【普通失踪(失踪宣告)の基本(要件・効果・手続)】

1 普通失踪(失踪宣告)の基本(要件・効果・手続)

失踪、つまり、行方不明、音信不通が長期間続いている場合、財産や夫婦(身分関係)に関して支障が生じることがあります。そこで、生死不明の状況が7年間続いた場合、死亡したものとみなす、(普通)失踪宣告という制度があります。本記事では普通失踪の基本的事項を説明します。

2 失踪宣告を使う典型的な状況

失踪宣告を使う、つまり行方不明の者Aを死亡したものとみなすことが適している状況にはいろいろなものがあります。
典型的なものは、Aの財産を妻や子(相続人)に承継させる場面、Aの親が亡くなったところ、相続人で遺産分割をしたいがAも相続人の1人なので話し合いができない場面、Aの妻が婚姻を解消したい(死別として独身に戻る)というものがあります。

3 普通失踪の条文

最初に普通失踪の条文を確認しておきます。
失踪宣告がなされるのは7年間の生死不明である場合であり、利害関係人が裁判所に申立をすることが必要です。
裁判所が失踪宣告を出すと、法律上は死亡したものとみなされます。相続人に財産が承継され、また、生命保険金の支給がなされます。
あくまでも法律上死亡した扱いにするだけなので、後から本人が生きていることが発覚することもあります。その場合は失踪宣告は取り消されます。それまでになされた財産の移転や身分関係の変化は、一定の範囲で巻き戻すことになります。

普通失踪の条文

あ 失踪宣告

不在者生死七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
※民法30条1項

い 失踪宣告の効力

前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、・・・、死亡したものとみなす
※民法31条

う 失踪宣告の取消

第三十二条 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
※民法32条

4 「不在者の生死不明」の意味

条文上、「不在者の生死が7年間明らかでない」場合に失踪宣告が使えることになっています。この意味を順に説明します。

(1)「不在者」の意味

「不在者」の意味は民法25条が定めています。以前特定の場所(住所や居所)に住んでいたけれど、今はそこにはいない、かつ、戻って来る見込みがない、という意味です。連絡がとれるかどうかは関係ありません。

「不在者」の意味

あ 基本

不在者とは、従来の住所または居所を去って容易に帰来する見込みのない者をいうと理解されている(梅55)。
※田山輝明稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p441

い もともと所在不明→否定

しかし、従来の住所・居所自体が不明の場合には、不在者の概念には含まれない(長崎家佐世保支審昭43・3・16家月20・9・82)。
※田山輝明稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p441、442

(2)「生死不明」の意味と起算点

失踪宣告が使えるのは、不在者であり、かつ、生死不明である場合です。日本語としては生きているか死亡しているかがわからない、という単純な言葉です。法律的にもそのような意味です。具体的な状況としては、音信不通(連絡がとれない)期間が長く続いている、ということになります。
そして、生死不明(音信不通)が7年続いた場合には、失踪宣告ができる、ということになっているのです。
ルールとしては、生死不明である期間(普通失踪期間)として7年が満了した時点で死亡したものとみなすことになります。最後の音信(連絡がとれた、面会できた)の時から7年後の時点を(法律上の)死亡時点とする、ということになります。

「生死不明」の意味と起算点

あ コンメンタール民法

ア 基本 「生死が明らかでないとき」とは、生存の証明も死亡の証明もできないことをいう。
イ 起算点→最後の音信の時) 7年間の起算点は不在者が生存していると知られた最後の時(最後の音信の時)と解される。
この7年間のことを「普通失踪期間」と呼ぶ。
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第8版』日本評論社2022年p93

