【令和3年改正民法258条〜264条(共有物分割・持分取得・譲渡)の新旧条文と要点】

1 共有物分割・持分取得・譲渡に関する令和3年改正民法(新旧条文と要点)

令和3年の民法改正の中に、共有に関する規定が入っています。共有に関する改正は大きく2つに分けられます。
1つは、共有を維持する前提のルール(共有物の変更・管理)で、3つの条文変更と1つの条文の新設がありました。
もうひとつは、共有関係の解消のルールで、1つの条文変更と3つの条文の新設がありました。これに関連して、準共有の規定1つも、形式的に変更されています。
本記事では、共有関係を解消するルールについて、改正前後の(新旧)条文と、変更された要点を説明します。
共有を維持する前提のルールについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|令和3年改正民法249条〜252条の2(共有物の使用・管理)の新旧条文と要点

2 施行日=令和5年4月1日

この民法改正について、施行日は令和5年4月1日となっています。

施行日=令和5年4月1日

令和三年十二月十七日
内閣総理大臣岸田文雄
政令第三百三十二号
民法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令
内閣は、民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号)附則第一条本文及び第二号の規定に基づき、この政令を制定する。
民法等の一部を改正する法律の施行期日は令和五年四月一日とし、同法附則第一条第二号に掲げる規定の施行期日は令和六年四月一日とする

3 民法258条=裁判による共有物の分割

<民法258条=裁判による共有物の分割>

あ 改正前

(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条
共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

い 改正後

(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条
共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる

民法258条は、裁判による共有物分割の規定です。
1項は、形式的要件を規定します。協議が調わないの部分は改正前後で変わりはありません。改正前から、この文言の解釈として、協議をすることができないことも含まれていました。
改正後はこの解釈が条文に追記されました。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟の協議前置の要件(協議がととのわない)
改正前の2項には、現物分割と換価分割が規定されていました。そして、平成8年判例で、全面的価格賠償が創設されました。
改正後は、全面的価格賠償が2項に追記されました。一方、換価分割は新設された3項に移動しました。
このように分割類型については、全面的価格賠償が条文に初登場となり、また、優先順序が明確になった(条文から読みやすくなった)という2点が変更点ということになります。2点とも、実務としては、改正前の扱い(解釈)とほぼ違いはないといえると思います。
詳しくはこちら|共有物分割の分割類型の明確化・全面的価格賠償の条文化(令和3年改正民法258条2・3項)
新設された4項は、履行確保措置が規定されています。改正前から解釈として認められていたものが条文化されたものです。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の判決における履行確保措置の内容(全体)と実務における採否

4 民法258条の2=遺産分割との競合

<民法258条の2=遺産分割との競合>

あ 改正前

(なし)

い 改正後

第二百五十八条の二
共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない
2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。
ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
3 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から二箇月以内に当該裁判所にしなければならない。

民法258条の2は、枝番からわかるように条文自体が新設されたものです。遺産共有と物権共有が混在する場合の、分割手続の種類(遺産分割と共有物分割の競合)に関する扱いを定めたものです。
改正前の解釈が条文化されたものです。
まず、財産の全体が遺産(相続財産)である場合には、遺産分割はできず、共有物分割だけができます。
詳しくはこちら|遺産共有の法的性質(遺産共有と物権共有の比較)
次に、遺産共有と物権共有が混在する場合(共有者が亡くなったなど)に相続人(遺産共有の共有者)だけでは、共有者全員ではないので共有物分割はできません。できるのは、遺産共有の部分(=遺産)だけを対象とした遺産分割当該共有物の全体を対象とした共有物分割の2つです。
詳しくはこちら|遺産共有と物権共有の混在(持分相続タイプ)における分割手続
遺産分割と共有物分割の2つともを行える状態なので、2つとも行う場合の協議、連携をどうするか、ということも判例がルールを作ってきました。
詳しくはこちら|競合する共有物分割と遺産分割の連携(保管義務・実情)
以上のような、蓄積された判例のルールの一部が1項として条文化されています。
ところで、遺産分割については協議や調停、審判を終えないと、いつまで経っても遺産分割未了(=遺産共有)の状態のままです。「遺産分割に時効はない」といわれていた問題点です。これについては、2項、3項で解決されました。相続開始から10年間、遺産分割未了で放置されたままである場合、遺産分割をせずに共有物分割だけをすれば、共有が完全に解消することができることになったのです。
遺産分割をしないで済むメリットは大きいです。
遺産分割だと相続財産の全体を把握する必要があり、また、寄与分や特別受益の判断も必要となるなど、審理の対象が広がる傾向があります。しかし共有物分割は財産(共有物)単位で、考慮する過去の関係性は比較的少ないのです。
詳しくはこちら|2つの分割手続(遺産分割と共有物分割)の違い

5 民法262条の2=所在等不明共有者の持分の取得

<民法262条の2=所在等不明共有者の持分の取得>

あ 改正前

(なし)

い 改正後

(所在等不明共有者の持分の取得)
第二百六十二条の二
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。
この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
2 前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。
4 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

民法262条の2は、枝番から分かるように条文自体が新設されたものです。たとえば共有者Aが所在不明である場合、共有者Bが裁判所に申し立てることにより、Aの共有持分を取得することができます。つまり所在不明の共有者の共有持分を取り上げるという制度です。共有者Aとしては、取り上げられたことに気づい場合、共有者Bに対して対価を請求できます。
改正前にはなかった制度です。改正前の制度でこれに近いものとして持分買取権があります
詳しくはこちら|共有持分買取権の基本(流れ・実務的な通知方法)

6 民法262条の3=所在等不明共有者の持分の譲渡

<民法262条の3=所在等不明共有者の持分の譲渡>

あ 改正前

(なし)

い 改正後

(所在等不明共有者の持分の譲渡)
第二百六十二条の三
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
3 第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
4 前三項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

ところで、共有を解消する方法の1つとして、共同売却があります。共有者全員で第三者(特定の者)に共有物(全体)を売却するという方法です。この方法は、共有者の1人が所在不明である場合には使えません。不在者管理人の選任をしたとしても、管理人が売却する判断をすることができるとは限りません。
このような状況で、民法262条の3の規定(制度)を使えば、特定の者に共有物(全体)を売却することができます。具体的には、裁判所が譲渡(売却)する権限を付与する決定(裁判)をするという手続です。

7 民法264条=準共有

<民法264条=準共有>

あ 改正前

(準共有)
第二百六十四条
この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。

い 改正後

(準共有)
第二百六十四条
この節(第二百六十二条の二及び第二百六十二条の三を除く。)の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。
ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。

民法264条は準共有に関する規定です。改正前後をとおして、所有権以外の共有(準共有)についても、共有の規定を適用するというものです。改正後はカッコ書きが追記されました。カッコ書きの意味は、新たに創設された所在不明の共有者の持分の取得と所在不明の共有者の持分の(第三者への)譲渡の制度については、準共有には適用しない(所有権の共有に限定する)というものです。

本記事では、民法の令和3年改正のうち、共有物分割や所在不明の共有者の持分の取得、譲渡などの規定について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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【代償分割の要件(特別の事情)の解釈(学説・裁判例)】

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