課『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』令和2年1月p39

10 裁判所による公告

持分譲渡権限付与の裁判の申立を受けた裁判所は、公告をします。公告の目的は、強制的に持分を奪われる共有者Aに対して、これを阻止する最後の機会を与える、というものです。仮にAが異議を出すと、裁判所は持分取得を決定できなくなります。つまり異議の趣旨は、「私(A)の持分を勝手に売却しないでください」というものです。
なお、令和3年改正で持分譲渡権限付与裁判と一緒に作られた持分取得裁判では、他の共有者(AB以外の共有者)への通知も行われます。これは申立人BだけがAの持分を取得する制度なので、他の共有者にもA持分を取得する機会を与えるためです。
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分取得手続(令和3年改正)
この点持分譲渡権限付与裁判では、他の共有者は裁判に参加しなくても、申立人Bだけ持分割合が増えるということにはなりません。また、他の共有者は反対したいなら第三者への売却に協力しなければ売却が実現しないので困ることがありません(そもそも)。このような構造から、他の共有者への通知はしないことになっています。

裁判所による公告

あ 公告

裁判所は、一定の事項を公告する
公告後、一定の異議の届出・申立の期間が経過しないと持分取得の裁判をすることができない
※非訟事件手続法88条2項、87条2項

い 通知(なし)

共有者への通知はない
(非訟事件手続法87条3項の準用はない)
※非訟事件手続法88条2項参照

11 他の共有者からの異議(分割手続の優先)→なし

別の制度である持分取得裁判では、他の共有者(AB以外の共有者)は、共有物分割か遺産分割(分割手続)の申立をした上で異議を出せば、持分取得裁判を止めることができます。これは、共有持分の帰属の変更については、持分取得裁判分割手続が重複しますが、分割手続を優先するという基本設計としてあるのです。
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分取得手続(令和3年改正)
この点、持分譲渡権限付与裁判についても同じように、分割手続が優先という基本設計は同じです。ただ、他の共有者が異議によって止めることができることになっていなくても(持分譲渡権限付与の決定が出てしまっても)、他の共有者は第三者への売却に協力しなければ売却は実現しないので困らない(分割手続を進めることができる)のです。そこで異議の制度自体が採用されていないのです。

他の共有者からの異議(分割手続の優先)→なし

あ 持分取得裁判における異議(参考)

共有者が、共有物分割または遺産分割請求をした上で、持分の取得の裁判に異議の届出をする制度がある
※民法262条の2第2項

い 持分の譲渡制度における異議

共有者が、共有物分割または遺産分割請求をした上で、持分の譲渡の裁判に異議の届出をする制度はない

12 供託命令と履行

民法上は、持分譲渡権限付与の裁判の後に実際に不動産が売却された時点で持分の価値(正確には不動産の価値×持分割合)相当額の請求権が発生するだけになっていますが、非訟事件手続法で、より具体的な手続がルール化されています。
それは供託命令です。裁判所は、Aが取得する請求権の金額を計算して、申立人Bに、その金額を供託するよう命じるのです。
そして、Bがその金額を供託した後に、裁判所は持分譲渡権限付与の裁判をします。つまり、Bは先に金銭を支払わないと持分の譲渡権限を取得できないことになります。

供託命令と履行

あ 供託命令

持分取得の裁判の前に、裁判所は供託命令を出す
裁判所が金額を決定する
※非訟事件手続法88条2項、87条5項

い 供託の履行

申立人は裁判所が決定した金額を供託する
申立人は供託書を裁判所に提出する
※非訟事件手続法88条2項、87条5項

13 供託・売却・対価請求の「差額」発生(概要)

以上のように、持分譲渡権限付与の裁判に関しては、金銭の動きが3つ登場します。供託、第三者への売却、所在不明等共有者による対価請求です。そして、3つの金額は一致しない(差額が発生する)ことも想定されています。これについては複雑なので別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|持分譲渡権限付与の裁判における3段階の金銭の動き(供託・売却・対価請求)

14 第三者供託→可能

ところで、持分譲渡権限付与の裁判での供託は、この制度の使い勝手を悪くしている側面もあります。通常は、申立人Bとしては、第三者に売却してから、売却で獲得した代金の中から、Aの持分割合相当額を調達したいと考えます。しかし、手続上、最初に供託金を支払った上で裁判(決定)をもらい、それが確定した後に、第三者との間で(正式な)売買契約を締結して、その後、引渡や所有権移転登記をして、この時点で代金決済をする(代金を得る)という流れになります。裁判と代金獲得までには一定のタイムラグがあるのです。手持ちの資金で手当できればよいですが、そうでない場合はつなぎ融資を受けるか、買主候補者から先払いにしてもらうなどの工夫が必要になります。融資や買主の先払いの方法を用いる場合には、これらの者が直接供託する、という方法をとることもできます。第三者供託という方法です。

第三者供託→可能

今回の仕組みにおける供託金について検討すると、この供託金は、所在等不明共有者の有する時価相当額請求権に充当されるべきものであり、その供託は弁済としての性格を持つと考えられる。
そして、正当な利益を有する第三者は債務者に意思に反しても弁済をすることができる(民法第474条第2項参照)ところ、この仕組みで不動産の譲渡を受ける第三者は弁済について正当な利益を有すると思われる。
また、第三者供託を認めても、それによって所在等不明共有者に不利益はないと考えられる。
そのため、不動産の譲渡を受ける第三者が供託をすることは許されると考えられる。
※法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議(令和2年8月25日)『部会資料41』p10、11