い 新版注釈民法

ア 基本 生死不明とは、生存の証明も死亡の証明もできないことをいう(我妻104。通説)。
確実な生存の証拠がない場合とは音信不通を指すが、音信不通でも死亡の蓋然性がきわめて少ない場合は除かれ、または、少なくとも生死の蓋然性がなかばする場合(たとえば、災害地にあってその後消息のない場合など)でなければならない。
結局、生死不明とは、不在者の生存を証明しうる最後の時点から起算してその状態が7年あるいは1年継続することをいう(大谷美隆・失踪法論〔昭8〕514)。
イ 起算点→最後の音信の時 たとえば、昭和25年1月1日に不在者乙に遭った友人甲が乙の遺族に26年2月1日に語ったような場合、他になんら情報がなければ、25年1月1日を生死不明となった始期とすることになる。
※谷口知平・湯浅道男稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p467、468

う 生死不明の「日」(起算点)の特定

日時について、失踪の時期が「月」まで判明しているときはその月の末日にする。
年まで判明しているときはその年の12月31日を生死分不明の日時とする(大4・1・12民253号法務局長回答)。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p453

5 家庭裁判所の失踪宣告の審判の分類と管轄

失踪宣告は家庭裁判所が審理、決定を行います。手続としての分類上、別表第1事件に分類されます。相手方がいない、つまり、対立構造ではない、という種類の手続です。

家庭裁判所の失踪宣告の審判の分類と管轄

あ 家庭裁判所の審判手続

失踪宣告の手続は家庭裁判所の審判により行われる
別表第1事件に分類される
詳しくはこちら|家事事件(案件)の種類の分類(別表第1/2事件・一般/特殊調停)

い 管轄

不在者の住所地の家庭裁判所が管轄である
=申立書を提出する裁判所

6 利害関係人(失踪宣告の申立権者)の意味と具体例(概要)

失踪宣告の申立ができるのは、条文上、利害関係人としてしか書かれていません。本人が亡くなったとみなされた場合に相続人となる近親者は利害関係人に含まれますが、債権者や取引の相手方、というだけでは含まれません。
詳しくはこちら|失踪宣告の申立権者(利害関係人)の意味と具体例

7 家裁による生死不明の調査・所在判明可能性

失踪宣告によって不在者Aは死亡したものとして扱われることになります。Aが生きているとすれば、財産を奪われるなど、大きな影響があります。そこで生死不明の判定は慎重に行うべきです。
たとえば調査会社・探偵に依頼して、行方をたどるということも考えられます。もちろん、そのような調査をした場合はその結果(調査報告書)を審理する家庭裁判所に提出します。しかし、必須というわけではありません。
通常必須とされるのは、住民票上の住所とされる場所の現地調査や警察への行方不明者届出などです。
失踪宣告の申立を受理した家庭裁判所としても一定の調査を行います。
実際には、生死不明(所在不明)だと思って失踪宣告の申立をしたら、その後の調査で生存(所在)が判明することもあります。

家裁による生死不明の調査・所在判明可能性

あ 申立人が提出する資料の例

警察署長の発行する行方不明者届出受理証明書(従来の捜索届受理証明書
不在者宛ての返送された郵便物
「宛て所に尋ね当らず」等の理由により返送されたもの(特例設定時質疑101)。
③勤務先、親族、知人による陳述書
④本人が書いた日記、手紙、通話履歴、メール履歴など
⑤行方不明による捜索願いを掲載した新聞等
⑥調査会社に依頼した報告書
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p451

い 家裁による調査

家庭裁判所は、失踪宣告の申立があると、まず利害関係人と認められる者であるか否かを判断し、また失踪者が真に生死不明であるか、生存の有無、音信の最後が何年何月何日何時であったかを判断する。
そのため、失踪者の縁故関係、立寄り先を可能な限り諸方面へ照会して審理する。
これによって失踪期間の開始時、失踪期間経過の要件の存否を判断して公示催告を行う。
※谷口知平・湯浅道男稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p474

う 生存(所在)判明の可能性あり

申し立てられると家庭裁判所では、親族の情報、裁判所の調査嘱託により、不在者の所在が判明する場合もある
そのため、不用意に失踪宣告の申立てを促すようなことは避ける人もいる。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p452

8 家裁による生死不明の判断→裁量なし

失踪宣告の審判では最終的に裁判所は生死不明にあたるかどうかを判断します。前述のように生きているか亡くなっているかが分からない場合には生死不明といえます。そこで、生きている確率が9割、という状況でも、生きている立証ができたとはいえませんので、生死不明となります。裁判所は失踪宣告をする(認める)ことになります。

家裁による生死不明の判断→裁量なし

もちろん、催告期間中も生存の有無、生死不明の開始時について十分な審理をなしたうえで宣告の審判をしなければならない。
ことに遺族の意向を聴くことが必要である。
しかし、宣告の要件を具備しているかぎり、何ぴとの同意も必要とするわけではない。
生存や異時死亡の証明をなす者がなく、生存について心証を得ないかぎりは、死亡について確信を得なくても裁量の余地なく宣告の審判をすべきだ、と解するほかはない。
※谷口知平・湯浅道男稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p474

9 平成元年名古屋家決→保険金目的でも音信不通により判定方向

話は変わりますが、(普通失踪ではなく)危難失踪宣告の申立がなされたケースで裁判所が保険金目的の疑惑をもって申立を却下したものがあります。ただこれは、目的が不正だから否定したという単純なものではありません。
否定したのは危難です。具体的には海に転落したという部分です。この部分だけは作為の感を抱かせる、演出という余地を窺わせると宣言したのです。危難を否定したので、危難失踪を否定する、と判断したのです。普通失踪危難を必要としないので、否定していません。この事案ではまだ7年が経過していないので普通失踪は否定されますが、7年経過後に申立がなされた場合、不正目的の疑惑”を理由に否定することはできないのです。
ちなみにこの裁判例では保険金請求を受けた保険会社が参加人として反論していました。失踪宣告の家事審判は第1表事件なので対立構造ではない(前述)のですが、例外的に対立構造となっていました。

平成元年名古屋家決→保険金目的でも音信不通により判定方向

あ 裁判例

ア 偽装工作の動機あり ・・・不在者はかなりの負債を抱えていてその資金繰りは厳しい状態にあったとみられるところ、このような状況で1週間以上ものんびりと趣味の釣り旅行をしているというのは、申立人はその時期は看板等の営業が暇な時期に当たり別に不自然ではないと説明するが、やはり通常では考えられないことといわざるを得ず、また、不在者が本件のような海難事故に遭遇して死亡扱いとなれば多額の保険金を実質的に申立人が取得できる関係があり、客観的には不在者が所在不明となることは不在者にとっても大きな利益となる関係があったといえること。
イ 「作為」「演出」の疑惑→海への転落認定否定 ・・・不在者が前記昭和62年7月28日夜から翌日正午頃までの間に上記○○乗船場付近に赴いた形跡はあるけれども、本件では、前記釣竿の発見場所等から直ちに不在者が魚釣り中に上記○○乗船場付近で海に落ちたと推認するには疑問があり、却って、前記釣り竿の状態等からは不在者が現場に赴いたのは魚釣り目的とは考えにくく、かつ、前記ズック靴の遺留状態等は事故よりも作為の感を抱かせるものであるうえ、・・・の諸々の点は全体として不在者による海難事故の演出という余地をも窺わせる事情であり、結局、本件では、真相は不明であるけれども、不在者が当時海に落ちて遭難したと推認するには疑問が多く不在者がかかる海難事故に遭遇したとの推認をすることはできないものであって、不在者の失踪はむしろかかる海難事故とは別の事情がある可能性が高いといわざるを得ない。・・・
ウ 結論→「死亡の原因となりうる危難」否定 そうすると、本件では、不在者が海に落ちて生死にかかる危険に遭遇したと推認することはできずその他に不在者が死亡の原因となりうる危難に遭遇したとも認められず、かつ、不在者の失踪の期間は7年未満でもあるから、その余を検討するまでもなく、本件申立は失当ということになる。
よって、本件申立を却下することとし、主文のとおり審判する。
※名古屋家決平成元年12月22日