15 供託金の取戻→原則否定

供託命令で決められた金額の供託をすれば、ようやく持分譲渡権限付与が決定されます。この供託の性質は、一種の弁済供託といえるので、(Bが)自由に取戻をできるように思えますが、弁済供託そのものではないので、原則としてできない扱いとなっています。
ただし、裁判(決定)の効力が消滅した場合には取戻は可能です。具体的には、裁判(決定)による譲渡権限の期限(2か月)までに第三者への売却が実現しなかったという場合です。この場合の供託金の取戻の手続では、持分譲渡の効力が生じていないことの証拠が必要です。登記事項証明書で持分移転登記がなされていないことを示す、ということが想定されます。

供託金の取戻→原則否定

あ 原則→否定

イ 供託金の取戻しについて
(ア)供託命令の効力が消失した場合又は供託金の額の変更がされた場合
前記1(4)イと同様(注・「う」)の取扱いをするものとする。

い 例外(2か月の期間切れ)→可能

ア 期間切れによる裁判の失効 (イ)裁判の効力の喪失があった場合
所在等不明共有者の持分の譲渡権限の付与の裁判の効力が生じた後2か月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失うとされた(非訟法第88条第3項)。
イ 供託金取戻の手続→登記事項証明書の添付 この場合において、供託金の取戻しをするときは、「取戻しをする権利を有することを証する書面」として、2か月以内に持分の譲渡の効力が生じていないことを証する書面を添付するものとする。
※法務省通達令和5年3月27日『民法等の一部を改正する法律の施行に伴う供託事務の取扱いについて』p5

う 持分取得決定における供託金の取戻(概要)

持分取得決定の裁判における供託金の取戻は原則として認められない
持分取得決定の申立の取下、却下により、供託決定が失効した場合には取戻ができる
詳しくはこちら|所在等不明共有者の不動産の共有持分取得手続(令和3年改正)

16 手続の流れ

持分譲渡権限付与の裁判の手続の流れを整理しておきます。申立を受けた裁判所は、公告(前述)をして、供託命令を出します。所在等不明共有者自身から異議の届出がなく、また、供託がなされれば、持分譲渡権限付与の裁判をします。その結果、申立人Bは所在等不明共有者Aの持分を第三者に譲渡する権限を取得します。その後、不動産全体を第三者に売却した時点で、Aの持分に相当する対価の請求権が発生します。

手続の流れ

あ 申立
い 裁判所による公告

異議申出期間は3か月以上
※非訟事件手続法88条2項、87条2項

う 異議届出なし

所在等不明共有者による異議の届出(所在判明)がない
申立人以外の共有者による異議の届出(共有物分割または遺産分割の請求)がない

え 供託命令

裁判所が供託命令を出す(金額を裁判所が決定する)
※非訟事件手続法88条2項、87条5項

お 譲渡権限付与の裁判

裁判所が取得の裁判をする
確定時に持分譲渡権限付与の効果が生じる
※非訟事件手続法88条2項、87条9項

か 不動産売却

共有者全員が第三者へ不動産(所有権)を売却する
時価相当額×持分割合の請求権の発生
※民法262条の3第3項

17 申立書のサンプル(概要)

共有持分譲渡権限付与の裁判は裁判所への申立書の提出から始まります。申立書の記載方法(書式・サンプル)や添付書類については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|持分取得・持分譲渡権限付与の申立書サンプルと説明文書(裁判所公表)

18 持分譲渡権限付与の裁判の後の譲渡による移転登記手続

持分譲渡権限の付与を認める決定が確定した後に、共有不動産全体を第三者に売却します。売却による登記(共有者全員持分全部移転)のうち、A持分の移転については、申立人BがA(登記義務者)の代理人として申請します。法務局としては、決定(裁判)の中に代理権の授与もあると読み込む、つまり決定書を代理権限証明情報として扱います。

持分譲渡権限付与の裁判の後の譲渡による移転登記手続

あ 登記申請の当事者

(2)前記(1)の裁判があり、当該裁判に基づいて所在等不明共有者の持分全部の移転の登記の申請がされた場合には、請求を行った共有者は、所在等不明共有者の代理人となると解され、確定裁判に係る裁判書の謄本が代理人の権限を証する情報となる。

い 登記識別情報(不要)

なお、登記識別情報の提供をすることを要しない。
※法務省民事局長令和5年3月28日『法務省民二第533号』通達p10

19 賃借権の準共有持分の譲渡における譲渡承諾

借地権などの不動産の使用収益権の準共有持分も持分譲渡権限付与裁判の対象となります(前述)。この点、賃借権の準共有持分の取得は、形式的には賃借権の譲渡にあたり、賃貸人の承諾がないと解除されることになります。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸と賃貸人の承諾と無断譲渡・転貸に対する解除
借地のケースでは、賃貸人(地主)が承諾してくれない場合には、裁判所に許可をもらう非訟手続で解決できるはずです。しかし、この手続の申立をすることができるのは譲渡人だけであり、譲受人からの申立は認められていません。
詳しくはこちら|借地権譲渡許可の裁判の申立人と申立時期
複数の譲渡人のうち一部の所在が不明である場合には、このことがハードルとなってしまいます。

本記事では、所在等不明共有者の持分を他の共有者が第三者に譲渡(売却)する裁判について説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【所在等不明共有者の不動産の共有持分取得手続(令和3年改正)】
【令和3年改正による共有関連の新制度のまとめ(共通点・相違点)】

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