い 読み取り→「失踪」は認めた

・・・高額の生命保険に加入していた失踪者の遭難の状況に不審な点があるため、「特別失踪」の申立が却下された事案(名古屋家決平元・12・22判時1346・114)において、さらに7年以上生死不明の状態が継続すれば、たとえ死の確信がなくても、必ず失踪宣告をしなければならない
※谷口知平・湯浅道男稿/谷口知平ほか編『新版 注釈民法(1)改訂版』有斐閣2002年p474

10 普通失踪の手続の所要期間→全体で1年目安

失踪宣告の手続では、前述のように裁判所は生存が確認できないかをある程度慎重に調査します。個別的事案によって異なりますが、申立から失踪宣告までに1年程度を要することがあります。もちろん事案によってはこれよりも短いこともあります。
なお、公告期間だけは3か月以上と法定されています。3か月よりも短縮されることはありません。

普通失踪の手続の所要期間→全体で1年目安

あ 法律上の公告期間

失踪の種類 公告の最低期間 普通失踪 3か月 危難失踪(参考) 1か月
※家事事件手続法148条3項柱書

い 実務の傾向

ア 公示送達期間満了→申立4か月後目安 実務的には届け出期間満了日は、申込みから普通失踪では4か月、特別失踪では2か月程度とされている。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p455
イ 失踪宣告→1年目安 通常、申立てから失踪宣告まで1年程度程度は掛かるといわれている。
※正影秀明著『相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務』日本加除出版2018年p454

11 失踪宣告取消による遡及効と第三者保護

失踪宣告の効果は死亡したものとみなすというものです。この点、失踪宣告の後から本人が現れる(生存が判明する)ことも実際に起きています。その場合は、当然ですが、家庭裁判所は失踪宣告を取り消すことになります。
この場合、すでに動かしてしまっている財産をどうするか、ということが問題になります。大原則はもとに戻す、ということになりますが、大きな支障が生じます。そこで、売却などの取引の両方の当事者が、不在者が生きているとは知らなかった場合はその取引は無効になりません(有効のままとなります)。たとえば売却代金が残っていたら、金銭として本人に返還する義務がありますが、現存利益(現時点で残っている範囲内)だけを返還することで足ります。

失踪宣告取消による遡及効と第三者保護

あ 失効宣告取消の要点

失踪者が生存することが判明した場合
または
失踪宣告による認定と異なる時に死亡したことが判明した場合
本人または利害関係人が家裁に申立をすると、家裁は失踪宣告の取消をする

い 取消前の行為の効力

ア 原則 効力を失う(巻き戻すことになる)
現存利益を返還する
イ 例外 「善意でした行為」→効力は維持される
※民法32条

う 「善意」による保護の範囲(昭和13年大判)、

失踪宣告後に為された契約がその宣告の取消に拘らず有効である為には、契約当時当事者双方共善意であったことを要する
※大判昭和13年2月7日

12 関連テーマ

(1)不在者財産管理人による失踪宣告申立の流れ(参考)

失踪宣告は相続人などの利害関係人が申し立てることで行われます。実際には、Aが所在不明になって間もない時点で不在者財産管理人を選任しているケースも多いです。その場合、選任された管理人が、所在不明が7年に達した時点で失踪宣告を申し立てる、ということがよくあります。
詳しくはこちら|生死不明→不在者財産管理人→失踪宣告→相続、生命保険金支払となる;普通失踪、危難失踪

(2)生死不明の相続人がいる場合の遺産分割

実際に失踪宣告を活用する状況の1つとして、相続人の1人が生死不明であるケースがあります。執行宣告がなされれば、数次相続となったものとして、遺産分割を実現することができるのです。
詳しくはこちら|行方不明の相続人がいる場合の遺産分割(不在者財産管理人選任・失踪宣告)

本記事では(普通)失踪宣告の基本的なことを説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に所在や生死が不明の者に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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